総務省は14日、「電気通信事業分野の競争評価についてのカンファレンス」を開催した。カンファレンスでは、NTTドコモなどの携帯電話事業者や、新規参入を望むイー・アクセス、ソフトバンクBBなどが出席、電気通信事業の競争状況に関して議論を繰り広げた。
■ パブリックコメントに寄せられた意見に総務省が回答
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カンファレンスの模様
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カンファレンスの冒頭では、総務省 総合通信基盤局 事業政策課市場評価企画官の大橋秀行氏が、6月7日付で公開した「平成16年度電気通信事業分野における競争状況の評価(案)」の意見募集結果に対する総務省の考え方を公開。「これはあくまで原案で、今回のカンファレンスを通じて修正なども行なっていく」とした上で、寄せられた意見に対する総務省の方針を説明した。
IP電話に関しては、「ロケーションフリーの特長が活かされていない」「番号を付与すべき」という意見が寄せられているが、大橋氏は「今回はIP電話とブロードバンドの関係をいかに捉えるかがテーマであって、IP電話そのものの分析やその是非の意識はしていなかった」とコメント。その上で「050番号だけでなく0AB~J番号のIP電話も普及しており、固定電話との関係がユニバーサルサービスの観点も含めて議論されている。今年度はあくまでブロードバンド分析のファクターだが、今後はIP電話を正面から受け止めて議論していくこともあるだろう」とした。
市場支配力に関しては「説明が不十分であったため、指摘を踏まえながら修正したい」との意向を示した上で、「市場支配力が存在しやすい市場であるか、または蓋然性があるのかということがテーマで、市場支配力が存在することが違法というわけではないし、逆に支配力が働いていないからといって競争的な行為が行なわれないというわけでもない。あくまで競争構造の蓋然性の評価が我々のスタンス」と解説した。
ブロードバンド、特にFTTH市場に関しては、「設備開放は投資インセンティブが損なわれる」というNTT東日本の意見に対して、「投資インセンティブは、供給側にとって価格が高ければそれだけたくさん供給しようとするのは大前提で、価格が下がれば供給意欲が失われるのは事実だろう」とコメント。ただし、「我々が失われていないという投資インセンティブは、個々の企業ではなく、社会的に期待される投資インセンティブ」であり、「現状の投資水準をインセンティブでさらに加速することが良いのか、その是非を議論すべきだろう」とした。
FTTH市場のうち、集合住宅の競争状況に関しては「競争的な市場という結論に大きな反論はなかったように見られる」とした上で、「戸建て住宅に関しては、集合住宅と同様競争状況にあるとの意見に反対意見が見られた」とコメント。「市場支配力の定義が足りない部分があった」との考えを示したのち、「NTT東西と電力系が独占している市場で、3社目、4社目がなければ競争が進展していない、というのはそうではなく、NTT東西と電力系がお互いに競争者たり得ている現状では、市場支配の蓋然性はさして大きくないだろう」との考えを示した。
移動体通信のMVNOに関しては、「規制に関して必要ない、もしくは不適当だという意見が聞かれるが、結果的にいい形が作れるのであれば、副作用がある規制は望んでいるわけではない(大橋氏)」。ただし、「MVNOという構造が生まれないことが自明であるならば、なぜそうなのかという問題提起は必要だろう」との考えを示した。
■ 寡占市場であることと市場支配力は別の問題
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コーディネーターを務めた佐藤治正教授(中央)と、意見募集結果に対する総務省の見解を示した総務省の大橋秀行氏
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コンファレンスの中盤からは、携帯電話事業者や新規参入を希望する事業者などで構成されたパネルディスカッションが開催され、甲南大学経済学部の佐藤治正教授がコーディネーターを務めた。
NTTドコモは、「携帯電話市場が寡占であるのは確かだが、寡占だからと言って協調的な支配力というのは乱暴ではないか。文言の整理をお願いしたい」と発言。大橋氏は「概念整理は不十分だった」と認めた上で、「寡占市場だからということで短絡的に協調市場という考えはないが、電波の希少性などから携帯電話市場の参入障壁は高く、他の寡占市場と同じに考えてはいない。障壁があるゆえに市場として協調性が起こりやすいのかという、市場の蓋然性を前提とした制度設計は否定されるものではないだろう」との意見を示した。
イー・アクセスは携帯電話市場に対して、市場に参入していない外のプレーヤーとしての観点からコメント。「8兆円市場に3社しか存在しないのは冗長的。同じ価値観の人間しかいなければ同じような構造と同じような利益しか生まれないだろう」と指摘した上で、「携帯電話事業者もいろいろなところで競争しているというが、根本的なところは崩したがらない。そこには協調的な市場支配が存在するのではないか」との考えを示した。
MVNOに関してイー・アクセスは、「携帯電話に参入したいがそんな資本もなく、MVNOがあれば是非やりたいという声をいただいている」と説明。「アンバンドルな形でサービスを展開していきたい」とMVNOに積極的な姿勢を見せると、佐藤教授は航空会社を例に取り、「JALやANAが旅行のパッケージを作るのもいいが、JTBが作るのもいいということではないか」と補足した。
■ MVNOは「擬似的な新規参入として有効」との意見が
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NTTドコモやボーダフォンなど既存事業者とイー・アクセス、ソフトバンクBBなど新規参入を希望する事業者が同席
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モバイル・コンテンツ・フォーラム(MCF)は、「ネットワークだけでなく、認証やメールといった部分もMVNOで提供した方が効率的ではないか。インフラごとにシステム開発が必要であれば、資本力がなければ対応できない」と発言すると、イー・アクセスは「具体的なところは、意見を聞いている段階なので宣言はできない」とした上で、「端末のデザインを変えるだけでいいなど、できるだけパッケージ化もしていきたい。我々のMVNOは単に安いだけでなく、他の強みを持った事業者と組み合わせることで新しいサービスを作り出したい」との考えを示した。
アイピーモバイルは、「我々はオープン戦略の方向で新規参入を目指しているが、垂直統合型の既存事業者もオープン戦略の方向に向かい始めているのかなとは感じている」とコメント。「寡占状態そのものは問題ではなく、望むと望まざるに関わらず新規参入が難しい状態にあることが課題。基準は必要だろうが、周波数に余裕があれば一定のルールで開放するMVNOも、新規参入を擬似的に認める効果としてこれからのビジネスモデルに有効なのではないか」との考えを示した。
KDDIは垂直統合モデルに関して、「NTTが圧倒的な設備を持っていた固定電話と違い、移動体は大なり小なり割り当てられた周波数で設備投資を行なってきた経緯があるため、垂直統合になったのだろう」とコメント。「今後はMVNOなどオープンな戦略は新しい方法としてあると思うが、だからといってすぐに規制すべきという話ではなく、いまはいろいろ試してみる段階なのではないか」との姿勢を示した。
ソフトバンクBBは、「基本的には垂直統合も水平分離も何でもありだと考えている」とコメント。ただし、1.7GHz帯に関しては「当初は他力本願でなく自分たちで販売を行なっていく方針。割り当てられている帯域的にも、他社に帯域を貸し出すほどの余裕はない」とした上で、「オープン化は否定するところではなく、そういう方向には向かっていくだろう」との考えを示した。
NTTドコモはこれらのビジネスモデルに関する意見に対して、「あまり触れられていない部分」と前置いた上で、設備投資の重要性について言及。「携帯電話はつながらなければどんなにいいサービスでも意味がない。当社も収入の20%を設備投資に充てており、リスクはあるが競争のためにやっている。設備投資のリスクなしにサービスの局面だけを考えるのは議論として全体感を見失うのでは」と指摘した。
ボーダフォンは「NTTドコモの意見に賛成」という立場を示した上で、「設備競争と一言で言うが、実際には非常に深い競争要素。そういった努力の上で、MVNOにフリーライドされるのでは困る。革新の果実は自分たちのところに入ってこなければ」とコメント。この意見についてはイー・アクセスが「新規参入の事業者は既存と同じインフラをすぐには構築できないし、立ち上げを共同で行なっていくための施策は必要。MVNOで使う方もタダではなく料金を支払うのであって、インフラのリスクを取ったから新規参入させないというのは違うのではないか」と反論した。
ソフトバンクBBは、「そもそも新規参入を協議しているのは、寡占市場のいい刺激にならないかということが目的のはずだ。また、新規参入が立ち上がっても既存事業者とのインフラ競争にはすぐにはなりえないし、そのハンディキャップの埋め方は議論してもいいのではないか」との考えを披露。一方で「既存事業者にMVNOで我慢しろといわれては、新規参入のインセンティブがない。ここは我々もリスクを取り、イーブンな立場で勝負したい」と述べた。
■ 課金・認証のオープン化は悪意を持って使われる危険性も
MCFは、「現在は携帯電話自体がコンテンツの課金を行なっているが、将来的に放送と融合して広告モデルが現われたとき、有料課金モデルが広告課金モデルに食われてしまう可能性がある」と指摘、認証や課金のオープン化も重要ではないかと語った。これに対してKDDIは「我々はオープン化も進めているし、現時点では回収代行ビジネスが成立しているのでうまくやれていると思っている」とした上で、「中継電話のようなビジネスはユーザーとの関係性が薄いが、移動体は関係が強い。希望的観測を含んでいるが、課金や認証はネットワーク側が頑張りたい部分だ」との考えを示した。
NTTドコモは「オープン化の中で料金回収のオープン化も重要だが、悪意を持ってネットワークで不適切なものを提供、もしくは料金を回収しようとする人もいて、それをいかに合理的に排除できるかも重要」とコメント。「オープン化がすべて善ではなく、調和の取れたオープン化である必要があるだろう」とした。
ソフトバンクBBは、「我々がどうして携帯電話事業に執着しているかというと、描いている理想像までに携帯電話がオープン化しているとは思っていないから。だったら自分たちで作ろうと考えた」とコメント。「これからオープン化していくと、インターネット同様アプリケーションでの課金も行なわれ、1つの端末でいろいろな課金を行なうようになる。ドコモが言うように端末の認証だけでしかなく、悪意を持ったらいろいろできてしまう。それがインターネットとイコールだと思えばそれまでだが、今はオープン化に関してケーススタディを重ねる段階だろう」との考えを示した。
携帯電話端末とサービスのバンドル化に関しては、イー・アクセスが「好ましいとは思っていないがそれが現状」とコメント。ソフトバンクBBは「バンドルされていないサービスもやりたいが、日本人の習性として新しいものには触れたがらないので、バンドル型のサービスも両方やりたい」との意見を示した。これに対してNTTドコモは「家電製品と違い、携帯電話やIP電話はさまざまなサービスとの接続性をどこまで標準化できるかが重要。かといって標準化を考えすぎるとサービスが止まってしまう。バンドルサービスはサービスの革新性とも関連して考えなければいけない」と語った。
■ URL
「電気通信事業分野の競争評価についてのカンファレンス」の開催(総務省 報道発表資料)
http://www.soumu.go.jp/s-news/2005/050526_2.html
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(甲斐祐樹)
2005/06/14 20:00
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