東京ビッグサイトで開催中の「WIRELESS JAPAN 2004」の併催イベントである「次世代ワイヤレス技術展」で22日、次世代ワイヤレス技術の全貌と題したコンファレンスが行なわれ、総務省総合通信基盤局の竹田義行氏と、情報通信研究機構(NICT)の塩見正氏が講演した。
■ 周波数の再割り当てで、4G携帯や無線LAN用に周波数を確保
総務省の総合通信基盤局電波部長を務める竹田氏は冒頭で、2004年5月末現在で国内の携帯電話は約8,233万台、そのうちの85.8%にあたる約7,063万台がインターネットに接続可能な機種であるという携帯電話の普及状況を示した。2001年から各社がサービスを開始した第3世代(3G)携帯電話についても、加入数が約1,855万台、全体の21.6%にあたる順調な普及を見せており、今後はさらに2010年前後のサービス開始を目標とした第4世代(4G)の移動通信システムに向けて取り組んでいる最中であると語った。
現在の3Gサービスのデータ通信速度は384kbps~2.4Mbpsだが、4Gサービスが目標としているデータ通信速度は100Mbpsで、高速移動中でも利用可能であることを条件としている。こうした超高速の通信サービスを実現するための総務省の取り組みとしては、研究開発プロジェクトをNICTを中心に産官学の連携プロジェクトを発足し、超広帯域移動通信伝送技術、無線ソフトウェア技術、メディアハンドオーバー技術、無線セキュリティプラットフォーム技術などについての研究開発を行なっていることを紹介した。また、国際標準化に向けては、2007年に行なわれるITUのWRC-2007会議に向けて、周波数要求条件などを検討しているという。
竹田氏は、現在のところ4Gサービスの周波数帯としては、3~5GHz付近が有力な候補ではないかとしたものの、この帯域は現在のところ各種レーダーや放送中継などに用いられている。また、既存の携帯電話や無線通信に用いられている周波数帯も、他の用途と重ならない空いている部分を細切れに割り当てていった形となっている。こうした点も踏まえて、竹田氏は今後の電波政策のあり方として、抜本的な周波数割り当ての見直しと、周波数の再配分・割り当て制度の整備、電波利用料制度の見直しが必要であると述べた。
周波数の再編方針としては携帯電話を含む移動通信システムについては、現状では約270MHz幅となっている割り当てを、5年後には330~340MHz幅に、10年後には1,060~1,380MHz幅を確保するとしている。現在、5GHz以下の帯域で利用されている防災無線・空港無線電話・放送中継などの領域の移動や、テレビのデジタル化により空きが見込まれるUHF帯の一部などの活用により、移動通信システム用の帯域を確保する方針となっている。
無線LANなどのデータ通信用としては、現在割り当てられている約200MHz幅を、5年以内に最大480MHz幅、10年以内には最大740MHz幅の周波数帯に増やしていく方針だという。現在5GHz帯で利用されている電気通信事業者の固定通信や気象レーダーなどの帯域の再割り当てや、準ミリ波・ミリ波帯(59~66GHz)での通信技術の開発・導入により帯域を確保する見通しとなっている。
■ 4G以外には衛星・成層圏通信なども実証段階に
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情報通信研究機構(NICT)の理事を務める塩見正氏
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続いて講演を行なった塩見氏は、NICTが行なっている次世代ワイヤレス技術の研究開発の状況を紹介した。NICTは2004年4月に、それまでの通信総合研究所(CRL)と通信・放送機構(TAO)を再編した研究機関で、通信・放送に関するさまざまな研究を産官学で行なっている。
塩見氏は、NICTで研究開発を行なっている次世代ワイヤレス技術として、総務省の竹田氏の講演にもあった4G通信システム実現のための新世代モバイル研究開発プロジェクトのほか、成層圏プラットフォーム無線通信システム、超高速衛星通信システムなどを紹介した。
新世代モバイル研究開発プロジェクトでは、高速通信を実現する超広帯域移動通信伝送技術の開発のほか、種類の異なる無線サービスを組み合わせて利用できるメディアハンドオーバー技術、モバイルコマースなどの用途を想定した無線セキュリティプラットフォーム技術を主要な技術課題としているという。
現在、メディアハンドオーバー技術については実証評価をすでに開始しており、救急車から患者の容態を病院にリアルタイムに送信するシステムなどの実験を行なっていることが紹介された。救急医療用通信システムとして行なわれた実験では、通常時には携帯電話やPHSを用い、無線LANのアクセスポイントのそばではIEEE 802.11a/b/gを用いた通信をシームレスに行なうことができたという。また、低速通信時には脈拍などの緊急性の高いデータのみを送信し、高速通信が可能な時点で高精細な静止画を送信するといった、通信速度によって自動的にアプリケーション側の動作を変化させるシステムの開発も行なわれたことが紹介された。
このほかの次世代無線通信システムとしては、地上20km程度の成層圏に配置した飛行船を基地局として利用する「成層圏プラットフォーム無線通信」や、衛星を利用した高速通信システム「WINDS」が紹介された。成層圏プラットフォーム無線通信システムは、太陽電池を動力源としてある一定の領域内に滞在しつづける飛行船を成層圏に配置し、通信の基地局として利用しようという計画で、2002年にはNASAとの共同実験により成果が確認できており、実用化に向けて研究を進めているという。また、衛星を利用した高速通信システム「WINDS」については、2005年までには実際の衛星を打ち上げて実証実験を開始し、2010年を目処に実用化していきたいということだ。
■ URL
WIRELESS JAPAN 2004
http://www.ric.co.jp/expo/wj2004/
(三柳英樹)
2004/07/22 19:15
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