ソフトバンクは10日、2006年3月期の決算説明会を開催した。説明会ではソフトバンク代表取締役社長の孫正義氏が登壇、4月に買収を完了したボーダフォンを中心に決算の概要や今後の事業展開を説明した。
■ 創業来最大の利益を達成。ブロードバンド事業も損益分岐点を突破
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ソフトバンクの孫正義代表取締役社長
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2006年3月期の連結業績は、売上高が前年同期比2,716億円増の1兆1,086億円、営業利益が876億円増の622億円、経常利益が727億円増の274億円で、当期純利益は1,174億円増の575億円。EBITDAは1,058億円増の1,499億円となった。営業利益、経常利益、EBITDAは創業来最大の数値で、当期純利益は創業来最大かつ年度ベースでの黒字を達成した。なお、営業利益にはモデムレンタル事業売却による146億円が含まれているため、「実力はモデムレンタルを差し引いた400億円程度と見て欲しい(孫社長)」。
2006年3月期第4四半期では、売上高が前年同期比231億円増の2,984億円、営業利益が454億円増の343億円、経常利益が410億円増の297億円、EBITDAが387億円増の549億円で、当期純利益は669億円増の397億円。こちらも通期同様大きな伸びを示しており、ヤフーのインターネット・カルチャー事業、ブロードバンド事業、日本テレコムの固定通信事業という主要事業で四半期黒字を達成したとしている。
ブロードバンド事業の加入者数は、ADSLが2006年3月末で504.9万回線、おとくラインが84.8万回線。今後の具体的な加入者目標値について孫社長は明言を避けたが「少なくとも損益分岐点のボリュームは突破しており、急激に心配するような事態にはならない」と説明。また、FTTH事業に関しては「新規ユーザー獲得や長期的な視点では重要だが」と前置いた上で、「現状のコンテンツ利用であればADSLで十分」との見解を披露。「今後の取り組みとして光は重要だと考えており、我々なりの新しいFTTH技術も準備している」としたものの、具体的な内容は明かされなかった。
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2006年3月期の連結業績
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2006年3月期第4四半期の業績
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創業来最大の売上高を達成
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ブロードバンド事業に加えおとくライン事業も黒字化
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■ ボーダフォンの3G網は積極的に増強。端末も充実を図る
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ボーダフォン買収で売上高は2.5兆円規模に、回線数は2,600万回線規模に
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ボーダフォンの買収は発行済株式数の99.54%を取得し、4月27日に買収を完了。ソフトバンクの2006年3月期決算数値にボーダフォンの2006年3月期中間決算数値を年換算して加えることで、ソフトバンクは売上高で2.5兆円規模、回線数で2,600万回線規模の事業となった。
ボーダフォンは、買収を完了した4月27日から2営業日でオフィスを汐留のソフトバンク本社内へ移転。孫社長は「ある程度の大きな企業を買収した中でこの早さはギネスものではないか」とした上で、「毎日社員とさまざまな打ち合わせをしていく中で、買収してよかったとの手ごたえを感じている」とコメント。今後の事業展開をボーダフォンを主軸として説明を進めていった。
孫社長は携帯電話市場について、「ボーダフォンのシェアは低いが、売上高は3社で8.7兆円、営業利益も3社で1.3兆円と、マーケット規模としては非常に取り組みがいがある」と指摘。「幹部の中で半分冗談として話した極端な例」と断った上で、「蕎麦屋と携帯電話事業の経営を比べれば、全国で何万軒もある蕎麦屋でNo.1を取るのと、3社しか存在しない市場でNo.1を取るのはどちらが楽か。そう考えれば携帯電話事業も案外単純なビジネスモデルではないか」と発言し、「1年2年で改善できるほど簡単ではないと思うが、10年経ってやれないような難しいテーマもないだろう」と強気な姿勢を示した。
ボーダフォンの改善点として孫社長は「3Gネットワークの増強」「3G端末の充実」「コンテンツ強化」「営業体制/ブランディング強化」の4点を指摘。3Gネットワークは2006年度内に4万6,000基地局を新たに設置し、「つながらないところはないというまで改善する」。また、端末もシャープが「AQUOSケータイ」ブランドで投入するワンセグ対応端末「905SH」をはじめ、東芝やNEC、松下電器産業などの国内メーカーやサムスン電子、ノキアなど海外メーカーの端末も順次投入していくとした。
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3社で8.7兆円という市場規模は「シェアが低いながらも取り組みがいのある市場」
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「時間を買う」買収のメリット
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3Gネットワーク強化で不感エリアを解消
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シャープの「AQUOSケータイ」など新機種を投入
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■ PCと携帯電話のコンテンツ強化に注力
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4,200万人以上がPCと携帯電話を併用
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ボーダフォンを含むソフトバンクグループのもっとも大きなポイントとして、孫社長が時間を大きく割いて説明したのがコンテンツの強化。孫社長は「2001年ではPCと携帯電話を併用するユーザーが1,676万人だったが、2004年には4,200万人が併用している」との情報を示し、「携帯電話やPCをそれぞれで終わらすのではなく、固定とモバイルをシームレスかつ簡単にアクセスできるように」との目標を示した。
また、iモードやEZwebといった携帯電話向けインターネット接続サービスについては「10年前のパソコン通信のように囲われたコンテンツで本質的なコンテンツではない」と批判。「これからは携帯電話もフルブラウザを搭載し、HSDPAなどハイスピード化していく時代」とし、「囲われた世界から開かれたオープンな世界へアクセスできるように進化すべき」との考えを示した。
具体的にはPC向けのYahoo! JAPANと携帯電話向けのYahoo!モバイルのコンテンツを連携、PCと携帯電話でシームレスにYahoo!コンテンツを利用できるようにする。「ユーザーもiモードやEZwebを使いたいというよりも、シンプルにYahoo!のコンテンツが使えればいいのではないか」。
また、PC向けのコンテンツも大幅に拡充。5月1日には動画コンテンツ「Yahoo!動画」にTV Bankを統合してリニューアルを実施、合わせて動画広告の有料化を開始した。動画広告は数日で全枠が完売するほど好調で、「現場の反応もよく、十分採算に乗せられる」。また、Yahoo!動画の検索機能も強化、Wikipediaやブログ検索「kizasi」との連携を図っているほか、ユーザーによる動画投稿のシステムも開始した。
ハリウッド映画を月額997円で配信する「Yahoo!ムービー オンラインシアター」も4月25日にスタート。さらに年内に正式サービスを予定するYahoo! BBユーザー向けのオンラインゲーム「真・三国無双BB」、オンラインゲームポータル「ガンホーゲームズ」など、オンラインゲーム事業も注力していく。
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通信キャリアのコンテンツから広くオープンなコンテンツへ
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Yahoo! JAPANとYahoo!モバイルを連携
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動画広告ビジネスも開始したばかりながら順調という
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「真・三国無双BB」などオンラインゲームにも注力
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■ 法人向け営業も強化。ボーダフォン買収によるシナジー効果を狙う
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ボーダフォン買収で営業体制も強化
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法人向けには、飲食店のテーブルから注文できる端末「サプリバ」が好調で、すでに3,400台を設置、19,000台が契約済み。「1店舗で導入すると売上が110~120%伸び、他の店舗も続々導入するという展開が続いている」。また、JR東日本の京浜東北線で実証実験中のブロードバンドを利用した動画広告「WVIT」も、私鉄2社が導入を検討しており、アンケート調査でも88.7%のユーザーが「良い」と回答しているという。
ボーダフォン買収により営業体制とブランディングも強化。ボーダフォンショップでYahoo! BBやおとくラインなどグループのサービスも取り扱うほか、Yahoo!オークションの商品受け渡しの場所としても活用する。法人営業もボーダフォンの100人に対して1,000人を超える日本テレコムの営業人員を活用、法人顧客層を開拓していく。
これら4つの改善によりコスト削減効果を実現すると共に、営業チャネルの相互利用によるシナジー、グループ連携によるコンテンツ力強化やデータARPU向上によるサービス面でのシナジーを狙う。孫社長はこうしたシナジー効果の一例として冒頭に発表したボーダフォンの汐留本社移転を挙げ、「こうした迅速な取り組みができるのも、ボーダフォン英国本社との良好な関係があればこそ」とした。
これまでインフラ収益が大部分を占めていたボーダフォンの収益構造も、「インフラは存在かつ繋がって当たり前」との観点から、付加価値となるコンテンツに注力。グループが持つコンテンツ事業を結集することでコンテンツの収益拡大を図る。孫社長は「日本で優れたコンテンツをたくさん持っているグループの力を結集することで、総合デジタル情報サービスカンパニーのエコシステムを構築」との目標を示し、「21世紀のライフスタイルを提供するカンパニーとして活躍したい」との意欲を示した。
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飲食店向けの端末「サプリバ」
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京浜東北線で展開中のブロードバンド広告配信実験
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■ 「社内調査ではYahoo!動画がGyaOを抜き去った」と孫社長
質疑応答では、電通など広告代理店と民放5社が協同で設立したブロードバンドコンテンツ配信会社「プレゼントキャスト」に関する質問も聞かれた。孫社長はYahoo! JAPAN設立時を振り返り、「Yahoo! JAPAN開始時にも、既存の新聞や出版がインターネットに参入すればトラフィックが流れるのでは、という質問があった」とコメント。「現状では必ずしも新聞や出版のサイトにトラフィックが流れているわけではない。動画も同じことで、単に動画を流せばいいのではなく、インターネットとうまく融合し、より先進的なビジネスを作り出したものがユーザーに利用されるだろう」との見解を示した。
動画配信サービスで注目を集めるGyaOに関しては「GyaOがすべての情報を公開している訳ではなく、広告営業のために一部公開しているデータと社内データを比較したもの」と断った上で、「PVなどに関してはYahoo!動画がGyaOを一瞬で抜き去った」とコメント。ただし、詳細なデータに関しては「お互いの公開情報で比較している訳ではない」として明らかにされなかった。
竹中平蔵総務大臣の下に開催されている「通信・放送の在り方に関する懇談会」で、NTTのアクセス部門分離が最低限必要とされた件に関しては「すでに懇談会の正式コメントとして発表されており、私が知っているのも同じレベル」と前置いた上で、「NTTのネットワークとその上の事業サービスが入り組んでいて分離されておらず、フェアな競争状態になっていないことはコンセンサスとしてできつつある」と指摘。持論である「月額690円が光ファイバの維持コスト」との考えを改めて示し、「どこまで通じるかはわからないが、日本のインフラのためにもこのことは言い続けていく」という強い姿勢を示した。
ボーダフォンの新ブランドに関しては「本日の取締役で結論を出しており、近いうちにブランドの発表をする」と説明、現時点では詳細は明らかにされなかった。一方、ボーダフォンのメールアドレスは「向こう30年間継続して利用できる権利を得ている」としたほか、Yahoo!メールなどPC用のメールアカウントと連動するサービスなども積極的に取り組んでいくとした。
■ URL
2006年3月期決算短信(PDF)
http://www.softbank.co.jp/irlibrary/results/pdf/softbank_results_2006q4_001.pdf
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(甲斐祐樹)
2006/05/10 20:28
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