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【OGC 2009】
「同期コミュニケーション」も目指すニコ動~ニワンゴ杉本社長

 オンラインゲームとコミュニティをテーマとしたカンファレンス「OGC 2009」で、ニワンゴ代表取締役社長の杉本誠司氏による講演「進化し続けるニコニコ動画、今後の展開について」が行われた。「ニコニコ動画」が将来的にマスメディア化を目指す中で、「同期コミュニケーション」に注力する姿勢を示した。


「非同期コミュニケーション」で1000万会員

ニワンゴ代表取締役社長の杉本誠司氏
 杉本氏はまず、ニコニコ動画の現段階における特徴として「非同期コミュニケーション性」を改めて指摘した。ニコニコ動画にアップロードされた映像は、タイムラインをベースにコメントが記録されている。このため過去につけられたコメントであっても、動画が再生されるたびにあたかも現在コメントがつけられたかのように見える。同じ時間にユーザーが居合わせなくても、疑似的にリアルタイム感覚を得られるという「非同期性」が、ニコニコ動画の大きな魅力という。

 また杉本氏は「我々としては動画共有サービスをやっているという意識は薄く、あくまでもコミュニケーションの場を提供することが大きな目的」とその方向性を説明。極論すれば動画自体、ユーザーに集まってもらい、コミュニケーションを盛り上げるためのツールに過ぎないと語る。

 ニコニコ動画の会員登録者は2008年12月時点で1030万人。毎月50万人増のペースで伸びているという。有料会員の登録者数は22万7000人。

 一方、携帯電話向けサービスのモバイル会員は275万人。杉本氏自身も「モバイルにはまだまだ大きな伸びしろがある」と期待感を表す。特に2008年11月にはソフトバンクモバイル向けにサービス提供を開始、「実数は明らかにできないが驚くべき数値だった」と相当数の会員が増えたことを示唆した。また、モバイル会員の増加によって、10代の若年ユーザーが増加していることも最近の傾向という。

 ニコニコ動画内におけるユーザー動向の特徴としては、1日あたり34.5分という平均滞在時間の長さが挙げられる。杉本氏によると、ニコニコ動画は1000万会員を抱えるサイトとしては他の同規模サイトとしてページビュー(PV)が低い。「(1日あたり約6500万という数値は)他のポータルサイトと比較して1桁違うほど(低い)。広告媒体としての価値を考えた場合、平均滞在時間が新たな指標になる可能性があるので注目している」と補足する。


2008年12月時点の会員数 1日あたりの平均利用状況。滞在時間の長さが特徴という

一般ユーザーを取り込むには「同期コミュニケーションが重要」

同期コミュニケーションの一例である「ニコニコ生放送」。ソフトバンク対オリックスのプロ野球中継やアニメロサマーライブの人気が特に高かったという
 杉本氏はニコニコ動画が目指すべき方向として「非同期コミュニケーションを中心としたサービスで1000万会員を獲得したが、まだまだ増える可能性はあるし、そのためにはもっと多くの人に知ってもらう必要がある。そのためにも、チープな言葉ではあるが一般化、マスメディア化を目指したい」と語る。

 ネットに精通したマニア層だけではなく、ごく一般的なユーザーを呼び込むためには、間口を広げる必要性がある。具体的には、社会的に役立つ情報、リアルタイム性の高いコンテンツを提供することが鍵になると杉本氏は言及。非同期コミュニケーションだけではない、同期コミュニケーションの重要性を示した。

 同期コミュニケーションの提供にあたっては、ライブ画像をリアルタイムに映像共有する「ニコニコ生放送」を筆頭にすでに多数の取り組みが実施されている。特に、政党と協力しての政見放送などは、社会的に役立つ情報提供を目指す上での最たる例だという。

 杉本氏は「最大1万人で同時に見る生放送は、臨場感やリアリティが非常に高い。また、映し出されている映像そのものがコメントに反応することも大きな付加価値だ」と、非同期とはまた異なった楽しさを提供できていると説明する。

 また2008年12月中旬からは、ユーザー自身が生放送できるサービスを有料会員向けに提供開始した。このユーザー生放送は最大100枠まで同時放送できるが、早朝などの時間を除きほぼすべての時間帯で100%近い利用率を誇るという。「1月末までの約1カ月半という期間で、3000近い生放送が行われた。ここから新たなクリエイターが登場する可能性もあるし、またこれだけのコンテンツを生み出せるパワーがニコニコ動画という場にはある」と杉本氏は語り、コミュニティの潜在能力の高さをアピールした。


有料会員向けに、ユーザー自身による生放送機能も提供している ユーザー生放送を視聴したことのあるユーザーはおよそ33万人

 このほか大規模チャットが可能な「ニコニコ広場」、動画視聴中に突如割り込んでアンケート回答を求める「ニコ割アンケート」も、同期コミュニケーションを意識したサービスだ。ニコ割アンケートは政治的なテーマでも実施されており、同様のテーマで行われた新聞世論調査とも近似した結果が出たという。ただ集計方法についてはネットならではの強みがあり「突如行われるので組織投票が難しいし、回答の母数も平均7~8万と多い。また10分程度で結果が集計できる」と杉本氏はアピールしていた。

 間口を広げる意図からは、企業や団体の公式動画を配信する「ニコニコチャンネル」も開始した。杉本氏は「熟練ユーザーからの投稿だけでは、リテラシーの低い一般ユーザーに違和感を与えるおそれもある。わかりやすいポピュラーなものも見てもらい、コミュニケーションのきっかけにしてもらえれば」と杉本氏は補足する。


ニコ割アンケートは回答者数の多さ、短時間集計が特徴だ ニコニコチャンネルでは、著名企業・団体の公式動画が楽しめる

“非同期”と“同期”でコミュニケーションの場を広げる

 杉本氏からは、ニコニコ動画がなぜ非同期コミュニケーションを志向したかも語られた。「ニコニコ動画はゼロから開発スタートした以上、当初は『利用者が多くいるように見せなければ』という思いがあった。非同期だけにこだわっていたわけではなかった」という。

 サービスを広げていくにはユーザーの盛り上がりが欠かせず、最小限のユーザーで最大限の賑わいを表現する手法が非同期コミュニケーションだった。これが効果的に機能し、非同期コミュニケーションだけでも1000万会員を獲得。コミュニティとして確立したのがニコニコ動画の現状だ。そして前述のマスメディア化を目指す以上、同期コミュニケーションの充実に力を入れることは自然な成り行きだったとも言えよう。

 杉本氏は「もちろん非同期からの脱却を目指すわけではなく、同期をも含めてコミュニケーションの場を広げていくことが目標。今後も同期にこだわって新しい施策を進めていくので注目してほしい」と講演をまとめている。


関連情報

URL
  OGC 2009
  http://www.bba.or.jp/ogc/2009/
  ニコニコ動画
  http://www.nicovideo.jp/

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(森田秀一)
2009/02/06 11:22
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