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“体感1Mbps”はモバイルブロードバンドを実現できるか(中編)
〜ウィルコムインタビュー「AIR-EDGEはまだまだ速くなる」〜

 前編では、ウィルコムが提供する最大256kbpsのPHSデータ通信サービス「AIR-EDGE[PRO]」と、画像ファイルやデータ転送のやり取りを最適化する「メガプラス」を使い、ブロードバンドにより近づいた体感速度を実感することができた。後半では、ウィルコムの経営企画部長の青木伸大氏と技術企画部ネットワーク企画グループ担当部長の寺尾洋幸氏へのインタビューから、AIR-EDGEの現状と今後の展開を2回に分けてお伝えする。





リニューアルを皮切りに生まれ変わったAIR-EDGE

経営企画部長の青木伸大氏
――今回サービスを開始したAIR-EDGE[PRO]の特徴をお聞かせください。

青木:キーワードはやはり高速化ですね。128kbpsから256kbpsに高速化したハイグレードなサービスを提供するということで、既存のAIR-EDGEのグレードアップ版という位置付けと考えています。これは“[PRO]”というサービス名にも繋がっています。また、我々としてはAIR−EDGE[PRO]だけではなく、ほぼ同時に開始したメガプラスも含めて、新生ウィルコムとしての大きなイベントだと認識しています。

――AIR-EDGE[PRO]のターゲットは、今まで以上の高速化を求める先進的なユーザーということでしょうか。

寺尾:Webサイトを閲覧するという使い方であれば、メガプラスと併用することで4x(32kbps×4チャネル=128kbps)でも十分なパフォーマンスが出ていると思っています。一方、ビジネスシーンなどで実際に大きなファイルをダウンロードする場合、速度が出ないと使用に耐えられないことも考えられます。そのようなケースに該当するユーザーに向けて、より速い基本速度を提供することがAIR-EDGE[PRO]のコンセプトであると技術者サイドでは理解しています。


技術企画部ネットワーク企画グループ担当部長の寺尾洋幸氏
――現在の加入者数と、AIR-EDGEの利用者数は。

青木:ウィルコムのサービスを利用してくださっているユーザーは個人と法人を合わせて約300万回線で、AIR-EDGEコースでの契約が116万回線です。これは音声端末でデータ通信を利用しているユーザーも含まれているので、データ通信カード端末を利用しているユーザーは約100万回線といったところですね。

――AIR-EDGE[PRO]の加入状況はいかがでしょうか。

寺尾:まだサービスが始まったばかりなので正確な数字は把握していませんが、初日には、新規、機種変更も含めて多くの契約があったと聞いていますし、順調に推移しているという認識です。ただ、ハイエンドユーザーに向けたサービスなので、一気に立ち上がるものではないと考えています。

青木:個人契約の場合、既存ユーザーも新規ユーザーも含めて一番価格が安い1x(32kbps)を契約しているユーザーが多いですね。4x以上の利用料金が若干高いということも影響していると思いますが、4x、8xと高速化を行なっても、一定の金額で利用したいというニーズも強いと感じています。現在では1xでもメガプラスを利用することで、それなりの体感速度を維持しながらWebサイトを閲覧できますね。

――つなぎ放題のユーザーの中には、ネット25の月25時間以内に収まっているユーザーも多いのではないでしょうか。

青木:つなぎ放題コースの利用分布をみますと、25時間以上利用していないユーザーも1x、4xの契約に限らず一定のユーザーがいらっしゃいます。ただし、ネット25の方が得なのかというと、必ずしもそうではないと思います。支払いの上限が決まっているという安心感は、非常に大きいのではないでしょうか。AIR-EDGEは定額を前面に打ち出せる唯一のモバイルサービスなので、その強みは十分活きていると感じています。もちろんつなぎ放題コースを契約しているユーザーの大半は、25時間を軽く超えていますよ。





システム全体を日々改善。よりクオリティの高い8xサービスを

AIR-EDGE[PRO]対応端末の第1号機「AX510N」
――AIR-EDGE[PRO]は理論値で最大256kbps(8x)ですが、実効値はどのくらいでしょうか。

青木:当社では、東京で30〜40カ所、さらに大阪など全国の主要都市で速度の定点観測を行なっていますが、その結果を見ると、ほぼすべての場所で100kbpsを超えていますし、環境の良い場所では200kbpsは出ていますね。実効速度が80〜100kbpsだった4xを軽く超えるパフォーマンスを実現しています。

青木:4xの開発にはかなり苦労しましたし、4xをここまで仕上げることができたからこそ、8xもスムーズに実現できたと感じています。8xを開発するにあたって、最初はそんな速度が出るのかと懐疑的でしたが、現状ではしっかりと4xの2倍の実効速度が出ているので、スタート時からほっと胸をなで下ろしています。

――上りではどのくらいの速度が出ていますか?

寺尾:理論値は下りと同じ256kbpsですが、まずはWebサイトの表示を速くするために下りに合わせて調整していますので、上りに関しては実効速度で100kbpsを超えるか超えないかというのが現状です。ハードウェアとしては上下共に同じ速度が出せる能力を持っていますので、今後のブラッシュアップにより、もう少し上がっていくと思います。

――ブラッシュアップは具体的にどのように行なうのでしょうか。

寺尾:基地局だけではなく、システム全体を調整していきます。AIR-EDGEで利用しているTCP/IP通信というのは、データを順番に送って順番に処理するという順序制御を行なっていますが、データが入れ違いになったときの再送のメカニズムが速度低下の原因となります。無線を使うシステムではどうしてもパケットロストや遅延の揺らぎにより再送が発生しますので、これを吸収する仕組みを基地局や端末、アクセスサーバーなどシステム全体に組み込む必要があります。基地局やアクセスサーバー、端末についても日々改善しています。

――現状のAIR-EDGEでも、まだまだ高速化が図れるということですね。

寺尾:そうありたいと思います。例えば、端末のファームウェアを新しいものに変更するだけで速度が向上するというケースも考えられますね。ただ、速度を上げると言うよりも、速度が出ている状態を安定させる、低下しないようにすることが重要だと考えています。

青木:3Gの携帯電話によるデータ通信の場合、トップスピードは高いのですが、何人かが同時に利用すると1人あたりの速度が落ちてしまいます。一方、AIR-EDGEは沢山の人が利用しても速度が落ちにくく、安定した速度を提供できるということがそもそもの強みだと言えるでしょう。

青木:4xはサービスを開始した当時と比べて、現在では全然違うサービスに感じられるほど安定性が増しています。今まではその安定さをあまりアピールはできていなかったというのが正直なところですが、8xも4xと同様、日が経つに連れて更に使い勝手が良くなっていくと思います。





メガプラスも更なる速度向上を目指す

――AIR-EDGE[PRO]は最大8チャネルを利用しますが、1つの基地局を複数ユーザーで同時に利用する場合、速度はどうなるのでしょうか。

寺尾:1つの基地局しか存在せず、複数のユーザーが同時に接続した場合は回線を共有することになりますので、速度は低下するでしょう。ただし、AIR-EDGEの場合は、複数の基地局を同時に補足できるため、基地局が混雑している場合は他の基地局に移動するという動作を繰り返し行なっています。まだ改善の余地はありますが、このような仕組みにより、基地局が混雑していても速度を改善できます。

――まれに期待している速度が出ない時があったのですが、どのような原因が考えられますか。

寺尾:MTUやRWINの調整次第で、最高速度が出にくくなる可能性がありますし、RWINの値が最適化されていない場合、遅延に耐えられなくなり再送指示が出てしまうという報告も受けています。AIR-EDGEのセットアップツールでは、MTUやRWINの値を「AIR-EDGE推奨値」に変更することができるので、この機能も有効に使ってもらえると良いでしょう。あとは場所の条件ですね。特に調子の悪い基地局を捉えてしまったために、他の基地局を探すことができなかったのかもしれません。

寺尾:先ほど定点観測の話をしましたが、確かにユーザーが増えていくに従って平均速度が低下することもありえます。従来の基地局は、1つか2つのチャネルしか利用できなかったのですが、現在は8チャネルまで利用可能な大容量の基地局へ積極的に交換しています。場所という意味では徐々に改善していますので、今日駄目な場所でも明日には良くなっているというケースもありますね。

青木:定点観測の目的は、ただ速度を記録しているのではなく、速度が落ちている所を発見して、その基地局を変えるなどの対策を行なうためでもあります。まだいくつかの悪い基地局に引っ張られて速度が低下する可能性も考えられますので、古い基地局を最新のものに交換する作業を進めており、これにより格段に安定した速度で利用できるようになると思います。

――8xでは多くのチャネルを利用しますが、現在設置されている基地局は何チャネルまで利用できるのですか?

寺尾:1995年に設置した基地局から最新の基地局までが混在してますが、最新の基地局は8チャネルまで利用できます。8xの端末では、8つのチャネルを利用しなければ効果を発揮することができず、4チャネルしか利用できない場所では8xも4xも変わらなくなってしまいますので、基地局を増やすという対策はもちろんのこと、4xと8xの端末を同じ状況で利用した場合、8xの方が速いか同等になるように設計しています。また、遅い基地局を捉えた場合、その基地局を開放して他の基地局を探すという処理も行なっています。


通信データや画像などを圧縮し、“体感1Mbps超”を実現する「メガプラス」
――今までも、画像圧縮によって体感速度向上を図るソフト「トルネードWeb」が提供されていましたが、今回の高速化サービス「メガプラス」はトルネードWeb以上の体感速度の向上を実感できました。具体的にどのような改良を加えたのでしょうか?

寺尾:メガプラスでは、Webサイトをどのように表示するかということに重点を置いてアルゴリズムを変更しました。Webサイトを表示した時、まずはじめに文字が表示される方が速さを体感できると考えています。具体的には、ニュースサイトを閲覧する場合、画像の表示を待っている間に必要な情報を先に読むことができるため、速度が大きく変わったなという感覚を得られるのではないでしょうか。

寺尾:メガプラスはまだ始めたばかりなので、若干不安定な部分も残していますが、もう少し安定してくればさらに速く感じていただけるはずです。我々としてはまだ満足していませんし、画像の圧縮方式に関しても、ファイルサイズをより小さく綺麗に表示できるように改良を続けています。

――今後もメガプラスによりまだまだ体感速度が上がる可能性はありますか?

寺尾:現時点ではFlashや動画の圧縮には対応していないので、これらが速く表示されるようになれば体感速度はさらに向上するでしょう。また、Webサイトの構成によって得手不得手がありますので、Webサイトの癖を見ながらの調整も行なっています。さらに、DNSの解決などの処理による遅延がどうしても発生してしまうのですが、この遅延を縮める工夫も考えています。

 中編では、ウィルコムのAIR-EDGE[PRO]の現状と課題を中心にお話をうかがった。後編では、データ通信サービスを中心としたウィルコムの今後の展開について紹介する。


関連情報

URL
  ウィルコム
  http://www.willcom-inc.com/
  AIR-EDGE
  http://www.willcom-inc.com/p_s/service/air_edge/

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(西野滋仁)
2005/03/10 11:09
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