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Broadband Watch座談会~2003年のブロードバンドを振り返る~(前編)

 ADSLの高速化やIEEE802.11gの登場など、ブロードバンドの話題には事欠かなかった2003年。年末最後の締めくくりとして、本誌連載「イニシャルB」の清水理史氏と、ケータイWatch「週刊モバイルCATCH UP」でお馴染みの法林岳之氏を迎え、2003年のブロードバンドについて座談会形式でお話をお伺いしました。前編ではADSLや光ファイバといった回線系の話を中心にお送りいたします。


ADSLは年に2回の高速化

清水理史氏
――本日はよろしくお願いいたします。まずはADSLですが、今年は20M超、40M超と2回の高速化がありました。

法林:2回の高速化っていうのは、技術的見地からはすごく良いことだと思うんですが、ユーザーの観点からすると2回も上がるっていうのはわりと迷惑なことじゃないかなぁ。

清水:そうですね。

法林:今年20Mに上げた人は自動的に40Mに変えてくれる、みたいなことをしないと。携帯電話みたいに半年に1回の新製品っていうのもどうかと思うな。ある意味では、20Mに入っちゃった人は運が悪いとも言える。

清水:今だと40Mのサービス発表後に20Mタイプへ加入する人は無料アップグレードっていう方向だけど、それは発表前の8月9月の時点で加入した人にも適用してほしいな。

法林:速度表記のネーミングはそろそろやめないと。「知らないうちに40Mになってました」という風にしてほしいよね。気がついたら「モデム新しいの出ました」とか言われてモデムが送られてきて、自動に40Mbpsになりますっていうのが。

清水:ユーザーの理想ですよね。

法林:そこにコストがかかるという問題はあるんだけどね。

清水:だから気づくとYahoo! BBが安くなくなっているんですよね。いつの間にか高いサービスになっている。これは意外でした。

――Yahoo! BBは、毎回速度のたびに値上げを重ねていますね。今ではモデムレンタル料だけでも1,000円近くなっています。

清水:まぁ、Yahoo! BBはIP電話も無線も使えるしね。

法林:そういう意味でコストが高くなるのは仕方がないと思うんですよ、Yahoo! BBに関しては。

清水:あそこはARPU(ユーザー1人あたりの月平均収益)を上げたいはずだから、狙い通りといえば狙い通りなんだろうけど。

法林:ブロードバンドの加入者は来年も伸びるだろうね。去年と今年で大きく違うのはプロバイダーのオンラインサインアップが減ってきて、販売店が中心になっているということ。新規で加入する人はほとんど販売店になっていて、加入の流通経路が変わってきている。

清水:対面販売が主だという話ですよね。割合として多いって話はよく聞くんで。加入者の伸びが鈍化してきたとはいえ、まだまだ伸びるだろうし。1Mタイプとか安いサービスが始まってきたんで、こういうのが売れてくればおもしろいかな。

法林:日本の世帯数が4,000万世帯を超えてるよね? そう考えればまだ1/4以下なので、来年で2,000万くらいはいくんじゃないかな。

清水:冷静に考えると、1Mbpsサービスって、2,000円くらいだよね。モデムを含めるともうちょっといくけど。使い方次第ではダイヤルアップより安いと思うんだけどな。

法林:そう言うときに必ず出てくるダイヤルアップユーザーの主張が「でも私、そんなに使わないから」。今後は、ダイヤルアップとADSLがどれだけ違うのかっていうことを事業者がフォーカスしていかないと。

清水:見出しに「40M」とか踊って売ってるようじゃぁ、ついてこないですよね。

法林:数字で売ってるぶんにはだめだね。これから先の1,000万は、パソコンを買い換えたら自動的にADSLがついてくる、みたいな図式になってくればいいんじゃないかな。


光ファイバの100万件突破は2003年度中に達成なるか

法林岳之氏
清水:光もがんばってますね。集合住宅にはもうバンバン入ってるんで、結構行くと思いますよ。

法林:どこまで通信速度が必要かっていう問題もあるんだけどね。ADSLは、光に比べると導入が簡単だし、手離れもいいし手間がかからない。ただ、マンションなんて10年に1度はメンテナンスするんだし、そのタイミングで設備を整えたりとか方法はあると思うね。そういう意味でいうと、事業者がユーザーに手間をかけさせないで家主を攻略していかないと。

清水:TEPCOひかりは頑張るみたいですよ。都内だと、光がどうしても持って行けないマンションが結構あるらしくて。地下を潜ってマンションまで行く途中がNTTの配管で埋まっているとか、配管が狭くて光を持っていけないとか。でもそれがこの前発表した5GHzの無線アクセスで全部カバーできると。都内はほぼこれで行けるようになるみたい。

――BフレッツもFWAサービスを揃えてきましたね。

清水:無線ならマンションの共有設備以外に、ベランダにも設置できるしね。

法林:本質的にはADSLと光の違いって言うのは、効率面で違いがあるはずだと。1人で100Mbps必要かという問題はあるんだけど、単位面積あたりで考えた場合、同じ面積でたくさんの光がADSLより収容できるはずだから。携帯電話が第2世代から第3世代へ上がったときに電波効率が上がったように、線の利用効率を上げてこそが、光ファイバのメリットじゃないかなと。末端もそこで利用効率を上げてコストを下げることもしていかないとね。

清水:ニューファミリータイプはどうなんでしょう。公取委が動いたら何らかの決着はつくはずですからね。値段が上がるか、分岐に変えるかのどっちかだけど、値上げはユーザーが納得しないから、最終的にシェアドアクセスに戻って、今後はニューファミリーがちょっと遅くなっちゃうかも。でもたいした問題にはならないよね。今だって、ものすごい混んでて実効速度が20Mbpsしか出なくったって、さほど大きな問題ではないから。

法林:速度の上積みによる本当のメリットはないでしょ、とはよく言うよね。

清水:ただ、単純な速度も影響するんだけど、一番アプリケーションを作る上で問題になるのは遅延時間だっていう話があって。それを考えるとDSLやシェアドアクセスだと遅延が大きいとか。IP電話くらいだと問題にならないんだろうけど、テレビ電話系とかはわりときつくなってくる。「テレビ電話って使うの?」といわれるとそれはまた難しいところなんだけど。


2003年10月末現在の光ファイバ加入者推移
――光についてはNTTが「2003年度内にBフレッツ100万件」を目標に掲げていましたが、現在のところ光ファイバ全体のシェアでは10月末現在で約75万件です。

清水:そうとう頑張ったことは頑張ったよね。

法林:電話サービスや通信サービスは昔から1~3月の人が動く季節にピークを迎えるから、そこでどのくらい上積みできるかだな。

清水:2003年度だったら光ファイバ全体で100万件はなんとかなるかもな。

法林:普通の人は年末に引っ越ししないんで。

清水:そうですね。避けたいですね。俺はしたけど(笑)。
(編集部注:清水氏の引っ越しについてはイニシャルB第40回「どうする? どうなる? 引越に伴うADSLの移設」をご参照ください。)

法林:光ファイバの工事費無料キャンペーンは各方面で話題になっているね。「無料キャンペーンがやめられない」って。

――ユーザーからすれば、普通に加入すると数万単位の初期費用が必要ですからね。

清水:でも確かに工事はお金がかかると思うよ。工事車両が1台来て、工事のおじさんが2人と交通整理のおじさんが来て。その日当だけ考えたって結構な負担にはなっていると思うんだけど。まぁ光はこれから数が伸びていけばたいしたことはないのかな。設備投資的に言うとADSLのほうがきついはず。

法林:きついね。

清水:今回の40M系のアッカ、Yahoo! BBはものすごい金額だと思うよ、設備投資が。まぁADSLは、スピードアップは一旦止めて、今の設備で加入者をガンガン伸ばすのと同時に、ARPU上げていくのをしないと厳しいよね。あとは光に食われないように。

――FWAが出てきたことで光ファイバの加入者は伸びるでしょうか。

法林:多少は伸びるだろうけど、突破口にはならないだろうね。それをやる前に、光の事業者はマンションのオーナーとかを攻略するほうが先だよね。それができているのかな? という気がするかな。

清水:FWAは話を聞く限り、どうしても光を引き込めないところの対策という感じだから、これをメインで売っていく、ということはないみたい。

法林:まぁ、なんといっても光の歴史はまだ短いので、これからに期待かな。ADSLなんて300ボー(baud)のモデムから考えたら、銅線をしゃぶり尽くした上での40Mだから。

清水:そうですよね。「56kbpsなんて出ねぇよ!」って言っていたのが。

法林:あっという間だもんね。構造的に違うものだから一概に比較はできないけど、通信速度の歴史はものすごい時間がかかっているものだから。15~6年はかかっているんじゃないの。ここまで来るのに。

清水:56kbpsからでも5~6年ってところですかね。

法林:最終的には光に集約していかないと、5年後、10年後に「昔は電話のために1本線を引いていたのがばかばかしいよね」とは言えなくなっちゃうので。今や光1本でインターネットから電話、放送まで全部できます、という方向に持って行くためにはさ、光の事業者はいろいろな工夫をしていって欲しいな。


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回線事業者もコンテンツを育てる努力を

KDDI光プラスTVで利用するSTB
清水:CATVはこれから難しそうかな。

法林:結局CATVって、本来CATVが提供しようとしていたサービスをADSLに取られた感があるね。CATVは、例え身銭を切ってでも、自動的にCATVモデム、CATVインターネットがつくようなサービス提供をすべきだった。ADSLを申し込んだらIP電話が自動でついてきます、というのと同じようなことをしなかったことだね。

清水:インターネット事業をADSLに取られて、マンション系も光が強くなってきて、放送系も下手すりゃKDDIの光プラスみたいなサービスに取られてしまうかも。この前発表会を見てきたんですが、光プラスTVは結構よかったですよ。クオリティが高かった。4Mbpsだからもうちょっとダメかとは正直思ってたんけど。

――普通にテレビで見るには十分な画質でしたね。

清水:KDDIは売ることというか、ユーザーのことを考えているね。

法林:商売として成立しつつ、ユーザーのことも考えてやっている。場あたり的ではなくて計画性はある。

清水:STBもちゃんと作ってるし、リモコンも単純にして考えたり、基本料金の中でビデオオンデマンドが見られたり、入ってもいいかなと思えるモノをちゃんと持ってきている。そこにBBケーブルTVやぷららとの違いを感じるな。


法林:ぷららの「4thMEDIA」はモニターになったんだけれど、動画がMPEG-4かMPEG-2がどうこうという以前に、使うハードウェアに問題を感じたな。試験サービスっていうこともあるんだけど、起動するのに1分以上かかるとか、リモコンが反応しないとか。

清水:(4thMEDIAは)インフラ屋さんっぽいサービスな気がするな、すごく。バックエンドはIPマルチキャストとか技術はすごいんだけど、作った人がそれを家で見てるのかな? ていう疑問を感じる。ただ、(通信での)放送サービスは来年はいけそうな気がするな。今は光プラスTVなんかだと、マンションで回線とセットで売っているから、単独のサービスとしてどこまで持って行けるかと言うところでしょうね。あと、BBケーブルTVは、地上波を持ってくるみたいな話もしていたけど、できるのかなぁ。

法林:地上デジタルを持ってくるという話はいいんだけど、結局のところ、放送する番組は「地デジでしょ? 同じじゃん」という話な訳で。4thMEDIAを見ていると「いろいろあるなぁ」とは思うけれど、スカパーを見るともっといろいろある。オンデマンドはメリットあるかもしれないけれど、それもPPV(ペイ・パー・ビュー)があるわけだし。

清水:KDDIの光プラスTVだと、オンデマンドコンテンツが2泊3日で100~500円だったんだけど、2泊3日は辛いんじゃないかと。7泊8日じゃないの? って。日曜から見始めて、急用が入ってみるのやめた時、2泊3日だと月、火で見なきゃいけないですから。それは無理じゃないかなぁ。

法林:本来ビデオオンデマンドは「オンデマンドにビデオが見られる」ことがメリットである訳でしょ。

清水:タイムリミットがあったらオンデマンドじゃない。

法林:そう。タイムリミットがある時点でオンデマンドとは言わないので。レンタル方式っていうのは決済を含めてもう少し工夫しないといけないと思うな。1回買ったコンテンツを2回目に買うときは安いとか。

清水:2回目は安くしてほしいですよね。そういえばKDDIで思ったのが、STBがよくできてて、携帯電話で外から番組を購入できるんだけど、そのタイトルとかがSTBに出ちゃうと。そうするとお父さんが夜コッソリ番組を見ようかな、と思って携帯電話で買うと、自宅のお母さんが何を買ったかSTBで見られる、なんて心配もあったりして。

法林:それはスカパー!も同じなんだけどね。結局チューナーの中に全部入れてしまうから。残した方がいい場合と、そうでない場合を考えないと。


法林:ブロードバンドのストリーミング放送に関して言えば、今あるものを持ってくるぶんには、結局スカパー!やBS/CSデジタル、地上デジタルと対決しなければならない訳で、それは辛いんじゃないかと思う。だったらブロードバンド専用のコンテンツ、あるいはテレビではちょっと見にくいコンテンツなんかを買いやすく、見やすくする努力のほうがいいんじゃないかな。もちろんブロードバンドの事業者もそこに投資するとか。今は線ばかり用意しても、上を流れるものがない状況だから。

清水:そういう話を回線事業者とすると、インフラ屋だっていう意識が強いから「いやぁ、コンテンツ事業者さんががんばってくれますから」って、他力本願ですよ。それじゃぁ無理だろうと思うんだけど。

法林:通信サービスを一緒くたにするのはどうかなと思うんだけど、あくまで一例として挙げておくと、NTTドコモは投資会社を子会社で持ってるんですよ。それはコンテンツ事業者に対して、有望なコンテンツに対して投資をして、それを育ててiモードのコンテンツに入れていこう、という目的のため。KDDIも公式サイトで「一緒にやりましょう」とか、コンテンツ事業者とサービスを作っていこうという意識がすごく強い。ブロードバンドも結局それをしない限りは“ただの速い線”でしかないので。光を持ってこようが何しようが、たぶん今のままでは市場は誰もなびかない。結局WinnyやWinMXしか使われなくなっちゃう。

清水:プロバイダーのバックボーンを圧迫するだけで終わっちゃいますね。

法林:プロバイダーにしても回線事業者にしても、コンテンツ事業者を育てる努力をしていかないと。今ある地上波やスカパー!の番組を持ってきても、喜ぶ人は限られているから。

清水:そうなんですよね。CATVと比べたらそんなに変わらないわけだから、置き換えを狙うのは難しいですよね。他に投資するだけの地力がないっていうのもあるんだろうけど、少しずつでもやっていかないと。KDDIみたいに電話とかセットで全部のコストが安くなりますよ、みたいなやり方もあると思うので、事業者はこれから頑張って欲しいな。


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 前編ではADSLや光ファイバといった回線とそれに関連したコンテンツについてお送りしました。後編では無線LANやIP電話、ネットワーク対応家電といった製品関連の話を中心にお届けします。


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(甲斐祐樹)
2003/12/25 14:11
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