■モバイルインターネットの二大勢力
ケータイを使ったモバイルインターネットの世界では、次世代携帯電話として世界各国で導入が検討されている3G(第3世代)方式のブロードバンドワイヤレスに視点が集まっているが、実効伝送速度、料金面で不透明な部分が多い。この第3世代の携帯電話方式は技術的にW-CDMA方式と、cdma2000方式が世界を二分すると言われている。
前者はドコモが首都圏で5月末から試行サービスを開始し、10月から本格商用サービスを行なう予定のFOMAサービスがある。すでに、幸運にも試行サービスユーザーとなってビジュアルホンを使ったモバイル・テレビ電話などを楽しんでいる読者もいるだろう。
一方、日本国内で日本テレコムの株式取得によりJ-フォンの経営権を握り、今や二番手のモバイル事業者として巨人ドコモを脅かしつつある英Vodafoneがcdma2000方式を使った3G参入を企てている。しかし、Vodafoneは世界規模のモバイル戦略の一環として日本市場を捉えており、本拠地である欧州市場での3G導時期を先送りすると宣言した。日本国内での始動も2004年頃になるであろう。
Vodafoneは、一気に世界戦略を実行に移すためにムリな買収劇を演じたり、3Gライセンスを取得するために多額のオークションフィーを使った。そのため、お膝元の英国市場では第3位の市場シェアに甘んじている。モバイルネットワークを3G対応化するには、(ヨーロッパなどで必要な)高額なオークションフィーや新たな基地局をはじめとするインフラ設備投資を回収するため、多くのツケがユーザーに降りかかってくると思われる。
このように、無線事業者免許を取得して3G技術を使ったモバイルブロードバンドを提供する「Licensed Mobile Broadband」に対して、国際的に免許不要な無線周波数(ISMバンド)を使った無線ブロードバンド技術と、光ファイバーやADSLなど「Wired Broadband」を組み合わせた「Non-licensed Mobile Broadband」の事業者カテゴリーも誕生しつつある。
■Hybrid Broadband時代の口火を切ったMIS
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MISが使用している屋外設置タイプの基地局 |
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屋内用の基地局。背面には10BASE-Tポートとコンソールポート、アンテナ端子がある |
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ISMバンドを使ったワイヤレスLANと光ケーブルの特徴を活かしたワイヤレスブロードバンド会社が少し前に誕生した。業界の暴れん坊、株式会社有線ブロードネットワークスと革新的なパケット無線機器開発メーカー、ルート株式会社が共同で設立したモバイルインターネットサービス株式会社(MIS)だ。電柱から加入者の引き込み口までの数十メートルのケーブル敷設に難儀していた有線ブロードにとっては、無線技術の導入は願ってもない助け舟だ。
MIS社長には、アマチュア無線を使った無線インターネットの草分け的存在で国内外で有名な真野浩氏が就任した。真野氏は、数年前から2.4GHzを使った街角無線インターネット機器の開発に着手し、独自の認証技術と組み合わせて、四国、群馬、長野、九州などでISDNやデジタル専用線と組合わせ、定額制無線インターネットを実現するHybrid Broadbandソリューションを提供してきた。一時は、ソフトバンクが鳴り物入りでぶち上げたスピードネットの無線部分を全面的に担当するという共同事業の話もあったが、スピードネットの事業計画に共感できなかったためか参加を見送ったという逸話のある、信念を持った経営者だ。
MISでは、新たなISM周波数の健全な普及促進、モバイルブロードバンドの技術開発、仕様策定などを行なう日本モバイルブロードバンド協会を設立し、一大勢力形成を目指している。また、東京世田谷の三軒茶屋地区で大規模な試行サービスを行なっているが、ここでもルート社が開発した超小型軽量の無線基地局を使ってIEEE 802.11b規格により11Mbpsのブロードバンドサービスを提供している。この小型基地局は、電柱間の支線ケーブルにも設置可能で、なにかと制約の多い電柱占用をしなくても基地局構成が可能という特徴を持っている。
■負けてはいない!? NTT東日本
一方、NTT東日本は自社の光ファイバーネットワークとNTTアクセスサービスシステム研究所が開発したAWA(Advanced Wireless Access)システムを組み合わせたBiportableシステムを実用化した。これは、新たなISMバンドとして世界が期待する5GHzの周波数を使用し基地局から半径100メートルのエリア内で、36Mbps(双方向)のモバイルブロードバンドを実現している。NTT東日本では、渋谷地域のビジネスユーザーを対象にKinko'sなどに基地局を設置しBiportableサービスを試供している。
Biportableシステムでは、1つの基地局で最大122端末まで接続可能だ。また、ビジネスユーザーを意識し、電子認証と位置管理機能をサポートしており、無線通信区間における最低帯域保証も実現。高品質な通信性能を確保している。得意の光ファイバーネットワーク部分は1Gbpsのギガビットイーサ技術と100Mbpsのファストイーサ技術を採用し、リッチコンテンツでもサクサク通信可能な大容量通信環境を実現した。また、有料サービスを見越した課金、認証機能も装備している。渋谷地域での試行サービスは、クセになりそうな快感を覚えるものであるが、8月で終了とのことで残念だ。早期に本格導入してほしいものである。
■欧米のホットスポットは3Gへのプロローグ
欧米では、公衆移動通信事業者が3Gの導入を先送りしたことで、Licensed Mobile Broadbandの普及は2004年以降になると言われている。しかし、欧米各地を巡って見るとびっくりすることが起きている。IEEE 802.11b準拠の最大11Mbpsの無線LANを活用し、ISDN、CATV、DSLなど有線回線と組み合わせて、無料で高速無線インターネット環境を提供しているのだ。空港、駅、コーヒーショップ、ファーストフードなど人の集まる場所に「ホットスポット」と呼ばれるファシリティが完備しつつあるのである。国内でも日本IBMなどが成田空港や都心のホテルで同じような試みを始めたが、欧米のホットスポットの驚異的な設置ペースには及ばない。
欧米では、これらホットスポットサービスを3Gによるモバイルブロードバンド普及の序奏と位置付けており、無料で提供し利便性をアピールしている。このソリューションはモバイルの利用環境、形態が日本と大きく異なることとも関連し、ビジネスユーザーを中心に日常のビジネスシーンの一部になりつつある。
■赤電話文化をもう一度!!
携帯電話に圧倒されて、NTT東西会社の公衆電話事業は瀕死の状態にあると聞いている。公衆電話ボックスはピンクチラシの掲示板化しつつあるのだ。そこで、公衆電話ボックスとBiportableを組み合わせてみてはどうか? つまり全国津々浦々の人の集まる場所に設けられた公衆電話ボックスに無線の基地局を設置、ホットスポットに変身させるのだ。
多くの公衆電話ボックスの直近には光ファイバーが通過しており、これらを分岐し公衆電話に引き込みBiportableの基地局につなぎ込むわけだ。幸いにも電源は確保されている。同じような発想は英国などで導入され、PHSのモデルとも言われたTelepointサービスにも見られる。さらに、最近ではほとんど見られなくなった赤電話(委託公衆電話)のように、商店、ファーストフード、ガソリンスタンド、個人宅にBiportable基地局を委託設置してしまうのだ。
もちろん、基地局設置を快諾した方には、NTT東西が光ファイバーを設置し、希望があればFTTHあるいはFTTShopとして使用することも可能にするのである。このような施策が地域商店街の活性化や、疎外感に満ち溢れた都市におけるIT隣組を実現し、心のあるIT社会が実現するのではなかろうか。「公衆電話は不採算、だから事業縮小」というのは経営ではない。瀕死の不採算事業を新技術との組合わせで収益性の高いホットスポットに変身させてほしいものである。
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