ジュピターテレコム(J:COM)は28日、2005年9月第3四半期の決算説明会を開催した。今後投入予定の新サービス概要などが説明されたほか、多チャンネル放送を対象とした視聴率調査事業の構想も示された。
■ デジタル放送加入者が50万件を突破と好調な伸び
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森泉知行代表取締役社長
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第3四半期の営業収益は、サービスの利用料収入が前年同期比15%増の1,193億円、その他収入はマーケティングキャンペーンにより3%減の141億円で、合計は1,334億円。営業費用は加入世帯増加による番組購入やネットワーク維持費用増加によって番組・その他営業費用が13%増の548億円、M&Aなどサービス拡大やブランディング費用の影響で販売費及び一般管理費が17%増の268億円となり、結果として営業利益は3%減の177億円となった。
サービスの加入者数は、J:COM TVは前年同期と比較して92,400件増の1,684,900件で、このうちデジタル放送は275,200件増の518,700件と50万件を突破した。インターネット接続サービス「J:COM NET」は86,100件増の837,700件、電話サービス「J:COM PHONE」は136,900件増の909,900件。総加入世帯数は前年同期比で9%増の1,996,100世帯、RGU(収益獲得単位)は14%増の3,432,500件となり、1世帯あたりのサービス加入率も1.64から1.72へと拡大した。
集合住宅と一括契約を行ない、世帯の月額料金を割り引く「J:COM in the Room」も好調で、累計の加入者数は186,900件。ただし、月額料金が割り引かれているため、割り引きを行なわない月額料金で換算した場合は107,500件の累計加入者数になるという。
第3四半期の解約率はJ:COM TVが1.1%、J:COM NETが1.2%、J:COM PHONEが0.7%。引っ越しが増える上半期には解約率が上がるものの、総じて解約率は減少傾向にあるという。サービスのバンドル化も進み、3サービスに加入する世帯は21.8%で、東関東局のみでは36.6%を超えた。
2005年12月期の通期業績予想は、営業収益が15%増の1,850億円、当期純利益が76%増の108億円。ただし、営業収益は工事費無料キャンペーンの影響で、当期純利益は法人税の戻りが不確定のため、どちらも数%のブレが生じる可能性があるとした。
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第3四半期の業績総括
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J:COMの加入者数データ
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デジタル放送加入世帯が50万を突破
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サービスのバンドル化も順調に進展
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■ C.LINKは月額3,500円程度でサービス開始。年内にHDD搭載STBも
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事業戦略ハイライト
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2005年7月から全国展開を開始したVODサービス「J:COM on demand」は、無料コンテンツを含んだアクセス数が300万を突破、その後も順調に推移しているという。森泉知行代表取締役社長は「VODの購入数は150,000で、この購入数とサービスを利用できる端末数から算出した購入率は30%」と説明。「VODはユーザーに視聴習慣をつけてもらうことが普及の鍵。まずはユーザーの認知度を高めることが重要」との考えから、積極的な無料コンテンツの投入、プロモーションを行なっていくとした。
C.LINKによる上下100Mbpsのインターネット接続サービス「J:COM NET 光」はすでに正式サービスを開始しており、福岡県、大阪府で導入実績があるという。事業開発統轄部長の加藤徹氏は「新築物件が多いために受注してすぐサービスはできないが、受注ベースでは他にも複数の契約が完了している」との状況を説明。「1棟をまるごとC.LINKで提供するためにコスト面でも価格競争力がある。すでに導入済みの事例では1世帯あたり3,500円で提供できており、既築でも競争力があるだろう」と自信を示した。
HDDレコーダ機能を搭載したSTBも12月から提供する予定。チューナーを2基搭載し、裏番組の録画も可能という。メーカーは韓国ヒューマックスを採用し、端末はリースで提供する。料金は現在のテレビサービスの月額料金に800円程度上乗せする程度となる見込み。
新たな事業戦略として、規模拡大を目的に小田急ケーブルビジョン、ケーブルテレビ神戸のM&Aを実施、経営権を取得した。また、サービス価値向上の面から、ウィルコムとの提携で「J:COM MOBILE(仮称)」を2006年3月に開始、モバイル事業にも進出する。
森泉社長は「今回取得したCATV局は、どちらも人口密集度の高い都市圏の中で、当社のターゲットであるファミリー層が多い地域。また、当社エリアと隣接しているために設備共有やマーケティングのシナジー効果が見込める」とコメント。「ARPU(1ユーザーあたりの平均収入)も当社平均より低く、資本投入で大きな成長が見込める」とした。
前日に提携を発表したウィルコムには、「定額制サービスの投入で好調に推移しており、以前はネガティブなイメージがあったPHSのブランドも払拭されて1つの携帯電話になっている」と評価。「当社としても自信を持って携帯電話事業を展開できる。固定電話ユーザー約90万のうち、1~2年で5~10%のユーザーを獲得したい」との目標を示した。
光ファイバを利用したコンテンツ配信形式「HOG(Head-end on the ground)」は、すでに関東・札幌エリアが10月から移行しており、11月には関西エリア、12月には九州エリアが移行予定。従来の衛星放送経由による配信網と比較し、競合であった衛星事業者依存からの脱却を実現、ハイビジョンなどCATV独自のコンテンツも制作可能になり、衛星で発生する悪天候による画質の乱れも生じないとした。
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田急ケーブルビジョン、ケーブルテレビ神戸の経営権を取得
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2006年3月から「J:COM MOBILE(仮称)」でモバイル事業にも参入
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VODは「まずは視聴習慣をつけてもらうことが普及の鍵」
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HOGの進捗状況。関東・札幌はすでに光ファイバネットワークへ移行
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■ 多チャンネル放送を対象とした視聴率調査事業も検討
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左から代表取締役社長の森泉知行氏、常務取締役チーフフィナンシャルオフィサーの春山昭彦氏、事業開発統轄部長の加藤徹氏
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視聴率調査事業やホールセールなど事業領域を拡大
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事業領域の拡大を目指し、デジタルサービスや電話サービスのホールセールに加えて、VODのホールセールも予定する。また、10月からはSTBの機能を利用した視聴率調査を3,000世帯のモニターを対象に実施、新会社による事業化を検討しているという。
ホールセール事業のうち、電話のホールセール事業に関してはKDDIのサービスを採用している事業者も存在するが、森泉社長は「どこの事業者を使うかは事業者の考え次第」と前置いた上で、「今後CATVが通信事業者との戦いに勝ち残り、いかにCATVの存在価値を見いだすかという時に、通信事業者の電話サービスを使うのはどうなのか」とコメント。「迅速な電話事業のためにはいいのかもしれないが、長期的に見てCATVに良いことなのか。あくまで私の考えの中では、大手通信事業者と組むことはありえない」との意見を示した。
森泉社長は資料率調査について「日本におけるテレビCM収益が年間2兆2,000億円と言われているが、多チャンネルマーケットは全チャンネルを合わせても200億円は行っていない」との状況を指摘。「だが、実際に多チャンネル放送の視聴率はどれくらいか、と考えると、多チャンネル環境における視聴率は20%くらいはあるだろう。多チャンネル放送の加入率は約18%のため、20%に18%を乗じた3.6%程度の時間が、日本全国におけるテレビ放送で有料放送に費やされているのでは」との仮定を示し、「その計算でいえば多チャンネル放送にも700~800億円の広告価値はあるのではないか」との考えを示した。
ただし、「これまでは、多チャンネル放送の正確な視聴データが広告主に届いていないのでは」との課題もあるという。森泉社長は「デジタル環境であれば双方向な通信可能であり、地上波やBSも含めた環境での視聴率が測定できる。専門チャンネルであればユーザーターゲットもはっきりしているため、広告として非常に有望ではないか」と新事業へ期待を寄せた。
新事業は「我々と組んでプラスになるところと提携していく」方針。シンクタンクや広告代理店とも「協力できるならしていきたいが、今までの事業スタイルを変えたくないのであれば提携は難しいだろう」と考えているという。
前日に、スカパーがNTTとの提携を発表、Bフレッツとオプティキャストを共同展開していく方針を示したことに関しては、「放送と通信を1カ所にまとめるのは自然の流れ」と認めながらも「ポイントは顧客にワンビリングできるかどうか」と指摘。「我々はすべてのサービスを一括請求できるが、スカパーとNTTでは請求が2カ所になり、カスタマーセンターも1つでは難しい。これではトリプルプレイの利便性は極めて低いのではないか」との考えを示した。
また、28日より開始した日本テレビの映像配信サービス「第2日本テレビ」についても、「無料の考えが根付いているインターネットでの有料サービスは難しく、コンテンツで利益を得るのは難しいビジネスモデルでは」とコメント。「ビジネスの可能性やチャレンジとしてはすばらしいが、我々のビジネスの競争相手としては考えにくい」と語った。
■ URL
中間決算短信(PDF)
http://www.jcom.co.jp/ir/images/fs2005_3q_1.pdf
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(甲斐祐樹)
2005/10/28 18:19
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