世界規模で巻き起こるブロードバンド業界の再編劇。米国ではCATV業界ビッグスリーによる買収が繰り広げられ、ヨーロッパでも関連事業部門の切り離しが進んでいる。一方、ADSL事業者も米国では大手2社が経営破綻を起こし業界自体は消沈化しつつある。
今後のブロードバンド業界の行く末はどうなるのか。業界の動向を世界規模で概観しつつ、日本の今後を考えてみよう。
■塗り変わる世界のブロードバンド業界地図
モバイル事業部門のAT&T Wirelessを完全に分社独立させるなど、ドラスティックな経営改革を一気に進めているAT&T。これまで同社のブロードバンドサービスの旗艦であったAT&T Broadband社を、580億ドル(株式価値445億ドル、負債135億ドル)でComcast社に売却する方向で検討している模様だ。
米国CATV業界ビッグスリー最大手の座を占めていたAT&T Broadband社は、2200万の加入者を有していた。しかし買収劇が成功裏に終わると、業界第3位のComcastは、第2位のAOL Time Warner(1300万加入)を追い抜き、一躍、米国最大のブロードバンドサービスプロバイダーに踊り出る。
一方、世界最大のCATV事業者であったドイツのDeutsche TelekomはCATV部門を売却。欧州でもCATVに軸足を置いたブロードバンド業界の覇者争いはますます活発な動きをしている。
欧州では、北欧を中心にCATV普及率は80%近い水準にあり、これまでは英国を除いて多くのEU諸国では国営電話会社が電話と並行して運営してきた。しかし、第3世代携帯電話のライセンスオークション費用といった巨額の資金を稼ぎ出すために、相次いでCATV部門を売却してきたのである。
国営(準国営)電話会社からすれば、CATVのインターネット対応に資本投下するよりもモバイルへの投資を選択したわけだ。英国では、貿易産業省による通信と放送の分離規制が最近まであったことから、BTでさえもわずかなCATVネットワークしか有していなかった。代わりに米国、カナダ、フランスなどの事業者がCATVフルサービスを早くから提供してきたのである。
■米国ではCATVとDSLが好ゲームを展開
韓国ではIT化を象徴するような論調で紹介されているADSLサービスの活況具合も、米国での様相は変化してきている。
ADSLの二大サービスプロバイダーであったNorthPoint社とCovad社が相次いで経営破綻し、ADSL業界は消沈化しつつあるのだ。
一方、前述のようにCATVネットワークを使ったブロードバンドサービスや、小型のパラボラアンテナを使った無線ブロードバンドが伸びている。
Strategis Group社の予測によれば、2001年末のブロードバンド加入者数はCATVが710万に対してDSLは420万といわれており、伸び率的にもCATVブロードバンドが上回っている。
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Sprint Broadband Directの屋外アンテナ |
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この理由としては、CATV事業者の多くはすでに大規模な設備投資を終え、マーケティングやセールスに資金を使う段階であるのに対して、DSL事業者は追加設備投資が続いており十分なマーケティングができていないところにあるようだ。 これら有線系のブロードバンドに対抗する格好でがんばっているのが、シリコンバレーを中心にサービスを開始し全米規模までサービス拡大を行なっているSprint Broadband Directなどの固定FWA(加入者系無線アクセス)である。
米国通信業界は、市内・長距離の業界区分が明確になっており、長距離通信事業者としてカテゴライズされるSprint社は、ブロードバンドサービス分野において無線技術を用いることで一気に非電話市内部門に参入してきたわけだ。
■ようやく動き出した欧州のDSL
欧州では半年遅れで、市内網の完全自由化体制に入った。とはいうものの、フィンランド、デンマーク、オランダを除いては、相変わらず国営電話会社によりインフラ部分は抑えられており、新興通信事業者が参入できる状況にはない。
当初、ADSL先進国として韓国と並び称せられたDeutsche Telekomに至っては、DSL市場の96%を独占し、新興DSL事業者を寄せ付けない状況にある。
一方、市場競争政策の進んだ英国では、すでに20以上のDSL事業者がBTの交換局にコロケーション(間借り)しながら自由参入し活発なDSL戦争を展開しているが、CATVインターネットやISDNから移ろうとしない国民性からか不発に終わっている。
欧州のDSLが休眠状況にあるもう一つの大きな原因としては、EU加盟各国におけるDSL導入基準の整備遅れが挙げられる。
回線接続料金、コロケーション条件、技術基準などの策定が予想以上に遅れてしまったのだ。また、共有アクセスの導入もフィンランド以外では未だ検討中の状況にあり、新興通信事業者にとっては今ひとつDSL事業に拍車が掛からない状況にある。
このように、欧米ではCATVをインフラとしたブロードバンドサービスが本命視されており、今後、DSL事業者の健闘が期待されている。
翻って日本の現状を見ると、CATVブロードバンド市場ではJ-Com連合と二人三脚でトップを独走するアットホームジャパン社に大いに期待したいところであるが、加入数ではまだまだこれからの状況にある。
同社では、コンテンツ制作、配信分野にも力を注ぎ、凸版印刷、住友商事などと共同してニューヨークの総合ブロードバンドプロバイダーとして有名なCenterSeat社のコンテンツ配信を計画している模様だ。
ブロードバンドの魅力は、インターネット伝送速度の高速性はもとより、その上で展開される充実したコンテンツにある。この意味で、アットホームジャパン社の動きには大いに注目したい。
また、同社のライバルである東急インターネットも、8月1日から社名をイッツ・コミュニケーションズに変更し、ソニーなどとの連携を強化しつつブロードバンド・コミュニケーション&エンターテイメント企業を目指す。
こうしてみると、ケーブル、光、DSLと多彩なブロードバンドインフラが急成長しつつある日本もまんざらではない。関係企業の活躍を見守りたい。
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