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Microsoft古川氏が語る「ブロードバンド時代の通信と放送の融合」

 2005 International CESのMicrosoftブースでは、1月6日(米国時間)に日本のプレスを対象としたブースツアーが開催された。ツアーにはMicrosoftのバイスプレジデントを務める古川享氏が参加、ブロードバンド時代のコンテンツ流通や、通信と放送の融合に関して自論を展開した。


ブロードバンドと放送の融合がデジタル放送の未来を決める

Microsoftの古川亨バイスプレジデント
 古川氏はまず、「CESの会場全体ですごいものを10個上げろと言われたら、これがその1つではないか」と前置いた上で、Windows Mediaの認証プログラム「PlaysForSure」対応のセットトップボックスを紹介した。Windows Media Connectで映像を送出することで、HD映像をイーサネット経由でテレビ再生できる。古川氏は「日本では地上デジタルとBSしかHD映像が放送できないと言われていて、その補完としてCATVでHD映像を再配信しているが、実際にはブロードバンドを経由してデジタルハイビジョンが再生できることが証明されている」とコメント。「これから先はこのようなハードウェアがテレビと一体化することで、ハイビジョンが放送だけのものではなくなるのではないか」との考えを示した。

 続いてBill Gates氏の基調講演でも紹介されたHD映像対応の映像配信サービス「IPTV」を紹介。「従来のパソコンテレビやインタラクティブテレビと何が違うのかと言われるかもしれないが」と断った上で、「テレビ画面の中に別の画面を表示するPicuture in Pitureのような機能は今までハードウェア側で実装していたが、ソフトウェア側で実装することで非常に自由な環境を構築できる」とコメント。「HD映像のクオリティには24Mbpsくらいの帯域が必要だったが、WMV HDなどを使えば10Mbps程度でハイビジョン映像を実現できる」と付け加えた。

 このような通信と放送の融合については「米国や韓国では当たり前のように起きている話で、日本でも今後は通信と放送の壁がなくなっていくのではないか」と古川氏は指摘。「光ファイバの通信事業者がオンデマンドではなくリアルタイムに放送を中継することができるかできないかで、デジタル放送の未来が決まるのではないか」という見解を披露した。

 古川氏は続けて「今後3年から5年の間に、日本の2億台近いテレビをデジタル化していかなければならないが、衛星とCATVだけではカバーしきれないだろう。その時にブロードバンドを放送のパイプとして使えるかどうかは、おそらく総務省と経済産業省の大きな課題になるだろう」とコメント。レオパレス21のVODサービス「LEO-NET」を例に取り、「目立たないが通信事業者による放送に準じたサービスは序々に始まっていると言ってもいいかもしれない」との考えを示した。


視聴権利を他人に譲渡できる権利処理も今後は期待

PlaysForSure対応のセットトップボックス。上から3段目の製品がHD映像のネットワーク再生を実現している
 一部報道で世間をにぎわせた、CMスキップに関する著作権問題にも言及。「普通のビデオテープでも早送りはできるもの」と前置いた上で、「本当に気になるのであれば、HDDに録画した時点でCMを早送りできないような機能をソフトウェアに埋め込めばいい」と大胆な意見を述べた。「もちろんそれは意味がないことだから」とすぐに否定したのち、「スキップされるのが嫌ならスキップできないように放送することも、1つの選択ではあるだろう」と語った。

 この問題に対して古川氏は「自分がもしCMを担当するなら」との仮定で独自の意見を披露。「例えばCMスキップ機能で300円を課金する。それが嫌な場合はCMを見るか、もしくは視聴前に2分程度のCMを見てアンケートに答えてくれた人は、以降はCMなしで視聴できるようにするという展開もある」。古川氏は続けて「重要なことはあらゆるビジネスモデルを実装できるようにすると同時に、サービスの提供側と享受側の合意の下にコンテンツ保護を決めていけばいい。今までのようにコピーさせない側と、それを破ってコピーしてしまう側という話ではなく、暗号化や著作権管理を柔軟に選択できる環境が重要だ」と語った。

 古川氏は「自分が死んで銅像立てても格好いいとは思わないが、例えば自分の孫やひ孫へ、『おじいちゃんが18才の頃に感動した映画を見てみないか』といって映画を視聴できる権利を世代を超えてプレゼントできたら、そのほうが格好いいと思う」との自論を主張。「音楽配信は楽曲の値段こそ決まったが、それは自分がダウンロードして自分がお金を払うだけ。この先は自分が買った曲を聴くことができる権利だけでなく、例えば年賀状につけて送ることができると言った権利処理も登場するだろう」との見通しを示した。

 視聴する権利を他へ譲渡することが可能になれば、「好きなアーティストの楽曲の権利を購入したユーザーが、自分のホームページで配布するといったスポンサー的な購入も可能になるかもしれない(古川氏)」。映画の場合でも、次回作の視聴権へ投資することで映画制作費用を調達するという新たな権利処理の展開がこの先登場するのではないかと期待しているという。


ブロードバンドにつながるテレビは今までのテレビ以上の存在に

Bill Gates氏基調講演におけるIPTVのデモ。さまざまな角度から野球を視聴できる
 逆に著作権に関わるビジネスモデルが変化しない場合はどうなるのか。「それはすでに事例が出ている」と古川氏は指摘する。「この数十年間JASRACの売上は変化していないが、それはCD売上などが下がっているにも関わらず、着メロの部分が上乗せされているに過ぎない。パラダイムシフトの中で着メロへうまくシフトしたから変わらずに済んだのであって、放送でも出版でも今ある売上を拡大するだけではなく、新しいスタイルに変化していかなければならないということは、すでにみんな気がついている(古川氏)」。

 古川氏は前述のIPTVに再度触れ、「放送のインタラクティブ性が今まで語られてきたが、すでに通信事業者が持っているインフラを利用してブロードバンドにつながるテレビは、今までのテレビ以上のものができる」と指摘。「9つの画面から好きな番組やカメラを選択できることは、従来のPicture in Pictureで裏番組が観られるのとは違うレベルのことが可能になる。9つの画面のうち、小さい画面はビットレートを落としておき、画面を切り替えると同時にビットレートを上げることも可能で、そうすれば『30Mbpsの帯域でHD映像1つしか送れません』という発想とは違うサービスも可能になるだろう」と語った。

 ただし、新たなコンテンツのビジネスモデルを構築するためには、「このやり方であれば著作権以外にも利益があります」というように、従来とは異なる新しい富を産む手段も必要だという。古川氏はプリンタを例に取り「プリンタは端末が売れた後もインクと紙で儲かるが、テレビは端末を売ると生産者の利益はそこで終わる」と指摘。「今後は端末の生産側とコンテンツホルダーやサービス提供者などがどのように利益を分配していくかを決めていくのではないか」と今後の見通しを語った。



URL
  2005 International CES(英文)
  http://www.cesweb.org/
  米MicrosoftのGates氏CES基調講演ページ(英文、動画配信あり)
  http://www.microsoft.com/athome/ces2005/default.mspx


(甲斐祐樹)
2005/01/07 20:31
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