■700万台を出荷したルータをモデルチェンジ
今回紹介するリンクシス・ジャパンのBEFSR41C-JPは、同社のBEFSR41の後継モデルに当たる。この「BEFSR41」は2000年に発売され、その後ファームウェアのアップデートによって着々と機能を強化していった製品で、全世界で700万台も出荷したというモデルである。その人気モデルの後継機となる本製品は「小型化」と「スループットの向上」にポイントが置かれたバージョンアップがなされている。この2点に着目しつつ、さっそく紹介していこう。
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写真01 無線LAN製品を含む同社製品ではお馴染みの外観。この写真では大きさが分かりずらいが、かなり小さい |
写真02 3.5インチフロッピーと大きさ比較。おおよそイメージしていただけるだろうか |
まずは小型化が図られた外観だ。外観のデザインは同社らしい青と黒を基調にしたもので、大きく変更されてはいない(写真01)。しかし、実機を見ると分かるが、とにかく小さい。前モデルが185×155×48mm(幅×奥行×高)というサイズなのに対し、本製品は113×88×30mmと大幅な小型化が図られており、3.5インチフロッピーを横長にして程度の大きさである(写真02)。
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写真03 超小型ルータ揃い踏みというか。このアングルだと子羊ルーターがちょっと大きい感じがする |
写真04 ひっくり返すと多少印象が変わる。とはいえ、楕円に近いデザインのためか、BEFSR41C-JPはサイズ以上に薄く感じられる |
これだけ小さいと確かに世界最小を謳いたくなり、パッケージには「世界最小」の文字が躍っている。しかし日本には世界に誇る(?)「子羊ルーター」という超小型ルータがある。こちらのサイズは93×91×30mm(幅×奥行×高)で、なかなかいい勝負である。どちらが小さいのかと並べてみると、これが甲乙つけがたい。普通に並べると幅は子羊ルーターが、高さはBEFSR41C-JPがそれぞれ小さくなっている(写真03)。ただ、子羊ルーターの足は両面テープで止めただけのものだが、BEFSR41C-JPの方は足が固定になっているので、これを考えると高さはほぼ同等と言って良いだろう。(写真04)奥行きを比較するとご覧の通り(写真05)で、奥行きは多少BEFSR41C-JPの方が短いが、幅は一回り大きいのが判る。したがって寸法だけを比べると、やはり子羊ルーターのほうが小さいが、子羊ルーターはWAN、LANともに1ポート装備に対し、BEFSR41C-JPはWANは1ポートだが、LAN側は4ポートのスイッチングハブ内蔵である。また、頑丈な鉄製ケースを採用した子羊ルーターとは重量の点では比較にならない。
さて、話をBEFSR41C-JPに戻そう。前面のLED類は豊富だ(写真06)。WAN/LANの各ポートに対してLink/Act、転送速度を示すLEDが割り当ててあり、Diagランプも含めて前面LEDだけでルータの状態を把握することができる。なお、左上部やLANの4番ポート脇に「DMZ」の文字が見えるが、これについては設定画面の紹介のところで触れることにしたい。
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写真05 BEFSR41C-JPの上面が曲線で、しっかり立たないので多少傾いた状態での比較。実際のBEFSR41C-JPの奥行はもう1mmほど低くなる |
写真06 フロント部分のLEDは豊富で、ルータの状態を把握するのには充分 |
背面はポート類が並ぶ(写真07)。ご覧のとおり、リセットスイッチやACアダプタのコネクタもあって、非常に窮屈になっている。WAN+LAN×4という構成では、小型化については本製品が物理的な限界にあるかもしれない。あとはWANポートを側面に逃がす、といった方法もあるだろうが、それだとケーブルの取り回しが美しくなくなってしまう。なお写真では見づらいが、ここの4番ポートにも「DMZ」の記述がある。
さて、付属品の類だが、インターネット接続までのチュートリアルが示された「クイックインストールガイド」とLANケーブル、ACアダプタ(写真08)とシンプルなパッケージになっている。
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写真07 少々窮屈な背面。この写真からも本製品の小ささがイメージしていただけると思う |
写真08 珍しい形状をしたACアダプタ。OAタップの形状次第では便利に使えるだろう |
■VPN関係が充実している設定画面
続いては設定画面を紹介していこう。設定はWebブラウザを使った一般的なものである(画面01)。
本製品のLAN側IPアドレスをWebブラウザで開くと(画面01)が表れるが、ここからLAN側IPやWAN側の接続設定を行うことになる。WAN側の接続設定はPPPoEや固定IP、DHCPによる取得などが選択できるほか、RAS接続(画面02)、VPNへのPPTP接続(画面03)なども設定できる。ちなみにVPNについては、トンネルを設けることもでき、その設定も細かく行えるようになっている(画面04)。
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画面01 Webブラウザによるセットアップ画面のトップ。LAN側IPアドレスやWAN側接続の設定が可能。初期IPアドレスは<192.168.1.1> |
画面02 WAN側の設定は多彩で、RAS接続も行える |
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画面03 同じくVPNへのPPTP接続にも対応する |
画面04 IPsecによるVPNのトンネルを設けることもでき、その詳細な設定も可能 |
これだけVPNについて何でもできてしまうと、セキュリティ面で心配な人もいると思うが、その点についても簡単にセキュリティを確保できるよう配慮されている。
まず「Firewall」画面では、ActiveXやJAVAなどWebブラウズに関するファイアウォールのほか、各種パススルーの有効/無効を切り替えられるようになっている(画面05)。
次いで「フィルタ」画面では、詳細なアクセス制限や、サービス名によるパケットフィルタが用意されている(画面06)。
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画面05 セキュリティ面は画面に示されたフィルタ&パススルー設定が可能。なお本製品はSPIにも対応する |
画面06 フィルタ関連ではもう一画面ある。こちらはもう少し細かいアクセス制限&フィルタリング設定が行える |
両画面に共通していえることだが、LAN側アクセスのフィルタとWAN側アクセスのフィルタが一画面に混在している点が分かりにくいが、用意されている設定項目は他メーカーの製品と比べて遜色ない。
唯一不満に思ったのは、いわゆるパケットフィルタリング機能が貧弱なことだ。本製品で柔軟なパケットフィルタリング機能が提供されているのは、(画面06)の「サービスでのブロック」部分で、ここでは"http"や"ftp"などのサービス名でフィルタするパケットを指定する。ここが四つしか用意されていない、というのが物足りなく感じる人も多いと思われる。今後の対応に期待したいところだ。
さて、引き続きほかの画面も見ていこう。LAN側IPアドレスについてはトップ画面で設定できることを前述したが、DHCP機能については別画面に用意されている(画面07)。静的なIPアドレスの割り当てが行えない以外は、とくに困ることはないであろう設定画面となっている。
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画面07 DHCP機能も当然持っており、割り当て台数やリース時間などが設定可能 |
画面08 NATに関する設定も複数に分かれており、これはごく一般的なIPマスカレードの設定 |
続いてはNATに関する設定である。本製品ではポートフォワーディングに関する設定も豊富で、三つの画面が用意されている。
まずは一般的なIPマスカレードを設定する画面である(画面08)。ここではWAN側から届いたパケットのリクエストポート番号を判別して、指定したLAN側クライアントへ送信する、といった一般的な動作を設定できる。
さらにもう一つ、「UPnP FORWARDING」という似たような画面が登録されている(画面09)。こちらにはHTTPやSMTPなど一般的な公開サービスのポート番号があらかじめ登録してあり、あとは転送先のLANクライアントを指定するだけで良い。
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画面09 公開サービスに関しては、別画面であらかじめ設定が用意されており、転送先IPアドレスを指定するだけでよい |
画面10 DMZホストは、LAN側の4番ポートに接続したPCを自動的に判断して、そのPCに転送する、といった機能を持つ |
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画面11 DDNSサービスにも対応。本製品ではDynDNS.org、TZO.comの2サービスで利用可能である |
加えて、DMZに関する設定画面も用意されている(画面10)。外観図のところで後回しにしたが、本製品のDMZポートは本来の意味でのDMZではなく、「届いたパケットをすべてDMZで指定したクライアントに転送する」という、コンシューマ向けルータでよく見られるものと同等のものである。
となると、わざわざLANポートの4番に「DMZ」と銘打たれている理由が分からない、となるのだが設定画面を見ると、その理由が見えてくる。要するに、4番ポートをDMZ用ポートとして割り当ててあり、設定画面から簡便にDMZホストを有効にできるのである。他メーカー製品ならば、DMZホストとして利用するLANクライアントのIPアドレスを調べておく必要があるが、本製品は、4番ポートに繋いで、この画面で[有効]にするだけでOKなのだ。
ちなみにポートフォワーディング設定が充実した本製品では、DDNSのIPアドレス更新機能も持っている(画面11)。しかも、Dynamic DNS Network Servicesと、Tzolkin Corporationの二つのサービスで利用可能である点は評価していいだろう。
■ARM9ベースのネットワークプロセッサを使用
それでは、内部構造の紹介へと移ろう。メインの基板は搭載されているチップ数も少なく、比較的スッキリしている(写真09)。かといって裏面にチップが配置されているわけでもなく(写真10)、チップ数を抑えた構成であることが分かる。
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写真09 小型製品らしく、チップの数が少なくスッキリした基板である |
写真10 裏面には目立ったチップは実装されていない |
メインプロセッサは米Micrel Incorporated(KENDIN Communicationsは2001年5月に同社に買収)のKS8695である(写真11)。内部構造は図1に示す通りで、ARM9ベースのARM922TにWAN/LAN2つのMACチップと5ポートの100BASE-TX/10BASE-Tスイッチを内蔵したSoCチップである。KENDINは、専ら低コストのEthernetスイッチを中心に製品ラインナップを揃えていたメーカーで、これとARM9コアを組み合わせる事で理想的なプロセッサが出来上がったという話だ。ちなみにチップ自体は他にもUARTT(シリアルポート)やPCMCIA、32bit汎用バスのインターフェイスを持っており、無線LANコントローラを接続できる。またもう1ポート、MIIインターフェースも内蔵しており、必要ならDMZポートなりセカンダリWANポートなりを搭載する事が出来る。
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写真11 KENDINのネットワークプロセッサ「KS8695」。ルータ用途を意識したネットワークプロセッサである |
図1 KS8695のDataSheetより抜粋したブロックダイヤグラム |
ちょっと面白いのは入力クロックが25MHzなことで、これは5ポートスイッチの動作速度にあわせたためだと思われる。内部バスは125MHzで動作し、CPUコア自体は最大166MHzで駆動される。
メモリとしては、WinbondのW986432DH-6が利用されている(写真12)。フラッシュメモリ(写真13)には台湾MacronixのMX29LV800TTC-90が搭載されていた。
ちなみに前製品であるBEFSR41の場合、ケースにゆとりがあったし、基板自体も大きめだったから、同じボディで無線LANカードを内蔵したWRT54Gといった派生型製品を作る事が可能だったが、BEFSR41C-JPの場合はMiniPCIカードコネクタを搭載する場所は基板表側には無いし、裏面はケースに引っかかるのでMiniPCIカードと言えど装着できそうにはない。また、ケース裏面にアンテナを取り出す場所もなさそうで、したがってアクセスポイントタイプはまたケースの形が変わるか、もしくは現在の製品を引き続き販売することになりそうだ。
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写真12 64Mbit(8MB)/166MHz駆動。ワークメモリが8MBというのは、この手の製品としては比較的多めな気がする。データ幅は32bitで、この結果32bitメモリバスなのにチップは1つで済んでいる |
写真13 8Mbit(1MB)、90nsのフラッシュ |
■公称どおり優秀なスループットを発揮!
では最後にスループットの測定を行おう。本製品は90Mbpsのスループットを公称している。内部構成を見る限りでは、かなりのパワーを発揮しそうであり、公称どおりのスループットも期待できる。さっそくテストしてみよう。測定環境は図2、表1のとおりで、過去のテストから大きな変更点はない。
表1、図2:テスト環境
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サーバー |
クライアント |
CPU |
AMD Athlon MP 1.2GHz×2 |
AMD Athlon XP 1700+ |
マザーボード |
TYAN TigerMP(AMD760) |
EPoX EP-8K3A+(Apollo KT333) |
メモリ |
Registerd DDR SDRAM 512MB(256MB×2) |
PC2700 DDR SDRAM 512MB(256MB×2) |
HDD |
Seagate Barracuda ATA IV40GB |
Seagate Barracuda ATA IV 80GB |
LANカード |
プラネックスコミュニケーションズ GN-1000TE |
Intel 21143搭載LANカード |
OS |
RedHat Linux 9(kernel 2.4.20-8smp,Apache 2.0.40-21,VSFTPD1.1.3-8) |
Windows XP Professional 日本語版+SP1(IIS 5.1) |
RAMディスク |
128MB |
128MB |
まずLAN内のテスト結果は表2の通りである。90Mbpsというカタログ値に嘘はなく、ダウンロード(サーバー→クライアント)はほぼコレに近い値を出している。アップロード(クライアント→サーバー)は60Mbps程度だが、これが問題になることはなさそうだ。
表2:計測結果(LAN) |
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プロトコル |
転送条件 |
速度(Mbps) |
直結状態 |
ftp |
サーバー → クライアント |
90.67 |
クライアント → サーバー |
83.29 |
http |
サーバー → クライアント |
95.20 |
クライアント → サーバー |
90.00 |
Linksys BEFSR41C-JP |
ftp |
サーバー → クライアント |
パケットフィルタリングなし |
89.87 |
パケットフィルタリングあり |
89.60 |
パケットフィルタリングあり+NAT |
88.00 |
クライアント → サーバー |
NATあり |
55.39 |
NAT+パケットフィルタリングあり |
56.07 |
http |
サーバー → クライアント |
パケットフィルタリングなし |
91.47 |
パケットフィルタリングあり |
89.87 |
パケットフィルタリングあり+NAT |
89.87 |
クライアント → サーバー |
NATあり |
62.07 |
NAT+パケットフィルタリングあり |
60.00 |
次いでWANでのテストだ。まずフレッツスクエアの速度測定を10回行ってみた結果はというと、平均58Mbps強、最大値で62Mbps弱という優秀な結果が出た。またspeed.RBBTodayでのテスト結果も、アップロード/ダウンロード共に極めて優秀だった。特にUploadでは、筆者がこれまで試した中で一番高速な結果であり、文句なしの結果と言える。
表3:計測結果(WAN) |
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平均値(Mbps) |
最大値(Mbps) |
フレッツスクエア |
58.13 |
61.89 |
Speed.RBBToday |
Download |
51.759 |
60.53 |
Upload |
12.907 |
14.64 |
■機能も豊富でビジネスユースでも満足できる
以上とおり、本製品を試してきたが、非常に多機能、高速なルータであると感じる。とくにVPN関連、ポートフォワーディングについての機能に優れており、ビジネスユースでも不足を感じることはないだろう。
またFTTHも問題なくこなせるスループットの高さも特筆できるし、「小型」という個人において重視されるポイントもしっかり抑えている。
前モデルは長く販売されその間にファームウェアによる機能強化が図れてきたが、本製品も長期間に渡って販売されるという。過去の実績から見て、同じようにファームウェアのアップも行われると想像できる。個人、ビジネス問わず、長く愛用できるルータになるだろう。
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□リンクシス・ジャパン BEFSR41C-JP 製品情報
http://www.linksys.co.jp/product/router/befsr41c/befsr41c.html
(2003/07/16)
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