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AOGC 2005、スクウェア・エニックス和田社長による基調講演
~今後10年間はコミュニケーションがゲームの重要な要素に~

 ブロードバンド推進協議会(BBA)は、2月28日から2日間にわたって「アジア オンラインゲーム カンファレンス 2005(AOGC 2005)」を開催している。初日の28日には、スクウェア・エニックスの和田洋一代表取締役社長による「スクウェア・エニックスのオンラインゲーム戦略について」と題した基調講演が行なわれた。


今後10年間はコミュニケーションがゲームの重要な要素に

スクウェア・エニックスの和田社長
 和田社長はまず、同社がキャッチフレーズとして使用している「Network is the Game」「Everything plays Games」を紹介。そして、「オンラインゲームでの議論は、ゲーム産業、そしてIT産業全体にとっての象徴的な議論である」と語り、「ゲームの本質そのものとして、オンラインゲームを捉えている」と付け加えた。

 続けて、この20年間のゲームのあり方について振り返り、「20年前はリビングにあるテレビの画面でゲームが操作できるようになり、ゲームセンターや喫茶店ではプレイが難しかったRPGなどのジャンルも、じっくりとプレイすることが可能になった」とコメント。「20年間のうち、前期の10年間はゲームが家庭に入ってきた時期で、発売されたすべてのタイトルが新しく、すべて違っていた」と振り返った。

 また、後期10年に関しては、「プレイステーションが発売された頃で、3Dグラフィックにより画像がリアルになってきた」と振り返った。そして、「画像を通じていかに感動を与えるかという、グラフィックが洗練された時代である」とした。

 その上で、「今後10年間は、コミュニケーションやコミュニティが重要な存在になるのではないか」と考えているという。加えて、ビデオゲームの特徴として「ある程度まで進むと美術との融合が必要になるが、これに関しても技術的な裏付けにより実現が可能になってきた」とした。

 また、「そもそもゲームとは、一定のルールに基づいたコミュニケーションと割り切っている」とコメント。そして、「サッカーなどのスポーツのほか、将棋やじゃんけんにもルールがあり、不自由さもあるがルールがあるからこそ、それぞれ面白さがある」と語った。

 そして、「何千年という人間の歴史の中で、この20年間に関してはゲームは相手がコンピュータというのが異質だったかもしれないが、これからは人対人のコミュニケーションが技術的な裏付けの下に可能になっていく」と指摘した。

 ゲームにおけるコミュニティのデザインについては、ドラゴンクエストシリーズの開発を例に話が進められた。和田社長はドラゴンクエストの開発陣の話を聞いたときに、「学校で流行るとか、子どもたちがプレイしたくなるという話をしていて、売れ行きが不安なのかと感じた」という。しかし、実際には「学校でゲームの話題で子どもたちが盛り上がって、家でまたゲームをプレイしてくれるような、外部コミュニティのお題としてのゲームとして開発を進めていていたようだ」と語った。

 さらに、ゲームのメニュー画面にユーザーの行動がテキストなどで表示される点についても、「リビングなどのお茶の間でプレイする環境で、後ろにいる家族にも画面を通じてプレイヤーの行動をたどれるようになっている」と述べた。そして、「物理的な空間を共有している家族が、プレイヤーと同じ感覚でゲームをプレイしているように画面デザインを構成していると聞いて、非常に感動した」という。


スクウェア・エニックスのみるMMORPG市場

世界上位クラスのオンラインゲームのユーザー数比較

同社オンラインゲーム事業と、中韓のオンラインゲーム専業メーカーとの売り上げ比較
 和田社長は次に、スクウェア・エニックスのオンラインゲーム市場におけるポジションに関してMMORPGを中心に説明した。

 オンラインゲーム市場に関しては、「現在はイノベーターからアーリーアダプターへと移行が進んでいる段階」として、「今後マジョリティに進むには、MMORPGをプレイしているユーザーたちをどう取り込むかが重要になる」と語った。さらに、「オンライン上のコンテンツなどが今後拡大していく中で、それらを引っ張っていくのもMMORPGユーザーである」と指摘。「彼らの動向をいかに見ていくかが、次の展開を考える上でポイントになる」とした。

 また、同社のオンラインゲーム市場について「ファイナルファンタジー XI(FF11)」の日米欧の合計ユーザー数が課金ベースで55万人、同時接続で17万人に上っていると紹介し、「世界の上位オンラインゲームの中で健闘していると考えている」と述べた。

 続けて、他社が発売する各タイトルのユーザー数についても紹介したが、和田社長は「各タイトルの統計データがないため、正確な勢力比較ができない」点に言及した。参考として、株式公開している中国と韓国のオンラインゲーム専業メーカーと同社のオンラインゲーム分野での売り上げ高が同じような伸びを示している点を紹介し、「世間では日本はオンラインゲーム市場で遅れていると言われるが、これが事実である」とコメント。「統計による勢力比較自体には意味はないのだが、統計があることで『日本はオンラインゲーム後進国だ』というような事実誤認がなくなる」とも語った。

 また、オンラインゲームを提供する多くが専業メーカーである点に関して、「オンラインゲームとパッケージゲームの形態を見ればわかると思うが、まったくカルチャーが違っている」と指摘。その違いについて、「スクウェアとエニックスが合併した頃に、カルチャーが違うからうまくいくのかと言われたが、それ以上に違っている」と述べた。

 特に「パッケージメーカーがオンラインゲームを運営するのは非常に大変で、オンラインゲームにおけるリスクに対応するには社内に“違う血”を入れる必要がある」と、両者の違いを強調した。

 一方で、専業メーカーに関しては「オンラインゲームだけで売り上げを1,000億円まで拡大するのは難しいのでないか」との見解を示した。その上で、「オンラインゲーム市場は大手ほど参入しにくいマーケット。現在、ゲーム機の世代交代と叫ばれているが、その中で大手でもオンラインゲームが開発できるのかどうかが次世代機のポイントになるのではないか」と語った。

 また、和田社長は中国市場と日米欧の市場との違いも言及。「中国市場は経営の観点から見れば、不動産デベロッパーに近い」として、「人口的にサービスを開始すると、いきなり100万人のユーザーが確保できる」「PCバンでゲームをプレイする環境があるため、バーチャルなコミュニティも物理的なコミュニティを確保すれば形成できる」と中国市場の特徴を挙げた。そして、「オンラインゲーム市場は事実を捉えることが重要で、中国と日米欧ではマーケット自体が異なることを認識する必要がある」と、市場ごとの判断が重要であると説いた。


収益モデルは提供国やゲーム内容により内容が異なる

同社が考える3つの収益モデル
 続いて、オンラインゲーム事業戦略について「収益モデル」と、同社のオンラインゲームタイトルを提供するサービス「PlayOnline」の2つの側面から説明が行なわれた。

 まず、収益モデルに関しては「実はまだ分類ができておらず、今後議論を進めていかなければならないが」と前置きした上で、「コンシューマ型」「アーケード型」「デリバティブ型」の3形態があると和田社長は述べた。

 コンシューマ型は、ディスクをパッケージ販売した上で定額課金を行なう形態を指すといい、「FF11はコンシューマ型にあてはまる」と説明。その上で、「ネットワーク社会が進むにつれて、ディスクに値段をつけるのはおかしいという意見が出てきたが、これは非常に誤解されている」と語り、「FF11に関しては、パッケージ販売が1に対して、課金が2もしくは3の割合になる」と収益モデルの比率を紹介した。そして、それぞれの割合について、「パッケージ部分が初期コスト、課金部分が追加の開発やネットワークの構築費用などに分類している」と述べた。

 アーケード型に関しては、同社の「クロスゲート」の中国市場での展開を例に「ディスクを無料で配布して、プリペイドカードを販売するというアーケードゲームのような従量課金に近い体系をとっている」と紹介した。ただし、「FF11とクロスゲートは、どちらもコミュニティの点から見ればコンシューマ型に近いが、日中間のカルチャーなどの点から見れば、中国でのクロスゲートはアーケード型である」として、提供国やゲーム内容によっては、所属する収益モデルが異なることを付け加えた。

 デリバティブ型に関しては、「オンラインゲーム自体から派生した商品」と述べ、「リアルマネートレード(RMT)の議論もここに入るだろう」とした。和田社長は、「法的な問題もあるとは思うが、キャラクターやアイテムを現金でやりとりするRMTは、ビジネスモデルとして成立している」と見解を述べる一方で、「RMTをやる場合には、ゲームデザインの段階から組み込まなければゲームが壊れてしまう」とも指摘した。

 そして、「RMTで問題なのは、ゲームを提供するパブリッシャーではない人がやっている点」と指摘して、「尻尾が犬を振るような状態は避けなければならない」と述べた。


CPU性能の向上で、ゲーム専用機以外にも市場拡大

CPU性能を一例とした端末の進化
 PlayOnlineに関しては、「マルチプラットフォーム」「マルチコンテンツ」「マルチカントリー」の3点から同サービスの考え方が述べられた。

 マルチプラットフォームについては、「脇道にそれるが、CPUの進化からある傾向が浮き彫りになる」と語り、ゲームや携帯型ゲームに加えて、携帯電話やカーナビゲーションシステムなどのCPU性能のグラフを紹介した。

 和田社長は、プレイステーションが登場した際に発売されたナムコの「鉄拳」や「リッジレーサーズ」の2タイトルを例に、「これまでゲームセンターで提供されていた3D画像によるタイトルが、家庭用ゲーム機に登場してゲームセンターとのスペックが逆転した」と指摘。

 このため、「ゲーム産業に携わる開発者は、他の端末スペックを気にしなかった時代が続いたが、この3、4年でそれらの性能が一気に上がっていった」と振り返った。そして、「FF11のWindows版の開発時にプレイステーション2と同等のクォリティで開発するかという議論になったが、結果的にはFF11が問題なく動作するスペックのパソコンが登場した」と語った。

 そして、Windows版の普及を進めるためにFF11のキャラクターが登場するベンチマークソフトを配布したことで、「ハードウェアメーカーに競争してもらい、スペックを上げていってもらった」とコメント。加えて、「ベンチマークソフトはプロモーション面でも役立ったし、ノートPCのスペック向上にも繋がったようだ」と述べた。

 一方、ユーザー側から見たCPUにおける需要曲線に関しては「プレイステーション2と同等のタイトルが動けば問題はないのではないか」と考えているという。そして、CPUという面では、「すでにどの端末でもある程度のゲームがプレイできるようになっており、どの端末でもサービスが提供できるユビキタス環境が整っているのではないか」とした。


産業アーキテクチャの変化
 こうしたことから、従来あった「コンテンツ」「ネットワーク」「端末・メディア」といった産業構造に変化が発生し、「ユーザーが直接コンテンツにアクセスできるようになった」と述べた。しかし、「ネットワークが進化していくと、その中で自分がいた証があり、価値の源泉がシフトすることから、もっとも失ってはならないものはコミュニティになる」と、和田社長はコミュニティの重要性が増していくことも触れた。

 そして、「どういった価値を提供していくことがユーザーにとって重要であり、課金システムや買収などで拡大を進めるメーカーもあるが、どこに価値の源泉があるかを考えて事業を進めていく必要がある」と強調した。

 さらに「端末が異なっても同じ世界でプレイできるマルチプラットフォームは必要不可欠」として、「クロスプラットフォームも含めて重要になり、ユーザーが朝起きてから夜寝るまでの間に触れる端末の中で、我々が提供するコンテンツをどれだけ利用してもらえるか」も重要になるとした。

 続いて、マルチコンテンツについては「1つのゲームだけでも、ものすごく濃いコミュニティができあがってしまう」と述べる一方で、「人間には色んな顔や、参加するコミュニティが併存していて、その中の中心にいるのが自分である」とコメント。コミュニティが複数併存する特徴を理解する必要性を説いた上で、「PlayOnlineというレイヤーと、FF11などのレイヤーを組み合わせて、コミュニティが重層的に存在する1つの例を示していければ」と語った。

 また、マルチカントリーについてはFF11が日米欧のユーザーが同じサーバーがプレイしている点を挙げ、「全てのタイトルで同様のことをやるわけではないが、国という単位にこだわってサービスを提供するのは意味がない」と述べた。


ネットワーク社会全体で社会規範の整備が重要になる

オンラインゲーム事業に内在する課題
 基調講演の最後に和田社長は、「オンラインゲーム事業に内在する課題」を取り上げた。その中で「これらの課題は、当社やゲーム産業だけが抱える問題ではなく、社会全体が持つべき課題である」と指摘。「何でもゲームのせいにするのではなく、それらがネットワーク社会全体で発生し得る」と強調し、「ゲーム脳などと言葉で片づけてしまうと、問題に対する思考が停止してしまう恐れがある」と危機感を示した。

 加えて、21世紀に入って人類は2つの経験をしていると述べ、「二千年に及ぶ歴史の中で、バーチャルな世界を自分たちの手で突然作ってしまう点」と、「バイオテクノロジーの発達による命の生成」を挙げた。

 和田社長は2つの例を挙げた上で、「すでに戻れない問題であり、きちんと議論をしないと大変な目にあうことになる」と述べた。そして、文化的および制度的課題もあるとして、「教育面では教え手ががいないため、エキセントリックな話題になりがちだが、今後はネットワークリテラシーの浸透が国力の問題に発展しかねない」と指摘した。

 さらに「ネット社会における社会規範の整備」も訴えた。和田社長は「ご存じの通り、ネット社会では顔が見えない点や匿名性、時間が関係ないことから、今までの社会規範のいくつかのタガが外れてしまった」として、現実的な問題として表面化していると述べた。

 そして、和田社長は自身が育った1960年代にテレビやマンガといったものが登場してきた点を例に、「当時は文章を読まないと馬鹿だと言われたり、テキストから情報を吸収しないと意味がないと言われたが、今となってはくだらない議論だった」と指摘。その上で、「何でもゲームのせいであるとするのではなく、きちんと議論しなければ今後の市場で問題になるのではないか」と語った。

 しかし、「規制を強化しすぎてしまうと、規制が届かない裏社会、無法地帯ができあがってしまう」とも述べ、「今回のようなカンファレンスを通じて、議論しなければならない」という点を強調した。

 和田社長はまた、「現行の社会整備では想定されていない問題も少なくなく、人権とは何かという根っこの部分から議論しなければ対応できないだろう」と述べ、「社会規範を整備しなければゲーム産業や、それを取り巻く産業の普及が阻害されてしまう」と今後の課題を示しながら、講演を締めくくった。


文化および制度的な課題もあるという 知的財産を例にした問題点

関連情報

URL
  アジア オンラインゲーム カンファレンス 2005
  http://www.bbassociation.org/AOGC2005/
  スクウェア・エニックス
  http://www.square-enix.co.jp/

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(村松健至)
2005/02/28 15:37
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