■多重苦に苦しむNTT
ここのところ株価大幅下落や収支状況悪化、社員賃金カットと暗い話題ばかりで、厳しい状況に置かれているNTT東西会社。最近ではマスコミに登場する機会も減っており、マイラインでは圧倒的なシェアを確保して見せたものの、そのほかの分野では大きなメダマ商品が見あたらない。
Lモードが比較的好調な滑り出しを見せており、またブロードバンド分野でもフレッツ・ISDN、フレッツ・ADSLサービスの料金改定やサービス改善、他社とは比較にならないサービスエリアの広さや拡充ペースによって、依然圧倒的な優位に立ってはいるものの、今後台頭が予想される新興通信勢力との勝負は油断できないところだろう。
■ブロードバンド構想で精彩を欠く東西・持株トップ
ADSLでは韓国の例を出されるたびにISDN戦略を引き合いに責められ、ホウボウからヒマさえあれば分割、再編と言われ続けたせいか宮津社長も顔色が冴えない。お得意のべらんめえ調もトーンダウン。
まあ、これまで後手後手のIT戦略しか打てなかったと批判されても仕方あるまい。光のインフラ構築では有線ブロードネットワークスに先を越され、ブロードバンドサービス会社構想ではYahoo! BBに先手を打たれて、後追いでNTT-BBを発表した始末だ。
NTT-BBの発足にあたっては、NTT持ち株会社とNTT東西会社とで業務分野を巡るツバ競り合いもあったと報じられている。もっとも、結果的にインフラ整備をNTT東西会社が行なうことに決まってからの動きは早かった。
有線ブロードネットワークスと同じ光ベースのインターネット接続サービス「Bフレッツ」は、当初ウワサされていた7月中のスタートからはずれ込んだものの、8月1日から東京や大阪で開始される。年度内にはかなりのペースでサービスエリアの拡大を図り、今年の春に策定した5カ年計画よりも前倒しで進めようとしているのだ。
営業マンの姿勢も非常に前向きで、Bフレッツを積極的に売り込もうとする姿勢は外から見ているだけでも強く感じる。ユーザーの要望をかなえようとする実直な対応は「NTTも変わった」と思わせるに十分なものだ。
ADSLやFTTH(Fiber To The Home)がリーズナブルな価格で提供できるようになったことで利用者の減少がささやかれたISDNも、実際にはADSL、FTTH、ISDNの3つから選択できる東京都内であっても順調に増加していると聞く。
電話を2台同時に使用できるISDNは、優れた電話サービスでもあるのだ。NTTという会社は、当たり前のことだがインターネット接続サービスだけをやっているわけではない。電話を中心に使うユーザーもいれば、インターネット接続を重視するユーザーもいる。
つまりISDN、ADSL、そしてFTTHと多様なニーズに応えられるだけの品揃えがNTTには必要だったということだろう。
■ソフトバンクバンクグループの宣戦布告
これまで、NTTとソフトバンクグループは、多方面で共同事業を行なってきたが、それらも解消され両陣営の蜜月時代は終わった感がある。孫正義氏自身、ブロードバンドの価格破壊でNTTと真っ向から対決する姿勢を示している。
Yahoo!の将来図と擦り合せたYahoo! BBの構想は、一般ユーザーの期待も大きい。孫氏自身が「世界でもっとも安いブロードバンドサービス」と豪語しているとおり、現状の水準を破る魅力的な価格付けはユーザーの注目度が高い。
東京めたりっく通信を傘下に置いたことも注目だ。まだ、今後の行く末がハッキリしてはいないものの、東京めたりっく通信が持つ様々なノウハウは、Yahoo! BBの立ち上げ時期には有効だろう。
世界でもっとも安い価格水準を維持できるだけの多数の加入者を集め、その加入者を対象にコンテンツビジネスを行ない、相乗効果で企業としての利益を確保する。これまでの通信キャリアが思い付かなかった手法である。ただ、それをNTT東西がやろうとしても様々な制度面のしがらみから簡単には難しい。
もっともYahoo! BBにも不安材料がないわけではない。立ち上げ時には膨大な投資が必要であり、加入者が急激に増加することでバックボーンなどネットワークの整備をイッキに進めなければならないからだ。
純粋な通信キャリアとしてコストを削りサービスの向上や低価格化を行なうNTTと、トータルなサービスで収益を確保し、群を抜く低価格で攻勢に出るYahoo! BB。
ADSL接続サービスのシェアは、現時点ではNTTのフレッツ・ADSLサービスがトップの座を確保しているが、3位の東京めたりっく通信を買収、試験サービスの申し込みが殺到しているYahoo! BBは、申し込み者の工事が順調に進めば一気に大きなシェアを確保するのは間違いない。
いずれにしても両者の激しい競争は、サービスの向上や低価格化をより一層進めることにつながるはずで、ブロードバンドネットワークの普及に確実にプラスになるはずだ。
■先手を打って、ゼロ種事業者に
話は戻るがNTT東西会社からすると、Lモードを巡る総務省、他通信事業者とのバトルが記憶に新しい状況でNTT-BBを設立しても成功しないのでは、という心配が多いようだ。
これまで総務(旧郵政)省とのバトルの中でIPサービス、ブロードバンドと言うキーワードは大きな爆弾であった。NTT持株、東西の中堅幹部の中には、「新興勢力とも自由に競争でき、現場戦力も掌握しているNTT-MEを前面に出したブロードバンド戦略を推進すべきだ」という声もある。
NTT-MEといえば、マルチメディア事業のパイオニアとしてカリスマ的指導力を発揮してきた池田社長を東に、西には工事、保守の第一人者としてNTT社外からも認知度の高い坂田社長がいる。
現在は、各地域に東西会社の直轄支店と池田・坂田両社長配下のME支店とが並存しており、業務内容の棲み分けも曖昧だ。大胆な発想ではあるが、東西会社の直轄支店をME支店に吸収させブロードバンドを中心にした総合IPソリューションプロバイダーにしてはどうだろうか。
東西会社にはユニバーサルサービスの提供責任を付けて電話系のサービスと通信設備資産を持たせたゼロ種事業者に近い位置付けにするわけだ。ME配下の支店になることでLモード導入時にもめたISPや県間通信規制の話もなくなる。
一方、他事業者もゼロ種の東西会社からMEが設備を借りるのと同じ条件になるわけであり、設備利用の公開性・公平性も確保されるはずだ。
これまで、電柱添架、管路貸し、心線貸し、局舎貸しと外圧に屈服する格好でNTT設備の解放が進んできたが、この辺で他から言われる前にブロードバンドを見越した新事業体制のビジョンを作り、世間をあっといわせてみてはどうだろうか。
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