電源コンセントだけでつながるなら、無線LANよりPLCの方が便利かも? PLCの登場で、そんな声も聞こえるようになってきました。最終回となる今回は、実際に購入する際の選択肢として、無線LANとその他の技術を比較します。
■ 最近お店で見かける「PLC」ってなに?
「コンセントにつなぐだけ」。そんなキャッチフレーズのネットワーク機器「PLC」が店頭で注目を集めています。
PLCとは「Power Line Communications」の頭文字を取ったもので、家の中に配線されている電力線を使ったネットワーク技術です。有線LANのLANケーブルの代わりにコンセントを使って電力線でデータを送る、と考えるとわかりやすいでしょう。
|
コンセントを使って通信するPLC
|
有線LANの場合、部屋をまたがったケーブルの配線が困難ですが、PLCの場合、家の各部屋にコンセントがあることからもわかるように、電力線はすでに各部屋へ配線されています。これを利用すれば、有線LANとは違って配線の手間無くネットワークを構築できるというわけです。
|
LANケーブルの代わりに家庭内の電力線を使って通信
|
技術的には大きな違いがありますが、配線の手間が必要なく、家中のどの部屋からでも手軽にインターネットが楽しめるという点では、まさに無線LANと競合する選択肢と言えるでしょう。
■ 無線LANとPLC、どっちが便利?
では、具体的に無線LANとPLCを比較すると、それぞれにどのような特徴があるのでしょうか? 以下の表を見ると、配線の自由度が高いという点では無線LANとPLCは同じですが、速度や費用などに違いがあることがわかります。
|
無線LAN |
PLC |
有線LAN |
伝送媒体 |
電波 |
電力線 |
LANケーブル |
配線の自由度 |
高い |
比較的高い(コンセントの場所による) |
低い |
最大速度 |
54Mbps(IEEE 802.11a/g)
300Mbps(IEEE 802.11n) |
200Mbps |
1Gbps |
実効速度 |
20Mbps~90Mbps |
30Mbps前後 |
600Mbps前後 |
通信の妨げとなるもの |
距離、障害物、同一周波数帯の電波 |
距離、異相コンセント、家電製品のノイズ |
特になし |
必要な機器 |
アクセスポイント、無線LANアダプタ |
PLCアダプタ(2台1セット) |
LANケーブル、ハブ |
構築にかかる費用 |
1~3万円前後 |
1,8000円前後 |
5000円前後 |
たとえば、無線LANは電波を使いますから、間に壁などの障害物があるか? 壁の材質はなにか? など、電波が届きやすいかどうかが利用時のポイントとなります。電波を通しにくい鉄筋コンクリートのマンションで端と端の部屋をつなぎたいなどという場合は、間にいくつもの壁を越えなければなりませんので速度が低下する可能性が高いと言えます。
一方、PLCは電力線が配線されていれば、基本的に建物の構造は問いません。このため、無線LANが苦手な環境でも利用できます。たとえば、地下室などとの通信の場合、無線LANは電波が届かない場合がありますが、PLCであれば電力線がつながっていれば通信できます。
続いて価格について見てみましょう。導入時にかかる費用は無線LANの方が割安です。製品によっては高い無線LAN製品もありますが、IEEE 802.11gのセットモデルであれば1万円以下でも購入できます。パソコンに無線LANが内蔵されている場合で、しかもアクセスポイントがプロバイダーなどからレンタルできる場合であれば、初期費用はほとんどかからない場合もあります。
これに対して、PLCは最低でも2台のアダプタが必要になります。初期費用はセットモデルで18,000円前後程度と無線LANのセットモデルより若干高い程度ですが、追加投資が高くなる可能性があります。無線LANならパソコンに内蔵されていることが多くなりましたが、PLCでパソコンやネットワーク家電をさらに追加したいとなると、アダプタをどんどん追加していかなければなりません。アダプタの価格は12,000円前後ですから、機器が多い場合はコストが高くなりがちです。
■ コンセントの影響を受けやすいPLC
このように、それぞれ一長一短がありますが、PLCの場合、まだ登場したばかりということもあり、実際の環境で利用する際は不確定な要素が多くあることを考慮する必要もあります。
PLCは電力線を利用しますので、コンセントにつながっている他の家電製品の影響も大きく受けます。たとえば、洗濯機やエアコンなどの家電製品が動いているときと動いていないときで速度が大きく変わることなどがあります。
このため、どれくらいの速度で通信できるかは、実際に使ってみないとはっきりとはわかりません。状況の良い場合であれば30~40Mbpsでの速度も実現可能ですが、他の家電製品の影響を受けると数Mbps程度に、場合によってはつながらないこともあります。
また、PLCには現在3種類の規格がありますが、それぞれの規格の互換性がないことも問題となっています。自宅で使うなら、同じ規格の製品を選ぶことで対処できますが、問題は集合住宅などで他の住戸が別の規格のPLCを利用している場合です。この場合、お互いの規格がノイズとなって干渉が発生することがあります。このような場合、速度が極端に低下したり、つながらないなどのトラブルが発生する可能性があります。
■ 関連記事
・ 第247回:UPA同士の互換性をチェック UPA規格に準拠したネットギアの高速PLCアダプタ「HDX101」
こうした点を踏まえると、あくまで現時点ではPLCは戸建て住宅向けの技術と考え、集合住宅での利用は慎重に検討する必要があるでしょう。
これに対して、無線LANは登場からかなりの期間が経過しているため、どのような環境で速度が低下するかといったノウハウが多く蓄積されています。このため、極端に長い距離の通信や地下などの極端な環境でなければ、実用上の問題が発生することはあまりありません。他のアクセスポイントとの干渉も以前に紹介したチャネルの設定によって回避できます。安定度という点では、現状は無線LANの方が一歩リードしていると言えるでしょう。
■ 配線が気にならなければパフォーマンスの高い有線LAN
なお、配線が大変かつ煩雑になる有線LANですが、そうした点を気にしないのであれば有線LANは非常に良い家庭内ネットワークの構築方法です。ほとんどのパソコンやネットワーク機器にはLANポートがついていますし、LANケーブルも無線LAN機器やPLCに比べれば非常に安価です。
速度の面でも標準的なLANポートでは最大100Mbps、最近普及が進んでいるギガビットイーサネットでは最大1Gbpsもの速度(ともに理論値)ですので、理論値で最大300Mbpsの無線LAN、最大200MbpsのPLCと比べても明らかに高速ですし、ケーブルでつながっているので通信も安定しています。
セキュリティの面でも有線LANは有効です。無線LANは暗号化されているとはいえ、電波自体は制限なく飛んでしまいます。これに対して有線LANであれば、ケーブルに機器を接続できる環境になければネットワークには入れません。無線LANは電波が強ければ家の外からでもアクセスできる可能性がありますが、有線LANであれば自宅に入らない限りその心配はないでしょう。
とはいえ、有線LANであれば端末を増やすたびにケーブルも必要になりますし、スイッチングハブのポート数もそれに合わせて必要になりますから、ハブを追加購入する場合もあります。何よりLANケーブルを直接つながなければならないことが不便に感じる環境も多いでしょう。有線LANのメリットを意識しつつ、無線LANやPLCも導入する環境に応じて選択することをお勧めします。
■ 無線LAN機器の選び方
最後に、これから無線LAN製品を購入する場合のポイントを紹介しておきます。
無線LAN機器は、IEEE 802.11nの規格がほぼ定まってきただけでなく、デュアルチャネルやW56への対応といった大きな変更も行なわれ、対応製品が市場に出てきています。これから大きな変更があるとすれば、無線LANのボタン設定方式の統一などが考えられますが、今の段階の製品であれば、今後の製品と比べて大きな違いを感じることはないと考えられます。
よって、とにかく性能重視というのであればIEEE 802.11n準拠のハイエンド製品を選んでも損はないと言えるでしょう。このような製品を選んでおけば、ネットワーク経由での映像再生など、高速な通信が必要な場合でも対応できます。
ただし、このようなハイエンド製品は価格が高いのが難点です。通信機器にそこまで投資できないのであれば、IEEE 802.11a/b/g対応の普及モデルを購入しても実用上は困らないでしょう。速度はIEEE 802.11nに比べて劣りますが、ホームページの閲覧やメールの送受信といった使い方なら、数Mbpsの実効速度があれば十分でしょう。
なお、IEEE 802.11nは通信速度だけでなく、電波の飛ぶ距離も通常の無線LANと比べて強力です。非常に広い家や建物の構造が特殊な場合で電波の飛距離が必要な場合は、IEEE 802.11nの導入も検討するとよいでしょう。
|
|
NECアクセステクニカのIEEE 802.11n無線LANルータ「AtermWR8400N」
|
バッファローのIEEE 802.11n無線LANルータ「WZR-AMPG300NH」
|
IEEE 802.11nを除けば、一般的な製品はIEEE 802.11a/gの両対応か、IEEE 802.11gのみの対応という製品の2つに分かれます(IEEE 802.11bはIEEE 802.11gであれば互換性がある)。一般的にIEEE 802.11gのみ対応した製品のほうが低価格ですが、この連載でも説明した通り、IEEE 802.11gは電子レンジやBluetoothなどと同じ周波数を利用することに加え、無線LANの普及が進んでいる、独立して運用して利用できるチャネル数が少ないということから、周囲に無線を利用した機器が多いと通信が不安定になる場合もあります。
その点でIEEE 802.11aは無線LANのみの周波数帯ですので、他の機器の影響を受ける可能性は低くなります。また、一般的な製品でも8チャネル、最新の「W56」対応であれば合計で19チャネルを独立して使えますので、安定かつ高速な無線LAN環境という意味ではIEEE 802.11aをお勧めします。
なお、IEEE 802.11a/g対応の製品では、IEEE 802.11a/gを同時に使える製品と、どちらか1つでしか使えない切り替え型の製品があります。利便性が高いのは同時に使えるタイプですが、価格は切り替え型に比べて高くなりますので、導入の際はこの点も注意するとよいでしょう。
■ 関連記事
・ 無線LANはもう恐くない! イチから始める無線LANキソのキソ 第1回:無線LANを始めよう!
・ 無線LANはもう恐くない! イチから始める無線LANキソのキソ 第2回:実は「簡単」な無線LANの設定
・ 無線LANはもう恐くない! イチから始める無線LANキソのキソ 第3回:自分のデータを守るための大事な暗号化設定
・ 無線LANはもう恐くない! イチから始める無線LANキソのキソ 第4回:ひと工夫で無線LANをもっと便利に使おう!
・ 無線LANはもう恐くない! イチから始める無線LANキソのキソ 第5回:MIMO、11n、デュアルチャネル……まだまだ進化する無線LAN
(清水理史)
2007/08/09 11:03
|