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ライブ中継を360度自由に操作できる「MASK of LOVE」

 So-netを運営するソニーコミュニケーションネットワーク(SCN)は、9月27日よりミュージカル「MASK of LOVE」の360度映像によるライブ中継を開始した。SCNの360度映像によるライブ配信第2弾となる今作を、前作と比較しながら鑑賞してみた。


ミュージカルを360度カメラでライブ中継

「MASK of LOVE」制作発表会の模様
 MASK of LOVEは、実際の会場で上演されるミュージカル「リアルシアター」のほか、公演の模様をインターネットで配信する「ブロードバンドシアター」の2つで構成されるコンテンツ制作プロジェクト。SCNでは2003年4月に高木りな、山本耕史らが出演した第1弾「ROOFTOP」を実施しており、MASK of LOVEはプロジェクトの第2弾となる。

 ROOFTOP、MASK of LOVEという2作品に共通するのは、ソニーが開発した全方位映像制作システム「FourthVIEW」を利用し、公演の模様を360度映像で配信する点だ。ただしROOFTOPとMASK of LOVEでは、視聴方法などの細かい点が変更されている。

 ROOFTOPでは1公演につき1,050円の料金が必要だったが、MASK of LOVEでは1,050円でブロードバンドシアターの全7公演をすべて視聴できる。また、10月1日からはMASK of LOVEのオンデマンド配信も実施され、こちらも1,050円で期間内は何度でも視聴できる。

 リアルシアターの上演会場も大きくパワーアップ。ROOFTOPでは銀座ソニービル8階のSOMIDOホールでの上演だったが、MASK of LOVEでは東京都大田区の多目的ホール「アールンホール」に場所を移した。会場での収容人数だけでなく、カメラの台数も大幅に強化され、前回は1台だったFourthVIEWカメラもMASK of LOVEでは2台用意されている。


3種類の視聴方法を用意

MIX画面。ディレクターズカットと360度映像を同時に表示できる
 MASK of LOVEをブロードバンドシアターで視聴する場合、ディレクターズカット、360度画面、この2つを合わせたMIX画面の3種類が用意されている。ディレクターズカットは複数のカメラ映像を編集したもので、テレビ感覚で公演を楽しむことができる。配信帯域は1Mbpsと300kbpsの2種類で、Windows Media Playerさえあれば専用ソフトウェアをインストールする必要もなく視聴できる。純粋に公演そのものを視聴したいだけであればかなりお手軽な手段だろう。

 360度画面を視聴する場合は、専用プラグイン「envivioTV」をインストールする。これは前公演のROOFTOPと同じプラグインだが、MASK of LOVEの視聴には新しいバージョンへアップグレードする必要がある。envivioTVをインストールすると、プレーヤー内に360度映像が視聴できるビューワーが現れる仕組み。envivioTVはWindows Media Player、RealPlayer、QuickTimeの3プレーヤーに対応しており、配信帯域は1Mbpsとなっている。

 MIX画面は、ディレクターズカットと360度映像の2つをユーザーが任意に切り替えて視聴できる方法で、ブロードバンドシアターを楽しむためには最もお薦めの視聴スタイルだろう。2つの画面を同時に表示するため、視聴には1.5Mbps程度の帯域が推奨されている。なお、どの視聴方法も同一料金で利用可能なため、ユーザーがそれぞれ気に入った視聴方法を選ぶことができる。


360度カメラは自由に操作可能

 前作のROOFTOPでは5つのカメラ映像をユーザーが選択できたが、今回のMASK of LOVEでは2つに削減された。ただし前作では360度映像による中継を、画面を上下に分割して180度ずつ表示させることで実現しており、180度映像は固定されていてユーザーが動かすことはできなかった。MASK of LOVEでは360度映像をユーザーが自由に動かせるように変更されており、映像の切り替えという点では自由度が増している。

 カメラの切り替えはプレーヤー下部の小画像をクリックするか、またはメイン画像をクリックしても切り替えられる。切り替え時間はかなりスムースで、マウスをクリックした瞬間にはもう画面が切り替わっている印象だ。

 360度映像は左右どちらにも自由に動くほか、プレーヤーの真ん中にあるダイヤルをマウスでドラッグして回すことでも動かせる。こちらの操作感も切り替えと同様良好で、ビデオのような家電製品を操作しているかのような反応の速さだ。ネットワーク経由のストリーミングによるライブ中継ながら、これだけ自由に画面を動かせることには驚きを覚えた。


前作「ROOFTOP」の画面。5つの視点から自由に選択できる 「MASK of LOVE」の画面。アングルは2つになったが、360度映像は自由に操作できる

360度映像で公演の雰囲気を追体験

大沢樹生演じるラモンのショータイム
 MASK of LOVEは、マフィアが幅を利かす大都市Mシティを舞台として、出演者による歌とダンスが繰り広げられるミュージカル。市長の息子で、世界的にも有名なファッションデザイナーでありながら、裏でマフィアと通じているラモン(大沢樹生)とその彼女であるロリータ(伊藤裕子)、ロリータに恋焦がれる警官ディエゴ(村田真)の3人の中で揺れ動く秘密の愛がテーマとなっている。ある日マフィアに襲われたロリータを助けるために、ディエゴは伝説のマスクヒーロー「ルプ」に成りすまし、見事マフィアを撃退する。この一件でロリータはルプに恋をするが、ディエゴは自分ではなく、自分が変身した姿だけしか愛されていない虚しさを感じてしまう。

 ディレクターズカットと360度映像は、それぞれ特徴が異なる。楽しむという点では、出演者のアップ画面や舞台全体をストーリー展開に合わせて切り替えていくディレクターズカットのほうが優れているだろう。ただしこちらで視聴するだけでは、テレビで見ているのとあまり印象は変わらない。

 これに対して360度映像は、自分の好きなカメラ視点を自由に操作できるところが特徴だ。ストーリーの途中ではラモン役の大沢樹生が観客にアドリブで話しかけたり、観客席のすぐそばで歌とダンスが繰り広げられるといった演出が用意されている。観客や出演者を好きな視点で見られることで、その場にいるような臨場感とまでは言わないものの、舞台の雰囲気は単なる映像配信よりも体感しやすいのではないだろうか。


前作「ROOFTOP」では舞台中央にFourthVIEWカメラを設置
 ただし前作のROOFTOPと比較すると、せっかくの360度が活かしきれていないという印象も受けた。前作では会場が今作よりも狭かったことも関係しているのだろうが、舞台の中央に360度映像を映し出すfourthVIEWカメラが置かれ、舞台を取り囲むように観客席が用意されていたため、公演の雰囲気をより掴みやすかった。

 MASK of LOVEではfourthVIEWカメラが舞台の脇に置かれており、出演者からかなり遠い位置にある。そのため360度映像では出演者の映像が小さすぎて、何が起きているかわかりにくいシーンが多々見受けられた。カメラの設置場所など難しい部分も多いと思われるが、できるだけ舞台の中心に近く、出演者をしっかり把握できる位置での360度映像を期待したいところだ。

 また、これはブロードバンドシアターの問題ではないが、MASK of LOVEは約3時間に渡る大長編。途中に15分の休憩を挟むものの、パソコンの前で見続けるには少々厳しい長さだった。実際の舞台をそのままライブ中継しているので当然といえば当然だが、インターネット配信向けのコンテンツとして捉えるなら、少々長丁場ではないかという印象も受けた。


ミュージカル以外にも様々なコンテンツを期待

 ブロードバンド向けの映像コンテンツは数多いが、有名アーティストのコンサートやテレビで人気だったアニメといった作品の違いはあれど、配信形態はテレビと同様、ただ映像が流れるだけというものが多い。その中で実際のミュージカルをライブ中継しながら、カメラを自由にユーザーが動かせるブロードバンドシアター第2弾は面白い試みであるし、インターネットならではのコンテンツと考えることもできる。

 現在はSo-net自身が配信対象となるミュージカルも運営しているが、今後はFourthVIEWの更なる拡大を期待したい。例えば前述の有名アーティストによるコンサートのライブ中継を360度映像で楽しめたら、臨場感を追体験するという点では魅力は大きいのではないだろうか。アーティスト数人からなるグループやユニットであれば、自分がお気に入りのアーティストだけを追いかける、全員が揃ってパフォーマンスを披露するといった視聴スタイルも楽しめるだろう。今後はミュージカルだけではなく様々な作品にFourthVIEWが対応し、さらには公演の模様を配信するに留まらず、360度映像を楽しむことを主軸としたコンテンツの登場を期待したい。


関連情報

URL
  ブロードバンドシアター
  http://www.so-net.ne.jp/bbtheater/

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(甲斐祐樹)
2003/10/01 14:28
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