総務省は25日、「IP電話のネットワーク/サービス供給に関する研究会」第2回を開催した。研究会ではNTTコミュニケーションズ(NTT Com)やソフトバンクBBなど5事業者が考えるIP電話の現状と課題を踏まえて議論が交わされた。
第2回の研究会では、第1回で挙げられた問題点などを踏まえ、NTT Com、ケイ・オプティコム、ソフトバンクBB、日本テレコム、NECがそれぞれの立場でIP電話における課題などの意見を交換。この内容と研究会で上がった議論を踏まえ、第3回では残りのNTT東西やフュージョン・コミュニケーションズ、ニフティなどが意見交換を行なう。
■ 緊急通報の全国対応が大きな課題
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研究会の模様
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NTT ComはIP電話の競争において、電気通信番号規則や事業用電気通信設備規則、端末設備等規則といった規制が競争の枠組みに大きく影響を与えていると指摘。1つの例として無線LAN対応の携帯型IP電話機を挙げ、「企業内で使う分には自己責任ということで規制の対象外だが、公衆無線LANサービスで050番号を付与して使う場合は端末設備等規則の対象となるため、規則に則った端末設備が必要になる」と説明した。
NTT Comによれば、事業を運営していく実感として感じる規制は緊急通報にあるという。緊急通報の1つである119は、全国900近い消防本部それぞれと交渉を進めていく必要があるため、緊急通報の対応が0AB~J番号のIP電話サービスへ新規参入する際の1つのハードルになっているとした。
現在、一般加入電話網(PSTN)を経由しているIP電話の有料接続についても触れ、「PSTNを介することで相互接続を相互に実現できたが、将来的にはTTCによる標準化を踏まえたIP直接接続の検討が必要になる」とコメント。「PSTN接続の方が良いという判断もあるかもしれないし、音声以外にも基盤網をまたがるサービスが出てくればIP直接接続の必要性があるだろう。それらの状況を見た上で判断する」と補足した。
■ ケイ・オプティコム「IP電話と固定電話は別の市場」
ケイ・オプティコムは、IP電話市場の規模について言及。固定電話市場の約5,000万契約、携帯電話の約8,000万契約と比較すると、IP電話は050番号の割り当て数だけでも1,754万個程度であり、0AB~J番号対応のIP電話サービスも提供事業者が少ないという状況からも、IP電話市場は未だ黎明期で、競争環境の評価には時期尚早だという。ケイ・オプティコムは「固定電話は加入者こそ約5,000万契約だが、0AB~J番号は2億4,594万個が割り当てられており、番号で見てもIP電話市場はまだまだ小さい」と説明した。
固定電話とIP電話の市場については、「IP電話は相互接続不可のため通話できない場合がある」「0AB~J番号でも地域によっては番号ポータビリティが実現できないケースがあある」「緊急通報の費用がすべて事業者負担になる」という点を挙げ、0AB~J番号対応を含んだIP電話と固定電話は「類似市場ではあるが同一市場とは言い難い」と指摘。
さらに相互接続の現状としてNTT Comの「テレゴング」、KDDIの「DOD」を例に挙げ、「現状はIP電話からこれらのサービスを利用できず、対応するために必要なシステム開発費用も誰がどのように分担するのかという問題がある」と語った。ただし、NTT東西は固定電話網でこれらのサービスに現状接続できるため「NTT東西がIP電話に新規参入した場合、実質的に固定電話網を経由して接続できてしまう」と指摘。NTT東西のような市場支配力を有する事業者が新規事業参入する際には、ファイアウォールの徹底などが必要だと訴えた。
緊急通報についてはNTT Comと同様重要な問題として捉えており、「近畿に110カ所ある消防本部に足を運んで交渉しているが、『回線やシステムの費用は事業者が負担しなさい』と言われている」との現状を説明。「固定電話であれば費用はすべて消防本部が負担している。これで果たしてIP電話と固定電話が同じ市場なのか」との意見を投げかけた。
■ ソフトバンクBB「BBフォンは最も成功した事例」
ソフトバンクBBは、同社が提供しているIP電話「BBフォン」の現状を説明。「ADSL事業の上で展開しているアプリケーションとしては最も成功しており、通話のトラフィックは10月で7億分を超えた」とした上で、「050番号の通知に対応したことで携帯電話から折り返しの着信が増え、当初は期待していなかった着信収入も伸びている」と語った。
BBフォンが対応している050番号については「既存の0AB~J番号の電話サービスとはサービスの前提となる義務や提供可能なサービスが異なり、番号の認知度やイメージも違う」と指摘。「050番号はこれまで“安いサービス”というイメージだが、今後は0AB~J番号のような厳格基準の中の運用とは異なる、新しい価値を加えた発展が必要だ」との考えを示した。
また、2004年の電気通信事業法改正によって電気通信事業者の一種・二種区分が廃止されたことから、新しい競争領域も生まれているという。ソフトバンクBBは、NTT Comが「フリーダイヤル」の名称で提供している、通話料を着信側が負担する電話サービスを例に取り、「従来の二種事業者も“0120”番号の利用が可能になり、通話料が全国一律な050番号で着信する0120サービスはメリットが大きい」と説明した。
また、0AB~J番号対応のIP電話サービスについても「FTTHサービスを始めている事もあり、視野には入れている」という。ただし、0AB~J番号対応のIP電話サービスについては「ライフライン的な側面も持っているため、品質維持などが重要になる」とコメント。NTT Comやケイ・オプティコムと同様に緊急通報を課題として挙げ、「全国をカバーするには20~30億円が必要になる上に、回線の手配も1回の交渉で終わるわけではないために、実行するには100人単位のプロジェクトになるだろう」と指摘、「ケイ・オプティコムも指摘したように、固定電話網を持つNTT東西が参入する場合はファイアウォールと競争環境の担保が必要になる」と語った。
■ 「IP電話は固定電話と同一市場」と考える日本テレコム
日本テレコムは、公正取引委員会や総務省が行なった調査を引用し、「ユーザーがIP電話に求めている“安さ””番号が変わらない”という点から考えれば、IP電話と固定電話は同一市場ではないか」と、IP電話と固定電話が異なる市場であるという考えを真っ向から否定。「特に番号体系や品質が固定電話と同等である0AB~J番号のIP電話は、固定電話の完全な代替である」との意見を披露した。
この観点からIP電話と固定電話を同一市場として考えた場合、IP電話のシェアはまだ1割程度と小さく、「市場へ影響を与えるのは固定電話ではないか」と日本テレコムは指摘。ただし、「これは現在の状況であって、NTT東西の0AB~J対応IP電話参入と言った今後の事象による影響は注目する必要がある」とした上で、050番号についても「固定電話との代替性が高い0AB~J番号と異なり、今後のサービス内容によって固定電話との代替性が決まってくるだろう」との考えを示した。
■ NECは直収の固定電話がISPに与える影響を指摘
BIGLOBEを運営するNECは、ISPの視点からIP電話の状況を説明。ISPはIP電話をインターネット接続サービスの付加サービスとして提供しており、ISP間の相互接続を「垂直分業モデル」で実現しているとした上で、今後は0AB~Jと050の違いや関係について、利用者の利便性や事業者間の競争政策的観点から対応することが重要になるとした。
また、現状は多くのIP電話が固定電話と併用するタイプであるのに対して、ドライカッパを利用した直収の固定電話サービスはNTT東西の地域網をバイパスするために、サービス競争に大きな環境変化をもたらすと指摘。「直収の固定電話の場合、従来の電話回線に重畳していたADSLが自動解約される可能性があるほか、直収固定電話では特定のADSLしか選択できない可能性がある」とした上で、「光による直収電話サービスも同様のインパクトがあるだろう」と補足した。
■ 「相互接続は費用面など現実的な話が聞きたい」との要望も
事業者の意見を踏まえて、研究会のメンバーから意見が寄せられた。東京大学大学院の森川助教授は「私個人としては、050はモバイルが重要になり、0AB~Jとは綺麗に切り分けがえできると考えている」とした上で、「競争激化によってインフラが構築できないということがないよう、インターフェイスを綺麗に作ることも重要だ」との意見を示した。
東京大学社会科学研究所の松村助教授は、主にケイ・オプティコムの意見について質問。番号ポータビリティやテレゴングが利用できないという事例の詳細を尋ねると、ケイ・オプティコムは「番号ポータビリティはNTT東西の交換機が古いという問題で、2005年度中には対応できるよう検討していると聞いている」とコメント。テレゴングについては「NTT Comでも検討しているようだが、回収費用が問題になっているようだ」と発言すると、NTT Comから「テレゴングは携帯電話からの通話にも対応できていない現状で、IP電話と言うよりもテレゴングというサービスそのものの問題だ」と補足の意見が寄せられた。
甲南大学の土佐教授は、「市場支配の規制についていくつかの事業者が意見を表明していたが、そもそも市場支配が存在するのか、あるとした場合もどういう性格の支配かを考えなければならない」と指摘。また、自身が電気通信事業紛争委員会の特別委員でもある経験から「相互接続については、言葉が過ぎるかもしれないがもっと“ドロドロ”した部分があるのではないか。データベースへのアクセス費用を誰が持つのかといった、現実的な話を語っていただけると嬉しい」との要望を述べた。
■ 「インターネットと電話の感覚は両極端な存在」
奈良先端科学技術大学院大学の砂原秀樹教授は、「そもそもインターネットの感覚と電話の感覚は両極端な存在であり、これがすべてを混乱させているのではないか。この2つが一緒になることの意味があるのだろうか」との意見を披露。「インターネットでは音声の通信自体は昔からあったもの」と前置いた上で、「電話を間借りしながら成長してきたインターネットが肥大化した時に、今度は電話をどうインターネットに繋ぐかが本質なのではないか」との考えを示した。
また、テレゴングの相互接続問題については「インターネットの感覚から考えれば、電話でやらずにインターネットでやればいいのではないか」と指摘。「インターネットもIXという相互接続の問題をすでに経験しており、IP電話の相互接続もこれと密接に関係するのではないか。緊急通報のデータベース管理やアクセス回線設置の費用負担など、いい加減に決めている接続の部分をいかにしっかり決めていくかが重要だ」と語った。
みずほコーポレート銀行 産業調査部の加藤情報通信チーム次長は、IP電話を垂直統合的に提供するソフトバンクBBとケイ・オプティコムに対し、IP電話の位置付けを質問。ソフトバンクBBは「BBフォンは加入者へ標準サービスとして提供しているが、使いたくないユーザーには解除方法も用意している」とした上で、「0AB~J番号を提供する場合は、電話1本で人命が失われるという可能性があるというライフライン的な位置付けを重視しているため、オプションというよりも別のサービスだと考えている」と回答。ケイ・オプティコムは「050番号のIP電話サービスも以前から提供しているが、無料対象も少ないために普及しなかった。9月から始めた0AB~J番号のIP電話サービスは通話料もいただくし、緊急通報と言った品質面も整備しつつある。IP電話のみの加入は受け付けていないが、単独の事業としてやりとげていこうと考えている」と語った。
京都大学大学院の依田助教授は、「050のIP電話、0AB~JのIP電話、固定電話という3つの音声伝送サービスにおける市場区分について、事業者の考えがそれぞれ異なる点が興味深い」とコメント。「区分を裏付ける証拠があるほど市場は立ち上がっていないが、これほど意見が多様だと確認できただけで意義がある」と語った。また、IP電話におけるボトルネックについては「端的に言えばNTT東西の固定電話における市場支配が隣接市場に与える影響だろうが、従来のボトルネックとは異なり、FTTHでは地域ごとに設備の敷設状況が異なるというボトルネックも生じている」と指摘。「光ファイバについてはNTT東西の開放義務がある間は問題ないだろうが、相互接続の費用や緊急通報の負担などが事業者交渉だけでうまくいくのか、行政も関わっていく必要があるのかを考える必要がある」との意見を示した。
総務省総合通信基盤局の鈴木茂樹料金サービス課長は「IP電話という音声伝送以外にも、インターネットの上は何でも流れる。VoIPと言って音声ばかり注目しているが、月額5~6,000円も払っているサービスで伝送できるテキストや画像については取り上げないのだろうか」との意見も示した。
■ URL
総務省 報道資料
http://www.soumu.go.jp/s-news/2004/041007_4.html
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(甲斐祐樹)
2004/11/25 19:12
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