米国IT業界の今年1年を総括すると年の途中から暗いニュースが相次いだ。先見性のない評論家が「米国の2001年はADSLの年」と予想して間もなく、NorthPoint社やCovad社などの大手ADSL関連企業が相次いで倒産、さらには日本でも知名度の高いWebホスティングサービスの最大手Exodus社までもが経営破綻に追い込まれた。一方、筆者も早くから加入して重宝にしていたWireless ISPの先駆者Metricom社もPaul Allen氏らの救済策の甲斐もなく16年の歴史にピリオドを打った。また、ブロードバンドの期待の星ともいわれたCATVインターネットサービスの巨人Excite@Home社までもが輝かしい歴史の幕を閉じ「ITバブル崩壊の四大話」といわれる事態が起こっている。
一方、放送メディア業界では、二大衛星放送事業者の統合合意に追随する格好でCATV業界を含めたブロードバンド業界の活発な統廃合が続いている。今回は、このExcite@Home騒動の顛末を追ってみた。
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AT&Tに見捨てられたExcite@Home?
「クリスマス商戦、さあこれから!」という12月はじめに、突然CATV最大手のAT&T Broadband加入の85万世帯をはじめとする多くのCATVインターネットサービスが接続不能になった。これは、経営破綻に陥ったExcite@Homeが接続サービスを停止したためだ。米国ではワシントンポスト、ニューヨークタイムズなどが重大事件として扱った。裏を返せば、それだけCATVインターネットが社会インフラとして利用されているということにもなるが、加入者にとっては寝耳に水の事態であった。
Excite@Homeは、最盛期に全米に410万加入世帯を擁し、実にブロードバンド接続の45%シェアを誇っていたが、衛星放送事業者の追い上げや他のブロードバンドサービスの追撃を受けて、2001年10月1日に米国連邦破産裁判所に破産申請をしていた。この申請直後に、同社の最大株主であるAT&Tが救済策として同社の資産を3億700万ドルで買取る提案を示した。これで一件落着かと思われたが、Excite@Home側が資産価値は10億ドル以上と主張して譲らず両者間での駆け引きが続いていた。しかし、12月4日になってAT&T側が買収提案を完全撤回しサービス停止に陥った。
AT&Tは、これとほぼ同じタイミングで85万ユーザーを自社のAT&T Broadband Internetへ移行し、クリスマスシーズンにおけるインターネット通販最繁期への影響を食い止める緊急対策を講じた。一方、Excite@Homeがインターネット接続を提供するその他のCATV事業者のうちComcast Cable CommunicationsやCox Communicationsなど10社は3カ月間の接続契約をExcite@Homeと行なった。各社とも2002年2月28日までに他のサービスへの移行を完了し、その時点でExcite@Homeは5年間の歴史に幕を下ろす。
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輝ける星だったExcite@Home
Excite@Homeは1990年代後半のNASDAQ市場の輝ける星として米国IT関連株をリードしてきた。同社は、1995年春に@Home Network社として全米を対象にしたブロードバンド事業を開始した。事業は順調に進み1997年には株式公開を果たし、正にドットコムビジネスの成功企業の象徴として注目を集めた。さらに、1999年1月には67億ドルでExcite社を買収し社名もExcite@Home社に改め、高速インターネットとWebポータル事業をAll in oneで提供する会社として、さらにブロードバンドインターネット業界を牽引する企業として世界的な注目を集めるに至った。
その後、AT&TがTCI(Tele-Communications Inc)社を買収したことで、その傘下にあったExcite@Homeも自動的にAT&T支配下に入った。以降、AT&Tは、2000年3月にExcite@Homeの取締役会の大半を支配下に置くとともに、共同パートナーのComcast Cable CommunicationsとCox Communicationsが所有していた株式買い取りの提案を行なった。この時点で発行済株式の23%、議決権付き株式の74%を確保していたが、2001年1月には、これら2社の株式を29億ドル相当の自社株との交換により取得し、発行済株式の38%、議決権付き株式は79%を占めるに至り、名実ともにAT&Tの会社になった。
実は、このAT&Tの支配力拡大がExcite@Homeの悲劇の発端を作ったといわれているのだから業界の裏側は小説より奇なりである。AT&T社CEOのMichael Armstrong氏が「Excite@Homeは好きで買った会社ではない。買収過程で付いてきた会社に過ぎない」というほど両社経営陣ははじめからボタンの掛け違い状態で、経営感覚のギャップは顕著なものであった。とくにExcite社の買収ではAT&T幹部が強硬に反対を唱えたが、@Home側が「既定路線であるから、いまさら」と、押し切ったことであつれきを生じ、1999年3月のAT&T取締役会では2カ月前に買収したばかりのExcite社を分社せよ、という案まで議論されたほどだ。いずれにしても、シリコンバレー育ちのドットコム世代の若手経営陣が動かすExcite@Homeと、保守的な電話世代のAT&T経営陣とでは経営方針や、コンテンツビジネスへの考え方、企業文化の相違などで、対立が多かった事は事実のようだ。
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経営陣の長期不在も敗因のひとつ
Excite@Homeの取締役会メンバー内部でのあつれきもあり、嫌気のさしたCEOが辞任をしたのを契機に、Excite@Homeの役員の出入りがひんぱんに行なわれるようになった。結果、CEO長期不在の事態を招き、Excite@Homeは迷走を続けざるを得ない状況に陥り、コンテンツ戦略をはじめとする経営判断が後手後手に回ったのも破綻の大きな原因になっているようだ。Excite@Home最後のCEOとなったPatti Hart氏が経営指揮をとる時点では、すでに手遅れの状況になっていたのである。
さて、御本家Excite@Homeの経営破綻は、関連する日本企業にはどう映っているのであろうか? 日本国内では@Home NetworkのCATVインターネット事業の流れを汲むアットホームジャパン株式会社と、ポータルサービスExciteの流れを汲むエキサイト株式会社がそれぞれ独立した国内法人として事業展開を行なっている。前者は米国Excite@Home、ジュピターテレコム(J-COM)、住友商事の3社で設立された国内最大のCATV-ISPとして順調に事業展開を進めている。一方、後者は米国Excite@Home、伊藤忠商事を中心とする日本側株主による合弁会社である。このように、いずれの会社も、技術、サービス運営、コンテンツ供給などの面で米国法人とはまったく独立した別法人として独自の経営路線を歩んでおり、米国に依存する部分はほとんどない。両社の立場で見れば、米国側出資者としての経営参加がなくなり、今まで以上に自由かつ柔軟な経営に専念できる、と歓迎ムードが強い。
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これからどうなる?
米国では、Excite@Homeのインターネット接続サービスを2002年2月末までの予定で継続しているCATV事業者の他ネットへの移行措置も順調に推移しており、自然淘汰的にExcite@Homeは完全に運用を停止する。なかでも、Cox Communicationsは自社のネットワークにRiverstone Networks社製のルータを追加設置し、2002年2月末の接続サービス停止までにExcite@Homeに接続される55万加入者のほとんどを社外のCATV-ISPに頼らない自社接続サービスに移行する計画だ。しかし、@Home Solutions Groupといわれてきた中小CATV事業者の一部は自然消滅する運命にある。
米国内では、今年発生したドットコムビジネス企業の経営破綻、サービス停止を教訓に、公共性の高いISP事業者に対する連邦政府や州の公益委員会による事業監視強化を唱えるムードが高まっている。インターネットは、wiredであれwirelessであれ社会基盤のひとつとして安定したサービス品質を求められる時代になってきた。ひるがえって、日本国内でもADSLやVoIPの価格破壊競争が激化し、一見、ユーザーにはうれしいニュースと捉えられがちであるが、経営状況を見極めつつサービス品質を監視し指導するような第三者機関の設置が必要になってきた感がある。
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