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【梅田望夫がブロガーと語る「ウェブ進化論」】
ネット社会で既存メディアはどう変化するのか

 2月7日、筑摩書房主催の「梅田望夫がブロガーと語る『ウェブ進化論』」イベントが開催された。2月7日に発売される梅田望夫の書籍をテーマにこれからのWebの在り方をブロガーと議論するという趣旨で、会場には招待や抽選で選ばれたブロガーが参加。イベントの司会はブログ「情報考学 Passion For The Future」の橋本大也氏が務めた。

 イベントの第一部は、ブログ「R30::マーケティング社会時評」のR30氏、ニュースコミュニティ「FPN」を運営する徳力基彦氏を迎えたパネルディスカッション。「これからのメディアについて」をテーマとし、会場の質疑応答を含めた議論が行なわれた。本イベントの内容は梅田氏のブログ「My Life Between Silicon Valley and Japan」でもPodcstingで配信されている。

□梅田望夫がブロガーと語る「ウェブ進化論」ポッドキャスティング(My Life Between Silicon Valley and Japan)
http://d.hatena.ne.jp/umedamochio/20060207/p1


インターネットは発展するが、既存メディアの淘汰や再編は起きない

第1部の出席者。左から橋本大也氏、梅田望夫氏、R30氏、徳力基彦氏
 梅田氏はこれからのメディアというテーマに対し、「インターネットの世界が発展していく、と本の中では書いているが、実際にはそれほどメディアの淘汰や再編は起きないだろうと思っている」との自説を披露。R30氏も「梅田さんと同じ考え」と同意しつつ、「我々がメディアを見る意識が変わってくるのでは」と指摘。また、現状のメディアに対しては「過剰に見えるが、それは過剰な話題を求めている人が圧倒的に多いから。その分野はGoogleのような情報マッチングではなんともできない部分だろう」との見解を示した。

 ニュースコミュニティ「FPN」を運営する徳力氏も「情報摂取のライフスタイルや既存メディアは短期的には変化しないだろう」との考えを示しつつ、「新聞は読まずにYahoo!を見るという若い世代は多い」と指摘。「ネット中心の情報摂取の中で、これまで組織的に運営されていたメディアが個人ではどうなっていくのか、という点には興味がある」と語った。

 徳力氏は続けて「メディア産業ではない素人ブロガーの立場として」と前置いた上で、「これまでメディアの役割はコンテンツの制作と流通、この2点しかないと思っていたが、実はいかにコンテンツをパッケージ化するかという編集の要素が大きいと気づいた」との考えも披露。「その編集をネットで実現する存在が、Googleやはてなブックマークなのではないか」とした。


既存メディアとネットは根源的に重ならない存在

梅田望夫氏
 既存メディアの問題点を梅田氏は「アンフェア」という言葉で説明。「新聞やテレビが製造業や他の産業に対して『経営努力や国際競争が必要だ』と指摘し続けてきた半分程度の努力をすれば、既存メディアは十分に存続できる」との考えを踏まえた上で、「メディアに対してネガティブな反応が巻き起こると言論の力で封じ、自分たちはジャブジャブ経営を続けるという、きわめてアンフェアなところにマスメディアの本質がある」と厳しく言及した。

 一方、「自分はジャブジャブなメディアから逃げ出した立場だが」とコメントしたR30氏は、「マクロな視点では既存メディアからネットへパイの移動は起きるだろう」としつつ、「これからメディア的な要素がさまざまな企業に取り込まれていく中で、メディアの人間の能力や経験は依然として必要であり、かつ流動化できる時代が来る」と、メディアの持つ能力そのものは評価した。

 既存メディアと違ってさまざまな情報が玉石混交し、能動的に情報を受発信する必要があるネットでは、「今後ユーザーが増えてくれば、どこかで情報を受動的に提供する仕組みが必要」(梅田氏)ではあるものの、「その受動性は新聞や雑誌の受動性とは違うもので、時代が進んでもネットで情報を得る人とそれ以外で得る人は存在する」と梅田氏は語る。梅田氏は「既存メディアとネットは、パイの取り合いは合っても根源的には重ならない」ものであり、「ネットの普及も人口の半分まできたらすごいことだ」との意見を示した。

 経済の面からも「ネットの世界に比べてリアルの世界は動く金額も大きい」と梅田氏は指摘。「Googleのように規模で小さい収益を集めるか、もしくは低コスト構造でないとネットは回らないだろう。雑誌のように1回のヒットで2桁億を生み出すような構造は生みにくい」との考えを示しつつ、「人口の半分までネットが普及したとしても、まだリアルのメディアのほうが経済の力は大きいのではないかという気がする」と述べた。

 この意見に対して徳力氏は「メディアがコンテンツを作るという作業が、ネットでは趣味で成り立つところが恐ろしい」との考えを示し、「パンが趣味でもコストはゼロにならないが、ブログのようにコストもかからず、内容が面白くて利用者とのコミュニケーションも生まれれば、そこから(ブランド力を持った)メディアのコンテンツが生まれる可能性もある」と指摘。「そうなったとき、メディアでなければできないことは何なのか」と問いかけた。


コンテンツマッチングの主導権をネットが取ればメディアの概念は解体

橋本大也氏
 R30氏は「Googleが火をつけたイノベーション競争の本質とは、ユーザーに適切なコンテンツを適切に届けるというマッチングができていたことだ」と語り、「マッチングの主導権をネットが取ることで、マスメディアという概念は確実に解体する」という意見を披露。「メディアは今後、特定の趣味や地域に絞ったターゲットメディアや、リアルとネットのハイブリッドといった姿に変化していくのでは」と続け、「そういう意味では、自分の顧客やターゲットセグメントを認識できている企業はメディアとして立ち上がるだろう」との考えを示した。

 梅田氏が「ネットが大好きな若い産業の人ではなく、私と同世代で忙しく働いている層には、ここで話しているような話題はまったく理解されないだろうし、そう簡単にマスメディア解体とまではいかない」とコメント。司会の橋本氏は「女子高生はネットリテラシーがなくてもブログをやっている」と発言すると、「若い世代は比較的変化が早いだろうが、それでも時間はかかるだろう。今U30といわれている世代が50代になる20年後になれば、ずいぶんと変化しているのではないか」との考えを示した。

 梅田氏は「なぜこの本を書いたかという理由の1つは、言葉を尽くすということ」と語り、「新しいことを説明するのに、何か話してすぐあきらめるのではブレイクスルーは生まれない。共通言語であれば少し言葉を尽くせばわかってくれる相手はいるし、そうしなければ新しいプロジェクトも生まれない」と説明。「その説明の材料にこの本を使って欲しい」と続けると、R30氏も「自分も以前は組織の中で変革を試みたが、結果を出して見せるのが一番早いと実感した」とコメント。徳力氏は「ネットは思ったより早いスピードで伝播している。まさか自分の親が携帯電話でメールをやり取りするとは考えてもいなかった」とし、「端末や環境など要素はいろいろあるが、自然と変わっていくものではないか」との考えを示した。


関連情報

URL
  「ウェブ進化論」: あとがきの一部、発売日の東京でのイベント(My Life Between Silicon Valley and Japan)
  http://d.hatena.ne.jp/umedamochio/20060130/p1

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(甲斐祐樹)
2006/02/08 12:57
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