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第16回:後続ながら対応店舗や会員数が順調に成長
NTTドコモ自ら展開する電子マネー「iD」の戦略を聞く

 2005年のサービス開始と後発ながら、会員数や決済端末台数が順調な伸びを続けているNTTドコモのポストペイ型電子マネー「iD」。現在の最新状況と将来の展望について、NTTドコモ クレジット事業部 iD担当部長の小師隆氏に話を伺った。





さらなる普及を見込むiD

NTTドコモ クレジット事業部 iD担当部長の小師隆氏
 TCA(電気通信事業者協会)の発表によると、2008年10月時点での携帯電話の契約総数は1万513万台で、このうちNTTドコモの累計は5396万台。事業者間の競争が激化しているとは言え、それでも半数のシェアを持つNTTドコモの存在感はやはり大きい。

 そんなNTTドコモが手がける電子マネーが「iD」だ。サービス開始は2005年と他の電子マネーと比べて後発だが、会員数は2008年4月の発表時点で約708万、リーダライター端末台数は約32万台と順調な発展を続けている。

 このようなサービスの普及状況について小師氏は「状況としてはまだ五合目あたりでしょうか」と、普及状況はまだ道半ばであると語った。

 小師氏によると、現時点での最新の状況としては10月末の時点でカードタイプのiDを含めたすべての会員数が約936万ほどで、このうち携帯電話での利用は約8割。端末台数も約39万台前後まで増えており、伸びとしては順調とした。

 ただし、小師氏によると「ポストペイドという方式を採用している以上、与信などの審査もあるため、プリペイドほど急速、かつ多くの会員まで増やすことは難しい」との事情もあるという。

 また、前述したように同社の携帯電話ユーザーは5000万以上だが、携帯電話ユーザーの中には学生などの与信が通りにくいユーザーも含まれる。他の電子マネー、特にEdyのようなプリペイド方式の電子マネーの場合は、いかに新たな顧客、市場を開拓するかが普及のポイントだが、iDはすでに自社の顧客となっている携帯電話ユーザーを、いかに電子マネー「iD」の世界に引き込むかが課題と言えそうだ。





普及のカギをにぎる「DCMX mini」

 このようなiDの普及のカギを握るのは、どうやら「DCMX mini」になりそうだ。iDの決済手段は、いわゆるクレジットカードサービスの「DCMX」と、電子マネーとしての利用分を携帯電話の料金と一緒に課金する「DCMX mini」の2種類が存在する。

 このうち、現在の会員数が多いのは圧倒的にDCMX miniで、小師氏によれば会員比率は8対2でDCMX miniが上回っているという。DCMX miniの方が2005年とサービス開始が早かったことに加えて、DCMXのような与信審査がなく手軽に使える点がその要因のようだ。

 これまでドコモポイントが貯まらなかったDCMX miniに関しても、10月1日より開始された「ドコモプレミアクラブ」会員ならドコモポイント特約店での買い物でポイントを貯めることが可能になり、手軽さだけでなくポイントによるメリットも得られるサービスとしての魅力も高まりつつある。しかし、その一方で、上限の金額が毎月1万円までとなっており、大きな決済や頻繁な利用には適していない印象も受ける。

 このあたりについて小師氏に尋ねたところ、DCMX miniの利用者傾向は、あまり使わない人と毎月すぐに上限金額に達してしまう人と非常に両極端の分布だという。そのため上限の拡大も検討はしてはいるものの、与信の問題も含むために将来的な課題というのが現状とのことだ。

 ユーザーの増加に関しては、最近ではドコモショップの店頭で直接DCMXに加入するユーザーが伸びているという。やはりドコモポイントの特典が加入の大きな理由とのことだが、まずはDCMX miniでiDを手軽に始めてもらい、その便利さが気に入ったり、DCMX miniに物足りなさを感じたユーザーがDCMXへと移行することが理想的な展開と言えるだろう。





際だつ対応店舗の多さ

マクドナルドの「かざすクーポン」
 NTTドコモのiDの特徴としては、サービス開始からの年数や現在の会員数に比べて格段に対応店舗数が多い点も挙げられる。

 前述の通り、小師氏によると最新の端末台数は約39万台で、ここから推測するに7~8万(自動販売機なども1店と考えれば14万前後)の店舗に対応していると考えられる。この数は、先行するEdyに匹敵し、Suicaの約3万店をも凌ぐ数値だ。

 この点について小師氏は、営業力の高さと加盟店に対してソリューションを提供できていることをその要因として挙げた。加盟店の中には顧客との接点をマーケティングに活用したいという要望も多く、そうした加盟店に対してクーポンの配布や利用動向の調査、さらにそれを元にしたさらなるレコメンデーションといったサービスへと将来発展できることが評価を得ているという。「こういった点はカード型の電子マネーにはない特徴で弊社の強みを活かせる分野」と小師氏は言う。

 すでに首都圏を中心に展開されているマクドナルドのケースが、まさにこれに相当すると言えるだろう。クーポンを配布して店頭でのオーダーに利用するというこの手法は、マクドナルド側にしてみれば顧客の回転率向上(カウンタータイムの短縮)だけでなく、顧客の嗜好などのデータ収集に役立つ。

 NTTドコモは、11月5日に「iコンシェル」と呼ばれる、ユーザーの執事として情報を提供するサービスの提供を発表しているが、ここでもマクドナルドのクーポン(トルカ)の活用例が挙げられている。

 もちろん、NTTドコモというブランド力や実際に加盟店を獲得する営業力の強さなども多くの加盟店を獲得できている大きな要因だが、このようなサービスをも含めたトータルのソリューションが提供できる点が、加盟店を数多く増やしている同社の強みと言えるだろう。

 一方、iDは海外展開している唯一の電子マネーでもあるが、これについては「現状は観光で海外に出かけたお客さまの利便性向上を目指したもの(小師氏)」であるとのことだ。もちろん、現地の人の利用を想定した本格的な海外展開も将来的には視野に入っていると考えられるが、現時点では携帯電話の海外利用の一環としての意味合いの方が強そうだ。

 このため、現状は中国、グアムという展開だが、観光地を中心に今後もさらにエリアが拡大されていく可能性は高い。なお、現状、中国ではDCMX miniの利用ができないが、これも「将来的に検討していく方向」(小師氏)だという。





1000万会員、40万台も目前に

 このように、積極的な展開を進めるNTTドコモのiDだが、会員数として1000万が見えてきたこともあり、「今後はさらなるキャンペーンなどで積極的なプロモーションを進めていく予定」(小師氏)だと言う。

 このあたりは、以前にインタビューしたEdyのビットワレットも同じだが、NTTドコモとしても、現在はまだ同じ電子マネーでシェア争いをする段階ではなく、知名度を向上させ、市場全体を拡大していく時期だと考えているようだ。

 マクドナルド、タクシーなど、日常的に利用する場所に積極的に展開しつつあるiDだが、今後も幅広いプラットフォームとして、さまざまな場所での利用が期待できそうだ。


関連情報

URL
  iD
  http://id-credit.com/

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2008/12/04 10:56

清水理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるブロードバンドインターネット Windows XP対応」ほか多数の著書がある。自身のブログはコチラ
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