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iTunes Music Store
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音楽配信サービスとしては世界的なシェアを占め、日本でのサービスが期待されていたiTunes Music Store(iTMS)が、8月4日にとうとうサービスを開始した。1曲150円からの低価格性、100万曲という楽曲数やiPodへの転送回数無制限といった特徴から話題を集め、サービス開始から4日間で100万ダウンロードを達成したという。
一方で、これまでも日本国内ではMoraを初めとした音楽配信サービスが展開していた。これらの音楽配信サービスとiTMSは一体何が違うのか。楽曲の著作権処理を中心に比較レポートする。なお、iTMSそのものの使い勝手に関するレポートは、AV Watchで掲載している。
□関連記事:いよいよ日本でスタートしたiTMSを試す(AV Watch)
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20050804/itunes.htm
■ 国内の音楽配信はAAC、WMA、ATRAC3と3つの流れに
iTMSの登場により、国内の音楽配信サービスは大きく3つの流れが登場した。楽曲のファイル形式で区分すると、iTMSが採用するAACのほか、ソニーが開発したATRAC3(Adaptive TRansform Acoustic Coding 3)、Windows系のWMA(Windows Media Audio)の3種類だ。
ATRAC3はソニーが開発した方式ということもあり、配信サービスもレーベルゲートの「Mora」を初めとしたソニー系列が主流だ。これに対してWMAはマイクロソフトの「MSNミュージック」以外にも、オリコンやUSEN、ISP各社など対応サービスの数が多い。サービスの一覧はリンク集を参照いただくとして、今回はATRAC3系の中でも代表的なMoraを比較対象として選択。また、対応サービスの数が多いWMAに関しては「WMA系」というカテゴリに一括して比較を進めていく。
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■ WMA/ATRAC3では再生できるのは購入したPCのみ
サービスの利便性を決定づけるのに最も重要なのは、楽曲の著作権管理技術であるDRMだろう。AAC(iTMS)では「FairPlay」、WMAでは「Windows Media DRM」、ATRAC3(Mora)では「OpenMG」というDRMを採用しているが、音楽配信サービスではDRMとファイル形式が密接に結びついており、日本国内の音楽配信サービスではそれぞれ専用のDRMとして使われている。そのため、今回はDRMで保護されている音楽配信サービスという前提のもと、ファイル形式の「AAC」「WMA」「ATRAC3」で比較していく。
WMA、ATRAC3ともに、バックアップ機能は備えているが、楽曲は基本的に購入したPCでのみ再生が可能だ。同じPC内であれば、楽曲ファイルを複製しても同様に再生できるが、同じファイルを別のPCへ送ったり、もしくは音楽配信サービスから別のPCで再ダウンロードしても再生はできない。また、転送回数などはファイルを複製した場合も一括管理され、転送を行なうと複製したファイルすべての転送回数が減少する。
ポータブルプレーヤーへの転送時に関しては、WMAとATRAC3では少々異なる。WMAの場合、一度楽曲を転送したプレーヤーであれば、手動コピーなどでポータブルプレーヤーに送った楽曲も再生できる。これに対してATRAC3の場合、一度転送したプレーヤーに対して、同じファイルを単純に手動で送っても再生はできない。ポータブルプレーヤーへDRM対応の楽曲ファイルを送るには必ず専用ソフトウェアを利用し、同じ楽曲の転送であっても転送したファイルの数だけ転送回数が減少する。
ただし、ATRAC3には「チェックイン・チェックアウト」機能をサポートしているため、ポータブルプレーヤーへ転送した楽曲を「チェックイン」でPCへ戻すことで転送回数も元に戻せる。これに対してWMAは今のところチェックイン/チェックアウトができないため、転送したファイルを元に戻すことはできない。
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Windows Media Player 10でポータブルプレーヤーへ楽曲を転送
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楽曲を購入したPC以外では「購入履歴がありません」と表示されて再生できない
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SonicStageで購入した楽曲の転送回数情報
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一度ポータブルプレーヤーへ転送した楽曲も、チェックインを行なうことで転送回数を元に戻せる
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■ アカウント認証で複数のPCから利用できるiTMS
ポータブルプレーヤーへの転送以外は比較的似ているWMAとATRAC3だが、iTMSのサポートするAACは、この2つと比べて大きく異なる。最大の違いは、iTMSで購入した楽曲は、購入したPC以外でも再生可能な点だ。
iTMSでは、購入に利用したPCを含む5台までのPCで楽曲を再生可能であり、異なるPCへメモリーカードやファイル転送などで楽曲を送った場合でも、購入時に利用したAppleのIDで認証を行なうことで再生が可能になる。一度認証したPCもiTunesから認証を解除することで、ATRAC3のチェックイン/チェックアウトのように認証回数を元に戻すことが可能だ。新しくPCを購入したときやOSを再インストールしたときも、楽曲ファイルを別途保管しておき、新しいPCへファイルを移動してからIDを認証するだけで簡単に移行できる。
なお、複数台のPCで利用する場合は同じIDを利用するために、異なるユーザーで購入した楽曲を共有することは難しい。iTunesには同じLAN内に存在するiTunesのユーザーと楽曲を共有する機能を持っているが、これもiTMSで購入した楽曲に関しては、購入時のIDが必要になる。
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Apple IDで認証を行なうことで最大5台まで再生が可能
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ID認証が完了すると購入した楽曲を再生できる
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楽曲のダウンロードは一度だけ。他のPCへは共有やCD作成で行なう
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iTunesで認証を解除すれば再生可能台数を元に戻せる
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iPod miniへ購入した楽曲を転送したところ
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ポータブルプレーヤーへの転送についてもiTMSは大きく異なる。WMAとATRAC3では、再生と同様転送についても購入したPCからのみ可能だが、iTMSはアップルIDで認証したPCであれば、購入したPC以外からも転送が可能だ。ただし、iPod Shuffleの場合は、異なるPCと接続して利用する場合には、iPod Shuffle内のライブラリがすべてリセットされる。iPod Shuffle接続時にはライブラリをリセットする旨が表示されるので、iPod Shuffle内に保存しておきたい楽曲がある場合は注意しておこう。
アップルのIDがDRMの基本となるiTMSだが、同じ楽曲であっても、別のアカウントで購入した楽曲ファイルは再生できない。別のユーザーが自分とまったく同じ楽曲を購入し、そのファイルを入手したとしても、再生できるのは自分で購入し、自分のアップルIDを登録した楽曲ファイルのみになる。
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ID認証さえ行なえば、楽曲を購入したPC以外からもiPodに楽曲を転送できる
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iPod Shuffleの場合、異なるPCに接続する際はライブラリをリセットする必要がある
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■ iTMSでは購入から再生・転送が1つのソフトで完結
最後に楽曲の決済や購入方法なども比較しておこう。楽曲の決済方法だ。どのサービスもクレジットカードを基本とするほか、楽曲を購入するための金額を前払いしておくプリペイド方式にも対応している。
サービス名 |
iTunes Music Store |
Mora |
WMA系※1 |
クレジットカード関連 |
クレジットカード |
クレジットカード |
クレジットカード |
Moraかんたん決済 |
ISP決済 |
Smash |
イーバンク |
eLIO |
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プリペイド方式 |
iTunes Music Card |
WebMoney |
WebMoney |
Edy※2 |
BitCash |
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NET CASH |
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Edy |
※1 WMA系はサービスごと対応する決済方法が異なる
※2 ブラウザからの購入時のみ利用できる |
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iTunes Music Cardは店頭(オンラインストア含む)でのみ購入が可能
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WebMoneyはコンビニなどの店舗以外にWebでも購入できる
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楽曲は、Mora、WMA系ともにブラウザと専用ソフトウェアから購入できるが、Moraの場合は専用ソフト「SonicStage」が楽曲のダウンロード時にも必要なのに対して、WMA系の場合はブラウザのみで購入を完了することも可能な点が違いだ。なお、WMA系では一部のサービスのみ「Windows Media Player 10」からの購入が可能で、Windows Media Player 10に特化した「MusicDrop」というサービスも存在する。
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専用ソフト「SonicStage」から購入できるMora
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Windows Media Playerには購入楽曲がライブラリに登録される
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![](/cda/static/image/2005/08/09/md15s.jpg)
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iTMSはiTunesからのみ利用できる
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これに対して、iTMSが利用できるのは専用ソフト「iTunes」のみで、ブラウザからの利用はできない。購入から楽曲管理までを1つのソフトで行なうという点では、MoraとSonicStageの関係に近いだろう。操作方法はブラウザと異なり、基本的には画面上部に表示される階層を見ながら操作することになる。購入した楽曲は指定フォルダに保存されると同時にiTunesの「購入した楽曲」リストに自動で登録され、iTunesを使い慣れているiPodユーザーであれば操作そのものはわかりやすいだろう。
決済方法を先に選択するのもiTMSの特徴。ギフトカードやiTunes Music Cardで購入する場合は、iTMSのトップページからそれぞれのカテゴリを選択し、アップルのIDにギフトカードやiTunes Music Cardを登録する必要がある。これに対してMoraやWMA系では、購入したい楽曲を選択してから決済方法を選択する流れだ。
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iTunes Music Cardを利用する場合はあらかじめ登録が必要
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楽曲を決めた後に決済方法を選択できるMora
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■ ハード、ソフト、サービスの連携がiTMSの魅力
低価格な料金を打ち出したiTMSだが、邦楽に関しては他の音楽配信サービスも値下げを行なったため、実際には他サービスでも同料金で購入が可能だ。転送回数制限なども合わせて見直しが図られており、iTMSで提供されている楽曲は他サービスでもほぼ転送回数無制限になっている。低価格化を実現したという功績はあるものの、提供楽曲だけを見れば、iTMSならではという特徴は見受けられない。
一方、購入した楽曲を複数台でのPCで再生可能であり、他のPCからもiPodへ転送できるというメリットは他サービスには無い特徴で、非常に利便性が高い。ダウンロードしたファイルの管理さえしておけば、OSの再インストールなどを気にすることなく半永久的に購入した楽曲を利用できる。しかも、購入に利用したアカウント以外では再生できない仕組みのため、不正コピー対策も講じられている。
従来までiPodは、iTunesでAACやMP3に変換したCDの楽曲を持ち運ぶためのハードウェアだったが、iTMSの登場により、音楽配信サービスという楽曲の入手方法が新たに用意された。楽曲の購入もiTunesだけで完結し、まるで自分のiTunesの中に大量の音楽ライブラリが存在するかのような感覚で楽曲を購入できる。楽曲管理ソフトのiTunes、ハードウェアのiPod、そして音楽配信サービスのiTMSが非常にうまく連動している点がiTMSの魅力ではないだろうか。
ただし、現状の音楽配信サービスはハードウェアに依存しており、選択の余地はサービスの優劣ではなく、自分が所有しているポータブルプレーヤーで決定されてしまう。iTMSがどんなに魅力的でも、ネットワークウォークマンのユーザーは利用できないし、Moraでしか提供されていない楽曲をiPodで購入することもできない。音楽配信はハードやソフトを含めたトータルサービスとして捉える必要があるのかもしれないが、CDであればどのプレーヤーでも再生できるのに、音楽配信サービスではできないというのは非常に残念なところ。iTMSの登場で活発化が期待される音楽配信サービスだが、レーベルや楽曲数の拡充にも期待したい。
■ URL
iTunes Music Store
http://www.apple.com/jp/itunes/store/
関連記事:いよいよ日本でスタートしたiTMSを試す[AV Watch]
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20050804/itunes.htm
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(甲斐祐樹)
2005/08/10 11:21
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