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パネルディスカッション「ユビキタス時代のパソコンはどこへ行く」

 WPC EXPO 2003では、17日に「パソコン新時代~ユビキタス時代を迎え変化するパソコンとその活用法を占う~」と題したパネルディスカッションが開催された。国内の大手パソコンメーカーの関係者らが出席し、今後のパソコンの発展方向を、各社の具体的取り組みを例に挙げながら討論が行なわれた。

 ディスカッションの司会は「日経パソコン」編集長の渡辺洋之氏。まず日本におけるブロードバンド環境の進捗として、国内のブロードバンド利用者が1,000万人に達したことを例示。また、日本のブロードバンド環境は速さと安さで世界一であるとしたITU-Tのレポートを取り上げ、日本は世界でも有数のブロードバンド大国である旨を発言した。

 その一方で、日本国内ではパソコン販売の不調が続いている点にも言及。しかし渡辺氏はブロードバンドの普及にともなって、販売にも次第に明るい兆しが見えつつあるのではないかと所感を語り、「果たしてそのとおりなのか。パソコンの復活は本当なのか? そしてその根拠は?」と参加者に問いかける形でディスカッションはスタートした。


パソコン販売は復活したか?

左からアップルコンピュータ 代表取締役社長 原田 永幸氏、NECパーソナルプロダクツ代表取締役社長 片山 徹氏、ソニーマーケティング執行役員 佐藤 一雅氏、東芝 取締役 執行役専務 西田 厚聰氏
 パネリストは計8名。まず、アップルコンピュータ代表取締役社長の原田永幸氏がコメント。「(ブロードバンド)インフラが整い、パソコンがさらに伸びる土台は整った。そのうえでリッチなコンテンツが要求されるようになり、それを制作するための環境としてのパソコンや、人材が必要になってくるだろう」と、コンテンツ制作がパソコンの需要を押し上げていくと見ている。

 NECパーソナルプロダクツ代表取締役社長の片山徹氏は現在の販売状況を分析。「今年は冷夏。そのためエアコンが買われずにパソコンが買われた。我々は“神風”と呼んでいる」と述べ、販売台数の昨年対比では2ケタの伸びを見せたという。企業ユーザー向けは比較的堅調ながら、完全な市場回復については「不透明。まだら模様」と表現するにとどめた。

 ただし最近の傾向として書込型DVDドライブ、高精細液晶、TVチューナーなどを搭載した高付加価値モデル人気が集まっており、同社が取り扱う水冷機構を搭載したパソコンは供給が追いつかない状況だという。片山氏はその現状から「ある程度のリスクを冒しても、新分野の製品を展開していくべきだ」と語った。

 高付加価値製品の人気が高いのはソニーでも同じだ。ソニーマーケティング
執行役員の佐藤一雅氏は人気モデル「バイオW」シリーズを取り上げ、「ユーザーからの支持が一番高かったのは、シリーズの中でもっとも付加価値の高いモデルだった」と述べ、利便性が高く、楽しい製品がリリースされればもっともっとパソコンが売れていくのではと分析した。

 東芝取締役の西田厚聰氏はさらに、ノートパソコンの普及が進んでいなかったヨーロッパ地域において、その状況が改善されつつあることを明かし、1人のユーザーが複数台のパソコンをシーンに応じて使い分ける用途なども増え、パソコンの需要を押し上げると見ている。


企業需要は底堅い

左から日本IBM PC製品事業部長 須崎 吾一氏、日本ヒューレット・パッカード副社長 馬場 真氏、富士通 経営執行役パーソナルビジネス本部長 伊藤 公久氏、マイクロソフト プロダクトディベロップメントリミテッドプレジデント 藤井 照穂氏
 続いて発言した日本IBM PC製品事業部長の須崎吾一氏は、パソコンの販売傾向を企業向け需要から分析。「パソコンの利用シーンが自宅・会社だけにとどまらず、サテライトオフィスやホットスポットにも拡大している」とコメントした上で、「ネットの入り口として、これからもパソコン需要は伸びてていくだろうと」と前向きな所感を述べている。

 日本ヒューレット・パッカード副社長の馬場真氏は、同社の販売が非常に順調なことをアピール。特に低価格をアピールした製品展開が成功しており、市場全体で見ても「景気回復という後ろ盾が生まれれば、買い換えを躊躇していたユーザー向けの販売が一気に増加に転じるだろう」と語った。

 富士通経営執行役パーソナルビジネス本部長の伊藤公久氏はユーザーから寄せられたアンケートの結果を披露。今後は買い換え・買い増し需要が一層伸び、外出先から自宅のパソコンにアクセスしたいという要望が増えていることから、モバイルパソコンの普及にも弾みがつくものと見ている。

 また、マイクロソフト プロダクトディベロップメントリミテッドプレジデント藤井照穂氏はOSベンダーの立場から現在のパソコン人気に言及。「先進的なユーザーがブロードバンドを活用しているのを一般ユーザーも注目している。そのような人たちがパソコン需要を支えていくだろう」と、パソコンの多機能化がライトユーザーの取り込みを促すとみている。


「ユビキタス」でなにができるのか?

司会を務めた日経パソコン編集長の渡辺洋之氏
 パネリストが一巡したところで司会の渡辺氏は「販売台数の回復が期待できるだろう」といったん総括。つづいて「ユビキタスという言葉が当初示していた『どこでも高速なネットが使える』というが意味が、技術の進歩によって複雑化し、一体何ができるのかわかりづらくなっているのではないか」と指摘。具体的なユビキタス実現のシナリオはどうなるか、との意見をパネリストに求めた。

 日本HPの馬場氏は、ユビキタスの定義として「いつでも・どこでも・だれでも・簡単に・安心して・適正な端末価格」の6点を説明。このすべてが達成できたときに真のユビキタス社会が完成するだろうとしたが、「現段階で達しているのは『いつ・どこ』だけ。その他4点についてはまだこれからだ。機能を絞った単機能端末などが必要になってくるだろう」と語っている。

 具体的な機能として、多くのパネリストが取り上げたのが、映像の多用途化だ。携帯電話上で動画を視聴したり、録画したテレビ映像を遠隔地から見る用途は現実のものとなっているが、これらを推し進め「対人コミュニケーションにおける映像の活用」「ノートパソコンに地上デジタル放送チューナーを搭載させる」といった事例が挙げられた。

 しかしこれらの提供時期は不透明だ。多くのパネリストが、具体的な実現時期については見いだせないと語っているが、その中でNECの片山氏は「あと2年くらいは現状が続く。2005年にユビキタスがブレイクするのでは」と予想した。

 片山氏の予想では、ブレイクまでの2年間に発展が期待できるのは、「高齢者やIT知識が低いユーザーでも使えるパソコン」「パソコンとAV機器のより一層の融合」「モバイル端末の発達」の3点。そしてブレイクの時期には端末の種類を意識せず、パソコンとモバイル端末がよりシームレスに連携し、通信設定の自動化や、ユーザーが欲しいと思う情報へのナビゲーションを端末側が自立的に行なってくれるようになるだろうと考えている。

 また日本IBMの須崎氏はユビキタス時代に要求されるパソコンの用件として、「自立型クライアント」を例に挙げた。これは設定の自動化に加え、障害発生時の対応をパソコンが自らナビゲーションするというものだ。「パソコンの故障やデータの盗難が発生すると、仕事は止まってしまう。これらを緩和するためにパソコン自身が故障を予知して知らせたり、場合によってサーバー側へデータを自動的に退避したりする機能がいるだろう」と、データの保全が重要になると語った。

 なお富士通の伊藤氏はICタグの活用事例を紹介。市販食品にICタグを付け、ICタグリーダー搭載冷蔵庫による庫内管理、家族の栄養管理などが将来的には可能になるという。この実現時期は未定だが、富士通はICタグで管理する図書館の実現にむけて調整しており、具体的には1年後程度をメドにしているという。

 最後に各パネリストがより具体的な自社製品名を挙げ、今後の取り組みをアピール。パネルディスカッションは1時間程度予定時間を延長し、終了した。


関連情報

URL
  WPC EXPO 2003
  http://arena.nikkeibp.co.jp/expo/2003/

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(森田秀一)
2003/09/17 22:07
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