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「PS3のブラウザは進化し続ける」開発者に聞く独自ブラウザの意義

 ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)は、プレイステーション 3(PS3)に搭載した独自ブラウザを強化したシステムソフトウェア「2.20」を3月25日に公開した。

 テレビやゲーム機などでブラウザが搭載される事例は増えてきたが、専用のブラウザを独自開発するケースは珍しい。また、発売当初からアップデートを重ねることで、着実に機能が拡充されている点も注目すべきポイントだ。

 独自ブラウザを搭載した経緯やコンセプト、今後の展開について、SCEでブラウザ開発を手がけるネットワークプラットフォーム開発部の梅村晃二郎部長、同部11課の高瀬昌毅課長、青木剛一氏に話を伺った。





ゲーム連携などさまざまな用途を想定して独自開発を選択

PS3のブラウザ画面。組み込みブラウザを採用するのではなくソニー技術をベースに独自開発している
――本日はよろしくお願いします。初めに、ネットワークプラットフォーム開発部の担当業務を教えて下さい。

高瀬:ネットワークプラットフォーム開発部は、PS3やPSPの本体に組み込まれるシステムソフトウェアやソフトウェアアプリケーションを担当しています。その中で11課は主にPS3の組み込みソフトを担当しており、ブラウザの他にもXMBやチャット、フォトビューワーなどのメディアプレーヤーを開発しています。そしその中でブラウザチームをまとめているのが青木です。

――ゲーム機や家電のブラウザで独自開発は非常に珍しいですが、独自開発を選んだ理由は。

高瀬:他社製の組み込みブラウザという選択肢もありましたが、PS3のブラウザ機能はWebサイトを表示するだけでなく、さまざまな用途で使いたいという考えが当初からありました。もちろん、普通のブラウザとして充分な機能を発揮することは当然ですが、それ以外にもゲームとブラウザを連動するなど、ユーザーインターフェイスとしてブラウザの機能をいろいろ活用したいと考えました。

梅村:PSPでは他社のブラウザも使っていますが、PS3の場合はブラウザの仕様を決定する段階で、ちょうどソニーが開発したブラウザ機能の技術が使えるという話がありました。ゲーム連動などを考えると内製ブラウザのほうがより融通が利くというメリットもあり、他社製のブラウザとも比較した上で最終的に独自開発を選択しました。

――元々はソニーが開発した技術だったということですか。

梅村:はい。実はPS3以外のソニー製品でも、同じブラウザの技術がすでに使われています。PS3でユーザーの意見を反映し、ブラッシュアップを続けることで機能も向上しており、そうしたフィードバックが他の製品へも生かされていると思います。





「PCと同等のブラウザ環境を」が最初のテーマ

ネットワークプラットフォーム開発部の梅村晃二郎部長
――PS3搭載ブラウザのコンセプトは。

梅村:PCで見られるものをPS3でも見られるように、というのが最初の狙いです。これは当たり前のことのように思えますが、PC以外でブラウザを搭載した製品では、さまざまな制限によってそれが実現できていないことも多いのです。目指すところは普通のPCブラウザと同等に利用でき、パフォーマンスの面でも快適なブラウザでした。

青木:組み込みブラウザはさまざまな種類がありますが、モバイル向けの製品も多いためか、PC並みの性能を引き出そうとすると実はそれほど選択肢がありません。そういう意味では、PCと同等の表示環境を実現するには独自開発を選択せざるを得ませんでした。

 また、開発者の立場としては単なるブラウザとしてだけではなく、よりゲーム機にインテグレートした使い方まで到達したい、というモチベーションもありました。PS3の発売当初は、ブラウザとしての基本性能を発揮することが最優先事項でしたが、少し遠回りにはなったものの、基本性能としてはようやく充分になってきたと思いますので、今後は、よりゲームから使われるような機能に注力したいと思っています。

――PS3のゲームでブラウザが利用されている具体的な事例を教えて下さい。

青木:一番シンプルな事例はオンラインマニュアルの部分だけをブラウザで表示する方法ですね。これだけでもライセンシーの手間が軽減できます。また、自社ソフトですが「まいにちいっしょ」では、紹介ページの最後をブラウザで表示するという連携も行なっています。今後はもっとゲームの中でブラウザを活用できるようにしていきたいと思います。

梅村:ゲームとは違いますが、分散コンピューティング・プロジェクトの「Folding@home」機能もブラウザを使った事例ですね。


ブラウザを利用したゲームの一例「まいにちいっしょ」 分散コンピューティング・プロジェクトの「Folding@home」もブラウザを使用




「PCの1/10以下」のメモリ容量を駆使

ブラウザ開発を担当する青木剛一氏
――ゲーム機ブラウザはPCブラウザより制限が多いと思いますが、開発面で苦労したことは。

青木:苦労話ならいくらでもありますよ(笑)。例えばメモリが1つの例ですね。PS3は一般的にハイエンドPC並みのスペックに見えるかもしれませんが、今では数GBのメモリが当たり前になったPCと、256MBのメモリしかないPS3ではメモリの桁が違います。

 PCブラウザの場合、気づかないうちにメモリを1GB近く消費していることもあり、利用できるメモリ量自体も10倍近い差があります。ブラウザはメモリを最も使用するPCアプリケーションでもあり、メモリに関する苦労は多いですね。

梅村:PS3を開発した当初に比べ、Webのコンテンツがリッチになっていることも影響していますね。ただ、PS3の発売当初には実装されていませんでしたが、最近では仮想メモリの技術を取り入れていますので、今後はメモリに関しても改善されていくと思います。

高瀬:仮想メモリのブラウザでの利用については表向きに公表していませんでしたが、実際には2.20の少し前から搭載を始めており、メモリ不足を補っています。

青木:PS3の「2.20」では、動画をブラウザでストリーミング再生できるようになりました。PCを使っているとストリーミング再生は当たり前のように思えますが、動画もメモリを大量に消費するため、ブラウザと動画の同時起動はいままで難しかったのです。2.20では仮想メモリを使うことでブラウザと動画のストリーミング再生が可能になり、ポッドキャストで配信されている動画などもブラウザでそのまま再生できるようになっています。

――仮想メモリ容量の上限はあるのでしょうか。

青木:一般的に仮想メモリの性能限界は実際のメモリの2倍くらいと言われています。システム的な限界はもっと数値が上ですが、それほどまでは使いませんね。





Webサイト読み込みの工夫で体感速度を大幅に向上

ネットワークプラットフォーム開発部11課の高瀬昌毅課長
――2.20ではブラウザが高速化されましたが、それも仮想メモリの影響なのでしょうか。

高瀬:仮想メモリを使い始めたのは同じタイミングですが、高速化はむしろアルゴリズム最適化の影響です。実際にはこれまでもバージョンアップの度にブラウザの機能改善は行なっていて、少しずつ高速化を実現しているんですね。また、高速化以外にも、表示できないWebサイトがあれば表示できるよう対応するなど、地道ですがサイト表示の互換性向上も図っています。

 こうした改善の積み重ねによって、PS3のブラウザは発売当初に比べると大幅な高速化を実現しているのですが、なかなか外にアピールする機会がありませんでした。今回はユーザーにも体感できるくらいのブラウザの高速化に関して大きな変更が入ったこともあって、リリース時にも正式に公表することにしました。

青木:ブラウザの高速化は2つほど大きなステップがあります。1つは1.30の時で、この時はネットワーク処理やレンダリングのスピード向上を図っています。一方、今回の高速化は、我々が「インクリメントレンダリング」と呼んでいる技術で実現しています。インクリメントレンダリングはPCでも使われていますが、Webサイトをすべて読み込む前に表示を始めるという方法です。

 一般的にPCブラウザを高速化しようとすると、メモリを大量に消費する方向になりがちです。例えば、Webサイトを読み込んでいる最中、1つのHTMLファイルを何段階にも分割して表示することで高速化を図りますが、サイトを分割すればするほど、最後に一括でレンダリングするのに比べて使用メモリが増加していくのです。

 PS3ではメモリの制約上、PCと同じ方法でのインクリメンタルレンダリングは難しいですが、Webサイトをすべて読み込む前に表示できる部分からできるだけ段階的に表示することで、体験速度の向上を図っています。実際にはWebサイトすべての読み込みを終了するまでの時間は今までと変わらないのですが、体感は明らかに速くなっています。

――PS3のブラウザはどのくらいメモリを消費するのでしょうか。

青木:XMBからブラウザを起動した場合は100〜120MB程度です。ただ、その時々によって残っているメモリ量は違うので、そこは柔軟に容量が残っていればその分も使っています。ゲーム中はゲームがメモリを使うためメモリ容量が少なくなりますね。





「テレビで見る」ことを意識したブラウザ機能

――テレビで表示するブラウザとしてのこだわりは。

青木:ズーム機能にはこだわりました。フルHDのテレビはPCと同じくらいの解像度ですが、テレビとPCでは見る距離が違います。そのため、見たいところをピンポイントでズームする機能を実装しました。このズーム機能もかなりこだわっていて、例えばYouTubeであれば画面のサイズを推測した上で動画が最大に見られるように自動で拡大しますし、文章もブロック単位で最適に拡大するように計算しています。


ズーム機能のイメージ。テキストや画像の大きさを推測して最適なサイズにズームする


――タブブラウザも家電系のブラウザとしては珍しいのでは。

青木:PCと同等の機能を、と考えたときにタブブラウザは必須ですし、そこに疑いの余地はありませんでした。また、Webのコンテンツは基本的に縦長表示ですが、テレビの画面は横長ですから、1つのウィンドウで全画面だと多くのページは左右が余白になってしまい、ちょっと画面が寂しいんですね。タブブラウザだと左右にもウィンドウが表示できてデザイン的にも親和性が高く、最初から意識はしていました。

――2.20で動画のストリーミング再生が可能になりましたが、ニコニコ動画やGyaOなど現状は再生できない動画への対応は。

梅村:さまざまな問題も絡んでくるのでブラウザだけの話ではないですが、そういった要望は認識しています。今の時点で表示できないものも見られるようになるよう、前向きに進めていますし、できるだけブラウザを通じて多くのものが見られるようにしたいと思います。


タブブラウザ機能。最大6枚までウィンドウを表示できる




さらなる進化を目指して今後も改善。ゲーム連動も視野に

インフォメーションボードもブラウザの機能を使って構成。こうしたウィジェット型の展開も技術的には可能

「PS3のブラウザはまだまだ進化します」と開発陣
――ブラウザの今後の展開を教えて下さい。

青木:これまでは最低限の要素としてPC並みの機能を目指してきましたが、それがゴールではありません。2.20のリリースでようやくブラウザとしての機能は一段落したという感触も出てきましたが、まだまだ満足していないところもありますし、見られないものを見られるようにすることも前向きに考えています。

 一方で、今後はPS3用のコンテンツを増やせるような企画を進めていきたいと考えています。ブラウザは、実装やHTMLの解釈によってどうしても得意不得意があり、このブラウザではこういうサイトの作りのほうが相性が良い、表示が早い、テレビではこういう画面構成の方が見やすい、操作しやすいといったノウハウや、サイトを作成する上でのTipsのようなものがあります。

 今は既存のコンテンツを追いかけているので表示の制限も多いですが、逆にPS3に最適化したコンテンツが増えてくればそうした制限も無くなりますし、そうしたコンテンツ強化に向けた働きかけが重要だということも、今後の課題の1つとして認識しています。

――PS3のブラウザはゲームにも連動していきたいとのお話でしたが、具体的な予定は。

青木:今後はブラウザがもっとゲームに溶け込んでいくといいですね。最近はオンラインゲームも増えてきてオンライン対応が当たり前になりつつありますが、例えばスコアランキング機能を作るときも、ブラウザであればスコアの部分をWebアプリケーション化して単純化することでコストも下げられますし、デザインも柔軟に変更できます。また、ゲーム内でのSNSやメッセージング機能なども、ブラウザを呼び出すだけで実現は可能なので、ゲームに溶け込んだ形でブラウザを使いこなせればゲームの付加価値も上がるでしょう。

高瀬:どこまでブラウザの機能を組み込むかはメーカーの判断ですが、リアルタイムコミュニケーションなどもブラウザで実現できます。また、ブラウザを使ってゲーム内でアイテムを販売するようなサイトと連携することも、技術的に実現は可能です。

 また、XMBを表示している画面上で表示されるインフォメーションボードも、実はブラウザの機能を使っているんですよ。技術的にはウィジェットのような展開も可能な仕組みにはなっています。

青木:そういう使い方ができるのが、自社でブラウザを開発したメリットですね。

梅村:今は1つの機能としてブラウザを起動するのが基本になっていますが、今後はXMBからブラウザを起動する以外でもブラウザを目にする機会が増えるのではないでしょうか。

――ありがとうございました。


関連情報

URL
  SCE
  http://www.scei.co.jp/

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(甲斐祐樹)
2008/04/25 15:01
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