秋葉原コンベンションホールで開催されている「GLOBAL IP BUSINESS EXCHANGE 2006(IP-BizX)」にて16日、基調講演「通信と放送の融合」が開催された。講演には、インターネット総合研究所代表取締役所長・財団法人インターネット協会副理事長の藤原洋氏、NHK放送技術研究所所長の榎並和雅氏、KDDI執行役員の村上仁己氏が出席した。
■ NHK榎並氏、放送のデジタル化と通信との連携を示す
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NHK放送技術研究所所長の榎並和雅氏
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講演では、榎並氏がNHKの放送のデジタル化の方針について説明を行なった。NHKでは放送網のデジタル化に伴い、サーバー型放送およびワンセグ放送との連携、地上デジタル放送のIP再送信について研究開発を行なっている。
サーバー型放送では、放送されたコンテンツから一部映像のみを視聴できる「ダイジェスト機能」、ユーザーの嗜好に合わせた番組のみを視聴できる「お好み視聴」、任意の番組を抽出し視聴や保存ができる「ライブラリー映像検索」が利用できるほか、VOD配信を行なえる。
また、サーバー型放送については放送と同時に番組のメタデータのみを同時にデータ送信する方式と、番組放送と同時に映像、音声、メタデータをデータ送信する方式の2種類の伝送方式を選択できるという。ただし、番組と同時送信するシーン毎のメタデータの添付方式、ユーザー側で蓄積された番組データのセキュリティ問題、データ転送におけるアクセスラインの安定性、といった技術的な課題があると述べた。
ワンセグ放送との連携については、災害時などにおけるネットワークの回避経路としての利用を挙げた。災害発生時に、ワンセグを利用して携帯電話向けに放送を行なえるほか、携帯電話のGPS機能を利用して位置を特定し、避難経路を案内するといったサービスが可能になる。
しかし、榎並氏によれば「携帯電話でワンセグを視聴すると電池が持たない問題がある。緊急放送が電池切れにより受信できない点は問題」だという。電池切れの問題を解決するため、携帯電話に災害放送の周波数成分のみを受信する省電力の放送受信機能や待ち受け機能を利用した省電力化技術を開発していると述べた。このほか、テレビ放送番組の情報をワンセグ放送で配信するサービスなどの連携サービスの提供を計画しているという。
地上デジタル放送のIP再送信については、榎並氏は「放送業界からは、インターネットはコンテンツを世界中にばらまく怖いものだと見られている」と前置きし、パッケージングの確保や放送の品質、放送事故の回避やコンテンツ保護など、IP再送信への要求条件が多岐に渡ると説明。このうえで「現在実用化できる技術を用いれば、要求条件を満たすことが出来る」と語った。
また、放送と通信の融合については「放送と通信にはそれぞれ良い点、悪い点がある。放送が良いインフラを構築したのだから、通信がその特長を活かせることが重要で、我々は技術的にもこれを支援したい」と放送のデジタル化に向けた技術開発の意気込みを表明した。
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放送デジタル化のスケジュール
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サーバー型放送の視聴イメージ
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サーバー型放送サービスの概念
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ワンセグを利用した緊急放送サービスのイメージ
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緊急放送向け待ち受けの省電力技術
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地上デジタル放送のIP再送信の放送業界の要求条件
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■ KDDI村上氏、「あらゆるキャリアで地上波放送を視聴できれば黒字になる」
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KDDI執行役員の村上仁己氏
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村上氏は、携帯電話を利用したワンセグ放送と放送業界との連携について説明を行なった。連携の説明を行なうにあたり、ワンセグを携帯電話に搭載させた経緯について「NHKの(北海道南西沖地震での)奥尻島の津波関連の特番を見て思いついた」と説明。また、これまでKDDIからFMチューナーや地上アナログ放送チューナーを搭載した携帯電話を販売した経緯を説明し「放送との連携は今後も増えるだろう」と、放送と通信の融合が加速するとの予測を述べた。
放送業界との連携については、「災害時などの緊急放送の深化拡大」「放送と通信の利点を生かした周波数の有効利用」「新しいビジネスの創造」を目標としていると説明このほか、2006秋より開始予定のデジタルラジオとの連携も計画していることを明らかにした。
また、これらの連携を行なうにあたっては、放送受信機能追加のコスト、電池の持ち、電話への影響、連携ビジネスの模索、といった課題を抱えていると指摘。放送受信機能追加のコストについては「本来5~6万円で販売する端末を2万円代で販売しているのだから、赤字にしかならない」とし、「あらゆるキャリアで地上波放送を視聴できれば黒字に転換できるが、CATV事業者などの反発も大きい」と放送業界における利害調整が必要となる課題を示唆した。
また、電池については「東芝や日立に携帯電話向け燃料電池の開発を依頼しており、今年中にはぜひ製品化してほしい」とメーカーへの要望を述べた。このほか、連携ビジネスの模索については「携帯電話事業者には、連携したビジネスが見えないとネガティブな人が多いと思う。ワンセグについても全てのキャリアが積極的であるとは限らない」と携帯電話事業者間での連携を訴えた。
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地上デジタル放送の可能性
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ワンセグを利用した災害情報サービス例
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携帯電話基地局から端末への配信イメージ
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■ IRI藤原氏、「放送文化を継承するのも通信テクノロジーの役割」
藤原氏は、榎並氏および村上氏の講演を踏まえ、「インターネットユーザーには、放送の視聴について消極的なユーザーもまだ多数を占める」と指摘する一方、「IP映像配信を利用したサービスについては、レンタルビデオや過去の番組配信といった独自の放送形態への期待は大きい」と説明。「放送業界が先に構築した文化を、通信業界がどう継承するかが今後の課題。文化を継承するのもテクノロジーの役割だと思う」とコメントし講演を締めくくった。
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インターネット総合研究所代表取締役所長・財団法人インターネット協会副理事長の藤原洋氏
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放送とインターネットの融合例として挙げられた「Google Video」
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放送とインターネットの融合例として挙げられた「GyaO」
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■ URL
GLOBAL IP BUSINESS EXCHANGE 2006
http://www.ip-bizex.jp/
(大久保有規彦)
2006/02/16 14:54
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