2007 International CES基調講演の3日目は、CBSのPresident and CEOであるLeslie Moonvesが登場。「あらゆるメディアにコンテンツを届ける」というコンセプトに基づき、CBSのインターネットを活用した取り組みを紹介した。
■ CBSは「あらゆるメディアにコンテンツを届ける」存在に
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CBSのLeslie Moonves のPresident and CEO
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Moonves氏は「人類の歴史を振り返れば、洞窟に住んでいた原始人の頃から古代ギリシャやビートルズブームまで、人々はコンテンツの観客となって感動を共有していた」と指摘。コンテンツはコミュニティとの結びつきこそが重要であり、「コンテンツをオンラインで見て、それをきっかけにテレビで見るという流れも重要なこと」と説明。「CBSは将来に一体何が起きるのかを見通した上で、コンテンツをさまざまな媒体で提供できるように準備している」とした。
あらゆるメディアにコンテンツを提供できる企業となるためにCBSが重視するのは「視聴者の声に耳を傾ける」こと。「ブログも含めてさまざまなメディアが存在する今、メディアの新旧はもはや問題ではない」と語ったMoonves氏は、「音楽業界は消費者の声に耳を傾けなかったから大きな損失を生み出した。我々は将来を勝ち抜いていくために最先端の技術を駆使することが、いかに重要かを肝に銘じている」とし、「今後どんなメディアや技術が登場するかはわからないが、それでも我々は絶対に負けない」との意気込みを示した。
■ テレビ番組を積極的にネット配信。ドラマの内容と連動したSNSも開設
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ドラマ「CSI」はインターネットや携帯電話でも配信
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講演の前半では、CBSのインターネットに対する主な取り組みや事例が紹介された。ドラマ「CSI:科学捜査班」は毎週6,700万人もが視聴するCBSの人気番組だが、ドラマはテレビだけでなくインターネットや携帯電話向けにも配信。視聴者の意見も番組に積極的に取り入れており、そうした意見の反映でドラマの人気キャラクターが生まれた事例も紹介され、CSIのプロデューサーを務めるAnthony E. Zuiker氏は「1つのアイディアがすべてを変えた」と、視聴者の意見を反映させる重要さを説いた。
CBSが買収したカレッジスポーツ放送局「CSTV」では、試合映像をネットで配信するだけでなく、複数のファンで視聴しながらファンと選手が交流できるシステムを構築。CSTVのBRIAN BEDOL CEOは「コンテンツとテクノロジーが一体となった好例」と自信を見せた上で、「どのような形でファンがもっと面白くコンテンツを見られるのかを追求している」との考えを示した。
ラジオネットワークのパイオニアとしても知られるCBSだが、Moonves氏は「ハイテクなインタラクティブコンテンツメディアとしてラジオを考える人はいないだろうが、リクエストや投稿、誰かに思い出の曲を捧げるなど、ラジオは最初のインタラクティブコンテンツではないか」とコメント。「ラジオ自体は歴史あるメディアだが、新しいインタラクティブなコンテンツもある」として、ラジオ番組のパーソナリティであるOpieとAnthonyを紹介した。
OpieとAnthonyの2人は、IMソフト「Paltalk」を利用してラジオ番組の模様をすべてWebでストリーミング配信するほか、視聴者がWebカメラなどで映した自分の映像もパーソナリティに届けられる。2人は「お互いが見えることでコミュニティが生まれ、リスナーの面白い発言を番組で使うこともある。ゲストもスタジオに来なくてもインターネットでバーチャルに参加できる」とコメント。番組は23時に終了するが、終了後もチャットやWebカメラ中継などは引き続き提供し、番組終了後もリスナーのコミュニケーションが自発的に続いているという。
CBSのドラマ「L Word」は同性愛者の恋愛模様を描いたドラマで、番組では登場人物たちが同性愛者向けのSNSを立ち上げ、スポンサーを募って運営を進めていく。CBSでは番組内のSNS「OurChart」を実際のサービスとして開始。視聴者がドラマの内容を話したり、番組へのフィードバックを送るというインタラクティブなサービスが可能になったという。
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ドラマのキャラクターへの「ネクタイを外したほうがいい」という要望を受け、“ネクタイを外させて”女性キャラクターを用意したところ、セクシーさから人気キャラクターに
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スポーツを一緒に鑑賞できるCSTVのシステム
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ラジオのリスナーの模様がパーソナリティに動画で送られてくる
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ドラマ発の同性愛者用SNS「OurChart」。同性愛者の出会いの場としても活用されているという
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■ YouTubeやSlingboxなどインターネット経由の動画配信も積極的に活用
基調講演の後半は、CBSとネット企業との提携によるサービス展開について述べられた。Moonves氏は前半で説明した取り組みを「コンテンツだけで完全でなければ、足りない部分は観客に付け足してもらえばいい」と総括した上で、「それと同時に他の企業とも協力し、我々のデジタルへのリーチをもっと良いものにしていく必要がある」との考えを示した。
ネット企業のパートナーとして最初に登場したのは、バーチャルコミュニティ「Second Life」を運営するLinden Lab創設者兼CEOのPhilip Rosedale氏。Rosedale氏はCBSの人気番組「スタートレック」の世界をSecond Life上で再現した映像を紹介し、「メディアというものは個人のそれぞれ独自な体験であったが、Second Lifeではリビングで一緒にテレビを楽しむ感覚でメディアを消費できる」とコメント。「Second Lifeを見た人は『こんなことができるのか』とみな驚くが、Second Lifeは何でも実現が可能な世界だ」と語った。
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Second Lifeを開発したPhilip Rosedale氏
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Second Lifeの世界で構築されたスタートレック
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Sling MediaのBlake Krikorian Chairman and CEO
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次に登場したのは、テレビの映像をインターネット経由で視聴できるハードウェア「Slingbox」を販売するSling MediaのBlake Krikorian Chairman and CEOで、Krikorian氏は基調講演の場で新サービス「Clip+Sling」を発表した。Sling MediaではSlingboxの動画の中から好きな部分だけを切り出してWeb上にアップロードし、他のユーザーと動画を共有できる。
Krikorian氏は、「SNSではコンテンツがコミュニケーションの触媒的な役割を果たす重要な役割。Clip+Slingではコンテンツに付加価値を使えることでテレビ局ともコラボレーションできる」とのメリットを説明。テレビ番組をインターネットにアップロードするというサービスがCBSというテレビ局の基調講演で発表されたインパクトは大きく、Krikorian氏の「技術は怖いものではなく、賢く使えば有益なものになる」との発言には、この日一番の大きな拍手が会場から送られた。
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動画の好きな部分をアップロードできる「Clip+Sling」
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アップロードされた動画を他のユーザーと共有することもできる
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YouTUbeの共同創設者兼CEOのChad Hurley氏
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CBSのコンテンツ提供で提携しているYouTubeについては、Moonves氏自らCBSの映像を使ったYouTubeのパロディ映像を紹介。「YouTubeで最も大きなコンテンツは他でもないCBS」と前置いた上で、「我々のコンテンツが別な形で編集され、それが自己表現の媒体になっている。YouTubeは我々にとって新たな開拓地である」と高く評価した。
YouTUbeの共同創設者兼CEOのChad Hurley氏も基調講演に登壇し、CBSと共同で行なったスーパーボウルのプロモーションについて説明。これはスーパーボウルの15秒プロモーション映像をユーザーから募るという企画で、優秀作品は決勝戦を放映する「スーパーボウルサンデー」で放映。Hurley氏は「CBSはこのプロモーションをテレビのパーソナリティを使って宣伝してくれた。CBSとの提携で面白いエンタテインメントを作るプロセスが生まれており、CBSと一緒にやっていけることは今後も非常に楽しみ」と賛辞を送った。
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CBSのドラマ「CSI」の決めゼリフだけを繋ぎ合わせたYouTubeの動画をMoonves氏が自ら紹介
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YouTubeとCBSで行なわれたスーパーボウルの15秒CMコンテスト
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■ URL
2007 International CES(英文)
http://www.cesweb.org/
CBS(英文)
http://www.cbs.com/
Second Life
http://secondlife.com/world/jp/
「Sling box」発売元Sling Mediaのサイト
http://www.slingmedia.jp/
YouTube(英文)
http://www.youtube.com/
(甲斐祐樹)
2007/01/10 19:13
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