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線路長約2km環境でのフレッツ・ADSL モアII効果は?

 大手事業者ではイー・アクセス、アッカ・ネットワークスの発表を皮切りに、続々と登場した20M超ADSLサービス。ただし、導入することですべてのユーザーが速度向上を実現できる訳ではなく、多くの事業者はNTT収容局から約2km程度の環境が1つの目安として定められている。そこで線路長が2,070mとほぼ2kmの記者宅で、NTT東日本のフレッツ・ADSL モアからフレッツ・ADSL モアIIへ速度変更を実施、速度や新型モデムの機能などを検証してみた。

 フレッツ・ADSL モアIIは6月25日より新規ユーザーや速度変更ユーザーも含めて事前受け付けを開始、7月22日よりサービスを開始している。月額料金は12Mタイプのフレッツ・ADSL モアより50円高い2,750円。また速度変更の場合は工事費用として3,050円が必要になる。

 なお、新規ユーザーを対象に、フレッツ・ADSL モアIIの月額料金を開通月から3カ月間無料にするキャンペーンも8月31日まで実施されている。現在利用中のフレッツ・ADSL モアを一旦解約、再度新規で加入することでこのキャンペーンも適用できるが、しばらくはフレッツ・ADSLを利用できない期間が発生する。フレッツ・ADSL モアIIの発表時は通常よりも申し込み件数が多く、結果としてフレッツ・ADSLを利用できない期間が通常より長くなる可能性もあるため、今回は速度変更を選択した。


IP電話対応モデムのレンタル料金も値下げ

ADSLモデム-NV
 NTT東日本ではフレッツ・ADSL モアIIの発表に合わせて、IP電話機能搭載モデムのレンタル料金値下げも発表した。アッカやイー・アクセス、NTT西日本(スプリッタ込み)では780円、Yahoo! BBでは20M超対応のADSLモデムで990円と従来より高い料金設定であるのに対し、NTT東日本では7月10日以降、従来のモデムと同額の440円で利用できる。そのためフレッツ・ADSLでIP電話サービスを利用する場合も、機器面での費用は増加しない。

 また、フレッツ向けのIP電話サービスでは、ぷららネットワークスの「ぷららフォン for フレッツ」、BIGLOBEの「BIGLOBEフォン(PN)」、@niftyの「@niftyフォン」など、IP電話の月額料金が実質無料となるサービスも存在する。他事業者でもIP電話を標準搭載するADSLサービスは用意されているが、モデムレンタル料も通常のADSLと同額で利用できる点で、NTT東日本は他サービスよりもコスト面で優れているといえる。

 フレッツ・ADSL モアII対応モデムも数機種発表された。IP電話機能を搭載したルータ内蔵型ADSLモデム「ADSLモデム-NV」は、以前のモデル「ADSLモデム-MNV」と比較して24Mbpsに対応するほか、ブリッジタイプに切り替えてADSLモデム機能のみを利用することもできる。今回はフレッツ・ADSL モアII導入にあたってADSLモデムもADSLモデム-MNVからADSLモデム-NVに変更、機能や使用感などをチェックしてみた。





線路長2kmでも速度は向上

 前述の通り、記者宅の線路長は2,070m、伝送損失が31dBという環境だ。フレッツ・ADSL モア利用時、モデムにADSL-MNVを使用した際のスループットは、フレッツ・スクウェア測定で最大5Mbpsに届くくらいで、ほとんどの場合は5Mbpsを切る程度。リンクアップ速度は6500kbps台で接続されていた。

 フレッツ・ADSL モアIIへの切り替え前に、新型モデムのADSLモデム-NVが届いたので、機器の性能がどれほど向上したかフレッツ・ADSL モア環境で測定してみた。この場合リンク自体はMNVと同様6500kbps程度だったが、フレッツ・スクウェアでの速度は最大5.26Mbpsとわずかながら向上。今まで5Mbpsを大きく超えたことはなかったので、おそらく機器自体のスループット性能も向上していると考えられる。

 実際にフレッツ・ADSL モアIIへ速度変更を行なった後も、ADSLモデム-MNVとADSLモデム-NV、2種類のモデムで測定を行なった。結果としては速度向上の1つの目安とされる2km以上でも、わずかながら速度向上が見られた。ADSLモデム-MNVでは最大5.4Mbps程度、リンクは約6800kbpsで接続され、400kbps程度ながら速度が向上した。次にADSLモデム-NVでの測定を実施したが、こちらはモアの時とは異なり、リンク速度、フレッツ・スクウェア測定ともにADSLモデム-MNVでの測定と同程度で、機種による速度差は見られなかった。

 なお、8月7日にはADSLモデム-NVを含む24MタイプADSLモデムの新ファームウェアが公開された。このファームウェアを早速適用して速度を確認してみたが、残念ながら記者宅では速度向上は見受けられなかった。


ADSL-モデムMNVを使用したフレッツ・ADSL モアの速度 フレッツ・ADSL モア環境でモデムをADSLモデム-NVへ交換した際の数値。わずかながら速度が向上

ADSL-モデムNVを使用したフレッツ・ADSL モアIIの速度
フレッツ・ADSL モアII導入前と後の速度比較
ADSL回線 ADSLモデム-MNV ADSLモデム-NV
フレッツ・スクウェア測定 リンクアップ速度 フレッツ・スクウェア測定 リンクアップ速度
フレッツ・ADSL モア 5.07Mbps 6592kbps 5.26Mbps 6432kbps
フレッツ・ADSL モアII 5.40Mbps 6880kbps 5.40Mbps 6848kbps
※リンクアップ速度は左のスループットを確認した時点での数値





AnnexIは近距離向け、環境によってはAnnexCが高速

 なお、ADSLモデム-NVはADSLモデム-MNVと異なり、ADSLモデムの接続方法を近距離、中距離、長距離と手動で設定できる。記者宅でADSLモデムの設定を自動のまま接続した場合、AnnexCで接続されていた。そのため距離を手動で設定しなおし、速度がどう変化するかを試してみた。

 その結果、近距離ではAnnexI、中距離ではAnnexC、遠距離ではG.dmt Annex C(FBM-sOL)で接続された。その際のリンク速度は下表の通り。AnnexIではモア環境と速度が変わらず、むしろAnnexCのほうが速度が向上。ADSL事業者のサービス開始時のリリースでは、AnnexIを採用することで速度向上を実現するとしているが、その点からすると意外な結果が得られた。

記者宅でのADSLモデム-NVによる距離ごとの速度比較
距離設定 ラインモード 上り 下り
近距離 G.dmt AnnexI 1120kbps 6432kbps
中距離 G.dmt AnnexC 1120kbps 6848kbps
長距離 G.dmt AnnexC(FBM-sOL) 352kbps 1984kbps


 NTT東日本によれば、フレッツ・ADSL モアIIでは手動設定で確認できた結果と同様に、近距離ではAnnexI、中距離ではAnnexC、遠距離ではG.dmt AnnexC(FBM-sOL)を採用している。また、AnnexIでは2.2MHzまでの高い周波数を利用しているが、収容局から離れれば離れるほど、高い周波数帯に載せられる情報量は減少するため、結果として中距離についてはAnnexCのほうが速度が向上するケースもあるという。

 中距離のAnnexCについてはフレッツ・ADSL モアで採用している技術と同等とのことだが、記者宅では同じAnnexC接続でもフレッツ・ADSL モア利用時より速度が向上している。この点については「NTT収容局内のADSL設備もフレッツ・ADSL モアII向けに新型へ変更しているため、同じAnnexCでも速度向上の可能性が見込める」としており、少しでも速度の速さを求めるユーザーに対してはフレッツ・ADSL モアIIの導入を薦めているという。

 なお、NTT東日本では速度向上の目安となる距離については公言していない。ユーザーに対しては線路情報開示システムで伝送損失と距離を調べたのち、Webサイトで公開しているグラフと比較して導入を検討して欲しいとしている。


ADSLモデム-MNV利用時のフレッツ・ADSL モアリンクアップ速度 ADSLモデム-NV利用時のフレッツ・ADSL モアIIリンクアップ速度

距離を手動設定、AnnexIで接続した場合のリンクアップ速度 長距離では上り下りともリンクアップ速度が大幅に低下

□線路情報開示システム(NTT東日本)
http://www.ntt-east.co.jp/line-info/
□フレッツ・ADSL「おすすめタイプ」診断コーナー(NTT東日本)
http://flets.com/misc/adspeed.html





新型のIP電話対応モデムはブリッジ利用も可

 今度は機器面での違いを見てみたい。すでに説明した通り、IP電話機能搭載モデムのADSL-MNVと比較して新型のADSLモデム-NVでは、ADSLモデム単体として利用することもできる。初めて設定する際にはモデムとして利用するか、ルータ機能を利用するかウィザードが表示される。ただしルータ機能を利用せず、モデムとしてのみ利用する場合は、IP電話機能を利用することができない点は注意が必要だ。


ADSLモデム-NV(左)とADSL-モデム-MNV(右)。外見のほか、本体サイズや重量も同一 ADSLモデム-NV(左)とADSLモデム-MNV(右)の背面

 モデムとして利用できる点以外の使用感はほぼMNVと変わらず、本体サイズや重量も同一。細かい点で言えば、モデムの設定変更を行ない、本体の再起動が必要な際には再起動を行なうための「登録」ボタンが光るようになった。ささやかな点ではあるが、設定変更をしたものの機器への反映を忘れる、といったミスを防ぐことができる。

 機能面では最大3セッションまでのPPPoEマルチセッションが可能なほか、VPNパススルーもサポート。また、NECブランドのルータなどに搭載されているPPPoEブリッジ機能にも対応する。これは本体のルータ機能を生かしたまま、端末からPPPoE接続を可能にするという機能。例えばルータにプレイステーション 2(PS2)を接続、グローバルIPアドレスが必要なオンラインゲームを楽しむ場合でも、PS2側で設定したPPPoE接続をブリッジすることで問題なくゲームを楽しむことができる。


初期設定時にルータ機能を利用するかどうかを選択する PPPoEブリッジ設定画面。左の登録ボタンが再確認のために点滅する

 このほか本体の機能ではないが、ADSLモデム-NVにはモデム設定用のCD-ROMが同梱されている。このCD-ROMでは、インターネット接続に必要なユーザーIDやパスワード、Outlook Expressの設定に必要なアカウントなどをウィザード形式で設定できる。ただし、このCD-ROMで設定する内容は、通常の手順でADSLモデム-NVやOutlook Expressを設定する際の入力項目とほとんど変わらない。

 また、このCD-ROMで設定する場合、ADSLモデム-NVの本体に設定するパスワードがプロバイダーのパスワードと共用で自動設定されてしまい、ユーザーが入力することはない。さらに2度目以降の設定はCD-ROMで行なうことはできず、本体に直接アクセスする必要がある。そのため改めてユーザーがルータの機能を設定しようとする場合、自分で登録した覚えのないパスワードが本体に設定されていることになる。この点については設定CD-ROMの説明書に小さく記述されているが、初心者向けの設定用CD-ROMであるなら、設定時に本体のパスワードを別に設定する項目を設けるなどの配慮が欲しいところだ。

 また、前モデルのADSL-MNVと共通して気になるのが、ルータ機能の詳細について説明が少ない点だ。インターネットに接続するまでのマニュアルは多彩なものの、PPPoEブリッジや、PPPoEマルチセッションを利用するために必要な静的ルーティング機能の説明は、紙のマニュアルにはほとんど記載されておらず、付属CD内のPDFファイルを読むしかない。マニュアルについてはルータ全般に言える問題ではあるが、NTT東日本が提供するルータである以上、できればマルチセッションだけでももう少しわかりやすいマニュアルを期待したい。


静的ルーティングでPPPoEマルチセッションを設定する際の一例 設定CD-ROMの画面




月額50円増額、回線工事費3,050円がコース変更の鍵

 以上、あくまで1ユーザーの環境ではあるが、目安とされている2kmでも速度向上は見受けられた。ただし、実際に速度向上したのはフレッツ・ADSL モアと変わらないAnnexCの接続時のみで、新技術のAnnexIでは速度が向上していない点はやや腑に落ちないところだ。AnnexIのみで考えるならば、線路長2kmの記者宅では速度が向上していないことになる。

 ただし、NTT東日本も述べているように、AnnexIは近距離向けの技術であるため、2km以内の環境でそのメリットが活きてくるかもしれない。また、既存のAnnexCでも速度向上する可能性がある点では、中距離ユーザーにもメリットがあるだろう。

 料金面で考えると、月額料金は12Mタイプと比べてわずか50円の増額で済むほか、新規ユーザーは3カ月無料キャンペーンも適用できる。高速ADSLを希望するなら、よほどのことがない限りフレッツ・ADSL モアよりもフレッツ・ADSL モアIIを選択するほうが良いだろう。1Mタイプ、8Mタイプユーザーの速度変更についても同じことが言える。

 問題は現在フレッツ・ADSL モアを利用しているユーザーの速度変更だ。伝送損失や線路長といった環境はもちろん、月額50円の増額と回線工事費3,050円がユーザーにとってどれほどの大きさかという点次第といえる。月額料金はほぼ同額であるし、3,000円程度の追加費用なら思い切って、という考え方もあるだろう。

 結局のところ、NTT東日本のフレッツユーザーにとっては、フレッツ・ADSL モアIIの開始よりもIP電話対応モデムのレンタル料値下げのほうが大きい話題かもしれない。機器費用は変わらないほか、前述の通りプロバイダーによってはIP電話サービスの月額料金も必要ない。通話料金もほとんどの場合は一般電話加入回線より割安となるため、月額の追加費用でIP電話導入にニの足を踏んでいたユーザーなど、IP電話普及への1つのきっかけとなりうるだろう。


関連情報

URL
  フレッツ・ADSL(NTT東日本)
  http://flets.com/adsl/

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(甲斐祐樹)
2003/08/08 11:20
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