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　WTR54GS-JPは、持ち運びを前提にしたコンパクトな無線LANルータだ。ブロードバンドホテルの客室にあるRJ-45ポートに本製品を接続することで、ホテルの客室内で手軽に無線LANを利用できる。以前、本コーナーで紹介したネットギアの「無線LANトラベルセット」に近いコンセプトの製品だと言える。なお、本製品はツクモパソコン本店IIや愛三電機、Amazon.co.jpなど一部店舗でのみ販売されている。

　電源は本体に内蔵されており、コンセントに直接差し込む方式を採用。前回の「無線LANトラベルセット」に含まれる小型アクセスポイント「WGR101」と比較した場合、外形寸法こそ今回の製品のほうが大きいが、ACアダプタがないぶん荷物の量は少なくて済む。また、ネットギア製品と同様にキャリングケースが付属するなど、持ち運びも考慮されている。

　ちなみに、本製品と同じく電源内蔵でルータ機能を持つ「AirMac Express」との比較だと、「AirMac Express」の約75×28.5×94.01mm（幅×奥行×高）に対し、本製品は約73×31×107mmと、ほぼ同じサイズだ。ただし、重量はAirMac Expressの約189gに対し、本製品は約148gと40gほど軽い。

　本体にあるポートは2つ。INTERNET（WAN）ポートと、ETHERNET（LAN）ポートだ。無線でしか接続できないと設定でトラブルが発生した際などに心細いため、有線ポートが用意されているのはありがたい。家庭で使う場合は、この有線ポートにLAN接続HDDなどを接続して利用しても良いだろう。


製品本体のコンパクトさがよくわかるパッケージ。上部に貼られたシールを除き、英語版そのままの仕様	パッケージ内側はコンセントのイラストが書かれており、どのように接続すればよいか一目でわかる

初期設定に使用するウィザード画面は英語だが、イラストが多用されているので非常にわかりやすい

　注意しなくてはいけないのは、本製品の初期設定に使用するウィザード、Webブラウザ画面とも、すべて英語である点だ。製品型番の末尾に「JP」と、日本向けを指すと思われるアルファベットが付与されているが、パッケージに貼られたシールと同梱の注意書き2枚を除き、日本用にカスタマイズされている部分はないと思われる。紙のマニュアルはもともと付属せず、英語版のPDFマニュアルのみなので、ほぼすべての設定を英語でこなす必要がある。

　1つ救いなのは、初期設定に使用するウィザード画面はイラストが多用されており、非常にわかりやすいということだ。手順についても、電源を入れたりケーブルを差し込む順序を間違えなければ、大きなトラブルになることはないだろう。少なくとも、クライアントPCとルータを接続するまでは、英語であることをほとんど意識せずスムーズに作業を進めることができる。

　なお、本製品の上面には、無線LANの自動セットアップボタン「SecureEasySetup」が備えられているが、国内では対応のアダプタが販売されていないため、事実上利用できない。英語の設定画面と合わせ、無線LAN製品を初めて購入するユーザーには少々ハードルが高い製品だと言えるだろう。


無線LANはIEEE 802.11b/gに対応	無線LANのセキュリティは、WPA（TKIP）、WPA2パーソナル、さらにWPA（TKIP）とWPA2パーソナルが同時に使えるミックスモードにも対応している

■ ルータ部は常にON、アクセスポイント単体としての利用は不可能

INTERNET（WAN）ポートと、ETHERNET（LAN）ポートを装備。無線はもちろん、有線でも接続が可能だ。ノートPCとデスクトップPC、ノートPCとLAN接続HDDといった組み合わせが考えられる。有線ポートはハブでの増設も可能だ

　本製品を使ってみて意外だったのは、ルータ機能をオフにする設定が用意されていないことだ。昨今の国内メーカーの無線LANルータでは、ルータ機能を切り離し、無線LANアクセスポイント単体として使えるモードが用意されている製品が多いが、本製品はそれがない。前述の「無線LANトラベルセット」の場合、どちらかというと無線LANアクセスポイントとして使えるモードに主眼が置かれていたが、本製品はまったく逆である。

　そのため、ブロードバンドホテルに本製品を持参し、無線LANを使おうとすると、ルータが二重の状態になってしまう。IPアドレスの体系で言うと、ホテル側が「192.168.0.xxx」だった場合、このルータに接続するクライアントはデフォルトの場合「192.168.16.xxx」と、異なる体系になってしまうのだ。

　ブロードバンドホテルによっては、他の部屋の人から自分のパソコンの共有フォルダが見えてしまうなど、セキュリティ上あまりよくない設定の場合もあるので、セキュリティ確保を目的にルータモードで使用するメリットがないわけではない。とはいえ、特定ポートを使ったアプリケーションでは動作しない可能性もあるし、通信も遅くなる。試用した範囲ではメッセンジャーやスカイプはきちんと接続できたが、VPNはおそらく利用できないだろう。ホテルなどに持ち運んで使える点を訴求するのであれば、やはりルータ機能はオン・オフできて欲しいところだ。

　なお、本製品のパッケージには、大きく「Travel Router」と書かれているが、国内向けの製品紹介ページではそのニュアンスが薄められ、1人暮らしのユーザーをターゲットにした訴求が強まっている。おそらく上記のような製品の特性から、表現が弱められているのではないかと推測される。


Webブラウザ画面もすべて英語	ルータのある環境に本製品を接続するとルータが二重の状態になる

　それ以外の機能・特徴は、まさしく一般的な無線LANルータといった印象で、それほど特異な設定項目や、欠けている機能もない。フレッツ・ADSLやBフレッツなどへの接続で利用するPPPoEにも対応している。ただし、筆者宅および編集部のBフレッツ環境（いずれもBB.excite）では、エラーが出て接続することができなかった。プロバイダーによっては多少クセがあるということなのかもしれない。

　本製品の特徴であるコンセント直付けという設計は、持ち運ぶ際は大きなメリットではあるものの、国内のブロードバンドホテルではデメリットになる場合もある。国内ホテルは1室あたりのコンセント数がそれほど多くなく、本製品によって占有されると、ほかの機器をつなげなくなる可能性があるからだ。コンセントの設置場所も机の端など狭いスペースにあることが多いため、物理的に取り付けられない可能性もある。本製品を快適に利用するためには、RJ-45ポートとコンセントが1m以内に隣接して設置されており、部屋のコンセント数もある程度余裕があることは必須である。余談だが、筆者がホテルに持ち込んで試した際は、10cm程度のショート電源延長ケーブルが手元にあったおかげで非常に重宝した。

コンセント部分は本体に収納可能。ロックが甘いとコンセントに差し込もうとした時点で中に押し込まれてしまうので注意が必要だ


上面に装備された無線LANの自動セットアップボタン「SecureEasySetup」は、国内では対応アダプタが未販売のため利用できない	キャリングケースとLANケーブルが付属。ケーブルはフラットタイプだが、いわゆるきしめんタイプとは異なり、かなり外皮が厚く反発力がある

■ 中級者以上がターゲットの製品。機能をよく理解している人向け

　本製品は「Travel Router」という名称がつけられているものの、機能としてはごく一般的な無線LANルータである。電源内蔵＆コンセント直付けであることと、有線が1ポートであることが、現在市販されている無線LANルータとの大きな違いだ。iTunes利用に特化したAirMac Expressとサイズはよく似ているものの、製品の方向性はまったく異なる。ネットギアの「無線LANトラベルセット」にあったような、接続を1ユーザーに限定するといった、ホテルでの利用に特化したような機能もあるわけではない。まさしく「普通」の無線LANルータである。

　設定のメニューがすべて英語である点も含め、無線LANルータを機能をよく理解しているユーザーがターゲットの製品であり、筐体のコンパクトさにつられて、初心者が安易に手を出すのはオススメできない。持ち運んでホテルなどで利用するにはたしかに便利だが、ルータ機能をオフにしてアクセスポイントとして使えないのは気になるところだ。

　もっとも、これらはファームウェアで簡単に機能を追加できる部分であるし、ハードウェアには魅力のある製品であることには間違いない。販売ルートが限られている点からして、「中級者以上」のユーザーをターゲットにしていることは明らかだが、利用目的がイマイチ見えてこないのも事実なので、メニューの日本語化と合わせ、さらなるブラッシュアップを期待したいところだ。

■ ＵＲＬ
　製品情報
　 http://www.linksys.co.jp/product/wireless/g/wtr54gs/wtr54gs.html
　リンクシス
　 http://www.linksys.co.jp/

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（後藤重治）
2006/02/15 11:07

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