■時代が殺した!? 古き良き趣味
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今回のお題はコレ、サン電子の国内初インターネットラジオ専用機。価格はサン電子の直販サイト「SUNTAC DIRECT」で3万4800円
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数年前から急に広がりだし、現在は世界中に数万もの“仮想放送局”ができているインターネットラジオ。ネットにさえ接続してい(てある程度の通信速度が出ていれ)ば、放送局までの距離だの電波状況だのとは関係なく、いつでも比較的に高音質で番組を聞けるという音声コンテンツだ。
突如始まった話はここで突如変わるっていうか無理矢理変えるが、拙者、むか~しはBCLだったのだ。BCLとは、BroadCasting Listenerの略で、広域放送ラジオを聴く人のことを指す。ラジオの広域放送と言えば短波放送。FM放送やAM放送と比べても音質が悪い短波放送だが、電波状況(と受信機材)さえ良ければ、ブラジルからの電波が日本にまで届いたりなんかする。
必要なのでBCLをやっていた人も多かった。祖国日本の生の情報を遠い海外にいながらにして日本語で聞いたり、洋上で情報を得たり、あるいは音声でないディジットな情報を受け取ったり。生活に役立っていた短波放送であり、現在でも役立ち中ではある。
俺の場合は趣味でBCLをやっていた。世界中の放送を俺のこの最強に強まったシャックで受信するゼ!! という電波受信欲を最大限に膨張させ、夜な夜な短波ラジオに向かっていた。趣味としてのBCLの何がおもしろかった(←俺的には過去形)かと言えば、海外の放送を聞いて異文化を味わうってのがまずあった。が、それ以上に、すげー遠くの電波をキャッチした!! という喜びである。
身長2mに満たない人間が、何千kmあるいは何万kmも遠くにいる人が発した電波を、よっしゃキャーッチ!! おまえの存在は俺が知った!! そこにいるのがわかった!! 聞いてるぜ!! 俺はおまえの声を聞いている!! ……てなほどの迫力でラジオを聴くわけではないが、遙か遠くから届く電波を受信し、その遙か遠くで活動する人間を感じ、そして同じくそーゆーことを感じているかいないか知らないけどやっぱり受信してる人がいるという事実。点在する人間が電波によって結ばれたような、儚いながらもうっすらと確信できる連帯感のよーなものにコーフンしたものだ。
しかし、温床における雑菌のように電話網がはびこり、世界中がインターネットによって結ばれ、星空を見上げりゃぁ通信衛星が見えちゃう現在、趣味としてのBCLはおもしろみを少し失った。ネットにつなげれば、地球上たいてーの場所にいる人間とコミュニケーションできる。外国に移り住んだアイツにだって、ピポパポピッとダイヤルすればすぐに話しかけられる。BCLはな~BCLはな~距離を克服して通信(ていうか受信)できるすげぇ技なんじゃ!! とかいう強がりは、通信技術の激向上により、あんまり意味のねーことになってしまった。
そしてインターネットラジオの急普及。BCLなんかしなくても、海外からの放送を比較的に高音質で楽しむことができる。しかも、デカいアンテナにつながったシンセサイザーチューナー内蔵の短波ラジオよりもずっと確実にだ。URLをカタカタっと打ち込みゃぁ、日本の裏側から音声が伝達されてきやがるのである。インターネットラジオは、BCLの“遠い海外の放送を日本で聴ける”という自慢話をたわごとにしてしまった。
……とか書いてるとデジタルテクノロジー反対派みたいっスか!? 昔は良かった、今の若いモンは、とかいう堅物っぽいですか? 正直なところ、BCLがさびれまくりの現在の状況はちょいと寂しいよーな気もするのだが、実際にインターネットラジオを聴いてみると、やはり現在の状況のほーが愉快であり便利でありナイスだと感じる俺である。現在最高!! ネット最高!! テクノロジー万歳!! とか思ったりしつつ、たまには過去形話にも浸るって感じスか。
■便利で愉快でマニアックなラジオ
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コーヒー飲みつつ片手でクルクル選局。世界のインターネットラジオが誰でも聞けるカンタン操作
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本サイトをご覧になるような方ならば、既に何度かインターネットラジオっつーモンを聴いたことがあると思う。ネット経由で送信されてくる圧縮音声を、Windows Media PlayerやReal Playerなどで聴くという、ストリーミングな音声コンテンツだ。
インターネットラジオの良さは、まずその放送局(サイト)の多さだ。ニュースと音楽とトークを織り交ぜて放送するフツーっぽい局もあるが、探せば探すほど指向性の強いサイトが多々見つかるのが良い。ラジオはみんなが聞く情報だから広く浅くライトにファンに、とかいう常識が覆されまくりで、聴きたいヤツだけ聴けばいいぜホラ聴けニューヨークの警察無線ナマ傍受を!! オレら仲良し3人組の馬鹿話を!! そしてボクとアイツの自作曲生演奏を!! と、門戸の狭いマニアックさがおもしろい。
それから、多くの場合、放送時間(ていうか受信時間)をリスナー側で決められるのが良い。生放送などをストリーミング受信で楽しむのも愉快だが、過去の放送を自由に選んで聴けるのは非常に便利だ。
音質もけっこー良かったりする。インターネットラジオが始まった当初は、通信回線も音声圧縮技術も初期的発展途上状態だったが、ブロードバンドが普及しつつあるわ音声圧縮技術が高度化しまくり中だわの現在では、音が悪いとか途切れまくりとかいったインターネットラジオ局は激減中。音楽を鑑賞するための音質としては、放送局にもよるが、もうちょっとビットレートが高いと嬉しいなぁとは思う。けれど、こーんなに多種多様な放送局があって、内容的にも個性的で、オンデマンド的自由度も高いっつーのは、やはりグレイトだと感じる。
ていうか俺なんぞがグレイトだと感じる以前に、既にインターネットラジオを毎日のように聴いている人は多い。PCで仕事中に音楽番組を聴き、自宅でマニア人気のある人のトーク番組を楽しみ、時には外国の局でヒットナンバーを漁る。自分の生活パターンと、自分の趣味嗜好に合わせ、好きな時間に好きな放送を聴く。一度インターネットラジオの良さ便利さを知ってしまうと、そこから離れられなくなる人は多いようだ。
■インターネットラジオ受信専用機
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ブロードバンド接続環境があれば、電源とイーサネットケーブルを繋ぐだけ。設定不要でいきなり聴ける
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急激にリスナーを増やしまくり中のインターネットラジオだが、そんな状況を反映してか、国内初のインターネットラジオ受信専用機が発売された。サン電子のBiBioである。これは“ブロードバンドラジオ”を銘打った製品で、その名の通りブロードバンド回線(ADSL、CATV、FTTH等)に接続してインターネットラジオ放送を聴こうというもの。おもしろそーなので早速試用してみた。
BiBioは、外見的にも使用感的にもフツーのラジオと非常に近い製品だ。小型&一体型CDコンポのような外見で、いくつかのボタンおよびダイヤルと、4Ω2Wのステレオスピーカーを搭載している。使い方は簡単で、DHCP対応のサーバ(ブロードバンドルータとかですな)にイーサネットケーブルで接続し、電源を入れて放送局を選択すれば、すぐに放送を聴ける。
常用する物理的なボタンは本体前面の2つの丸いダイヤルだけ。左はジョグダイヤルで、これを使って選局等の操作を行なう。回して、押して、また回すという繰り返しで、膨大なコンテンツの中からひとつを選び出す。右はボリュームだ。
放送を聴くには、まず目的のコンテンツ(放送局)の選択から始まる。コンテンツは本体上部の液晶画面に表示され、表示内容もある程度カテゴリ分けされているのでわかりやすい。(原稿執筆時点では)トップメニューには、LIVE365.COM、SHOUTCAST.COM、日本語の放送局(総合)、日本語の放送局(種別)があり、そこから辿っていくと、LIVE365.COMならば音楽ジャンル別のカテゴリが続き、日本語の放送局(種別)ならばトークや音楽などのカテゴリ別に放送局(URL)が並ぶ。表示を見て、聴きたいジャンルを選んでいけば、放送局が絞り込まれていくという感じだ。
このあたりの使用感は、フツーのラジオよりも、あるいは各ウェブサイトを飛びつつ目的の番組を探すインターネットラジオサーフィン(!?)よりも快適かもしれない。周波数も番組表も関係なく、液晶表示の文字を目で追っていくだけで好みのコンテンツに辿り着けるから、フツーのラジオよりもラクっていうかむしろ100枚入りCDチェンジャー(ディスク名登録済み)よりも快適に選局していける。また、コンテンツは同一のスタイルで表示され、それを選ぶ感覚は、文字情報が非常に多く詳しいソリッドオーディオプレイヤーを扱う感覚に近い。ウェブページ毎あるいはストリーミング受信アプリ毎に違う操作をするようなチグハグ感もない。特定の局だけを聴くってんなら話は別だが、インターネットラジオ全般を幅広く聴いていくうえでは、こーゆー操作感は非常にラクだ。
■コンテンツ数とか音質とか
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音楽著作権の問題もあるためか、BiBio専用のサーバーに登録されたコンテンツしか聴けないようになっているが、それでも一生聴きつづけるくらいの豊富なコンテンツがある
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一生聞き続けても来世まで聞き続けても絶対聴ききれないほど膨大なコンテンツがありまくりってトコロがインターネットラジオの良さだったりするが、BiBioではその全コンテンツを聴くことはできない。てのは、BiBioとPCでは放送局(サイト)へのアクセス方法が少々違うのだ。
PCの場合は、URLを入れるなどすれば、どこの放送局にでも接続できる。が、BiBioの場合、このページの下のほうにあるとおり、BiBio専用のインデックスサーバ内に登録されたコンテンツしか聴けない。とは言え、有名どころのコンテンツが500以上も網羅されているので、これでも聞き飽きるってことはないっていうか一生聴いてても聴ききれない数と言えよう。ただ、いわゆる草の根インターネットラジオ局のような超マイナー局は網羅されていないので、そーゆーコンテンツを愛聴している人には向かない。
音質については、まずコンテンツのビットレートの高低ってのがあるが、音楽系コンテンツで比較的に高音質と言われる90kbps程度以上の音を聴くならばまずまずイイ音。128kbpsあたりならばイイ音で聴ける。ただ、高いビットレートの放送でも、音楽を集中して鑑賞するとなると、BiBioは少々力不足かも、と。てのは、BiBioのスピーカーは低音も高音もいまひとつ迫力がない。BiBioはブロードバンドオーディオではなくてブロードバンドラジオってことですな。ラジオという使い方に適した製品だと思う。
それから、サーバから放送をストリーム受信するだけに、サーバ(コンテンツ)によっては受信できないものや、途中で音が途切れるようなケースもある。もちろん、クライアント側の帯域使用状況によってもそうなるケースがあるだろう。まあこのあたりはインターネットラジオの宿命ってことでひとつ。
■その他気になった点
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メモリースティックスロットを装備、シリコンオーディオプレーヤーとしても利用できる(ただし、マジックゲートには非対応)
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BiBioには、気に入った局を登録できるプリセットボタンがあるが、この数がちょいと足りない。5個しかない。物理的なボタンとして10個くらい欲しい拙者である。ていうかソフトウェア的なボタンとして128個くらい欲しいような気がする拙者である。でもまあ5個でも便利に使えることは使えるとも言えよう。
その他、BiBioにはファームウェアのオンラインアップデート機能や、マジックゲートメモリースティックを用いたソリッドオーディオプレイヤー的機能、PCとUSB接続してのカードリーダ的機能、さらにはメールチェック機能(サーバにメールが届いているかそうでないかの確認のみ)など、細かな機能がいろいろある。が、ぶっちゃけた話、ファームウェアのオンラインアップデート機能以外はオマケっぽい印象。てのは、BiBio、単体で使えるインターネットラジオ受信専用機として十分実用的だからだ。ジャンル的には新しい製品だが、かな~り実用的で、使い方によってはラジオや有線放送を駆逐しちゃうカモとか思えたりもする。
それから、BiBioにはハードウェア独自の個別認証機能があって、これがちょっとおもしろそーだと感じた。ハードウェア独自のIDがあるので、例えばそれをキーとして会員専用の音声放送なんてことも実現できる。有料のラジオ放送と考えると違和感があるかもしれないが、オンデマンド音楽放送と考えると、わりと現実的な未来がかいま見えたりする。
ご存じのとおり、インターネットラジオには楽曲の著作権問題がつきまとっている。局側は音楽をたっぷり放送したかったりするが、著作権料が(局の収益規模と比較して)かな~りお高いので、大手のラジオ放送局のように新曲をバリバリ放送しまくるってのが難しい。……でも外国の大手なんかは多量の曲を流しているが、さておき、日本のインターネットラジオ局だと、BGMさえ思い通りに流せないのが実情なんだそうだ。
そーゆーコトを考えると、この“ハードウェア独自の個別認証機能”ってのは役立つのかもしれない。例えば、ペイラジオっていうかCS有料(音楽)放送みたいなコトも、シクミ的にはわりと容易に実現できるよーな気がする。となれば、有名アーティストの局をかけっぱなしあるいはオンデマンドで聴きまくれるペイラジオ局が出現するのかもしれない。
現在はタダだけど、タダであるがゆえにコンテンツの充実って面で立ちゆかないインターネットラジオ。そんな状況に、有料放送のしくみ=正当にお金儲けをできるしくみができれば、放送する側も聞く側もうまい妥協点でハッピーになれるような気がしてならない。で、もしかするとBiBioの“ハードウェア独自の個別認証機能”が、それを実現するかもしれない、と。
見かけはアジア製の安価ラジオっぽい(失礼ッ!!)BiBioだが、実用性はPCでのラジオ受信よりもずっとナイスで現実的。そして、収益と楽曲著作権料に苦しむインターネットラジオ局を救ってくれるかもしれないシクミ。実売価格が3万円半ばとけっこー高い製品だが、侮れないパワーを持ったハードウェアなのかもしれない。
□BiBio製品情報(サン電子)
http://www.sun-denshi.co.jp/scc/bb/index.htm
□スタパ齋藤常時出演中!!「スタパトロニクスTV」(impress TV)
(2002/10/02)
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