東京ゲームショウ2006を主催する「社団法人コンピュータエンタテインメント協会(CESA)」の会長を務めるスクウェア・エニックス 代表取締役社長の和田洋一氏は22日、基調講演「ゲーム産業の可能性と課題」を行なった。
■ ゲーム産業の危機意識は質的観点から捉える必要がある
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和田洋一CESA会長
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これまでの家庭用ゲーム機の歴史
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和田氏はまず、ゲーム産業の立ち位置として他のコンテンツ産業との市場規模を比較した資料を紹介。それによれば、世界主要国を合計したゲームの売上規模は3.1兆円と、映像ソフト売上の3.6兆円に次ぐ数値を示しており、和田氏は「業界人が考える以上に、ゲーム産業は大きな規模になっている」と指摘した。
また、続いて紹介された資料によれば、家庭用およびPCゲームソフトの市場規模も年率9.3%の成長を見せ、オンラインゲームを加えると伸び率は年率11.8%の伸びを示しているという。一方、年齢層に関しては今後の家庭用ゲーム参加意向の割合を紹介し、「男性では40代以下で、女性では30代以下で50%を超える参加意向を示している」と発言。「この状態が5年、10年の単位でスライドしていくと、さらに参加意向の高い年代層が広がっていくのではないか」と予測した。
そうした面から和田氏は、「ゲーム産業における危機意識は量的観点で持つべきではない」考えを示し、「質的観点で捉える必要があるだろう」と指摘。これまでの家庭用ゲーム機の歴史を、プラットフォームと技術革新、ビジネスモデルの3点から振り返った。和田氏によれば「家庭でゲームをする文化はアタリ2600で勃興したのち、ファミリーコンピュータの登場で爆発的に世界に広がった」のち、「1つのエンタテインメントとして定着するに至った」のだという。
特にファミリーコンピュータについては、十字キー付きのコントローラによるユーザーエクスペリエンスへの影響、家庭内ならではの長時間のゲームプレイ、サードパーティによるゲームソフトの開発などの成功例を挙げる。「特にサードパーティモデルは他の分野でも従来からトライされているが、最も成功しているのはゲーム分野ではないか」と付け加えた。
音声面では当初の効果音からBGM、そしてPCM音源、フルボイスへと進化。一方、3Dグラフィックへの対応は「プレイステーション(PS)の登場で決定的になった」と和田氏は指摘する。PSではまた、マスクROMから光ディスクへのメディアの変化、アナログコントローラというユーザーインターフェイス(UI)が変化したとして、「UI、ソフトウェア、メディア、ビジネスモデルが一体となって業界が進化した」と語った。
また、次世代ゲーム機の登場で開発コストの高騰が叫ばれている点に関しては「これは以前からあったこと」と発言。「マスクROMから光メディアに移行したことで高騰したコストの分配減資が可能になり、ゲームがさらに表現が豊かになって産業形態が維持されるようになった」と、20年で約3兆円規模の市場に成長したゲーム業界のこれまでを述べた。
その上で和田氏は「携帯型ゲーム機という例外は存在するが、前述のような観点を図で示してみると、リッチコンテンツへの単一進化という取り組みが常に行なわれている」と語った。
■ ユーザー多様化に向けた対応が第2ステージへの鍵に
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第2ステージに向けた対応状況
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和田氏は「2005年までにユーザーの多様化への素地ができた」と述べ、「第2ステージへの飛躍には多様化への対応力が重要になる」と強調する。対応が進んでいるものとしては、プラットフォームではリビングやモバイルなど生活シーンに対応した端末が、UIではタッチパネルや各種センサーを搭載したインプットデバイスが、メディアではネットワークが、ビジネスモデルでは従量課金や広告モデルが登場してきていると紹介する。
一方、ゲーム画面などアウトプットの部分に関しては「それほど変わっていない」という考えを示す。和田氏は「アウトプットはまだ議論されきっていない部分であり、今後の潜在的な可能性を秘めているのではないか」とした。
またゲーム作りの面では、「クリエイターが開発してユーザーに提供する形から、ユーザーがゲーム開発に参加できるような形も考えられるようになった」とコメント。「Web 2.0と良く言われるが、本質的な面では莫大なデータへのアクセスが突然可能になり、それによって価値やモノの分配が劇的に変わったことにある」と自身の考えを示し、「ユーザーが開発に参加するのは著作権的な課題もあるが、莫大なデータの供給によって変化が生じる可能性は大いにある」と述べた。
ゲームの価値に関しては、ネットワークの進展によって「サーバー上にどういったデータを保持していくかが重要になっていく」という。さらに「コミュニティ自体が価値の源泉になる可能性もあり、それによってコンテンツも変化していく」と語った。
ビジネスモデルについて、「従来の物理的な手段からコストが劇的に変化し、ユーザーへのきめ細かな対応が可能になるだろう」と発言。「パッケージソフトの場合は価格以上に払いたい人がいても上限があるし、価格以下の金額しか払えない人に対してはビジネスチャンス自体逃してしまう」と語る。
和田氏はこうした点に関して「ネットワークによって、さまざまなビジネスモデルが展開可能になる」と述べ、「より多く出したい人にはより多く、少しで良いという人には少しだけコンテンツを提供することが可能にある」とした。
その上で和田氏は「第2ステージはチャンスに満ちあふれているが、多様化への耐えるべく工夫を業界全体で挙げて取り組んでいきたい」と考えを示し、「より新しい取り組みが可能になって、新しい体験をユーザーに提供できるようになる」と発言した。さらに和田氏は「産業は変化が常態であり、第2ステージから第3ステージへ発展していくためにも、この第2ステージを乗り越えていきたい」という考えを重ねて強調した。
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これからのゲーム産業に関するチャンスとチャレンジ
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ネットワーク化によって、ビジネスモデルもユーザーニーズに応じて変化が可能に
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■ URL
東京ゲームショウ2006
http://tgs.cesa.or.jp/
(村松健至)
2006/09/22 18:28
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