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NTT和田社長講演、「柔軟かつシンプルなネットワークの構築を目指す」

NTTの和田社長
 NTTは、2月24日と25日の2日間にわたって、「NTT R&Dフォーラム2005~ひろがるレゾナントコミュニケーションの世界~」をNTT横須賀研究開発センタで開催している。初日の24日には、NTTの和田紀夫代表取締役社長が「新たなブロードバンド社会の実現に向けた取り組み」と題した基調講演を行なった。

 和田社長はまず、情報通信は世界各国で転換期を迎えているとして、米国など海外の動向について述べた。米国の情報通信の現況について和田社長は、「ブッシュ大統領が2007年までにすべての家庭でブロードバンド環境を実現したいと宣言し、ベライゾンやSBCがこれを受けて光化計画を発表している」と説明。また、国防総省が2008年目標で同省が保有するネットワーク網をIPv6化すると発表し、移行室を立ち上げているとした。

 その上で、次世代ネットワークへの動きが加速する中でサービス競争も本格化してきており、「特に米国ではCATV事業者との競争が激しい」とコメント。CATV事業者が、IP電話サービスやインターネット接続サービス、映像配信サービスの3サービスを提供する“トリプルプレイサービス”を開始したことで、SBCやベライゾンといった通信事業者も「ブロードバンドサービスの展開を検討している」と語った。

 米国の通信業界ではSBCによるAT&T買収が発表された。和田社長は、「社名が残るかもしれないが、実質的にはAT&Tが解体されてしまうということで、私どもとしても非常に大きなショックを、そして動きを感じている」とした。加えて、「MCIに関しても、ベライゾンとSBCが買収提案をしている」として、「こうした流れは、通信事業者がさまざまなサービスを1社で提供するということであり、今後はCATV事業者との競争がさらに進むのではないか」と米国通信業界の今後の見通しを示した。

 また、固定電話と移動体電話との統合も世界的に進んできているとして、「NTTグループもNTTコミュニケーションズ(NTT Com)をはじめ、関連団体に参加している」と述べた。さらに、NTTドコモが2004年に発売した無線LAN機能搭載のFOMA端末「N900iL」に関しては、「今後はこうした1つの端末で複数の通信網を利用するワンフォンサービスが主流になる」と考えているという。

 一方で、「米国では2001年9月11日の同時多発テロ以降に、人や血液、交通手段などの流れをいかに守っていくかという考え方が広がっている」と指摘。「こうしたものの根幹には情報インフラの存在があり、インフラ部分を有事の際にいかに守っていくかも重要になってくる」とした。そのほか、情報化が進むにつれて環境への負荷が高まるという一面もあることから、和田社長は「NTTが将来構築していくインフラでは、環境負荷の軽減を進めながら構築を進めていきたい」とコメントした。


次世代ネットワークへの円滑な移行が競争力強化につながる

 基調講演では、NTTグループが2004年11月に公表した「NTTグループ中期経営戦略」に関する説明も改めて行なわれた。

 和田社長は、「将来的にIP化、光化、第3世代携帯電話への移行が必要になるが」と前置きした上で、「固定電話やメタルアクセス、第2世代携帯電話(PDC)も、まだまだ維持していかなければならず、2つのネットワークを併存させるにはさらなる効率化が必要になるだろう」と説明。そして、現在のネットワークからの円滑な移行が、次世代ネットワークの競争力強化と財務基盤の確立に向けて重要なものになると語った。

 次世代ネットワークについては、「柔軟かつシンプルで、品質やセキュリティが確保されたネットワークを目指す」と和田社長は語り、「ネットワークの経済化も必要である」とした。その上で、「次世代ネットワークでは、今の固定電話が持つ良さと、インターネットの持つ良さを兼ね備えさせたい」と述べ、「2010年までには現在の半数程度のユーザーである3,000万ユーザーが新しいネットワークを享受できるような環境を作り上げたい」と今後の方針を示した。なお、目標を2010年とした点に関して和田社長は「総務省が発表しているu-Japan構想も、1つの達成時期として2010年を挙げているため」とした。

 次世代ネットワーク移行に関する資金は「固定電話だけに限れば約1兆円程度の設備投資をしており、その範囲内でできればと思う」とした。また、光関係の投資に重点を置く考えで、次世代ネットワーク構築にあたっては「投資効率を上げるため、技術開発も重視していく必要がある」と考えているという。一方で、オペレーションコストは「2010年には現在よりも800億円削減できればと思うが、接続性やセキュリティに加え、規制といった問題をいかに解決するかという部分もある」と語った。なお、次世代ネットワークの構築例の説明の中で和田社長は「消費電力の削減が大きく期待できる」と述べ、NTT東西とNTT Comの試算で「現在よりも7%程度の消費電力削減が可能ではないか」とした。

 また、中期経営戦略が目標とする2010年以降の計画に関しては、「2010年までを必死に戦い抜く中で、それ以降のステップを具体的に決めていければ」とコメント。そして、「ネットワークをできるだけ早い時期にフルIP化へと1本化して、構築したネットワークを移動体事業への土台にしていく」と次世代ネットワーク移行後の展開を述べた。


ブロードバンド社会における諸問題の解決が利便性向上の鍵に

 次世代ネットワークの活用例としては、「少子高齢化への対応や介護支援、エネルギー削減などの今後の日本が抱える社会的課題を、NTTが考えているサービスを利用して克服できるのではないか」と考えているという。

 その例として和田社長は、ブロードバンド回線を通じた「福祉介護の現場における介護指導」「地域的や身体的なギャップを持つ人々に対する仕事の機会」「映像交換を通じてサークルやクラブ活動」などを挙げ、次世代ネットワークを利用した次世代サービスの提供を進めていくとしている。

 一方で、ブロードバンド社会が進むにつれて、「トラフィックの急増」や「DoS攻撃などのサイバーテロ」「フィッシング詐欺などのネットの悪用」といった問題も表面化してきていると指摘。特にネットの悪用については、「技術的だけで解決できるものではなく、法整備以外にも子どもへの教育面から取り組む必要があるのではないか」と自らの考えを語った。

 また、「こうした問題が解決されなければ、ブロードバンド社会における利便性が可能性として存在しても相殺されてしまう」として、NTTとして諸問題に対して真剣に取り組む必要があることを訴えた。


1本の光ファイバで1Gbpsサービスやハイビジョン放送100番組を配信

 続けて、NTTにおけるR&Dの取り組み事例について紹介を行なった。アクセス関係の取り組みとしては、光ファイバコードの開発や光アクセス部位品のコストダウン化、コアネットワークでの光波長による経路選択方式技術などを紹介。

 この中で和田社長は、社長就任当初から研究所に開発を依頼したという「折り曲げたり、引っ張っても光ファイバが切れずに通信が可能な光ファイバコード」について、「結んでも折り返しても通信が可能で、DIYで設置できるコードになる」と語った。

 また、ネットワークにおけるセキュリティ向上の取り組みとして、法人向けのパソコン個別の認証キーを使用したアクセス環境の実現を挙げた。加えて、データセンター側にOSやアプリケーション、ユーザーごとのデータスペースを確保することで、クライアントが災害時に破損した場合にもデータの保護が可能になる事例を紹介した。

 映像コンテンツの配信としては、2004年10月に行なわれた第17回東京国際映画祭で実施した4Kデジタルシネマの光ファイバを利用したデジタル配信のケースを挙げ、「暗号化や電子透かしといったセキュリティ技術を利用して、不正流出も防ぐことが可能になる」とした。

 加えて、NTTグループの光ファイバ網も利用しているオプティキャストの光ファイバを利用した映像配信サービスも紹介。和田社長は、「これらのサービスをさらに発展させて、1本の光ファイバでハイビジョン放送を100番組配信するとともに、1Gbpsの双方向通信を実現する」として、光ファイバにおける通信と放送の融合の可能性を示した。また、地上放送に関しては2011年に地上デジタルへの移行が完了する中で、「一部地域で電波が入らない場所も想定され、地域間のデジタル格差を埋めるためにも光ファイバが役立つのでは」とも語った。

 このほか、BフレッツやNTTレゾナントのテレビ電話サービス「WarpVision(ワープビジョン)」と、市販のパソコンや顕微鏡を組み合わせた遠隔病理診断のフィールドトライアルも紹介された。和田社長は「病理医は医師全体の中で7%しかいないが、今回のトライアルのように専用線を持たない環境でも遠隔診断が実現可能になる」と語るとともに、従来の郵送や画像などのやりとりによる診断と比較して経費と時間の短縮も可能になるとコメントした。

 また、2月23日にNTTとNTTレゾナントが発表した類似画像による検索サービス「MultiMedia Meister」に関しても、指定した画像から類似する画像のみを検索可能になることから「私自身試してみたが、大変便利な検索サービスであると感じた」と述べた。

 基調講演の最後に和田氏は、「ブロードバンドやユビキタス社会の実現には、いろいろな問題やチャレンジがあるだろう」と指摘。その上で、「こららを乗り越えるには、NTTグループだけではなく関係企業や省庁、学術機関、ユーザーとの協力・連携が重要」とし、「課題を1つずつ乗り越えて、20年後30年後の日本の存在をかけて取り組んでいきたい」と述べ、講演を締めくくった。


関連情報

URL
  NTT R&Dフォーラム2005
  http://www.nttrdforum.jp/info/
  関連記事:東京国際映画祭で4Kデジタルシネマ「失楽園」を上映[AV Watch]
  http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20041014/4k.htm

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(村松健至)
2005/02/24 19:39
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