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IEEE 802委員会参加メンバーが語る、無線規格の現状や今後の動向

 Interop Tokyo 2005のカンファレンス「IEEE802委員会ホットトピックスIII(2) 無線編」では、NTTアクセスサービスシステム研究所の井上保彦氏が、IEEE 802の概要や動向などについて解説を行なった。


IEEE 802委員会で行なわれる標準化の流れを解説

NTTアクセスサービスシステム研究所の井上保彦氏
 はじめに井上氏は、「IEEE 802という言葉はWebなどでよく見かけるが、その後に付く数字は11や16などいろいろで、違いは何なのかという素朴な疑問をもたれている方もいるだろう」とコメント。「802についている数字はワーキンググループの番号を示しており、11が無線LANの標準化、15がWPAN(Wireless Personal Area Networks)、16がWMAN(Wireless Metropolitan Area Networks)といったように分かれている」とIEEE 802のグループ構成を説明した。

 続いて井上氏は、IEEE 802の標準化プロセスを説明。初めに標準化を望む、あるいは興味がある人を募集する「Call for Interest」があり、次にTask Groupを作るための「Study Group」が構成される。ここではプロジェクトの承認要求やそのプロジェクトの根拠などが議論され、井上氏は「簡単なマーケティングのような議論もこの場で行なわれる」とした。

 Study Groupで作成された文書が承認されると、次にTask Groupで本格的な規格作りが開始される。議論の期間は「長いものでは5年以上、短いもので2~3年(井上氏)」。このTask Groupの後にドラフトが作成され、Working Groupでドラフトの投票を実施。75%以上の支持を得られるとドラフトが承認されるが、井上氏によれば「実際には90%以上の投票がないと次のプロセスに進めないようだ」という。

 承認されたドラフトは、Working Groupの手を離れて「Sponsor Ballet」でさらに議論される。「ここでドラフトの気に入らない部分がコメントされ、そのコメントをTask Groupが解決する。コメントがなくなり、ドラフトのアップデートが行なわれなくなると、承認組織の同意が得られ、世の中に標準規格として登場する(井上氏)」。


IEEE 802の無線系グループ IEEE 802委員会の標準化プロセス

無線系で最も古い歴史を持つIEEE802.11

無線LANとして幅広く普及しているIEEE 802.11
 各グループの中で、井上氏は無線LANとして普及しているIEEE 802.11を初めに説明。「無線系では最も古い歴史を持つグループ」とした上で、「1997年に標準化されたのがIEEE 802.11だが、データレートは最大で2Mbps。イーサネットは100Mbpsの世界に入っていたため、最大2Mbpsの11はあまり盛り上がらなかった」と説明。より高速な無線LANの仕組みとして、5GHz帯のIEEE 802.11a、2.4GHz帯で11とも互換性を持つIEEE 802.11bが登場し、「標準化はほぼ同時期だったが、互換性を持っており、ISMバンドでもある2.4GHz帯を利用できる11bはデバイス的にも低価格で品質がいいものが得られた」との背景を語った。

 IEEE 802.11bと互換性を持ち、最大54Mbpsの通信が可能なIEEE802.11gまでは、802.11で規定されたMACレイヤが踏襲されているが、セキュリティ機能を高めるといった目的からMACの機能拡張も行なわれ、IEEE 802.11iの標準化が行なわれた。セキュリティ機能の11iは2004年6月に標準化が完了し、さらにQoSの11eも標準化が進んでいるという。

 井上氏は、日本で行なわれた5GHz帯の電波法改正に関しても言及。「今までの5.15~5.25GHz帯は、チャネル欧米と同じ周波数帯に変更されただけでなく、屋内以外にも航空機内で利用可能になった」と説明。「さらに5.25~5.35GHzが追加されたことが大きいだろう」と語ったのち、「今までの無線LANもプログラム書き換えで新しい11aに対応できる。また、旧チャネルのアクセスポイントも2008年5月31日までの期限付きで通信することが可能」と付け加えた。

 次に説明されたTask Groupは、QoSをサポートするIEEE 802.11e。「以前の無線LANは分散制御のDCF、集中制御のPCFといった制御方法があったが、11eでは分散も集中もできるというのが必須機能になっている」と説明。「オプションとしてデータの高密度伝送や高効率伝送を行なう「Block ACK」、VoIP向けのパワーセーブ「APSD」などがあるとした。現時点ではドラフトのアップデートがほぼ終了しており、井上氏は「2005年9月には標準化が完了するのではないか」との予測を示した。

 IEEE 802.11kは、無線のリソース監視のための規格で、ネットワークの管理や診断、他システムと共存、VoIPのハンドオーバーといった用途で期待を集めているという。こちらは2003年1月からTask Groupが開始されており、現在はドラフトに寄せられたコメントを解決している最中だという。


QoSをサポートするIEEE802.11e ネットワーク監視のIEEE 802.11k

IEEE 802.11nは2つの規格のマージ案が進む

無線で100Mbps以上のスループットを実現するIEEE 802.11n
 100Mbps以上のスループットを実現するというIEEE 802.11nに関しては、「おそらく今もっとも注目されているTask Groupでは」とコメント。「MAC層より上のレイヤで100Mbps以上を実現するのが条件のため、これだけのスピードと効率を得るためには物理層とMAC層が標準化の対象になる」とした。

 11nに求められている条件は、従来までの無線LANと同様に20MHzの幅で運用できること。井上氏は「はっきりと要求されているわけではないが」と前置いた上で、「11a/gなど既存の規格との後方互換性も求められているだろう」とした。また、オプションとして20MHzを40MHzに束ねることで高速化を実現する機能も実装される予定で、井上氏は「日本では法律の関係で認められていないが、米国ではAtherosがターボモードと言う形で提供している」と解説した。

 現在は提案のフェーズが終了し、TGn SyncとWWiSEという2つの方式で投票が行なわれているが、2005年3月の会合ではTGn Sync、WWiSEともに支持率が半々程度で、2005年5月の会合でも75%の支持を得られなかったという。井上氏は「単独での採用は不可能」とコメント。「オフィシャルな対応としては3つの提案に戻ってセレクションをやり直すが、実際にはTGn SyncもWWiSEも単独で支持率75%を得るのは無理だと考えており、現在は両規格のマージ案が進んでいる」とした。

 IEEE 802.11rは、ハンドオーバーやローミングに関する規格で、ローミングの処理時間を高めることを目的としている。こちらはダウンセレクションで2つの規格が残ったが、この段階で両規格の協調案が始まったという。井上氏は「すでにマージ案が完成しており、正式なドラフトを作成してWorking Groupでブラッシュアップしていく」との流れを解説した。


IEEE 802.11n標準化の今後の動向 ローミングのIEEE 802.11r

近距離無線通信の802.15、WiMAXの802.16も標準化が進む

近距離無線ネットワークのIEEE 802.15
 IEEE 802.15は、WPAN(Wireless Personal Area Networks)と呼ばれる近距離無線通信の規格で、15.1がBluetooth、15.3がMBOA(UWB)、15.4がZigBeeとアライアンスが分かれている。井上氏は「15.1は音声のサポート、15.3はマルチメディアのサポート、15.4は超低消費電力が特徴」と解説、15.4に関しては「すでにダウンセレクションの段階で、混乱なく進むのではないか」との考えを示した。

 IEEE 802.16は、WiMAXなどで知られるWMAN(Wireless Metropolitan Area Networks)の規格で、ラストマイルのソリューションとして想定されている。井上氏は「16の規格はいわば技術のデパートのような何でもありの状態で、相互接続性が確保できるのかと誰もが不安になる」とコメント。「そのため、Working Gruop内にも適合性を考える組織が用意されている」とした。

 モバイル用途として規定され、現在も標準化が進んでいるIEEE 802.16eは、対象周波数が6GHz以下で、アクセスポイントが見渡せないNLoS(Non Line Of Sight)環境で用いられる。エリア半径は2~5km程度で、自動車程度のスピードでのハンドオーバーも実現。現在は最新ドラフトが8.0で、Sponsor Balletで議論されている。

 IEEE 802.16は以前から存在した規格であるが、現在WiMAXとして注目されている点について質問が飛ぶと、井上氏は「16は技術のデパート状態のため、どこまで作ればよいのか、他社との相互接続性をどうするかといった課題があり、制御そのものも本当に作れるかどうか懐疑的になっていた面がある」と回答。「最近になってようやくガイドラインが見えてきたのではないか」との考えを示した。

 UWBの審議が進まない点については、「15.3ではDS-UWBとMBOAという2つのアライアンスが対立している。DS側はマージしようといっているがMBOAが聞いてくれないという話をDS側の人がしていた。MBOAに言わせるとまた違うのかもしれないが」とコメント。「このままUWBが普及しない可能性は」との質問には「DS側はデファクトで行くという考えからチップをどんどん出荷し始めていて、かたやMBOAはアライアンスの勢力作りで対抗している状態」と語った。


WiMAXで知られるIEEE802.16 モバイルWiMAXとして期待されるIEEE 802.16e

関連情報

URL
  Interop Tokyo 2005
  http://www.interop.jp/

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(甲斐祐樹)
2005/06/10 21:26
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