トランスコスモスとプロダクションI.Gは、「amimo有限責任事業組合(amimo LLP)」を2006年4月に共同で設立。そして、ブログサービス「decoblog」のアルファ版提供を2007年3月に開始した。今回、decoblog開始の経緯を中心に、プロダクションI.Gの石川光久 代表取締役社長と、トランスコスモスの森山雅勝 専務取締役 CIOに話を伺った。
decoblogは、クリエイターユニット「劇団イヌカレー」が製作したオリジナルキャラクター「ちいさなあくま」が登場するブログサービス。サービス内にストーリー性を持たせたのが特徴で、「あくまのせかい」から逃げ出した絵本の中のお話たちを、ちいさなあくまが人間の力を借りながら集めていく、という設定が用意されている。
■ ネットを通じてクリエイターとファンが直接結びつく場の提供を
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(写真左から)トランスコスモスの森山氏とプロダクションI.Gの石川氏
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decoblogを提供するamimo LLPは、プロダクションI.Gが25%、トランスコスモスが75%が出資して設立された(出資金は1億円)。プロダクションI.Gが持つコンテンツ制作能力と、トランスコスモスのB2C事業におけるノウハウを活かしたコンテンツビジネスの推進を事業目的に掲げて設立されたLLPだが、プロダクションI.Gの石川光久 代表取締役社長(以下、石川氏)は「当初は、はっきりしたものがあったわけではなかった」と語る。
LLP設立後、「インターネットで何をやるべきか」をトランスコスモス側と話し合いを重ねる中で、見えてきた1つの共通点が「一番大事なのはコンテンツを作る人間たちだ」ということ。これはクリエイターのみを重視するというわけではなく、「クリエイターたちを大事にすることが、結果としてその周りにいるファンに喜んで貰えることにつながる」との考えからきているという。
これらの議論を踏まえて、「amimo LLPではクリエイターとファンたちが直接結びつけられる場が提供できるのではないか」と石川氏は考えるようになった。また、プロダクションI.Gにとって初めてのB2C事業となるamimo LLPの活動は、流通を介してコンテンツを提供してきたB2Bとしての事業展開とは異なり、利用者に直接コンテンツを届けられるという魅力も持っているとした。
■ 「decoblog」の「ちいさなあくま」でキャラクタービジネスも視野に
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「decoblog」トップページ。会員数は4月4日に1,000人を突破したという
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ブログサービスの「decoblog」では、劇団イヌカレーによるオリジナルキャラクター「ちいさなあくま」がサービスの核だ。劇団イヌカレーの詳細な情報は明かされていないが、石川氏は「彼らがアピールしたキャラクターは非常に魅力的だった」と振り返る。
一方で、「彼らは自分たちが前面に出るのではなく、『ちいさなあくま』というキャラクターにすべてを投影したい考えを持っていた」と石川氏。そのため、decoblogでの展開でも劇団イヌカレーは、自分たちの名を出す必要性を感じていなかったという。
石川氏は「インターネットが普及した現在では、作品を世に出そうと考えれば、出せる機会はいくらでもある」と語る。しかし、「作品が世に出れば生活が成り立つか、と言えばそう簡単ではない。作品を生み出すことと、それをビジネスにつなげられるかは別の問題」と、発表の場が多様化する一方、その作品で収益を上げる難しさが残っている点を指摘した。
そうした中、石川氏が率いるプロダクションI.Gでは、「クリエイターたちの名前を出すことによって、世に出るための光を当てたい」という考えを持っているという。この考えをもとに、今回のdecoblogでも、劇団イヌカレーという名前を出し、彼らに一歩進んだ環境に進むべく手助けをしながら、amimo LLPでサービスやキャラクタービジネスという分野への展開を進めていく。
プロダクションI.Gの作品は、押井守氏や神山健治氏をはじめとした参加クリエイターが創り出す世界観に対する評価が高い。その一方で石川氏は、「キャラクターを中心にしたビジネスで考えると、この分野は強いとは言えなかった」という。その中で、「ちいさなあくま」はキャラクターとしての魅力を感じたとのことで、キャラクタービジネス挑戦への足がかりにしたい考えだ。
キャラクター展開の面では、ちいさなあくまの1キャラクター「オウジ」は、坂本真綾のニューアルバム「30minutes night flight」に収録楽曲である「ユニバース」のタイアップキャラクターとして採用されている。これはレコード会社とのやり取りの中で最終決定したものではなく、「坂本さん自身が気に入って、連絡したその日にぜひやりたいと言ってくれたことに起因している」と石川氏は経緯を明かした。
石川氏によれば、劇団イヌカレーのキャラクターや作品は、プロダクションI.Gの社内スタッフにも評判が高いという。こうした評価が、劇団イヌカレーに魅力ある作品を創っているという認識に繋がりはじめており、石川氏は「彼らが今後どういう成長を見せてくれるか楽しみにしている」と期待を寄せている。
■ アニメDBを提供する「clappa!」ではサービス拡充を検討中
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「clappa!」。「精霊の守人」や「グレンラガン」など新作アニメの情報も順に追加されている
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decoblog以外にamimo LLPでは、アニメーションデータベースを用意したコミュニティサイト「clappa! ベータ版」を運営している。ここでは、プロダクションI.GやGONZO、ガイナックスなどの新作アニメを含めた20作品以上の作品情報を提供している。
amimo LLPでは当初、データベースを起点にコミュニティの活性化が期待できると見込んでいた。しかし、現状ではそうした段階に達するには至っていないという。トランスコスモスの森山雅勝専務取締役 CIOは、「ユーザーにとって魅力のあるオリジナル要素が不可欠だと考えを改めた」と語り、今後はこうした対応を実行に移す考えだ。
そして将来的には、「コンテンツ+コミュニティを持った、アニメーション分野におけるポータルサイト的な立場を担っていきたい」と森山氏は考えている。
■ I.G石川氏「ユーザーから意見を貰うことで今後の展開が見えてくる」
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3月に開催された「東京国際アニメフェア」では、両氏がdecoblogを試すシーンも
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なお、decoblogのサービス自体に関しては、当初のベータ版からアルファ版に変更して提供が開始された。現時点では、基本機能に絞ってサービスが提供されており、ベータ版への移行は2007年夏頃を予定している。
サービス提供にあたっては、アクセス数やアフィリエイトといった部分よりも、ブログの書き手が楽しめるコンテンツにしていきたいという。森山氏は「仮にブログへの訪問者が少なかったとしても、書き手自身に楽しんで貰えることが何より大事」と語る。そうした思いを重視しながら、「今後はdecoblogのユーザー同士がコミュニケーションを図れる場も提供していきたい」とした。
石川氏もまた、森山氏と同じ考えをdecoblogに持っており、「何より実際に体験してもらうことが重要」と述べた。実際にサービスを体験してもらい、ユーザーから良い面、悪い面を問わず意見が出てくることで、「クリエイターと利用者が直接繋がり、今後の展開が見えてくるのではないか」と語った。
■ URL
decoblog
http://decoblog.ne.jp/
clappa!
http://www.clappa.jp/
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(村松健至)
2007/04/19 11:06
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