■VPN非サポートの廉価モデル
オムロンから5月に登場した「VIAGGIO MR104X」は、本連載で以前に紹介した「VIAGGIO MR104DV」とほぼ同じ仕様の製品だ。違いは、MR104DVが50トンネル&スループット20MbpsのVPNサポートを打ち出していたのに対し、本製品ではそうした特色が外されている。
いってみれば本製品はMR104DVの“機能制限版”ということになるが、サーバー構築に安心のDMZポートや、最大92Mbpsスループットはそのままだ。高速VPNを省略しただけで、実売価格はMR104DVより1万円程度安価に抑えられており、高性能なVPNを必要としない個人ユーザーには気になる製品となっている。
それでは、いつもどおり外観から見ていくことにしよう。MR104DVは黒に身を固めたデザインであったが、本製品はカラーリングが変更され、白を基調にフロントパネルに淡い青色をあしらったデザインに変更された(写真01)。ただし、形自体に変更はなく、金属製のガッシリしたボディである。
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写真01
MR104DVと比較しカラーリングのみが変更された外観。サイズも170×147×32mm(幅×奥行×高)とまったく同じ
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写真02
フロント部はLED類が並ぶ。WAN/LAN/DMZの各ポートの状態がつかめて非常に便利
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フロントパネルも配列はまったく変わらない(写真02)。WAN/LAN/DMZのポート状態を示すLEDを中心に、電源/状態LEDが用意されている。背面も同じだ(写真03)。LAN×4、WAN×1、DMZ×1のポート数である。ちなみにLANポートのみAUTO-MDI/MDI-Xに対応する。
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写真03
背面では本製品の特徴ともDMZポートが目立つ。リセットスイッチは本体の再起動と設定初期化両方の役割を持つ
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写真04
非常に大型のACアダプタが付属。付属のショートケーブルは若干長めのものとなっている
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写真05
最近は紙マニュアルを付属するルータが増えてきた。本製品も紙マニュアル+CD-ROMマニュアルの構成だ
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ACアダプタも相変わらず大型のものが付属している(写真04)。ショートケーブルが付属する点も変わらないので安心だ。そのほかの付属品としては、紙マニュアル1冊と詳細マニュアルが収録されたCD-ROMなどである(写真05)。
■セキュリティ関係でセッティングが充実
続いてはセットアップ画面を見ていこう。セットアップ画面もMR104DVとほとんど変わらない(画面01)。WAN側の設定はウィザードで行なうタイプだ(画面02)。フレッツ・シリーズへの接続などPPPoEの場合はマルチセッションにも対応し、セッションごとにアカウントを設定できるようになっている(画面03、04)。なおMTUの設定は別画面で行なえる(画面05)。
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画面01
上位モデルのMR104DVに似たWebセットアップの画面。初期IPアドレスは<192.168.2.1>
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画面02
WAN側のセッティングは、接続形態を選択していくだけのウィザード形式
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画面03
ADSLの設定ではPPPoE、PPPoEマルチセッション、PPPoAから選択できる
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画面04
マルチセッションの設定も、アカウント毎の設定を選択する分かりやすい画面
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LAN側の設定は極めてシンプル。LAN側のIPアドレスとDHCPのオン/オフ、DHCPによるリース範囲を指定できるのみだ(画面06)。
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画面05
「その他の設定」に追いやられてはいるが、MTUの設定も可能
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画面06
非常にシンプルなLANの設定画面。簡単で分かりやすくはあるが、最近は機能が充実したルータが多く、その中では物足りなくもある
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さて、本製品の特徴の一つとして、ステートフル・パケット・インスペクション(SPI)に対応している点が挙げられる(画面07)。最近では、この機能をウリにする製品が増えてきたが、届いたパケットを選別し、動的に遮断/通過させる機能である。高いセキュリティを保ちつつ、利便性を確保できる有効な機能だ。
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画面07
ステートフル・パケット・インスペクション(SPI)にも対応。VPNのパススルーの設定もこの画面から行なえる
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画面08
SPIのほか、一般的なパケットフィルタリングにも対応。送受信元のIPアドレス/ポート、パケットの方向も選択できる充実したものだ
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なお、本製品のセキュリティ機能としては通常のパケットフィルタリング(画面08)のほか、LAN→WANへの接続制限としてアプリケーションや時間帯による制限(画面09)、特定URLへの接続を制限するURLフィルター機能(画面10)が用意されている。
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画面09
LANからインターネットへのアクセスを、ユーザーや時間帯、アプリケーションから制限することもできる
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画面10
アクセス制限するURLを指定したり、NAT、DMZの設定はこの画面から行なう
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NATの機能も用意されている。先の(画面10)の上部に用意されているアプリケーションを選択すれば、指定したPCへ転送することができるほか、自分でポートを指定してパケットを転送することもできる(画面11)。
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画面11
NATは画面10のリストからアプリケーションを選択する方式のため、リストにない場合はこちらから追加する
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画面12
DMZポートを持つ本製品だけに、個人がWebサーバーを立ち上げるのに役立つDDNSに対応しているのは便利
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このほか、最近では珍しくなくなったがDDNSへの対応もされており、IPアドレスの自動更新機能を持っている(画面12)。DMZポートが用意されていることからWebサーバーを立てている人に選ばれる可能性が高い本製品。用意されていて然るべき機能がキッチリ用意されている点は評価できる。
■ハードウェア的にはMR104DVと同じ
それではおなじみの分解を行なおう。まず写真06が本製品の基板である。MR104DVのときの写真5と見比べて欲しいが、まったく差がないことが分かるだろう。つまり、VPNのサポートの違いはファームウェアの差だけであって、ハードウェア的には何の差もないわけだ。
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写真06
メインの基板は、上位モデルのMR104DVとまったく一緒である
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写真07
安価な高速ルータでは多く利用されている、BRECIS「MSP2000」
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メインのプロセッサにはBRECISのMSP2000(写真07)が使用されている。本チップにはVPNのアクセラレーション機能がインプリメントされており、この機能を使うか、使わないかは、ファームウェアの作りこみ次第なのである。本製品ではこの機能をカットしていることになる。
(写真06)のMSP2000の右上に見えるのがフラッシュROMだ。AMDの「AM29LV160DB-90EC」という2Mバイト品が使用されている(写真08)。またMSP2000の左側に二つ搭載されているのがSDRAMで、こちらはICSI社の「IS42S16400-7T」が使用されている(写真09)。
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写真08
フラッシュROMにはAMDの「AM29LV160DB-90EC」
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写真09
SDRAMは8Mバイト品が2個搭載されている。型番はICSI社の「IS42S16400-7T」
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LANポートのスイッチコントローラにはMarvell社の「88E6051」が搭載されている(写真10)が、基板写真(写真06)を見ても分かるとおり、このチップにはヒートシンクが取り付けられている。仕様を見ると、QoSにも対応しているようであるが、本製品ではそうしたアピールがなされていないことを考えると利用されていないと考えるのが妥当だろう。
DMZポート、WANポートの先にはPHY層として、DAVICOMの「DM9161E」が取り付けられている(写真11)。
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写真10
LAN側のスイッチコントローラは、メジャーなMarvell製チップが利用されている
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写真11
PHY層はDAVICOM社の「DM9161E」
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■公称値には及ばないが高速なスループットを達成
次はパフォーマンスの測定である。まずはLAN環境での性能確認である。テスト環境はこれまで本連載で使用してきたものと同じく、表1、図1のとおりである。
表1、図1:テスト環境 |
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サーバー |
クライアント |
CPU |
AMD Athlon MP 1.2GHz×2 |
AMD Athlon XP 1700+ |
マザーボード |
TYAN TigerMP(AMD760) |
EPoX EP-8K3A+(Apollo KT333) |
メモリ |
Registerd DDR SDRAM 512MB(256MB×2) |
PC2700 DDR SDRAM 256MB |
HDD |
Seagate Barracuda ATA IV 80GB(NTFS) |
Seagate Barracuda ATA IV 40GB(NTFS) |
LANカード |
プラネックスコミュニケーションズ GN-1000TE |
Intel 21143搭載LANカード |
OS |
RedHat Linux 7.3
(kernel 2.4.18-3,Apache 1.3.23-11,WUFTPD 2.6.2-5) |
Windows XP Professional 日本語版
ServicePack1 (IIS 5.1) |
RAMディスク |
128MB |
128MB |
テストの結果は表2の通りで、下りが86Mbps台、上りが45~50Mbpsで安定しており、公称値の92Mbpsほどではないものの、まずまずのスループットが達成できているといえる。ただ、以前にテストしたMR104DVでは、ほぼ公称値どおりの結果が出ていたことから、ファームウェアに多少の違いはあるのかも知れない。
表2:計測結果(LAN環境) |
| プロトコル |
転送条件 | 速度(Mbps) |
直結状態 |
ftp |
サーバー → クライアント |
89.60 |
クライアント → サーバー |
83.96 |
http |
サーバー → クライアント |
89.87 |
クライアント → サーバー |
85.71 |
オムロン MR104X |
ftp |
サーバー → クライアント |
パケットフィルタリングなし |
86.93 |
パケットフィルタリングあり |
86.40 |
パケットフィルタリングあり+NAT |
86.67 |
クライアント → サーバー |
NATあり |
50.00 |
NAT+パケットフィルタリングあり |
50.00 |
http |
サーバー → クライアント |
パケットフィルタリングなし |
86.93 |
パケットフィルタリングあり |
86.40 |
パケットフィルタリングあり+NAT |
86.67 |
クライアント → サーバー |
NATあり |
46.15 |
NAT+パケットフィルタリングあり |
46.15 |
次にPPPoEの性能を確認してみたい。遅まきながらやっと筆者宅にもFTTH環境(NTT東日本のBフレッツ。プロバイダはNTT-MEのWAKWAK)が導入されたので、これを利用してPPPoE環境(図2)での速度測定である。まずはフレッツスクエアの速度測定、それとRRB Todayの速度測定サイト(speed.rbbtoday.com)を利用し、各々10回づつ測定を行なってみた。結果は表3の通りで、まぁまぁといったところ。同じ回線で、マイクロ総合研究所のNetGenesis SuperOpt90を使うと、フレッツスクエアでの平均速度が60Mbps程度になるので、若干物足りない気はするが、まぁこんなスピードが普段出る事はまず無いので、実用上は十分である。実際の回線スピードはspeed.rbbtoday.comの結果にかなり近く、性能面が問題になることはまずなさそうだ。
図2:テスト環境(PPPoE) |
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表3:計測結果(PPPoE環境) |
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フレッツスクエア
速度測定テスト (Mbps) |
RRB Today スピードテスト |
DownStream(Mbps) |
UpStream(Mbps) |
平均速度 |
58.09 |
26.97 |
1.55 |
最高速度 |
61.18 |
33.38 |
3.08 |
最低速度 |
52.81 |
16.54 |
0.92 |
■DMZポートを持つ機種としては安価な製品
以上、本製品を試用してきたわけだが、上位モデルのMR104DVよりも個人志向なのは間違いない。それはVPNサポートの違いでも明らかだし、デザインもそれを感じさせる。
しかも、ハードウェア的には何ら変わることなく、ファームウェアの違いのみで価格が1万円も違うのだから、VPN機能を使わないなら本製品はかなりお勧めできる製品だ。DMZポートを持つルータの選択肢が少ないなかで、価格的にも、機能的にも魅力的な製品といえるだろう。
■注意
・分解を行なった場合、メーカーの保証対象外になります。また、法的に継続使用が不可能となる場合があります。
・この記事の情報は編集部が購入した個体のものであり、すべての製品に共通するものではありません。
・この記事を読んで行なった行為によって、生じた損害はBroadband Watch編集部および、メーカー、購入したショップもその責を負いません。
・Broadband Watch編集部では、この記事についての個別のご質問・お問い合わせにお答えすることはできません。
□VIAGGIO MR104X 製品情報
http://www.omron.co.jp/ped-j/product/adsl/mr104x/mr104x.htm
(2003/05/28)
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