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パネルディスカッション「日本における“ユビキタス”の未来図」

 東京ビッグサイトで開催中のワイヤレス技術展「WIRELESS JAPAN 2004」で、パネルディスカッション「2010年のユビキタス社会に向けて」が開催された。参加者は開発者や学者といったそれぞれの立場から、意見交換を行なった。


ユビキタスならではの問題とは

左より東京大学大学院 助教授の森川博之氏、KDDI研究所 代表取締役所長の浅見徹氏、DoCoMo USA研究所社長の栄藤稔氏
 今回のディスカッションでモデレーターを務めたのは、東京大学大学院の森川博之助教授。同氏はまず、ユビキタス社会実現のためのステップをいくつか例示。IPをベースとしながら、広範な通信エリアを確保すること、あらゆる機器間で連携を行なえること、そしてセンサーやモーターを通じて実世界にアクセスできるようになること。これらを経てユビキタス社会が完成しうると展望した上で、参加パネリスト各自へ意見を求めた。

 パネリストの意見表明は、スライドを用いた15分ずつのプレゼン形式。まずはKDDI研究所 代表取締役所長の浅見徹氏が、今後の課題の筆頭に「品質保証範囲の広範化」の問題を挙げた。

「携帯電話と中心としたワイヤレスサービスが基本的には『人間対人間』であるのに対し、様々な機器が同時にネットワーク接続されるユビキタス環境では、人間と、自動化された端末が通信する『人間対モノ』レベルのサポートも行なわねばならない。サポート範囲が増えるため、現在の人海戦術的な障害対応では、いつか破綻を見るだろう」(浅見氏)

 さらには「人間による手動の障害対応自体、セキュリティーホールになりうる」と危惧、障害発生時の対応を自動化するような技術が不可欠になるだろうと説明した。

 一方、DoCoMo USA研究所社長の栄藤稔氏は「Beyond 3G」「4G」と呼ばれる次世代携帯電話を例にとりながら「携帯電話で収入を得られる最大の理由は『どこからでも使えるこサービス』だということ。よってそういった接続性の確保こそが次世代サービスでも重要」とコメント。その点からも、音声遅延を抑制する技術の開発が引き続き課題になっていくと見る。

 北京郵電大学のジャン・ピン氏は、ユビキタスを支える要素であるサービス、ネットワーク、端末のそれぞれを独立して考慮するという発想を示し、さらにそれぞれの要素をケースバイケースで調整できるような理念をあらかじめ標準化技術などに盛り込むべきと語る。

 韓国・電子通信研究院(ETRI)のソン・ピョンジュン氏は韓国が国家レベルで推進する「IT839」というプロジェクトの解説を行なった。これは経済指標「国民所得」を早期に2万ドルまでに高め、うち25%をIT関連産業から得ようとする政策。中でも「WIBro」(ワイブロ)という100MHz帯の高速無線アクセスサービスを2006年ごろまでに開始し、ICタグを本格活用できる社会環境の実現を目指しているという。

、キム・ヨンキュン氏はサムスンに在籍する一方、ITメーカーらで結成される業界団体「Wireless World Reserch Forum」(WWRF)にも参加する1人。技術の標準化作業を直接担うITU(国際電気通信連合)などでは討論に割ける時間か限られているため、その前段階として機能するWWRFのようなフォーラムへ、積極的に参加して欲しいと訴えた。


企業、国を超えてのコラボレーションができるか

(左から)北京郵電大学のジャン・ピン教授、韓国・電子通信研究院(ETRI)のソン・ピョンジュン氏、キム・ヨンキュン氏は「Wireless World Reserch Forum」(WWRF)の一員として参加
 参加各者が一通り説明を行なったあと、今度は森川氏が「ユビキタスを司る様々な技術のうち、もっともコアになるものをあえて1つを挙げるならば何か」という質問をぶつける形で討論が行なわれた。

 日本側から参加した2人が挙げたのは「セキュリティ」だ。浅見氏は「ユビキタスは、機械が人を選ぶ時代のことではない」とし、プライバシーやセキュリティを完全に保証した上で誰でも使える端末を要望。栄藤氏も安心して使える端末の開発に力を注ぐべきと語った。

 またキム氏によれば、次世代携帯電話で大きく期待されているものに「コスト」があるという。これはエンドユーザーだけでなく、インフラ提供者側にも共通する意見で、現在の1/10程度にしたいとの思惑があるようだ。

 さらにジャン氏は「システム間の調整能力」、ソン氏は「徹底的に特化したサービスの提供」と、まったく異なる意見を挙げていたが、森川氏は「いかにもユビキタスらしい結果だ」とコメント。利用する人、端末の数だけ用途があるのがユビキタスであり、それだけに企業間のコラボレーション、特に国をまたいで協力し合う必要性が高いと森川氏は指摘した。

 コラボレーションの重要性には参加者すべてが同意していたものの、やはり壁があるのも事実のようだ。栄藤氏はアメリカでの生活経験からくる実感として「アメリカにはあまりコラボレーションをするという意志がないようだ」と冗談交じりにコメント。

 続いてキム氏も、栄藤氏と同様に「アメリカが各種の規格策定などで独自性をうちだしすぎる」と、やんわり批判。前述したWWRFのような国際フォーラムへの参加がコラボレーションの第一歩となるはずだと、今後の活動にさらなる意欲を示した。

 また最後に森川氏が「積極的な情報共有や交流のためにも、今回のディスカッションのような機会を設けていこう」と発言。参加者への拍手をもってディスカッションを締めくくった。


関連情報

URL
  WIRELESS JAPAN 2004
  http://www.ric.co.jp/expo/wj2004/


(森田秀一)
2004/07/22 19:58
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