■クリッピングノイズ解消
もはや完全にストリーミング音声配信記事になった本連載。今回も懲りずに音声配信敢行ってことで、第6回実験放送を行ない中。てなわけで、まずはちょいと聴いてみていただきたい。
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フォーマット:WMA(Windows Media Audio)
対応プレーヤー:Windows Media Player
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今回もイーレッツ株式会社の奥川浩彦氏と、インプレスでお世話になっているカメラマンの若林直樹氏(STUDIO海童)氏、編集1名の計4名で収録。スタパ齋藤氏や編集部スタッフの活動時間や、奥川氏がイーレッツの製品「駆動静か」の商品企画をされたときの裏話からPCの静音対策話など、楽屋裏ストーリーでお送りいたします。
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ハードウェアなコンプレッサが欲しいよーん!! と思って購入した、ローランドのUSBオーディオインターフェイスのUA-700
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どうすか? 音が良くなってませんか!? これまでの実験放送をお聞きくださった方なら、たぶん、きっと「お、今回ちょっと音いいかも!?」と感じたのではないだろうか?
実は今回の録音にて、コンプレッサというエフェクタを使ってみた。で、結論から言えば、そのコンプレッサが功を奏し、これまで毎度たびたびサウンド編集係の拙者を悩ませやがった“クリッピングノイズ”がほとんどなくなったのである。
これまでの記事でも何度か書いたが、デジタル録音ではクリッピングノイズという“致命的なノイズ”がたびたび問題になる。これは、過大な音声信号が入力された場合、つまりかなりデケぇ音で録音しちゃった場合、その大音量部分で「ガガガガ」とか「ビビビビ」といった耳障りなノイズが発生してしまう症状だ。
アナログ録音でも、過大な音声信号が入力されると音質が劣化する。そうなると、音が割れたり歪んだりしてかなり悪いものの、デジタル録音のクリッピングノイズほど怒濤の違和感があるわけではない。特に、音量が一定でない話し声などの場合、一瞬&断続的な過大入力なので、実際は「一瞬歪んだような気がした」程度の印象になってくれもする。
だがデジタル録音の場合、過大な音声が入力された時点で、音に対する波形の追従性が完全に失われる。実際にサウンド編集ソフトなどで見るとわかるが、波形の先端が真っ平らになる=本来の音の波形が完全に変形してしまう。そしてソレは“ないはずの音”───静電気がパチッというような鋭い立ち上がりのノイズとなって聞こえるのだ。話を端折るが、デジタル録音の場合は、過大入力となればどんな音量の音でも、よく目立つ音質・長さの耳障りなノイズとなって聞こえてきてしまうのである。
だが今回の録音では、後述の機器およびエフェクト機能を使い、このノイズをほとんどなくせたのだ。
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今回の録音風景。ていうか前回とメンバーも配置もほとんど変わってなかったり。でも録音機材構成は変わってるんですよ!!
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金属プレートを叩いて、「駆動静か」の効果を確かめつつ収録
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■低レベル録音で低音質
細かい話はさておき、要は、会話の録音時にいつもクリッピングノイズのコトを気にしてきた拙者。なにしろそのノイズは不快だし目立つ。真っ白いワイシャツにベチャッとたれたカレーうどんの汁くらいイヤ~な存在。なので、これをなるべく避ける方向で録音することに。
クリッピングノイズは、音声の過大入力が起きなければ発生しない。……てことは、そーとーデカい声で喋った場合でも、控え目な録音レベルで録れるようにすれば良いのだ。つまり、録音レベルを低めにして録音する。これまでの拙者は、クリッピングノイズを避けるために、そんなふうに録音していた。
ただ、そうして録音した時には、クリッピングノイズ以外の問題がけっこー出てくる。
例えば、クリッピングノイズを減らすため、録音レベルを低めにして録音すると、当然だが肝心の声も小さめに録音される。小さめの音が入った音声ファイルをそのまま配信用ファイルにエンコードすると、当然、配信時に聞こえにくくなる。それじゃマズいので、編集時にソフトウェア的に音声のレベルを高めたりする。すると、同時に様々なノイズのレベルも高まったりして、つまり音のクリアさが失われがち。そのことは、ミキサーやオーディオインターフェイス、あるいはサウンドカードから発生するようなノイズ───声の録音レベルとは関係なしに一定のレベルで録音されちまいやがるノイズの場合は、特に深刻な問題だったりもする。
それから、結局、ソフト上で録音レベルをどうこうするってのは、手間も時間もかかる。面倒臭いのであり疲れるのだ。最初から十分大きな音で録音して、それをそのまま配信するのが、音質的にも手間的にもベストなのだ。……が、十分に高い録音レベルで全部の会話を録音しようとすると、やっぱり結局どーしてもクリッピングノイズが発生してしまう。
十分に高い録音レベルで録音しつつ、クリッピングノイズだけを発生させない=マイクから入る音のピークレベルを抑える方法というか機材として、コンプレッサっちゅーモンがあるらしい。また、ニッポン放送のコバジュンさん(前回の本連載参照)に訊いたところ、同放送局のハードマニアなミキサ(←音声ミキシング担当者)からメッセージをいただいた。
「マイクのピークレベルを抑えるには、コンプレッサとかリミッタ使うんダヨ!! 音声チャンネルごとにコンプレッサをかけるのをチャンネル・コンプ、音声全体にかけるのをトータル・コンプっていうの知ってる? スタパさんはベリンガーの卓を使ってるね。卓とコンピュータの間にコンプレッサかまして、トータルコンプかければいいんじゃないかな? ベリンガーから安いコンプレッサが出てるヨ!!」
なるほど、やっぱり、コンプレッサを使うのがよさそーな感じ。
■手軽なコンプレッサはどれだ!?
コンプレッサというのは、音声信号のレベル変化の幅を縮めてくれる機材でありエフェクタだ。音声の音量的変化を小さくする=音声信号を圧縮するというシクミから、コンプレッサと呼ばれているようだ。
使い方によっていろんな方向で役立てられて、例えばギター用エフェクタとして使えばアタックの強いパッキパキの音にしたり、太くて長くて人工的な音にしたりできる(サスティンですな)。会話の録音用に使えば、超デカい音をさほどデカくない音にしてくれたりして、つまりピークレベルを抑える=デジタル録音時のクリッピングノイズ発生を防ぐエフェクタとして使える。
具体的な使い方としては、まず“音声信号がどんなレベルになったら音圧縮を始めるか”を意味するスレッショルドレベルを設定する。「これ以上デカい音だったら、圧縮して音小さくしてネ」というレベルだ。それから“どの程度音を圧縮するか”を意味するレシオを設定する。レシオは2:1とか4:1などの比率で表されることが多く、入力と出力の比率を示す。例えば3:1なら、前述のスレッショルドレベルを超えた分の信号の大きさを、1/3の大きさにレベルダウンしてくれる。
他、アタックタイムやリリースタイムなども設定できる。音声信号のレベルがスレッショルドレベルを超えてからどのくらい時間が経ったら圧縮を開始するかや、あるいはスレッショルドレベルを下回ってからどのくらい時間が経ったら圧縮をやめるかなどの設定だ。
などとコンプレッサについて、一通りのコトを知っている俺だが、ていうかゲンブツは持ってねーんですよ!! ソフトウェアコンプレッサしか使ったことない拙者。でも、現在手持ちのソフトウェアコンプレッサ(機能)の場合、リアルタイムで音声にエフェクトをかけられない───いったん録音した音に対して処理することしかできないのだ。
てなわけで、やっぱり声を出してるそばから機能しまくってくれるハードウェアなコンプレッサが欲しいよーん!! と思って購入したのがローランドのUSBオーディオインターフェイスのUA-700なのである。
■すんげぇ快適だぞUA-700!!
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ローランドのUSBオーディオインターフェイス「UA-700」。クリッピングノイズ処理をしなくてよくなったので、音声の編集がヒジョーにやりやすくなった
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UA-700の詳細についてはローランドの製品紹介ページをご参照いただきたいが、俺の場合、UA-700の複合的魅力に惹かれて購入した。
まずはファンタム電源供給可能なXLR(キャノンコネクタ)およびTRS(フォンジャック)のコネクタを2基装備していること。ファンタム電源供給はもちろんオンオフ可能なので、ダイナミックマイクもコンデンサマイクも接続可能。要はどんなマイクでもつながるヨ!! と。
豊富な入出力端子も魅力。マイク入力の他、ギター入力、外部オーディオ入力、さらにマスター出力およびヘッドホン出力が、本体パネル上にある。デジタル入出力端子としてはオプティカルもコアキシャルもあって(本体背面)、オーディオインターフェイスとしては万能な感じの接続性がある。
加えて、強力なエフェクト機能を多数持つ。マイク用としてはコンプレッサが使え、さらにフツーのマイクからの音を超高級マイクの音へ近づけちゃうマイクモデリングエフェクトがあり、オマケに歯擦音等を除去するディエッサも装備。他、ギター用としてアンプモデリングエフェクトやフランジャー、フェイザーなどが使え、トータルエフェクトとしてイコライザーやリバーブなんかも用意されている。個人的には、エフェクト類はたぶんコンプレッサあたりしか使わないが、もしかしたらエフェクト使いまくると楽しく遊べちゃうかも~、と興味津々モードに。
てなわけで、ちょいと高価であったが早速購入。で、前述のコンプレッサ機能を使いつつ、UA-700経由での会話録音を試みた。UA-700を使えば、俺を悩ませ続けたクリッピングノイズと縁が切れるハズだぜ!! と。
そしたらコレが非常に効果的。録音後の波形を見ても、クリッピングノイズはほとんどナイ!! たまーに時々一瞬だけクリッピングノイズが発生している(どーしても回避できない超大音量会話があったためだ)が、録音後にクリッピングノイズの部分を加工処理するまでもない程度───非常に短い一瞬なのでほとんど気づかないクリッピングノイズなのだ。
わーいクリッピングノイズがなくなったァ!! と、まずは耳障りなノイズを退治できたことに喜んだ俺だったが、直後、さらなる利便を大痛感!!
クリッピングノイズ処理をしなくてよくなったので、音声の編集がヒジョーにやりやすくなったのだ。つまりラクに。容易に。スムーズに。手っ取り早く編集作業を行えるようになった。
それから、録音した音に対する加工処理が減ったので、配信時の音がより自然なもの=録音時の音に近いものになった。以前は、クリッピングノイズを強引にごまかす処理をする→そうしたら一部の音が不自然な感じになった→臨場感的バランスもなーんか崩れた→さらにそれらの違和感をごまかすための処理をする……という感じで、けっこー加工しまくっていたのだが、それら処理が不要になったわけだ。そしたらですね、当然っちゃあ当然ですけど、音全体が自然な感じに聞こえるわけで、音が良くなった=人工的な音ではなくなったと感じるわけですな。
でもまあ、結局のところは32kbpsや64kbpsでのストリーミング音声配信。配信用ファイルにエンコードする直前のWAVファイルを聞き比べると今回分は高音質なのだが、エンコードしちゃうとそーんなに劇的な差はなくなっちゃってるかもしれない。
けど、とりあえずはシロート録音技術における大きな問題はだいたいクリアできた気がする。さらなる音質向上も目指したいが、今後はどちらかと言えば、コンテンツ内容の充実に力を入れていきたいと思う拙者であった。
□スタパ齋藤常時出演中!!「スタパトロニクスTV」(impress TV)
(2003/06/11)
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