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定額データ通信の新たな選択肢「イー・モバイル」を検証

PCカード型のイー・モバイル端末「D01NE」
 2006年3月31日、携帯電話市場で13年ぶりの新規参入となるイー・モバイルがサービスを開始した。HSDPA規格を利用し、下り最大3.6Mbps、上り最大384kbpsでインターネット接続が利用できる。

 デュアルスライド機構のキーボードやワンセグ、ワイドVGAなどを搭載したWindows Mobile端末「EM・ONE(S01SH)」が話題だが、ブロードバンドモバイルという観点からはPCで使える定額のプランが興味深い。これまでPCで利用できる定額のデータ通信はNTTドコモの「@FreeD」やウィルコムの「AIR-EDGE」などPHSのみで、通信速度も最も高速なプランで数百kbps程度だった。携帯電話では電話機での定額プランは提供しているが、PCで使える定額プランはいまだ提供されていない。

 イー・モバイルは、サービス開始時点でこそエリアは東京都23区など限定的ではあるものの、端末だけでなくPCで接続しても月額5,980円の定額で利用できる。また、速度も最大で3.6Mbpsと、PHSに比べると一桁上のスピードだ。今回はPCカード型の端末「D01NE」を利用し、イー・モバイルの使用感をレポートする。


デザイン性を意識した黒基調のパッケージ。本体はUSIMカードを装着

パッケージ
 まずは本体から見てみよう。千本会長はイー・モバイル発表の場で「イー・モバイルはパッケージにもこだわる」と発言しており、その一例として「EM・ONE」のパッケージを披露していたが、PCカードのD01NEもEM・ONEと同様に黒を基調とし、表にイー・モバイルのロゴをプリントしたデザインが採用されている。

 内容は本体やセットアップ用のCD-ROM、取扱説明書やセットアップマニュアルのほか、D01NEの収納ケースも付属する。外出先などで利用することを考えると、カードをPCから取り外して持ち歩くことも多いため、収納ケースが標準で用意されているのはありがたい。

 本体はPHSのデータ通信カードと非常に似ているが、最も大きく異なるのは背面に「EM chip」と呼ばれるUSIMカードの取り付けトレイが用意されていることだ。現在のところ端末はD01NEとEM・ONEしかなく、どちらも購入には回線の契約が必須となるために今のところ大きなメリットはないが、今後イー・モバイルの対応端末が拡充された場合には、SIMカードを交換して端末を使い分ける、といったことも可能になるだろう。


D01NE(右)と付属の収納ケース(左) ケースに収納したところ

アンテナは可動型 USIMカードを装着

背面 PCに装着したところ

ユーティリティのインストールのみで設定は完了

D01NEのユーティリティ
 セットアップはCDからユーティリティをインストールし、PCを再起動してからD01NEをPCに装着すれば完了だ。セットアップの手順は基本的に「次へ」を押して進めていけばさほど問題はないだろう。

 ユーティリティのインストールが終了すればすぐにインターネット接続が可能なのも特徴の1つ。ウィルコムのPHSの場合、料金プランや利用するプロバイダーごと異なる電話番号を設定する必要があり、誤った電話番号を設定すると定額プラン範囲外の料金が発生してしまう場合もある。イー・モバイルの場合、料金プランが1つしかなく、プロバイダーもイー・モバイル側で提供するため、そもそもそうした設定が必要ないのが非常にわかりやすい。

 インターネット接続はユーティリティを利用する。初期設定ではD01NEをPCに装着すると自動的にユーティリティが前面に表示され、あとは「接続ボタン」を押すだけでいい。また、電波強度もユーティリティから確認可能だ。

 いまのところイー・モバイルの料金プランは1つしかないが、ユーティリティには「従量」「従量(無料通信料あり)」「従量(定額あり)」「2段階定額」など、複数の課金方式メニューが用意されている。また、接続終了時には接続時間やパケット量などを表示する機能も搭載。今後は定額プラン以外のメニューを充実させる可能性もありそうだ。


電波状況も確認できる 圏外表示

料金プラン設定メニューが確認できる

1Mbps以上の通信速度。動画配信サービスの再生もスムーズ

 それでは実際にインターネットを利用してみよう。端末を購入した秋葉原付近と、Impress Watchのオフィスの2カ所で通信速度を測定。PCにはモバイルPentium III-M 1.20GHzを搭載したノートPCを使用し、NTTレゾナントが運営するgooの「goo スピードテスト」を利用してそれぞれ5回ずつ計測。実利用を想定し、セキュリティソフト「ウイルスバスター2007」は起動したままとし、その他のインターネットに接続するソフトウェアはすべてオフにしている。

 秋葉原はイー・モバイルのプロモーションブースが側にあり、デモ用の端末も量販店内で数台が稼働している状況。デモ端末を利用している客も多かったが、5回計測の平均はいずれも2Mbps以上の数値を計測。一方、オフィスのある市ヶ谷では秋葉原ほどではないが、1.7Mbps以上の数値を計測できた。

エリア 1回目 2回目 3回目 4回目 5回目 平均
秋葉原 2.57Mbps 2.03Mbps 1.96Mbps 2.3Mbps3 2.41Mbps 2.26Mbps
市ヶ谷 1.85Mbps 1.77Mbps 1.75Mbps 1.79Mbps 1.8Mbps 1.79Mbps
通信速度の測定結果


Skypeのビデオチャット。動画がやや遅れるが利用は十分に可能
 Impress TVやGyaOなどの動画配信サービスも電波が安定していればスムーズに視聴でき、YouTubeも再生可能だった。1Mbps近い速度が出ているため、Webサイトの閲覧程度であればADSLを利用しているのとほぼ同じ感覚で利用できる。PHSと比べると圧倒的にイー・モバイルのほうが快適だ。

 Skypeのビデオチャットでお互いに映像を送信したところ、使い続けていると声がやや途切れ、動画もコマ送り状態にはなった。イー・モバイルの場合、下りこそ数Mbpsだが上りは384kbpsのため、双方向でデータをやり取りする場合は少し厳しそうだ。音声のみの場合は、発信側と着信側の音を比べると1秒ほど遅延があったが、通常の音声利用であれば違和感なく話ができた。

 続いて山手線で簡単なハンドオーバーテストを行なった。impress TVを300kbpsで再生した状態で有楽町から山手線に乗車し、五反田で下車するまで動画の視聴を続けていたが、浜松町から田町の区間で何度か動画が途切れたものの、それ以外の区間ではスムーズに動画が再生できた。また、音声はこの区間では一度も途切れることがなかった。基地局間のハンドオーバーはほぼ違和感なく利用できるだろう。

 PHSに比べると電波も強く、ウィルコムが外では使えるが店内に入ると圏外になってしまう、という場所でもイー・モバイルは電波を捉え、1Mbps近い速度を計測できた。通信環境はエリアごと異なるが、少なくとも建物の中に入るととたんに使えなくなる、ということはなさそうだ。


エリアの拡充に期待

 最後に料金の面を見てみよう。NTTドコモがPHSのサービス終了を表明している現状では、新たに加入できるPC向け定額サービスはウィルコム1社に限られるため、ウィルコムの定額プランとイー・モバイルの料金プランを比較した。

 ウィルコムの場合、もっとも高速な「つなぎ放題[PRO]」では月額12,915円で、年間契約やプロバイダーとのセット割引「A&B割」を利用しても1万円以上と高額だ。また、もっとも安価な定額プラン「つなぎ放題」でも、年間契約割引で5,176円、A&B割利用時でも4,263円。なお、イー・モバイルでは、イー・アクセスのADSL回線であれば月額料金を1,500円割り引くキャンペーンを、ウィルコムでも同社のADSLサービスと組み合わせることで月額料金が安価になる「マルチパック」を提供しているため、家庭のブロードバンド回線利用料と含めるとさらに安価になる。

事業者名 プラン名 通信速度 W-OAM※ 月額料金 年間契約割引 年間契約割引
+A&B割
ウィルコム つなぎ放題[PRO] 256kbps 408kbps 12,915円 12,001円 11,088円
つなぎ放題[4x] 128kbps 204kbps 9,765円 8,851円 7,938円
つなぎ放題 64kbps 102kbps 6,090円 5,176円 4,263円
事業者名 通信速度 月額料金
イー・モバイル 3.6Mbps 5.980円
※W-OAM対応端末であれば料金は同額で高速のサービスが利用できる


 もっとも、イー・モバイルの場合はエリアが非常に限定的であるのに対し、ウィルコムは日本全国で利用できるため、一概には比べにくい。また、サービスが開始したばかりのため、エリアである東京23区内であってもどれだけつながるのかは未知数の部分も多い。さらに、サービスを開始したばかりの今は快適に利用できるが、今後ユーザーが増えるにつれ、同じ基地局にアクセスするユーザーが現れれば、通信速度が低下する可能性はあるだろう。

 しかし、電波のつながる環境であれば1Mbps以上のスピードを確保できるという高速性は非常に魅力的。また、エリアに関しても急速な拡充が予定されており、6月末までには神奈川県・埼玉県・千葉県の国道16号線内、兵庫県神戸市と大阪府大阪市の近郊都市でもサービスが提供される予定だ。

 端末も現在はPCカード型とWindows Mobile端末の2種類だが、CFカード型の「D01NX」が4月13日に発売。また、Expressカード型端末「D02OP」やUSB対応端末なども発売が予定されており、PCでの利用環境は順次拡充されていく。

 PCの定額データ通信市場は事実上ウィルコム1社の独占状態となっていたところに、より高速なサービスで参入したイー・モバイル。確実に電波を捉えられる場所であればまさにブロードバンドでインターネットを利用できるという点は非常に利便性が高い。イー・モバイルのエリア拡大も楽しみではあるが、それ以上にイー・モバイルによってPCデータ定額サービスの競争が活性化することも期待したい。


関連情報

URL
  イー・モバイル
  http://www.emobile.jp/

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(甲斐祐樹)
2007/03/31 18:32
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