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ホットスポットに足りないのは「周知徹底」?

左からNTTコミュニケーションズ加納貴司氏、NTT-BP藤龍人氏、ルート真野浩氏

左から総務省 井田俊輔氏、みあこネット高木治夫氏、ソフトバンクBB中村圭祐氏
 NetWorld+Interop 2003 Tokyoにおいて、「無線LANサービスの行方」と題したカンファレンスが行なわれた。いわゆる「ホットスポット」について、運営事業者・行政担当者が、現在発生している問題やサービスの進捗について議論した。

 カンファンレンスの参加者は5名。NTTブロードバンドプラットフォーム(NTT-BP)の藤龍人氏、NTTコミュニケーションズ(NTT Com)の加納貴司氏、ソフトバンクBBの中村圭祐氏、みあこネットの高木治夫氏。そして総務省総合通信基盤局の井田俊輔氏がそれぞれのの立場における概要説明を行ない、続いてまとめ役として参加するルートの真野浩氏が中心となって、質問形式の議論が行なわれた。

 各担当者から語られた無線LANサービスだが、その提供形態・理念は様々。まずNTT-BPの「無線LAN倶楽部」が「駅におけるPDAを対象としたコンテンツ配信」を切り口にしているのに対し、NTTコミュニケーションズのホットスポットは「外出先におけるインターネットアクセスを可能な限り手軽に提供するというスタンス」(加納氏)。

 ソフトバンクBBの「Yahoo! BBモバイル」は、ADSLサービスと一括して提供するオールインワンサービスの1つの構成要素としての側面が強い。またみあこネットは、京都で活動するNPO法人で、地方におけるインターネット・インフラ整備を目的に、自主的に活動しているものだ。

 また総務省の井田氏は、電気通信事業法の改正を説明。通信サービス業者参入を促すための各種規制緩和の事例を紹介した。特に、無線LANアクセスポイントの設置は従来、あくまでも地権者の同意が得られないかぎり認められなかったが、改正により、公益性が高いと認めらるものに関しては、設置に関して強制力を与えることが可能になったという。


「1年前の話じゃ、もっとどこでも使えるはずだったけど……?」

 日本における公衆無線LANサービスは、1年前の2002年春~夏ごろから急速にその数を増やしていた。各社とも相当数のアクセスポイントを設置し、まさに「どこでもインターネット」が実現する……はずだった。しかし実際には現在設置されるアクセスポイントは全国で約2,200カ所。中村氏によれば「ビジネスにするためには、2桁足りない数字」だという。

 カンファレンス後半のディスカッションでは、真野氏がその不満を参加者に投げかける形で開始した。

「1年前の話じゃ、もっとどこでも使えるはずだったけど……? (カンファレンスが開かれている)幕張メッセですらN+I期間中しか満足に使えない」。そしてパネリストに対し、アクセスポイント増設に関する進捗度合を、挙手の形で求めたが、みあこネットを除いて、いずれも当初予定より増設ペースが遅いという返答だった。ただし設置にかかるコスト面では、予想を逸脱していないともいう。

 また真野氏は同様に、会場の聴講者に対してもサービスに関する感想を挙手で求めた。聴講者からは「公衆無線LANはまだ思ったほど使えない。料金面でも不満」という反応が比較的多かった。

 続く「普及を阻害する最大の問題点は、なにか?」(真野氏)の投げかけに対し、まず答えたNTT Comの加納氏は、サービス自体のアピールが足りていないのでは、と分析した。「無線LANは、外出先から社内のネットワークにアクセスできるといった使い方があるが、それをより現実的な形で見せられていないかもしれない」(加納氏)

 ただし、NTT Comとしては、同社の無線LANサービスを広めるにあたって、やみくもに広告を出稿しても意味がない、というのが基本的な考え方。月額ではなく、1日限定利用が可能な料金体系を用意したり、無料チケットをPCにバンドルするというような、実際の利用シーンに則した手法をとっているという。その上でさらに、ファストフード店、大学といったそれぞれのホットスポット環境を意識した活用スタイルを提示する必要ではないかと見ている。

 またソフトバンクBBの中村氏も続く形で答えた。「Yahoo! BBモバイルは無料なので、料金面での不利はないはず。なのにADSLサービス利用者に対し、Yahoo! BBモバイルの再告知を行なったところ、1,000人くらいが一気にYahoo! BBモバイルの登録を行なった。潜在的なユーザーは多いのだろうが、周知できていないという不安は確かにある」


モバイルIP電話はキラーコンテンツなのか

 今回のカンファレンスにおいて、無線LANの今後を考える上でのキーワードとしてパネリストがあげたのたは、主に料金、エリア、コンテンツ、デバイスの4つ。このうちコンテンツについては、IP電話が果たしてキラーコンテンツになるのかということに話題が集まった。

 ここでいうIP電話とは、一般的な電話機を使った物ではなく、携帯電話的に使えるIP電話のこと。PDAにイヤホンマイクをつけただけの形態から、シスコシステムズなどが発売する専用端末のものもある。

 「IP電話=キラーコンテンツ論」についても聴講者から挙手を募ったが、返ってきたのはどちらかというと懐疑的な反応。パネリストからも有望性については慎重な意見が多数を占めた。

 ソフトバンクBBの中村氏は「誤解を生むかもしれないが」と前置きをした上で、「やる・やらないは別としてIP電話は十分魅力的。ただしここまで普及した携帯電話の市場を覆せるかは微妙。圧倒的な安さや会員間通話無料といったものがなければ、単独では厳しいのでは」と、私見を語った。


セキュリティの優先度合い

 また討論は無線LANのセキュリティにもおよんだ。その際、真野氏はある数値「25.9%」を例示。これは石川県金沢市をウォー・ドライビング(特殊なソフトを使って、セキュリティ対策がなされていない無線LANを見つけようとする行為)した結果で、4,000以上のアクセスポイントを発見したうち、WEPなどセキュリティ対策が施されているのは、25.9%にとどまったという。

 このように無線LANは利便を提供する一方で、運用上の問題もはらんでいる。それだけに商用無線LANサービスでも、セキュリティ面は重要視されるべきではとの問いに、すべてのパネリストは同意を表明。とくに利用者の特定には最大の注意を払っているという。

 またソフトバンクBBはADSL事業者として、ユーザーに直接無線LANに対応したモデムを貸与している関係もあり、今後は機器の出荷段階で、ランダムな文字列をWEPやSSIDとして設定済みにすることを検討しているという。

 ただこのWEPやSSIDを設定済みにする行為は、ユーザー利便、特にPC初心者に対しての利便を損なうではとの認識もある。今回参加した事業者の多くがそのバランスについて難しいと語っていたが、みあこネットの高木氏は「あくまでもセキュリティ最優先」を主張。「セキュリティを完全にした上でユーザー利便性を追求しなければ、無線LAN全体の信用に関わる」と述べた。


ローミングやアクセスポイントの増加がカギ?

 カンファレンスは90分の予定を若干オーバー。最後にNTT Comの加納氏は今後、「アクセスポイントの有効利用が重要」と語り、同社としても夏~秋をメドに他事業者とローミングする計画があることを表明した。

 また真野氏が「また来年のこの展示会のころには、アクセスポイントが倍の5,000カ所くらいになっていてほしい」とホットスポットへの期待を語って終了。果たして無線LANもADSLのような爆発的普及を見せるか。試練の年は、まだ続いている。


関連情報

URL
  NetWorld+Interop 2003 Tokyo
  http://www.interop.jp/


(森田秀一)
2003/07/04 11:47
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