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JANOG、ネットゲームの“作り方”を実演

 NetWorld+Interop 2003 Tokyoにおいて、スペシャルセッション「JANOGセッション オンラインゲームが要求するネットワーク環境と現状の問題点」が催された。現役ゲームクリエイターが参加、仮想のオンラインゲーム企画を通じて、開発の現状などを解説した。

 このセッションを開催したJANOG(JApan Network Operators' Group)は、インターネットに関する技術動向などを議論するユーザーグループ。メーリングリストのよる討議のほか、年数回のミーティングを実施しており、今回はオンラインゲームが題材として取り上げられた。

 セッションでは“オンラインゲームを企画する”という発想のもと、パネリストが仮想的なゲーム企画を作成。それを実現するための具体的な用件にふれていく格好で進められた。司会進行はJANOG運営委員の向井将氏が務めた。


家庭用ゲーム機はスペックが足りない

左からカプコン第1開発部の須藤克洋氏、セガ ネットワーク研究開発部の阿形佳美氏、JANOG運営委員 向井 将氏
 まずゲームの企画発表に先立って、セガ ネットワーク研究開発部の阿形佳美氏が家庭用ゲーム機におけるオンラインゲームの基礎について説明した。

 家庭用ゲーム機は安価に提供しなければならないため、パソコンと比較した場合、まずスペック面でのデメリットを背負っている。「CPUは非常に貧弱で、メモリ量の問題から、コンピュータを制御する上で必要なOS自体がない、もしくはあっても必要最低限なケースがままある」という。またCD、DVDの読み込みが可能な光学ドライブのみを搭載し、ほとんどの場合HDDに対応してしないのが実情である。

 とくにCPUの問題は深刻。限られたスペックを有効に使うために、メモリの内容などを随時最適化しているが、プログラム上、「割り込み」「タイマー割り込み」という処理はその最適化に悪影響を与えてしまうため、扱うことが難しいという。

 またCDなどは書き換えが不可能なメディアであることから、一度完成してしまうと、修正ができない、修正するためには再プレスのため多大なコストが発生することになる。またOSがない場合、通信プロトコルを実現するためのプログラムすらもゲーム本体に搭載することになるため、プロトコルの変更などが簡単にできない。

 また阿形氏によれば、オンラインゲームの開発にあたってもっとも課題となるのが画面表示の問題だという。

 画面表示はゲームの肝とも言える見栄えを左右する部分。また何かを操作するというゲームの特性上、コントローラから入力したデータを素早く画面表示に反映させなければならない。これを処理するために、通常のスタンドアロン型のゲームは、画面の描画単位(日本におけるNTSC方式テレビの場合、1秒間に60回)を基本にプログラムを処理している。

 ただしオンラインゲームになるとこれはまったくそぐわない。ネット環境はもともと遅延とは切っても切り離せない関係にあるため、たとえばデータの送受信を待っていては、到底描画に間に合わないためだ。「これをいかにごまかすか、ということに腐心している」のだという。

 この問題への対応はゲームのルールを工夫することで行なう。端的に言えばサッカーなどのような完全リアルタイム型ではなく、将棋や囲碁などにみられる「ターン制」のルールを採用することも考えた方の1つだという。


 遅延そのものに対処すべく、ネットワーク構成「トポロジー」をどのようにするか、も重要な選択だという。阿形氏は選択肢として通信をすべてサーバー経由で行なう「スター型」、参加者間でP2Pの直接通信を行なう「メッシュ型」、その2つを混ぜ合わせた「ハイブリッド型」の3種があるとしたが、現実にあるオンラインゲームではスター型のトポロジーを選択せざるを得ない、と語った。

 その背景にあるのがルータの「NAT機能」への対応だという。つまり「ユーザー側のルータを越えられるかどうか」だ。メッシュ型の場合、ユーザー側でポート変換の登録などを行なう必要がある。「現在は相当数のユーザーが何らかの形でルータを利用しており、この問題に対処できなければ初心者がゲームをできないことになってしまう」と阿形氏は述べ、同様の理由で通信プロトコルも、UDPではなくTCPが大勢を占めていると分析した。

 阿形氏はまとめとして、「基本的にインターネットプロトコルは、家庭用ゲーム機にそぐわない点が多い。また、遅延への対策をゲームルール上で織り込む必要があるが、一方でルータ越えなどを考慮した設計を行なわなければならない」という、苦しい事情を明かした。


プログラムの設計

 カンファレンスは続いて「仮想の家庭用オンラインゲーム企画」に進む。まずカプコン第1開発部の須藤克洋氏が仮想のオンラインレースゲームをプレゼンテーションした。「2~18人同時対戦が可能」「ボイスチャット対応」「クレジットカード、プリペイドカード、ISP課金に対応」「制限付きの無料体験版を配布」「販売数70万本」「月額600~900円程度の課金」といった各種の要素を挙げ、より現実的なプログラム仕様への落とし込みをセガの佐藤正博氏に引き継いだ。

 佐藤氏は課金処理など、必要な対策を列挙。コスト面やゲーム全体の統一感のバランスを考え、各事項ごとに外部の汎用プログラムを採用するか、専用プログラムを新たに開発するかといった内容を決めていく。

 これらの設計がなされた上で、ゲームに必要なデータ転送量を計算。4/60秒ごとに100バイトのデータをサーバー間でやりとりすると仮定した場合、1ユーザーあたりの必要帯域は毎秒1.5KB。これは144kbpsモデムで十分対応可能なスペックだという。

 また販売数の約50%がオンラインサービスに登録、30%が同時にサーバー接続したとすると、毎秒1.5GBクラスの回線をサーバー側に用意しなければならないことになる、というのが結果だった。

 ただしこれはゲームのメイン部分のみでの話。仕様の1つであるボイスチャットに対応すると「データ容量がさらに2.5倍になるだろう。回線コストなど考慮すると、ボイスチャットのみサーバー経由ではなく、P2Pにしたほうがよい」と語った。

 そしてオンラインゲームにつきものと言えるのが「チート」と呼ばれるルール破りの行為。偽のクライアントを製作して本サーバーへの接続を試みたり、保存されているユーザーデータの書き換えなど多種多様な方法が実際に行なわれているという。根本的対策が無く、「完全にイタチごっご」(佐藤氏)と、さすがにさじを投げた状態。対症療法を余儀なくされていることを伺わせた。

 これ以外にも実際の開発を想定すると、ユーザーが使用しているルータとの相性・動作検証、負荷テストが発生することを指摘。スタンドアロン型ゲームと比較して、多くの検証事項があることを付け加えた。


具体的なサーバー規模は

左からアバヴネットジャパンの笹木一義氏、スクウェア・エニックス ネットワークシステム部の伊勢幸一氏、セガ 技術開発センター 佐藤正博氏
 佐藤氏の設計を引き継ぎ、今度はスクウェア・エニックスの伊勢幸一氏がサーバー構成など、要求される配信業者側に要求される具体的スペックなどを解説した。

 伊勢氏はまず、佐藤氏が最後に語ったゲーム周辺のサポート要因に付け加える形で各種の補助サービスが必要なことを挙げた。まず、サーバー自体が無事に稼働しているかを監視したり、プレイヤーがゲーム内部で困っている内容をサポートするためのサポートツールなどが必要になる。また専用ツールだけでなく、修正プログラムを配布するためのパッチ専用サーバー、会員管理用サーバーなども必要になってくる。それらを勘案して、実際にはネットワークを作っていくという。

 伊勢氏は、所属するスクウェア・エニックスの多人数同時参加型のオンラインRPG「ファイナルファンタジーXI」の構成と比較しながら、今回の仮想ゲーム企画に必要なサーバー構成を仮定した。それによると会員規模から、2GHzクラスのCPUを2機、1GBのメモリ、1000BASE-Tインターフェイスを搭載したゲームサーバーが約130台、インターネットへの接続回線として、ギガビットクラスの回線をサービスの運用性の観点から2本用意する構成が適当では、と語った。

 さらに、システム投資額としてサーバー側設備の構築だけで1000万円台のコスト、サーバー管理費、ユーザーサポート運営用に数百万円の月当たりランニングコストがかかるだろうと見積もっている。

 伊勢氏は「ゲームサーバーにWindows系OSを使うとシステムの初期投資額が減るが、ゲームサーバーを頻繁にリセットする必要があるだろう」「回線不通などが発生した場合は、プログラムなどによる自動対応ではなく、人手を使った方が結果的に早く復旧できる」など、経験則からともとれるエピソードを披露。聴講者の笑いを誘った。一方で「オンラインゲームの場合はエンド・トゥ・エンド間全体のクオリティが大切。一部分だけが優秀であっても意味をなさない」と、オンラインゲームを提供する上での難しさを語った。

 また、大規模オンラインゲーム専用のネットワーク運用サービスを展開するアバヴネットジャパンの笹木一義氏は「オンラインゲーム業者は、品質要求が非常に高い。しかし結果的に弊社のサービスレベルが上がるなどの副次的な効果があり、他業種クライアントへのフォローが必要なくなるほどだ」と嬉しい悲鳴を上げた。同氏の立場から見た場合、「オンラインゲーム業者は各ISPのリアルタイム品質情報を持っている。是非ISPへの品質改善要求の裏付けデータとして活用してみては」と意見を述べた。

 カンファレンスの最後には、一般聴講者から質問を受け付けた。Universal Plug and Play(UPnP)のような、NAT問題を回避できる機能をサポートできないのかという質問が上がり、セガの佐藤氏は「そのような機能があることはもちろん認識している。ただしその類の機能はマシンスペックを要求することが多く、画面表示・画質を優先する家庭用ゲーム機では利用が不可能な場合がある。また新機能のサポートで、どの程度のユーザーが救われるかという数値が不明確な以上、開発コストの問題もあり、いたずらにサポートできない」と答えた。


関連情報

URL
  JApan Network Operators' Group
  http://www.janog.gr.jp/
  NetWorld+Interop 2003 Tokyo
  http://www.interop.jp/


(森田秀一)
2003/07/04 12:39
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