イー・アクセスは12日、2004年度の決算説明会を開催した。2004年度は増収増益となったものの、2005年度はモバイル事業への注力により減収を見込む。また、1.7GHz帯を利用したW-CDMAのモバイル実証実験についても詳細が語られた。
■ ADSLの会員増加数は減少傾向だが「2005年度はまた伸びる」
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左から代表取締役会長兼CEOの千本倖生氏、代表取締役社長兼COOの種野晴夫氏、代表取締役副社長兼CFOのエリック・ガン氏
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2005年度の売上高は、前年同期比で52%増の579.1億円で、営業利益は125%増の93.1億円。また、設備投資額は前年同期比7%増の97.8億円となったが、2月10日に発表した業績予想の125億円と比較して22%の抑制を実現。EBITDA(減価償却前営業利益)は209.3億円、EBITDAから設備投資額を引いた営業フリー・キャッシュ・フローは111.5億円と、こちらも業績予想を上回っており、イー・アクセス代表取締役会長兼CEOは「予想以上の増収増益」と評価した。
2005年3月末のADSL加入者数は185万件。前年同期比からは35.4万件の増加となったが、2004年度第4四半期の加入者数は3カ月で2.2万件の増加に留まり、第1四半期の16.9万件増と比較して伸びが鈍っている。これに対して種野代表取締役社長兼COOは「KDDIを中心としたADSLの提携パートナーが2004年秋ぐらいから固定電話事業へ移りつつあり、ADSLの販売促進が全体として落ちてきたのは事実。ADSLの解約率も年平均では1.6%だが、四半期では上がっている」とコメント。一方でKDDIが4月に行なった決算発表の場で「今後はメタルプラスに注力する」との言葉を引用し、「メタルプラスとのセット販売という点で今後はまた伸びていくのでは」との見通しを示した。
千本氏はさらに「KDDIも日本テレコムも、光ファイバをやってきたけれど、実績が出ずにメタル電話へ戻ってきている。採算度外視の光ファイバは、かっこいいかもしれないが現実レベルではない」と指摘。「ブロードバンドのADSL市場はまだ半分程度しか獲得できていないだろう。KDDIがメタルプラスに注力することでADSLのユーザーはまた増加する」とした。
事業譲渡を受けて2004年7月より開始したAOL事業は、買収以降では8カ月ぶりに、AOLとしては3年ぶりに加入者数が純増に転じたという。イー・アクセスのADSL加入者を除くAOL会員数は、2005年3月末で31.4万件で、ADSLとの合計会員数は216.4万件。今後はAOL会員のブロードバンド化を促進すると同時にコンテンツの強化も図り、今後予定するモバイル事業と連動したアプリケーションの充実も進めていくとした。
2005年度は、秋頃の参入を目標としたモバイル事業の初期投資として25億円を投じ、連結ベースでは減益となる見込み。ただし、「ADSLやISPビジネスは伸びているために増収増益が続く(千本氏)」ため、ADSLとISP事業の営業キャッシュ・フローは12%の増加を見込んでいるという。モバイル事業には全力で取り組むほか、ADSLもメタル電話とのセット販売で加入者増を見込むとした。
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2004年度の実績
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2005年度はモバイル事業に注力
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イー・アクセスの加入者数推移
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イー・アクセスの考える事業展開
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■ 「日本でもっとも完成されている」と評価する企業買収対策を導入
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eAccess Rights Planの導入目的
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今回の決算で大きなポイントとして発表されたのが、企業価値向上新株予約券「eAccess Rights Plan」の導入だ。千本氏はこの「ライブドアで話題になったポイズンピル」と説明、「企業価値および株主の保護」「交渉力の向上」「サービスの安定的供給」を目的として導入するとした。
具体的には、イー・アクセスに対する買収などの提案があった場合、社外取締役のみで構成される企業価値向上検討委員会を設置して提案の内容を検討し、企業価値を下げる可能性が高いと判断した場合には、新株予約券を特定株式保有者以外の全株主へ発行することが可能になる。これにより買収提案の内容を検討する情報と時間を確保すると同時に持株比率の希薄化を防ぎ、株主の権利を保護できるという。
千本氏は本プランについて「東京証券取引所の了解をもらっている、日本でもっとも完成された企業防止策」とコメント。「日本でポイズンピルが有効に働かないのは、企業ではなく経営陣を守ろうとしているから。大事なことは会社の企業価値と株主の保護である」と強調したのち、「イー・アクセスがこのプランを先駆けて実行できるのは、10人の取締役のうち7人が社外取締役というグローバルスタンダードな体制だから。社内取締役ばかりでのポイズンピルは、結局経営陣を守るだけになってしまう」と指摘。「検討委員会には社内の人材は一切入れず、中立に企業価値を判断してもらう」とした。
千本氏によれば、本プランの導入は数年前から検討を進めていたという。「ライブドアの一件で導入したわけでは決してない」とした上で、「企業価値が高まるのであれば買収も受け入れる。ホリエモンが通信事業をやれる能力が本当にあって会社の価値が上げられるなら、私はいつクビになってもいい。株主のことを考えれば、(経営陣が)居座るためのポイズンピルは自己矛盾」とした。
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eAccess Rights Planの概要
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Rights Planの米国導入実績と日米間の社外取締役の格差
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イー・アクセスは10人の取締役のうち7人が社外
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eAccess Rights Planのプロセス
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■ 「国内初の1.7GHz帯におけるW-CDMA実証実験」を5月に開始
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モバイル事業の想定スケジュール
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今後注力するというモバイル事業に関しては、5月より1.7GHz帯でW-CDMAの実証実験を開始する予定。6月と想定している総務省の免許方針案とそれに伴うパブリックコメント、7月想定の免許方針決定を踏まえて、8月から9月の免許取得を予定しているという。
4月22日にはすでに1.7GHz帯の実験局予備免許を取得しており、5月下旬には1.7GHzのW-CDMA実験を東京新宿区の四谷エリア、市谷台エリア、大京町エリア、世田谷区の大蔵エリアの合計4局で開始する予定。また、固定とモバイルの融合である「FMC(Fixed Mobile Convergence)」を検討するため、無線LANとW-CDMAの接続実験も予定されている。
商用化の詳細は未定だが、料金体系はシンプルなものを目指すという。一方で料金の安さだけではなく、「イー・アクセス独自の端末などの付加価値も重要(種野氏)」。千本氏は続けて「料金は1つの大きなファクターだが、それがマーケットを小さくしては意味がない。8兆円規模の市場を10数兆円にまで高めていかなければ」との目標を示した。また、ウィルコムが5月1日から開始した音声通話の定額プランに関しては「大きな反響があると聞いている。新しい知恵を出せば反響が得られるという点で勇気づけられた」と評価した。
1.7GHz帯への参入前に実証実験を行なっていたTDD方式のTD-SCDMA(MC)に関しては、「技術としては非常に面白い(種野氏)」ものの、この方式をバックアップする国内メーカーが現れなかったため、「端末などを考えると現実的には難しい」とし、FDD方式のみに注力する姿勢を示した。
なお、イー・アクセスと同様に1.7GHz帯の割当を希望しているソフトバンクは、子会社のBBモバイルを通じて1.7GHz帯の実験局本免許を取得、さいたま新都心で実証実験を行なうと発表しているが、千本氏は「ソフトバンクの取得した帯域は5MHz以下の無変調波で、W-CDMAでも何でもない」と指摘。「1.7GHz帯でW-CDMAの実証実験を行なうのは我々が国内で初めて」とした。また、実証実験のエリアについても種野氏は「商用の条件に近い東京エリアで実験を行なうのは我々だけ」との自信を示した。
【UPDATE】
ソフトバンクでは本件に関し、実験局免許を取得した1.7GHzは、W-CDMAの準備をするための帯域であり、この帯域でW-CDMA技術の実証実験を行なわないという意味ではイー・アクセスの言う通りだという。ソフトバンクでは今回取得した帯域で準備を進め、今後実施する予定の1.7GHz帯におけるW-CDMA技術の実証実験へつなげていくとした。
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1.7GHz帯におけるW-CDMA実証実験の概要
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実証実験エリアは東京
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W-CDMAと無線LANと接続実験も予定
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モバイルサービスのコンセプト
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■ URL
平成17年3月期 決算短信(PDF)
http://www.eaccess.net/press_img/2704_pdf.pdf
企業価値向上新株予約権(eAccess Rights Plan)の導入について(PDF)
http://www.eaccess.net/press_img/2705_pdf.pdf
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(甲斐祐樹)
2005/05/12 17:31
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