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【CNET Japan Innovation Conference 2006 Autumn】
「Web 2.0とは何か」を探るパネルディスカッション

 CNET Japan Innovation Conference 2006 Autumnでは、「いまこれが熱い米国のWeb2.0サービス」と題したパネルディスカッションを開催。データセクション代表取締役の橋本大也氏、ウノウ代表取締役の山田進太郎氏、富士通総研経済研究所上級研究員の湯川抗氏が登壇し、Web 2.0に関する議論を繰り広げた。


ドットコムは投資主導、Web 2.0は技術者やコミュニティ主導

モデレータを務めた渡辺聡氏(左)と橋本大也氏
 橋本氏は、2000年頃を「ドットコムブーム」、2006年頃を「Web 2.0ブーム」と分類して両者の違いを比較。「投資市場が主導していたドットコムブームに対し、Web 2.0ブームでは技術者やコミュニティが主導している印象が強い」と指摘した上で、「RSSやトラックバックといった標準化された技術により、今は個人でもサービスを立ち上げられる時代だ」と語った。

 Web 2.0のキーワードとして橋本氏は「創発的ディベロップメント」「芸術的プロダクション」「互恵的オープンネス」という3つを提示。創発的ディベロップメントについてはIT企業のラボ制度や開発合宿といった事例を挙げ、「個々人の能力を総和するというよりも、コミュニケーションによって知恵や才能を引き出している」と指摘した。

 芸術的プロダクションに関しては「YouTubeにせよmixiにせよ、誰かが欲しいサービスを作ったわけではなく、作ってみたら便利だったという需要創造モデル」と説明。技術中心でも市場中心でもなく、無数の仮説の中からいくつかを選んで開発していくという一種の芸術的な面があるとした。

 互恵的オープンネスとは、標準プロトコルやAPI公開、Webサービスなどの機能や技術を共有すること。「YouTubeのアクセスはSNSから多く流れている。また、楽天の売上の30%はブログから流れているという話もある」と語った橋本氏は、「分かち合いが囲い込みを上回る」と指摘した。


ドットコムブームとWeb 2.0ブームの違い 伸びているWeb 2.0企業の特徴

バーチャルワールド「Second Life」に見るインターネットの今後

ウノウの山田進太郎氏(左)、富士通総の湯川抗氏(右)
 ウノウの山田氏は、インターネットの黎明期と現在の違いを事例を挙げて説明。「無料で情報が手に入るYahoo!、安く買い物ができるAmazonや楽天、さらに安く買い物ができるeBayやYahoo!オークションなど、黎明期は早い、安い、うまいがキーワードだった」とし、対する2006年のインターネットは知識を共有するWikipedia、コミュニケーションを楽しむmixiやMySpaceなど、「楽しい、知的な刺激がキーワードになっている」とした。

 注目するWeb 2.0的サービスとしては、米Linden Labが運営する「Second Life」を紹介。Second Lifeとは、インターネット上の仮想空間の中でコミュニケーションを楽しむオンラインゲーム的な要素を持ったサービスだが、その特徴は「ほぼ無制限な世界」にあるという。

 山田氏は「Second Lifeにはショッピングモールやカジノ、電車などあらゆるものが存在する。自分で何かを作ってSecond Life内で販売し、換金できるなど、非常に自由度が高い」と説明。現実世界の店舗がSecond Life内で出展して実際に商品を販売する、Second Lifeの中で現実の書籍をデータ化して配布するという事例を紹介し、「少なくとも3,000人が年間に40万円以上を稼ぎ、毎月8億近い現実のお金が動いている」と語った。

 山田氏は「Second Lifeはすでに3年間で60万人のユーザーを集め、投資額も22億円に上る」とコメント。「mixiのようなSNSを突き詰めていくと、Second Lifeのようなバーチャルワールドに行き着くのではないか。さらには映画のマトリックスのような世界もあるかもしれない。今後インターネットという新しい世界をどう切り開いていくのか、Second Lifeには注目している」と語った。


Second Lifeの概要 Second Lifeの画面イメージ

Web 2.0とは「90年代に語られていたことが実現する過程」

湯川氏が考えるWeb 2.0が普及した原因
 湯川氏は、Web 2.0の提唱者であるティム・オライリーの論文について指摘。「7つの原則だけでなく、7つのアイディアや7つの企業コアコンピタンス、8つのデザインパターンなどが論文に含まれており、整理がないまま重複している論点も多い」とした湯川氏は、「整理がないままの状態だからこそWeb 2.0が普及したのだろう。これをオライリーが意図的にやっていたのなら大成功だったのでは」との考えを示した。

 次に湯川氏は、日本におけるWeb 2.0の解釈例として、梅田望夫氏の「ウェブ進化論」、小川浩氏と後藤康成氏の共著「Web 2.0 Book」の文章を引用。「オライリーの論点と比べると違うが、見事な定義だと思う」と評価した湯川氏は、一方で「こういう本が売れるのを見ると、今までインターネットの与える影響は信じられていなかったのかな」という感想を述べた。

 そう感じた理由として湯川氏は、90年代当時に到来すると言われていた情報化に関する書籍を紹介。「オンデマンドの到来、一人ひとりがテレビ局、群集の到来に知を、といった言葉は90年代当時のものだが、Web 2.0のコンセプトにも通じている。Web 2.0は90年代後半に語られていたことがやっと実現する過程の断面を切り取ったものなのではないか」との考えを披露した。

 今後注目すべきWeb 2.0的サービスに関しては、「インターネットが知識創造のプラットフォームとしての役割を担いつつある」とコメント。「Wisdom of crowds」と「Outsourcing」を掛け合わせた「Crowdsourcing」というキーワードを挙げ、不特定多数のアマチュアカメラマンの写真を安価に利用できる「ShutterStock」、研究の専門家と研究開発課題を抱える企業をマッチングする「InnoCentive」といったサービスを紹介。「“Power To The People”の時代へとインターネットが成熟しつつある今、プロとアマチュアの境目がどうなっていくのか」と語った。

 橋本氏は、湯川氏が挙げた「知識創造プラットフォーム」に同意を示した上で、注目するサービス事例として、タグを使ったサービス群を紹介。画像の一部分にタグできるRiya、動画の一部分にタグできるMotionbox、さらには人間関係や共通の目標などもタグ付けできるサービスを挙げた上で、「セマンティックWeb的なアプローチをユーザーが行なっていき、情報の次元を高めていくという点に注目している」と語った。


日本におけるWeb 2.0の解釈 90年代に登場したキーワードはWeb 2.0に通じるものが多い

市場シェアがトップでなくても生き残れる時代に

トップシェアを取らなくとも市場で成長できる
 パネルディスカッションでは、Web 2.0における企業のあり方についても言及。山田氏は「日本ではMySpaceやYouTube、del.icio.usなどの成功例ばかりが考えられがちだが、米国では動画共有だけでもサービスは170社以上存在して、35億近い投資が行なわれていると聞いている」と指摘。「実際には名も知られずに消えていく会社も多い。失敗を恐れずにやってみることも需要ではないか」との考えを示した。

 橋本氏は「API公開、RSSのような標準的技術、マッシュアップなどの概念により、技術的なトライアンドエラーがタダ同然になっていて、あとはアイディアが重要になってくる」とコメント。「海外でもWeb 2.0のサービスを探すと無数にある。その中で自然と選択されるからこそ、残ったサービスが面白いのではないか」と語った。

 湯川氏はFRIインターネット企業データベースの調査を引用し、「ネットバブル崩壊後に増収増益となった企業の4割は、ネットバブルの先行者ではなかった」と指摘。「かつてはトップシェアを取れないネット企業は生き残れないと言われていたが、2004年以降に上場したエキサイト、ディー・エヌ・エー、カブドットコムなどは一番手ではない。インターネットビジネスの成熟と共に市場シェアがトップでなくても生き残れるようになった」との分析を示した。これに対して山田氏は、「エキサイトは女性に強い、ディー・エヌ・エーはモバイルに強いなど、何かしら特徴を持っている」と指摘。「二番手であっても物真似ではない、味付けの違いも重要ではないか」と語った。


関連情報

URL
  CNET Japan Innovation Conference 2006 Autumn
  http://japan.cnet.com/info/cjic200609/


(甲斐祐樹)
2006/09/27 11:41
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