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N+I講演「電波を使わない“IP放送”の現状は?」

 幕張メッセで開催中のネットワーク関連展示会「NetWorld+Interop 2004 Tokyo(N+I)」において、コンファレンス「IP放送はどこまで広がるか」が開催された。ADSLなどの通信回線を使って行なわれる「IP放送」の現状と展望について分析が行なわれた。


海外でも展開例は多数

司会を務めたシスコシステムズの大和敏彦氏(左)と、ビー・ビーケーブルの大出富康氏
 講演冒頭ではまず、司会を務めたシスコシステムズ大和敏彦氏がIP放送を取り巻く環境を解説。「日本はすでに1500万世帯にブロードバンドが導入されるなど、世界でも類を見ないほどのブロードバンド普及国。すでにインフラ面での整備が十分整いつつある」と言及した。

 続いて「IP放送に必須の映像圧縮、ストリーミング、著作権保護(DRM)といった技術面での課題もクリアされ、特にセットトップボックスを使ったIP放送は容易に行なえるようになった。ただしこれが果たしてビジネスとしてやれるのか、という点については多くの人が答えを求めているだろう。」とし、IP放送普及への障害は、おもにビジネスモデル面での問題である、との認識を示した。

 大和氏は海外での成功例として、イタリアで展開中の「FastWeb」がサービス開始から2年ほどで黒字化を達成している事例を紹介。成功要因は様々なものが考えられるが、インターネット閲覧やIP電話と組み合わせた複合サービスであることに加え、なおかつ既存のCATVと比較しても引けをとらない価格設定があると大和氏は分析。映画やサッカーといったキラーコンテンツの取扱に成功している点も大きいという。


IPさえ届けばどんな端末でも閲覧可能

 続いてビー・ビーケーブルの大出富康氏が、同社が日本で展開する「BBTV」の現状を説明した。

 BBTVは、ADSL回線とセットトップボックス(STB)を用いた映像配信サービス。電波や同軸ケーブルで映像信号を受信するのではなく、インターネットで用いられるプロトコル「IP」をベースに、映像を配信するのが最大の特徴だ。放送するコンテンツはCSなどでも放映される有料チャンネルの再配信と、VOD(Video On Demand)が中心になる。

 大出氏がIP放送の最大の特徴としてあげたのは「IPパケットさえ届けば、どんな端末からも視聴できること」。専用の受像器やチューナーを用意することなく、汎用性の高いIP機器であればパソコン以外に携帯電話やPDAといった端末からも閲覧できるほか、ADSLやFTTH、ワイヤレスといった通信手法を問わない点も大きいという。

 すでに集合住宅向けなどには、光ファイバー回線を使った同様の放送サービスも提供されている。ただし、これは「光ファイバーでは複数の信号を同時に流せるという特性を活かしたもので、すべてをIPで処理するという形態ではない。専用受信機も必要となるため、将来的にはフルIPによる放送サービスが理想的では」という見解を大出氏は示した。

 大出氏は、IP電話などで用いられる最低品質保証の手法が進化したことに加えて、DRMの存在がコンテンツ権利者側に認知されつつあり、コンテンツを集めやすい状況ができつつあると説明。 ただし、技術面では可能であっても、「コンテンツ保護の面で課題が大きい」のだという。STBではコンテンツの暗号化が効果的だが、パソコンなどでは機器が汎用的なために対応が難しいからだ。

 法律的な面での障害も大きいという。BBTVは、通信回線を用いた放送を可能にする法律「電気通信役務利用放送法」の制定という規制緩和によって可能となったサービス。だが、著作権法的には「有線放送」と認められないため、その分著作権処理が煩雑になっている状況だ。大出氏はこの問題を特に強く強調した。

 なお、BBTVの取り組みの1つとして、「G-Cluster」と呼ばれるオンラインゲームサービスも紹介された。これは従来型のものとは違い、ゲーム的な処理の一切をサーバー側に任せ、クライアント側では描画のみを行なうというもの。端末に応じたプログラムを開発する必要がなく、ソフトウェア自体をユーザー側環境にインストールする作業も不要になるという。「新たなソフトの配布・流通経路としての発展が期待できる」(大出氏)としたが、サービス開始時期については「鋭意開発中」とするのみで、具体的な日程は明かさなかった。


視聴端末の多様性が重要

左からシーチェンジ・インターナショナルのリンカーン・オウエンズ氏、有線ブロードネットワークスの二木均氏
 有線ブロードネットワークスの二木均氏は、FTTHサービス「BROAD-GATE 01」のユーザー向けに展開している映像配信サービスの実態について具体的に紹介した。同社では、もともと音楽の有線放送サービスを事業とする経緯から、インフラとコンテンツが一体になったサービスを標榜。「単一の大型サーバーを使った映像配信サービスが失敗した事も踏まえ、全国各地にキャッシュサーバーを配備する分散型のネットワーク構成を採っている」と説明した。

 コンテンツの運用面でも、人気の高いコンテンツを常時把握できる体勢を整えているとのことで、コンテンツの定期的な入れ替え、更新にも力を入れているという。特に最近は芸能界の話題も反映してか、韓国ドラマにアクセスが集中。対応に苦慮したとのことだ。

 二木氏のまとめでは、「テレビがいわゆる“ながら視聴”向けの媒体なら、DVDはコンテンツを見る意識が強いケースに使われるもの。ネットの映像配信サービスは、そのDVDになりうるもの」と主張。その上で、高齢者でも使いやすい端末や、携帯性の高いブロードバンド端末の必要性などを示唆した。


北米ではCATV業者がVODを牽引

 最後に講演したリンカーン・オウエンズ氏は、ビデオサーバーの専門メーカー「シーチェンジ・インターナショナル」に在籍。同社の主要市場である北米のVODサービスの現状を解説した。

 オウエンズ氏によると、北米地域では従来からあるCATVの業者が、VODサービスに参入するケースが特に多い。最大手であるComcastの加入者数は2003年6月の段階で約2200万、うち800万がVODサービスを利用するという。

 中でも、2001年から、東海岸地域を対象にVODサービスを行なう「Philly Vision」は、定額制の見放題サービスやテレビ向けコンテンツのオンデマンド配信など、サービスの幅を広げることで利用者の拡大に成功。加入者の1カ月あたりコンテンツ視聴件数を1件から5件程度までに引き上げた。

 オウエンズ氏はこの背景を「無料サービスもあわせて提供することで、ユーザーが専用端末の操作になれたり、購入直前のためらいを緩和させたことがあったのではないか」と説明。コンテンツをオンデマンドで見るという習慣づけが重要だったと見る。また、思わぬ副産物として、解約率を14%軽減させる効果もあったという。

 VODサービスそのものは堅調な印象だが、フルIPの映像配信サービスはまだ少なく、カナダの「Telus」という業者が開始しているものの加入者は約1万程度だという。といっても映像配信ネットワークの部分的なIPネットワーク化は進んでおり、オウエンズ氏によると「バックボーンに相当する部分はギガビットクラスのイーサネット化が進行しており、加入者宅のラスト1マイルだけが同軸ケーブル、というケースは多い」としている。

 また興味深い事例としてあげられたのが、STB用ユーザーインターフェイスの進化だ。テキストベースの従来型から、再生中の映像の上に視聴用メニューをオーバーレイ表示する形式へと見た目的に変わりつつあるのは自然な流れであるのだという。ただしそれだけにとどまらず、最近では、全VODコンテンツにアクセスできるルートメニューをいきなり表示するのではなく、再生中の映像に合わせたコンテンツ一覧をいったん表示するという手法ができているという。

 現地のテレビ関係者の間では、視聴中の映像を他のものに切り替えられてしまう状況を深刻に捉えており、少しでもこれを緩和したい意図がある、とオウエンズ氏は説明する。いかにもテレビ大国アメリカらしいエピソードと言えるだろう。

 オウエンズ氏が今後の方向性としてあげたのが、「DVD On Demand」だ。「映像を単に流し続けるのではなく、チャプター操作や音声の切り替えといったDVD的な機能も要求されるようになるだろう」と語った。


関連情報

URL
  NetWorld+Interop 2004 Tokyo
  http://www.interop.jp/


(森田秀一)
2004/06/30 19:03
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