■スループット94Mbpsの超高速ルータ
マイクロ総合研究所から発売された「NetGenesis SuperOPT90」は、FTP転送によるスループットが94Mbpsという、これまで本連載で取り上げたルータの中でも最速となる公称値を謳う製品である。また、ネットワークデバイステスタ(SmartBits2000)によるスループットでは98Mbpsという、100BASE-TXではこれ以上のないだろうと思えるぐらいの結果も残しているようだ。さらに同製品では、100MbpsのFTTHでPPPoE接続したさいのスループットも公表されており、こちらは67Mbpsとなっている。それぞれのテスト環境については同社のWebサイトで公開されているので参照してほしい。
また、姉妹品として「NetGenesis SuperOPT70」もラインナップされており、こちらのスループットは、FTP:72Mbps、SmartBits2000:97Mbps、PPPoE:58Mbpsとなっている。SuperOPT90ほど高速ではないものの、十分に高速なルータといえるだろう。
では、今回取り上げるSuperOPT90の外観を見てみよう。本体はプラスチック製の比較的コンパクトなボディで、姉妹品のSuperOPT70とは色違いとなっている(写真1)。また、縦置きスタンドを用いずに横置きの設置も認められているので、設置スペースで悩むことはないだろう。
LED類が並ぶ本体前面は、機能的でシンプルなものだ(写真2)。POWER LEDのほかに、WAN側とLAN側各ポートのリンクLEDが配置されている。これらは緑点灯時に100BASEでのリンク、橙点灯時に10BASEでのリンクを表わすほか、データ転送中には点滅するようになっている。
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写真1
本体は一般的なルータとほぼ同サイズの64×144×168(幅×奥行×高)mmとなっている。縦置きスタンドを使用しない場合は43×144×168(幅×奥行×高)mmとなる
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写真2
機能的な本体前面。やはり、前面部のLEDだけでポートのアクセス状態をほとんど把握できるのは便利だ
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本体背面も非常にシンプル(写真3)。上部から工場出荷時に設定を戻すためのスイッチ、LAN、WANの各ポート、アース接続口、ACアダプタ接続口が用意されている。
ACアダプタは、最近のルータとしてやや大型なものが付属している(写真4)。ただし、短い延長ケーブルも付属しているので、コンセントの干渉は気にせずに接続できるようになっているのは助かる。
このほかの付属品としては、LANケーブル(ストレート、3m)、クイックスタートガイド、マニュアルCD-ROMといったところだ。クイックスタートガイドは付属する唯一の紙マニュアルで、PPPoE接続利用者向けに、抜粋して設定方法が記されている。より深い内容を知りたい場合は、CD-ROMに収録されたHTML形式のマニュアルを見ることになる。
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写真3
ルータ機能以外の付加機能はとくにないので、背面もWAN/LANの各ポートやリセットスイッチが並ぶのみと、きわめてシンプル
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写真4
比較的大型のACアダプタであるが、ショートケーブルも付属している。小さなことだが、こうした配慮はありがたい
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■機能は十分も、やや難解な設定画面
ルータに関する設定は、一般的なルータと同じくWebブラウザを利用したものだ(画面1)。順番に設定可能な項目などを確認していこう。
まずはWAN側の設定である。WAN側の設定は非常に多岐に渡って選択肢が用意されている(画面2)。基本はDHCP、PPPoE、固定IPの3種であるが、アドレス変換を行なう場合と行なわない場合で、細かく分かれているのである。
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画面1
設定はすべてWebブラウザ上で行なう。デフォルトのIPアドレスは<192.168.0.1>となっている
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画面2
WAN側の設定はネットワークの形態によって多岐に渡る。様々なネットワーク形態に対応していることが一目で分かる画面だ
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メーカー側も、さすがにこれでは初心者が戸惑うと判断したのか、PPPoEだけは最小限の項目で設定できるよう別画面が用意されている(画面3)。こちらでは、ユーザー名、パスワードを入力するだけでよく、必要に応じてDNSサーバーアドレスも入力できるようになっている。ここからPPPoEの設定を行なうと、画面2の選択肢も自動的に「PPPoEクライアント IPアドレス自動取得」が選択される。こちらからはMTUの設定など、より詳細な設定が行なえるようになっている(画面4)。
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画面3
PPPoEの簡単設定。本当に必要最低限だが、こうした簡易設定画面が用意されているのは初心者への配慮だろう
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画面4
PPPoEの詳細な設定項目では、MTUの設定などが行なえる。なおDMZホスト機能の有効/無効はここで切り替えるが、ホスト先のアドレスなどは別画面での設定となる
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なお、固定IPを選択した場合には、IPアドレス変換の設定を手動で行なわなければならない(画面5)。要するにWAN側で取得するIPアドレスと、LAN側で利用するローカルのIPアドレスをする必要がある。複数のグローバルIPアドレスを取得している場合に対応させるためだとは思うが、こうした設定は一般のルータでは自動化されているので、取得するIPアドレスが1つの場合は設定を不要にするなどの配慮があっても良かったと思う。
続いてはLANとDHCPの設定を見てみよう。LAN側の設定は、ルータの「基本設定」の項目にある(画面6)。設定はIPアドレスとサブネットのマスクビット数を指定する方式になっている。「255.255.255.0」なら「24」といった具合だ。
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画面5
固定IPのネットワークでは、アドレス変換を行なうWAN/LANそれぞれのIPアドレスを手動入力する必要がある
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画面6
LAN側の設定はごくシンプルなものである。サブネットの指定方法はクセがあるので、この指定方法になれていない人は苦労するかもしれない
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DHCPサーバーの設定は別画面に用意されている(画面7)。付与するIPアドレス数やリース時間も設定できる。ただ、こうした高速ルータであれば多くのクライアントが接続される企業での利用も考えられる。となれば、クライアントも固定IPアドレスとDHCPにより取得するIPアドレスが混在する環境もあり得るだろう。となれば、DHCPによるリースから除外するIPアドレスを指定できれば、なお良かったかもしれない。
次にファイアウォールの設定を見てみよう。ファイアウォールの設定はきわめて詳細な設定が可能だ(画面8)。IN/OUTのポートを選択できるのはもちろん、TCPプロトコルのフラグまで設定できる。
このTCPプロトコルのフラグは、例えば「SYN+」としておけばSYNフラグが「1」の場合に設定した内容を有効にするというものだ。このフラグとは、TCPプロトコルのデータ送信利用される合図のようなものだ。例えば、TCPプロトコルのデータ送信はまずSYNフラグをセットしたデータを相手先に送るところからスタートするが、本製品で「SYN+」と設定しておけば、接続の要求が送られてきた時点で遮断する、といったことが行なえるのである。かなりの知識が必要な設定で初心者にとって恩恵のある機能とはいいがたいが、セキュリティに厳しい企業のネットワーク管理者にとっては、うれしい機能なのではないだろうか。
ちなみにIPアドレスは範囲の指定はできないが、サブネットによるネットワーク単位の指定は行なえる。つまり、「192.168.0.10/30」であれば「192.168.0.10~192.168.0.13」といった感じの指定が行なえる。こうした点も初心者には難解に感じるだろう。
なお、初期設定ではNetBIOSに関するポートを遮断するよう設定されているので、この設定は有効にしたまま利用すべきだろう。
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画面7
DHCPサーバーの設定はLAN設定とは別の画面で用意されている。リースできるIPアドレスが最大で64個というのは、本製品のスペックを考えると少ない気もする
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画面8
ファイアウォールは非常に詳細な設定が行なえるが、項目名が日本語されておらず難解な感じを受ける
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では、続いてNATの設定を確認しよう。NATの設定はごく簡単なものだ(画面9)。こちらはごく簡単なもので、ポート番号と宛先のアドレスを指定するだけだ。また、DMZホスト機能も持っているが、これは多くのブロードバンドルータ同様に、全アクセスを指定したIPアドレスのクライアントへ転送するだけのものだ(画面10)。
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画面9
NATの設定はごくシンプル。基本的にはこの設定で事足りるケースがほとんどなので、実害はないだろう
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画面10
DMZホスト機能の設定画面では有効/無効の切り替えが行なえない。こうした点は実際に利用すると不便に感じるので、今後のファームウェアではメニューの整理にも期待したいところだ
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このほか、SYSLOGのホスト設定(画面11)も持っている。この機能は実装していない製品も多いが、アクセスの管理を多少なりとも行ないたい人には必須の機能といえる。
また、WANポートの設定、LANポートの設定を個別に工場出荷状態に戻せるのもうれしい機能だ(画面12)。例えばプロバイダーを乗り換えたときなども、WAN側の設定だけ初期化すればOKなので、LAN側で設定したDHCPなどの設定はそのまま活かせる。初期化利用時にどの項目が初期化されるかを明示してくれるのも、うれしい配慮といえるだろう。
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画面11
機能を実装していないルータも多いが、意外にニーズが高いSYSLOGの転送機能。なお、本製品内部のメモリにも100行までのSYSLOGが記録されるが、ファイルへの保存や電源を切ったときに保持することはできない
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画面12
WAN/LANポート別に設定を初期化できる。初期化される項目が表示されるので、初期化された項目だけ再設定する作業も簡単に行なえる
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■90Mbps前後の見事なスループットを確認
ここで、スループットの計測を行おう。FTP転送時94Mbpsという高速なスループットが公称されている本製品であるが、プロセッサには日立製作所のSuperHシリーズ「SH-4」が利用されている。高速ルータでは比較的多く使われているプロセッサだが、本製品では従来のSH-4(SH7751)のキャッシュを倍増させるなどして高速化された「SH7751R」が採用されており、240MHz駆動品が使われている(写真5)。なお、姉妹品のSuperOPT70も同じくSH7751Rを使用しているが、こちらは200MHz駆動となる。
写真5 日立のSH-4(SH7751R)。BP240の表記が240MHz駆動品であることを示していると思われる。余談だが、従来のSH7751に比べて内部の電圧も抑えられているようだ
では、実際にスループットの測定に入ろう。ここではいつもどおり、FTPおよびHTTPによる転送を測定する。
環境は表1、図に示すとおりだ。Linuxをインストールしたサーバー用PCと、Windows XP ProfessionalをインストールしたクライアントPCを用意し、上り、下りの速度を測定する。
サーバー、クライアントでは、それぞれFTP/HTTPサーバーを起動している。また128MBのRAMDISKを設置し、そこを利用して転送を行うことで、HDDなどのボトルネックを極力解消している。
なお、転送に利用するクライアントソフトは、サーバー側がMozilla(HTTP)、コマンドプロンプトのFTP(FTP)をそれぞれ使用し、クライアント側ではFTP/HTTPともにInternet Explorerの「ファイルに保存」を使用している。
さて、実際の転送結果を表2に示したが、公称値に近い見事な成績となっている。特にHTTPでの転送で90Mbpsを超え、FTP転送時の公称値である94Mbpsに限りなく近い数字を出した点は立派だ。
ただ、上りに関してはFTP/HTTPともに60~70Mbpsと奮わない。下りの成績が見事なだけに、少々残念な気もする。
図1:テスト環境 |
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表1:テスト環境 |
| サーバー | クライアント |
CPU | AMD Athlon MP 1.2GHz×2 | AMD Athlon XP 1700+ |
マザーボード | TYAN TigerMP(AMD760) | EPoX EP-8K3A+(Apollo KT333) |
メモリ | Registerd DDR SDRAM 512MB(256MB×2) | PC2700 DDR SDRAM 256MB |
HDD | Seagate Barracuda ATA IV 80GB (NTFS) | Seagate Barracuda ATA IV 40GB (NTFS) |
LANカード | プラネックスコミュニケーションズ GN-1000TE | Intel 21143搭載LANカード |
OS | RedHat Linux 7.3 (kernel 2.4.18-3、Apache 1.3.23-11、WUFTPD 2.6.2-5) | Windows XP Professional 日本語版(IIS 5.1) |
RAMディスク | 128MB | 128MB |
表2:テスト結果(有線) |
| プロト コル | 転送条件 | 速度(Mbps) |
直結状態 | ftp | サーバー → クライアント | 93.6 |
クライアント → サーバー | 84.6 |
http | サーバー → クライアント | 96.0 |
クライアント → サーバー | 78.3 |
マイクロ総研
NetGenesis SuperOPT90 | ftp | サーバー → クライアント | パケットフィルタリングなし | 88.5 |
パケットフィルタリングあり | 86.6 |
パケットフィルタリング+NAT | 87.2 |
クライアント → サーバー | NATあり | 66.7 |
NAT+パケットフィルタリング | 66.6 |
http | サーバー → クライアント | パケットフィルタリングなし | 91.2 |
パケットフィルタリングあり | 92.5 |
パケットフィルタリング+NAT | 91.2 |
クライアント → サーバー | NATあり | 60.0 |
NAT+パケットフィルタリング | 60.0 |
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■初心者にはお勧めしにくいが性能は文句なし
以上、本製品を試用してきた。機能面ではとくに目新しい機能はないものの、必要な機能を隙なく盛り込んでいる印象を受ける。とくにファイアウォールの設定などは、セキュリティに神経を配らなければならないケースにも耐え得る内容だ。また有効/無効の切り替えは行えないが、PPTPのパススルーも行えるので、企業の支店間でのネットワークなどでの利用を考えている人も、十分検討に値する製品だ。
残念なのは設定画面の難解さで、ルータを初めて導入する個人ユーザーにはお勧めしにくい。逆にネットワークの中・上級者でも満足できるルータで、そちらがメインの購入層となるだろう。また、最近のルータでは当たり前のように実装されているUniversal Plag&Playに対応しないのも残念だ。これは、今後のファームウェアのアップデートなどで対応することを期待したい。
スループットは文句ないスピードで、PPPoEでの転送値を公表しているメーカーの姿勢も信頼できる点だ。価格も実売で2万円前後と、性能を考えると比較的安価なのもうれしい。ネットワークの知識がある程度身についていて、とにかく高速で高機能なルータを求めている人には、文句なくお勧めできる製品だ。
□NetGenesis SuperOPT90 製品情報
http://www.mrl.co.jp/catalog/nw/mr-nwgopt90.htm
(2002/11/06)
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