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Broadband Watch座談会~2003年のブロードバンドを振り返る~(後編)

 本誌連載「イニシャルB」の清水理史氏と、ケータイWatch「週刊モバイルCATCH UP」でお馴染みの法林岳之氏を迎えた座談会。後編では無線LANやIP電話、ネットワーク対応家電といった製品関連の話を中心にお送りします。





無線LAN技術の進化は一段落

IEEE 802.11a/b/g同時利用が可能なバッファローの「WHR2-A54G54」
――無線LANの技術はIEEE 802.11a/b/gが出揃い、ゴールに到達した感がありますね。

清水:同時通信も速いしね。割とびっくりしたけど。

法林:IEEE 802.11a/b/gの同時利用は2004年の無線LAN製品のほとんどのテーマだろうね。今度はそれが、今どのチャネルをどれくらい混んでるかを確認して、自動的に切り替えてくれるような機能を搭載してくるでしょう。携帯電話に例えると、NTTドコモのPDCが、東名阪地区では800MHzと1.5GHzのデュアルバンドで、音声については空いてるほうを使う、っていう方式を採用している。無線LANも、この辺は11aだけどこの辺は11gだから、って自動的にハンドオーバーしてくれると助かるなぁ。

清水:技術的には簡単にできるはずですからね。個人的にはさらに、アプリケーションレイヤで無線LANをコントロールして欲しいかな。たとえば動画を転送する時は11aで、普通にインターネットつなぐだけだったら11gとか。プロトコルベースでうまいこと物理層をコントロールしてほしい。

法林:転送するデータ量が大きくなったら11aになるとか。逆に小さくなってきたら11bに落とすとか。

清水:OSやアプリケーション側でなんとかしないと無理なのかな。


無線LANを搭載したFOMA端末(開発中)
清水:そういえば、無線LAN搭載のFOMA端末ってどうなんでしょう? 企業向けだったら確かにアリかなという気もするんだけど。

法林:正直わからないな。要は(NTTドコモの公衆無線LANサービスの)Mzoneを使ってねっていうことなのかな。ロードマップ的には無線LANでIP電話、ていうのはあるんだろうけれど。無線LANは高速な反面エリアは狭いんだけど、FOMAで定額にできない部分を何とか無線LANで補うとかね。オフィスにいるときは無線LANで、外出先ではFOMAのパケットで、っていうのはあり得るかもしれない。どこにいっても無線LANでっていうのは、今の時点ではちょっとならないかな。むしろ、そろそろ無線LANで2.4GHzはやめてっていう気がするんだけど。

清水:それはすごく複雑だなぁ。みんなが「5GHz空いてていいよー」といって5GHzに来ちゃうと、個人的にはちょっとイヤだったり(笑)。最近はNECのパンフレットなんかを見ると、チャネル検索できることを謳っているんだけど、空いているチャネルの見つけ方とかをもっとメーカーが啓蒙していって欲しい。

法林:ただつながるだけの無線LANが、まだまだ多いんだよね。

清水:あとはきっとセキュリティ関連なんだろうね、無線LAN関連のポイントは。でもWPA対応機種が増えてきたので、それほど問題もないかな。

法林:それ以前の問題がまだ大きいからね。鍵が開いてるのが山ほどあるから。


IEEE 802.11a/b/gに準拠したNECアクセステクニカのワイヤレスセット。WEPとESS-IDがあらかじめ設定されている
清水:NECのワイヤレスセットなんか、WEPやESS-IDが最初から設定されているんだけど、ああいうことをしていかないと辛いですよね。あとはバッファローのA.O.S.Sとか。あれはよくできてる。セキュリティは、とりあえず何かしらの対策をしておくことが重要じゃないかな。

法林:Broadband Watchの読者はわかってるから大丈夫なんだろうけど。驚くほど多いですよ、何もセキュリティ対策していない無線LANが。未だに「NetStumbler」を立ち上げて街を移動すると、まる開きのアクセスポイントが山ほどありますから。

清水:意識的には高まっている気はするんですけどね。あとは無線LANといえば、Super A/Gかな。ただ、無線の話もADSLと一緒なんだけど、スループットが高くなったからってどうするという話も多分にあり。

法林:11bの頃って、ファイルを転送する時にひとつ間違えると止まっちゃうほど遅かった。でも11aが出てきた時点でどうでもよくなっちゃった。

清水:スループット的には10Mbpsあればいいかな。自宅で一番帯域を使うのは8Mbpsのビットレート転送だけど、10Mbpsあれば問題はないので。

法林:11aも11gもファイル転送であれば20Mbps以上出るので、そう考えれば無線LANはもうここで一段落かな。

清水:あとは電波をいかに飛ばすか、そしていかに飛ばさないか、という相反する命題があるので。これは難しいと思うけど、メーカーにがんばって頂きたい。


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IP電話は更なる高機能化に期待

「IP電話でISDNくらいのサービスが出てきて欲しいな」(清水)
清水:IP電話は使いやすくなりましたね。携帯電話からも一般電話からも着信するから。すごく普通の電話として使えるようになってきた。

法林:広がりが見えてきたね。

清水:さすがにアナログをやめるまでにはいかないけど、「そろそろやめてもいいかな?」と思えるレベルになってきた。

法林:俺はまだ怖いな。まぁ携帯電話があるからそれはいいのかなという気はするけど。ちゃんと使えるようにはなってきたし、環境も整ってきた。切れることもなくて不満はない。全然いいとは思うんですが、でもまだそこまで。

清水:もう一歩ですね。ISDNくらいのサービスが出てきてくれないと。

法林:電話としての機能の高機能化、転送とかダイヤルインとか、そういったものがIP電話に出てくるとすごいかな。050にかけて、着信しないときは自動で携帯に転送してくれるとか。複数の電話番号を使えて、1台のアダプタでそれぞれ使い分けられるとか。

――複数番号サービスについては、ソフトバンクBBやNTT Comが予告はしていますね。

法林:そこで鍵を握るのがルータかな。

清水:複数番号を使うにはIP電話アダプタが2台いる、なんてことになってくるとだいぶ興ざめですからね。やっぱり1台のアダプタにアナログポートが複数ないと。

法林:そういうことをルータに実装できるメーカーがどれだけあるのか、っていう話になっちゃうと、結構厳しいかな。ただ、“携帯電話のコストは高い”ってことがだんだん若い世代にも認知されてきているし、そうなれば自分の部屋用の電話という観点からもIP電話はいけるんじゃないかな。あとは、無線LANがコードレスなんだから、IP電話もコードレスになってほしいな。ルータのアンテナが無線LANではなくてPHSのアンテナだ、なんて話も、ありえないことではないかも。


「Lモードの先がADSL、というサービスはアリかも」(法林)
――NTT東日本では、LモードをフレッツIP網へ接続してブロードバンド化を図るといった計画もあるようです。

法林:フレッツ・スクウェアにアクセスする専用端末、って作ってもいいとは思うな。

清水:それもコンテンツ次第ですよね。

法林:Bluetoothで親機から離れるLモード端末ってあるよね。あれは今のところその先がLモードだけど、そこがADSLにつながってもいいんじゃないかな。そういうサービスは不自然じゃないし、本質的なLモードの原点だと思う。Lモード最大の問題点は、電話しているときにLモードができない、そしてその逆もっていうところで。だったらそれはブロードバンド化しようっていうのは当たり前の考えじゃないかな。

清水:だったらそれはIP電話になっちゃいますよね。

法林:誰もがブロードバンドでパソコンをバリバリ使うわけでもないし、Lモードを上手に使いましょうっていうのは年齢層に応じたサービスとしてアリだとは思う。もしかしたらその先にあるのが、NTT東西の固定電話のIP電話化というシナリオなのかもしれないけれど、それはだいぶ先の話かな。

清水:実際ブロードバンドで今何やってるかって、スピード計ってるだけなんだから。だったらLモードでもいいのかな? って気はする。

法林:よっぽどLモードのほうがいいよね。コンテンツはあるんだから。お金の決済もあるし。iモードみたいに決済を通信事業者が持っているという点も違いだな。


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URL
  関連記事:NTT東日本、Lモードの利用実態調査~ブロードバンド対応への関心高まる[INTERNET Watch]
  http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2003/12/11/1461.html


ネットワーク対応テレビの意外なメリット

Tナビのポータルサイト
清水:Lモードに近い話で驚いたのが、最近買ったTナビ対応のテレビなんだけど。あのメニューが久々にアクセスしたら充実していて。「出前館」でピザが頼めるようになってました。電話だとメニューが見えないからトッピングも面倒なんだけど、Tナビだとメニューを画面を見て、そこから直接注文できる。松下とか、家電系のメーカーはコンテンツに力を入れてきているから、意外に伸びるかもしれない。

――使い勝手はいかがですか?

清水:使いやすいかっていわれると、使いにくい(笑)。ただ、地域情報を集めてこないといけないのが難しいのかな。本来はそういうことこそCATV事業者がやるべきなんだよね、地域に密着した情報を持っているはずなんだから。スーパーのチラシ情報を流すだけでも便利だと思うんだけど。そういう意味ではCATVには頑張って頂きたい。

――ネットワーク対応テレビは今後どうなるでしょうか。

清水:難しいと思うな。ただでさえ操作性が悪いから。生活に密着したコンテンツをどこまで本気で提供できるかがポイントになると思う。パソコンで観られるニュースサイトなんかをテレビで見ても仕方がないから、他で観られないコンテンツが欲しいよね。

法林:なおかつ、PCより簡単でないといけない。残念ながら今の状況ではそれがない。

清水:まぁ、地域密着サービスが少しずつ出始めてはいるから、あとはLモードとの勝負になるんじゃないかな、それこそ。


--ネットワーク対応レコーダはどうでしょうか。

清水:今はネットワーク使って云々だと、番組表を取得するぐらいだろうね。

法林:とりあえずは番組表でしょうね。ニーズとして、それが一番確実じゃないかなと。

清水:外からの録画予約っていうのも、あまりしないですね。

法林:それは録画したいソース次第じゃないかな、録りたいものがある人は使うし、ない人は使わない。

清水:HDDレコーダになってから、ドラマとかも定期的に録り続けているから、個人的には録り忘れていることがそれほどない。突発的にオールスターを忘れた、みたいのはあるかしれないけど。ネットワークにつながっているメリットがそれほどない。

法林:アップデートは便利じゃないかな。アップデートとストリーミングみたいのがあってもいいのかも。機能の貧弱なPCではキレイに見えないけど、レコーダ経由で見ればキレイな画像が見えますとか。そういう連携が今後は大事だと思うね。


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Winnyはまさに「ブロードバンド」!?

Winny 2
――時事関連では、WinnyやWinMXなどといったP2Pソフトが話題を集めました。

法林:WinnyにしてもWinMXにしても、言い方は非常に難しいけど、技術としてのP2Pは悪いものじゃないと。流れているデータがまずい訳であって。それはそもそもコピーできる点に問題があるって言う人もいるんだけど、今後もそういうのは追求されていくだろうし、逮捕者も出てくるでしょう。きれい事で申し訳ないけど、法に触れない有効なP2Pの使い方を誰か考えてくれないかな。

清水:難しいところですよね。Winnyでは掲示板もあったんだし、そういうのがP2P化していってもいいとは思うんだけど。同好会ウェアみたいのがああいう感じになっていってもいいと思うし。ただ、そうしたサービスを提供する企業側から見ると、P2Pという言葉のイメージがだいぶ悪くなっている点に問題があるかな。

法林:法に触れることは、ソフトが悪いわけではなく、流れるデータが悪いという認識を持つことと、流しちゃいけないものは流しちゃいけないので、そこのルールは大義名分的に言えば守って欲しい。そうは言っても、来年以降もP2Pの悪いニュースは出てくると思うけど。

清水:ただ回線事業者に聞くと、Winnyの逮捕者が出た後はだいぶ落ち着いているらしいというのと、公表してないけど実はポート閉じてますというところも多い。それもイタチごっこだとは思うんだけど。

法林:でもね、そうやってWinny利用者の逮捕とか、取り締まるべきことをきちんとやっていくのは良いことなんだけど、お役所に対して申し上げたいのは、秋葉原なんかでCD-Rで焼いたソフトを平然と売っている現状があるということ。

清水:新宿にもいますよね。

法林:それを見ている人たちもいるわけなので、そっちもちゃんと取り締まって欲しい。話題性でWinny利用者を逮捕した、なんて感じに受け取られかねないので。路上犯もきちんと捕まえていかないと。

清水:でも、Winnyってまさにブロードバンド、なんですよね。ナローバンドではできなかったことができている1つの例。良い悪いは別として。

法林:ブロードバンドだけの問題ではないと思うから、なんとかするんだったらそこもなんとかしないと。

清水:昔からあった話ですからね、違法コピー問題は。



URL
  関連記事:京都府警、ファイル交換ソフト「Winny」ユーザー2名を逮捕[INTERNET Watch]
  http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2003/11/27/1289.html


2003年を振り返って

「回線の話よりも、コンテンツやサービスの話になってほしいね」(法林)
――今年1年を振り返るといかがでしょう。

法林:今年はセキュリティの1年だったね。Blasterウイルスにしても無線LANにしても。最後は人だってことだな。

清水:ADSLの1年でもありましたね。

法林:回線というレールの話はもういいから、そろそろレールを走る電車や、乗る人の話になってほしいね。

清水:光がADSLを巻き返すのか、というところにはとても興味がありますね。あとは、Blogが意外と来ている気がするな。

法林:Blogは結局コンテンツの中身な気がするね。システムは面白いけれど。コンテンツに関して言えば、宇多田ヒカルのライブ配信もそうなんだけど、結局は既存の番組の置き換えでしかない。今ある番組を持ってくるだけでは単なる補完に過ぎないから、それ以上は生まれてこないな。

清水:大変だとは思うんですけどね。

法林:回線事業者が市場を育てる努力をしなければならないし、ユーザーも気づいていかないといけないかな。


「ブロードバンドを“使う”ことに目がいって欲しい」(清水)
――来年のブロードバンドはどうなるでしょうか?

法林:通信サービスのキーワードは1個しかないと思うな。携帯電話もそうだけど、それは「お友達探し」。線でしかない回線サービスをいかにほかのものと結びつけるか。極端なことを言えば、光ファイバと掃除機だったり、ADSLと洗濯機だったりという結びつきから、何を生み出すかが重要だと思う。

清水:インフラ系はようやく落ち着いたと思うから、それを活かすアプリケーションがちょこちょこ出てくるんじゃないかな。ストリーミングに代わる新しいものが出てくるのは難しいかもしれないけれど、“使う”ということに目がいって欲しいし、そうなってほしい。いつも決まったニュースサイトを見て、掲示板を見てっていうルーチンワークじゃなくて、読者自身も新しいサービスをどんどん探して欲しいな。

法林:今年のキーワードを一言で表わすと「争う」。様々な分野でいろいろな争いがあった。対して来年のキーワードは「探す」かな。サービスについても事業者にしても。更なるプロバイダーの再編とか。

清水:それはありそうですよね。IP電話も最終的には数事業者に収束されていくかもしれない。

法林:2大政党制みたいな。事業者が手の組める相手を探していく。そういう意味では来年は「アライアンス」かもね。回線や無線LANの技術が落ち着いてきたところで、そろそろサービス本番の年だと思う。個人的には(ブロードバンド業界の現状は)カメラ付き携帯電話の前夜みたいな印象を受けるな。今では携帯電話でテレビを見たりできるようになっているが、ブロードバンドも同じように使い道を探していくことになるのでしょう。

――本日はどうもありがとうございました。


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(甲斐祐樹)
2003/12/26 14:02
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