Interop Tokyo 2005では、インテル、マイクロソフト、総務省、経済産業省、ソフトバンクBBによるパネルディスカッション「ワイヤレスブロードバンドは実現するか?」が開催された。モデレーターをルート代表取締役社長の真野浩氏が務め、ワイヤレスブロードバンドの課題について議論が交わされた。
■ さまざまな観点から考えるワイヤレスブロードバンド
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左からルートの真野氏、インテルの宗像氏、マイクロソフトの楠氏
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真野氏は冒頭、「過去10年間を振り返ると、ワイヤレスブロードバンドの花火は上がるものの、なかなか浸透しない」とコメント。「我々はもしかしたら大きな勘違いをしているのではないか。ここにいるプレイヤーの中でワイヤレスブロードバンドの阻害要因に関するコンセンサスを得られれば」と、パネルディスカッションの目的を説明した。
インテル 事業開発本部の宗像義恵氏は、デジタル技術の成長の速さを「あくまで自分の言葉だが」と前置いた上で「技術の民主化が起きている」と説明。「かつてはテキストベースでの入力で、ガラスの向こうの専門家の世界であったコンピュータが、私のような人間でも使えるようになった。こういった流れが一番大きな根底」とした。
宗像氏は続けて「現在では放送や印刷、IP電話など、デジタル化されたデータが増えており、情報社会としてそれを支えるインフラが重要。その点からはワイヤレスブロードバンドは非常に大きな位置を占めている」とワイヤレスブロードバンドの重要性を指摘。「どこでも最適な接続環境が常に得られるためには、1つの技術ですべてをカバーするのではなく、要素となる技術がシームレスに使える環境が必要」とした。
マイクロソフト 技術企画室の楠正憲氏は、PCの世界を振り返りながらワイヤレスブロードバンドの問題を提起。「かつては互換性のなかったマイコンが、IBMのPCおよびIBMと互換性のあるCOMPAQ製品の登場により互換性が生まれ、Windows 95の登場などで、今では世界のコンピュータがほぼ同じ環境で利用できる」とした上で、「無線の世界もWi-FiやWiMAXの標準化が進んでいる。インターネットに接続できるのであれば、規格を気にすることなく技術を向上できるという水平分業が進んでいる」との考えを示した。
今後、ユビキタスな環境を作り出すためには、「コンピュータが人に近づいていく必要がある」と楠氏は語る。「インターネットへの接続が携帯電話と同じくらい簡単でなければいけない。それに近いのがWi-Fiであり、WiMAXではないか」。さらに楠氏は「グローバルな標準規格で部品を作れば売れるという世界があるから、数年前なら数億円はした製品が数万円で買える時代になった。PCもThinkPadやLet's note、dynabookの生産拠点は日本にあるし、携帯電話の性能もすばらしい。こういったすばらしい端末をもって日本メーカーが海外に出て行ければ」との意見を示した。
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「デジタル化されたデータを支える情報インフラが必要」と語るインテルの宗像氏
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マイクロソフトの楠氏は「時間の経過によって相互運用性が重要になる」と指摘
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■ 携帯電話事業にばかり研究開発が集中する傾向が
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左から総務省の稲田氏、経済産業省の加藤氏、ソフトバンクBBの宮川氏
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総務省 総合通信基盤局 電波部 電波政策課の稲田修一氏は、電波の再配分によりワイヤレスブロードバンドを推進する立場から「ビジネスモデルの明確化」「有限な電波資源」「技術の標準化」という3つの課題を指摘。また、最近危惧している課題として「ワイヤレスの研究開発が、マーケットとして儲かるから携帯電話にシフトしている」と指摘。「携帯が使っている周波数だけ開発が進めば端末が安くなり、また参入したくなるという繰り返し。研究開発も戦略的に行なわなければ、さまざまなシステムを実現するのは難しい」との課題を投げかけた。
さらに稲田氏は「実は電波のことはあまり知られていないのではないか」との考えも示した。「電波は家電に比べればワット数が少なくても飛距離は長いし、電波は混信するものということも気づいていない人が多い」と、電波の認識を高める必要があるとしたのち、「中越地震の例を見てもわかる通り、最後に命を救うインフラは電波。災害対策は儲かるものではないが、非常に重要な点」と語った。
経済産業省 商務情報政策局 情報経済課の加藤洋一氏は、「情報革命が産業革命の第2ステージと言われているが、その主役は誰か、というと日本の会社はまったく出てこない」と指摘。IT革命の中心にある企業としてマイクロソフトやインテル、アマゾンドットコム、ノキア、サムスンなどを例に挙げた上で「これらはすべて外国企業。日本の企業は価値を生み出す力を喪失しているのではないか」との懸念を示した。
ソフトバンクBBの宮川潤一氏は、「固定通信に関しては、FTTHという宿題はあるもののある程度見えてきた、と思う」との認識を示した上で、「ユビキタスブロードバンドを実現するのは無線が必要で、非常に興味のある分野」とコメント。「1つ1つやれることをやっていこう、という考えから、今までは無線LANに取り組んできた。今後は今まで作り込んできた無線LANとの融合を図りながら、1.7GHzの周波数帯でブロードバンドと呼べるものを作っていきたい」との意気込みを示した。
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総務省の稲田氏が指摘するワイヤレスブロードバンドの課題
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「IT革命には日本企業の姿が見られない」と指摘する経済産業省の加藤氏
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■ 日本ではサービスのグローバル化が進んでいない
全員のプレゼンテーションを踏まえて真野氏は、「果たしてワイヤレスブロードバンドは実現できているのか?」と会場を含めた参加者に質問。総務省の稲田氏は「音楽のダウンロードや、携帯電話のバグをダウンロードで修復するといった事例を見れば、相当量の情報をダウンロードしており、光ファイバに比べれば速度は遅いかもしれないが、現在でも実現はできているのではないか」との考えを示した。
ソフトバンクBBの宮川氏は、ワイヤレスブロードバンドの課題として、NTTドコモのiモードを例に挙げて説明。「何もかもがオープンという世界はモバイル事業者は回避したいだろうし、ビジネスモデルとしてはある程度囲い込んでおきたい」という考えを示した上で、「すでにインターネット=ブロードバンドという感覚がある以上、許されてモバイル事業に参入できるのであれば、インターネットを意識しなければいけない。単に高速化するだけでは土管が太くなるだけであって、モバイルでどういう表現をするかが重要だろう」との考えを示した。
宮川氏は続けて「産業面で日本発海外のものがなくて寂しいという話もあるが、中身はそうとう育っていると感じているし、むしろ進んだマーケットで世界が学んでいるという面もある。決して恥じるものではない」とコメント。ワイヤレスブロードバンドの無線技術における課題としては「国際標準を無視すればこの時期でもサービスを提供できるものもあるが、世界で競争力を持つために規格に合わせるという意識が高まっている。その上で更なる技術に関してはおのおのが切磋琢磨していけばいいのではないか」と語った。
経済産業省の加藤氏は、アップルコンピュータを例に挙げ「ハードウェアベンダーがサービス業に転換しつつある」と指摘。「消費者ニーズにいかに対応するか、という観点では、サービスはグローバルとローカルに二極化するだろう。グローバルで通用する部品単位のビジネスは成立していても、サービスとしては日本から登場していない」と指摘。また、R&Dの分野においても「PLCもRFIDも研究開発が日本から外へ流れていて空洞化している」との考えを示した。
■ ワイヤレスブロードバンドの課題は周波数だけではない
総務省の稲田氏は、「外国からいろいろな方が来られるが、日本のワイヤレスはすごいとみな口々に言う。RFIDをゼッケンにつけてマラソンしているのは日本ぐらいのものだろう」との事例を挙げた上で、「サービスに対する感覚は鋭いが、グローバル化が進まない」と指摘。「国際的な標準化の場においても、日本語だと元気な人が英語だとおとなしいことがある。言語の壁を考えると、日本単独のモデルはないのかもしれない」との意見を示した上で、「中国でPHSが普及したのも、実際には香港や台湾のサポートがあってこそ」と付け加えた。
R&Dの分野に関しては、マイクロソフト楠氏、インテル宗像氏がともに「日本にも拠点を作りたいという考えはある」とコメント。しかし、実際にはコストの面などから、中国やインドに拠点が置かれることが多いと楠氏は語る。宗像氏は「インテルの研究所は中国やインド、ロシアなどに点在しており、日本に来ては行けない理由はない。グローバルで製品を開発する際に、日本で行なうことの必然性が政策から提案があれば、我々としても日本のR&Dに投資していきたいと思っている」と述べた。
真野氏がソフトバンクBB宮川氏に「ソフトバンクBBはR&D分野は行なわないのか」と問いかけると、宮川氏は「その気持ちはあるが、実際には実務のほうがリアル感があるものが生まれることが多い」と回答。「実務からでなければ生まれてこないものもある。そのためにも1割くらい余力を持った人員構成で進めていきたい」との考えを示した。
真野氏が「ワイヤレスブロードバンドのインフラを1から作り上げるのは厳しいのではないか。MVNOを義務づけるなど、インフラとその上のサービスを完全に切り分けてモジュール化するといいのでは。そのためにも総務省と経済産業省に舵取りをお願いしたい」との考えを述べると、総務省の稲田氏は「モジュール化は確かにその方向だと思うが、まだまだ投資の時期なのではないか」とコメント。ソフトバンクBBの宮川氏も「さまざまな形のMVNOは政策的に進めていくべきだが、要はそのMVNOがいくらなのかというビジネスの問題。これが計画経済になってしまっては何のための新規参入かわからないし、汗をかくべきところは必要だ」と述べた。
真野氏は最後に「ワイヤレスブロードバンドの課題は多いが、それは電波の開放だけが問題ではなさそうだ」とコメント。「周波数も問題の1つだが、そこではないところにも壁があるという認識が必要だ」と述べ、講演を締めくくった。
■ URL
Interop Tokyo 2005
http://www.interop.jp/
(甲斐祐樹)
2005/06/09 19:11
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