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【 2009/12/25 】
【 2009/12/24 】
総務省の電波開放戦略「2005年には5GHz帯を拡張して屋外利用可能に」

 バッファローは13日、無線LANに関するセミナーを開催した。本セミナーでは総務省総合通信基盤局電波部電波政策課企画官の炭田寛祈氏が「電波開放で情報ビジネスはこう変わる」と題した特別講演を行なった。


日本は非常なワイヤレス大国

総務省総合通信基盤局電波部電波政策課企画官の炭田寛祈氏

電話がコードレスを経て携帯電話になり、ブロードバンドはワイヤレスを経てユビキタスになる
 講演のタイトルに使われている「電波開放」という言葉は、「新しい電波ビジネスを育成するとともに世界最先端のワイヤレスブロードバンド環境を構築するために大量の電波を開放していく」という総務省の戦略を端的に表わすキャッチフレーズだという。炭田氏は「2003年末頃からこの言葉を使い始めてきたが、今では公的用語として使っている」とコメント、この電波開放の主役となるのが携帯電話であり、無線LANであるとした。

 次に炭田氏は、資料を引用しながら日本の移動体通信の現状について説明。2001年の日本国内における電気通信事業の市場規模14兆3,370億円のうち、移動通信は8兆3,750億円と58.4%を占めている。炭田氏は「アメリカが22%、イギリスが18%、ドイツが35%と言う中で日本は突出して高く、ワイヤレス通信産業の比率の高さという日本の特徴を示している」と指摘。さらにNTTグループの通信分野における営業収益の5割がNTTドコモである、移動体通信の加入者が固定通信を上回っているというデータを挙げて、「なかなか気づかれないかもしれないが、日本は非常なワイヤレス大国だ」と語った。

 炭田氏は続けて「ここは無線LANのセミナーだが、まずは今発展している携帯電話から説明する」と断った上で携帯電話の現状について語った。炭田氏は「注目すべきはインターネット接続できる端末が86%、カメラ付きが63%も普及している点で、これがワイヤレスインターネット通信における静止画や動画の利用に繋がっている」と指摘。NTTドコモの1ユーザーあたりの月平均収入(ARPU)7,890円のうち、データ通信料が1,970円と25%を占めているデータを挙げ、「データ通信に月2,000円払ってもいいというユーザーが8,000万人もいるほど規模の大きい市場が確立されている」と語った。

 このような移動体通信市場の成長とブロードバンド化の進展により、迅速かつ大量に周波数を確保する必要があると炭田氏は語る。「現在音声やメールをやり取りするための通信速度を384kbpsとして、そのために必要な周波数幅を270MHzとすると、5年後に10Mbpsへと高速化するために約1.3倍の、10年後に50Mbpsを実現するためには約4~5倍の周波数幅が必要になってしまう」。

 また、有線では簡単に扱える動画も「それをワイヤレスで実現するためには、今の携帯電話ではうまくいかない」と炭田氏は指摘。第4世代携帯電話も長期間の開発が必要として、「今我々が取りうるワイヤレスの主役は無線LANだ」との考えを示した。

 炭田氏は「“本当にそのようなワイヤレス通信の時代が来るのか”とよく聞かれるが、昔は電話も一家に1台だったのがコードレス電話になり、今では携帯電話が普及した。これはナローバンドの世界であって、ブロードバンドの世界でも同じことが起きるのは自然な流れだろう、と単純に考えている」とコメント。「まずはブロードバンドがワイヤレスになり、それがどこでも使えるようになるという流れを強力にサポートしていきたい」との意気込みを示した。


各国における電気通信の事業規模では日本の移動体比率が高い 移動体通信システムでは10年後に4~5倍の周波数が必要

電波開放戦略は“太閤検地”のようなもの

1994年に公表された携帯電話の普及予測と実際の加入者数推移の比較データ。携帯電話は予測以上の大幅な伸びを示している
 現在の無線LANは、2.4GHzを利用したIEEE 802.11b/gを中心に普及しているが、炭田氏は「道路に例えるならば、道が狭くなってきたので新しい道路や高速道路が必要とされている」と説明。その高速道路の候補が5GHz帯であるとした。

 情報通信審議会では2002年に5GHz帯無線アクセスシステムの需要予測として2005年度末に約200万、2007年度末に約500万という数値を示している。炭田氏は「役人がこんな失敗を示すのは珍しいのではないか」とした上で、10年前に電気通信技術審議会が示した携帯電話の普及予測と実際の加入者数推移の比較データを紹介。「2010年に3,200万という予測は、当時は大胆と言われていたが実際にはこの予測をはるかに超えた普及を見せた」と指摘し、、「5GHz帯も実はもっと増えるのではないかという心配と期待を持っている」とした。

 ただし、電波によるブロードバンドは、電波資源が有限希少であるというボトルネックが生じてしまう。これを解消するために電波政策を抜本的に改革し、広帯域周波数の拡大や規制改革を行なっていくのが総務省の電波開放戦略という。

 具体的な施策としては、これまでは使うことを前提としていた電波の割り当てを、実際に使っているのか、非効率ではないのか、電波ではなく光ファイバに移行できないのかをチェックしていく。炭田氏は「いわゆる“太閤検地”のようなもの」と例えたうえで、「光ファイバに移行してもらえるなら移行してもらい、“サラ地”となった広帯域周波数帯を開放していく」と語った。


5GHz帯無線システムの普及予測。「実はもっと増えるのではないか」と炭田氏 抜本的な周波数割当ての見直し

2005年春には5GHz帯を拡張し屋外利用可能に

 炭田氏によれば、電波開放戦略は日本だけのものではなく、世界各国の連携が必要になるという。炭田氏は「物が安くなるためには規模の経済も考えなければならない。諸外国でも同じ製品が使えるといった技術標準の平準化が重要だ」として、2003年7月に開催された世界無線通信会議(WRC-03)」で決定された世界共通の無線LAN周波数帯を紹介した。

 世界共通の周波数帯のうち、5.15GHz~5.25GHzについては日本が先行的にIEEE 802.11aとして利用しており、これを後追い的に世界標準とする方針。この帯域は屋内専用で利用できるのは4chのみだが、WRC-3ではさらに屋内用として5.25GHz~5.35GHzの4chを、屋内外でも利用できる5.47GHz~5.725GHzの11chを追加、合計19chが利用可能になる予定だという。

 5GHz帯の周波数追加については、2003年10月から技術的条件が総務省で検討されており、その報告結果が10月14日に公開される予定。炭田氏は「審議会で問題が出れば公表は難しいが、ほぼ公表できるだろう」とコメント、国民からの意見を反映したのちに11月末には答申を行なうとした。

 5GHz帯の周波数が追加されることで、屋内に限定されていたインターネット接続が屋外でも利用可能になるほか、チャネル数増加によるエリア規模の拡大やターボモードによる高速化が実現できる。また、諸外国と規格を統一することで、海外出張時などでも無線LANが利用可能になるほか、製品の低価格化にもつながるという。炭田氏は、早ければ2005年の春にも新たな5GHz帯の利用が可能になるという見通しを示した。


世界共通となる5GHz15chを新たに追加 5GHz帯の周波数追加における効果

電波再配分に関する給付金制度は世界でも初めての制度

電波再配分のための給付金制度や無線局の登録制度
 法律面では2004年5月の電波法改正で、電波再配分のための給付金制度や無線局の登録制度などが導入されている。給付金制度は、現在利用している電波を移動する際に発生する損失を補償するためのもので、炭田氏は「世界でも初めての制度で、50年間に渡る電波行政の抜本的な改革になる」とコメント。この実施例第1弾として、4.9GHz~5.0GHzを現行利用している電気通信事業者用の中継用固定局を東名阪で2005年11月までに開放するとした。

 無線局の登録制度は、従来まで事前に総務省との調整が必要だった高出力の無線LANについても、同一周波数帯を同一地域で利用するベストエフォート形式などの無線局についてはサービス展開した後に登録する事後チェック型を採用することで、自由な事業展開を推進するというもの。これまで基地局1局につき2~3週間を要した手続きが、同一使用形態であればまとめて最短1日で可能になるという。

 炭田氏は無線LANのセキュリティについても指摘。「ウイルスは有線無線に限らないが、無線には傍受や不正利用といった特有の対策が必要になる」とし、無線LANのセキュリティに対するガイドライン作成や、サイバー犯罪の罰則規定などを盛り込んだ改正電波法などの対策を紹介した。


給付金制度の概要 無線通信のセキュリティに関する総務省の施策

関連情報

URL
  無線LANセミナー(バッファロー)
  http://www.melcoinc.co.jp/b-net/seminar/index.html
  関連記事:総務省、サイバー犯罪の罰則規定などを盛り込んだ改正電波法案を国会提出[INTERNET Watch]
  http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2004/01/19/1784.html

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(甲斐祐樹)
2004/10/13 19:02
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