Broadband Watch logo
最新ニュース
進化を遂げるIP電話サービスを徹底解剖(前編)

 050番号に対応したIP電話試験サービスを大手プロバイダーが開始したのが2002年12月のこと。それからわずか1年も経たないうちに、固定電話からの着信、携帯電話・PHSとの相互接続など、IP電話サービスは大きな進化を遂げた。前編ではIP電話サービスの特徴や事業者の相互接続状況などを中心に特集する。





IP電話の種類

 IP電話は、「ネットワークの一部又は全部においてIPネットワーク技術を利用して提供する音声電話サービス」と定義づけられたサービスだ。通常の電話回線は、日本国中に張り巡らされた電話網を利用するが、このうち一部または全部でIPネットワークを利用するのがIP電話ということになる。

 また、ネットワークにインターネットそのものを利用するサービスは、「インターネット電話」として区別されている。インターネット電話としては、ヘッドセットなどを利用してパソコンから通話する「Go2Call(@nifty)」や「dialpadインターネット電話(BIGLOBE)」、専用のアダプタを取り付けることで電話機から利用できる「アイピートーク」などが挙げられる。

 これに対して、現在多くのプロバイダーが提供するIP電話は、VoIP基盤ネットワークと呼ばれるIP電話専用のネットワークを構築している点が異なる。専用のネットワークを構築することで音声の品質と安定を図り、総務省から割り当てられる「050」から始まるIP電話専用の番号(以下050番号)も利用できる。今回はこの050番号を利用し、一般の電話機で通話できるサービスを中心に比較を進めていく。

 なお、IP電話に050番号ではなく、市外局番から始まる「0AB~J」形式の番号を割り当てるサービスも登場した。フュージョンの「直収IP固定電話サービス」やNTT東西の法人向けIP電話サービス、KDDIの「光プラス電話」などがその例で、ユーザー環境まで直接引き込まれた「直収」ネットワークを利用することで、固定電話並みの音声品質や安定性を担保し、「0AB~J」番号が利用可能になったという。ただし専用網を直収する必要があるため、サービス対象は法人や集合住宅向けが主となる。


関連記事
フュージョン、IP網を利用して国内3分8円で通話できる直収電話サービス
NTT東西、同番移行ができる法人向けIP電話サービスを開始
KDDI、最大1Gbpsのアクセス回線で提供する「光プラス」サービス




IP電話でできること、できないこと

 まずは現状でIP電話が利用できるサービス、利用できないサービスを大まかに分類した。

【IP電話で利用できるサービス】
・「050」番号と一般加入電話への発着信
・提携プロバイダーとの「050」番号同士の発着信
・携帯電話・PHSとの発着信(一部サービス)

【IP電話で利用できないサービス】
・110、119への緊急電話
・提携しないプロバイダーの「050」番号同士の発着信
・「117」「177」、「0570」「0120」など特別番号への通話

 ただし、これらはすべて固定電話であれば利用できるサービスだ。通常、IP電話機器はまずIP電話回線で発信、つながらない番号であれば固定電話の回線へ切り替えるという手法を採用している。そのため固定電話を併用していれば、IP電話で利用できる番号のみ無料または安価に通話でき、それ以外は通常の電話料金ながら通話は可能だ。

 ただし、これはあくまで固定電話を併用した場合の話だ。携帯電話・PHSにも対応しているとなると、固定電話を解約、IP電話だけを利用することを希望するユーザーも存在するだろうが、いざという時に警察や消防に「電話できない」という危険性を十分承知しておく必要がある。また、0120や0570といった番号が使えないことで、チケット予約や商品の電話問い合わせといったサービスも利用できなくなる場合がある。

 携帯電話・PHSで代用が可能という考えもあるが、警察・消防であれば向こうから位置を確認できないために、身の危険が迫った場合の代償は大きいかもしれない。また、災害時は電波状況が不安定になる場合もある点も考慮に入れておく必要があるだろう。

 なお、IP電話は固定電話と違って、停電時には利用できなくなる点も注意が必要だ。この時も固定電話を併用していれば停電時でも通話できるので問題はない。


IP電話はプロバイダーの標準サービスに

 @nifty、OCN、So-netがIP電話相互接続の試験サービスを発表してから1年も経たない間に、多くのプロバイダーがIP電話サービスを開始した。また、料金体系にも試験サービス当初から変化が見られる。ここでは大手プロバイダーを中心としたIP電話サービスの一覧表を用意した。

IP電話サービス一覧(2003年11月26日現在)
プロバイダー サービス名称 回線 IP電話
料金
バックボーン 通話料金
国内 米国 携帯電話 PHS
OCN OCNドットフォン フレッツ セット有 NTT Com 3分8円 1分9円 1分19円 ×
アッカ
@nifty @niftyフォン フレッツ 標準 NTT Com 3分8円 1分9円 1分19円 ×
アッカ
T-com
TOKAI
eAccess
KDDIフォン
for @nifty
eAccess KDDI 30秒10円 90秒20円
電力系ADSL
So-net So-net フォン※2 フレッツ 280円 NTT Com 3分8円 1分9円 1分20円 ×
アッカ
BIGLOBE BIGLOBEフォン(PN) フレッツ 標準 ぷらら 3分8円 1分2.5円 × ×
BIGLOBEフォン(FC) eAccess フュージョン 1分8円 1分20円※1 ×
BIGLOBEフォン(KD) eAccess KDDI 1分9円 30秒10円 90秒20円
T-com
TOKAI
BIGLOBEフォン(NC) アッカ NTT Com 1分19円 ×
Panasonic hi-ho hi-hoでんわ-C フレッツ 280円 NTT Com 3分8円 1分9円 1分19円 ×
eAccess
アッカ
T-com
DION KDDI-IP電話 フレッツ セット※3 KDDI 3分8円 1分9円 30秒10円 90秒20円
eAccess セット
アッカ
T-com
電力系ADSL
TEPCO 280円
マンション
ASAHIネット IP電話C アッカ 280円 NTT Com 3分8円 1分9円 1分19円 ×
eAccess
T-com
フレッツ
IP電話F フレッツ NTT-ME ×
WAKWAK WAKWAKフォン フレッツ 280円 NTT-ME 3分8円 1分9円 × ×
ぷらら ぷららフォン
for フレッツ
フレッツ 標準 ぷらら 3分8円 1分2.5円 × ×
BB.excite BB.exciteフォン フレッツ 277円 ぷらら 3分7.5円 3分7.5円 × ×
POINT POINT Phone フレッツ 100円 パワードコム 3分7.5円
(8時~23時)
3分45秒7.5円
(23時~8時)
1分8円 × ×
eAccess
TEPCO
ODN ODN IPフォン フレッツ 200円※4 日本テレコム 3分8円 1分9円 1分19円 1分10円
+10円
eAccess
TEPCO
コミュファ
コミュファ コミュファ はなしてフォン コミュファ 300円※5 CTC 3分8円 × × ×
ケイ・オプティコム eo-netフォン ケイ・オプティコム 280円 ケイ・オプティコム※6 3分8円 1分6円※1 1分22円※1 1分20円※1
MEGA EGG EGG IPフォン MEGA EGG 280円 フュージョン 3分8円 1分8円※1 1分20円※1 ×
BBIQ BBIQフォン BBIQ 300円※7 QTNet 3分8円
(8時~23時、九州域内)
225秒8円
(23時~8時、九州域内)
× × ×
Yahoo! BB BBフォン Yahoo! BB 標準 Yahoo! BB 3分7.5円 1分2.5円 1分25円
(8時~23時)
1分20円
(23時~8時)※1
1分10円
+10円※1
※1発信のみ
※2So-net 光(UCOM)も対応予定
※3Bフレッツ対応プランはセットなし
※4IP電話を申し込むとインターネット接続料金が200円または400円割り引かれる
※5料金明細なしの場合
※6一般加入回線へはKDDIのVoIP基盤ネットワークを採用
※7機器レンタル料が別途300円


 前回の特集と比較すると、サービスの変化が見て取れる。多くのプロバイダーはIP電話サービスを標準サービスとして、月額料金無料で提供し始めた。ぷららや@nifty、BIGLOBEでは、通常のISP料金のみでIP電話を利用できる。

 IP電話とのセットコースも拡充された。DIONの「ADSL レギュラーコース」では、月額料金に10円追加するだけでIP電話サービスが利用できるほか、11月28日より開始するフレッツ・ADSL対応プランとIP電話のセットコースの場合、フレッツ・ADSLを単独利用するよりも月額料金が300円安い。また、OCNでもIP電話のセットプランは単独プランよりも安価に設定されており、「OCN ADSL セット 26M」は2,880円、単独利用の「26Mサービス」は3,770円と、実に890円もの差が開いている。なお、OCNでは現在、単独利用の「26Mサービス」の対象を、電話回線非共用でNTT回線使用料が1,829円のタイプ2としているため、電話回線を共有する新規ユーザー向けのコースは「OCN ADSL セット 26M」のみとなる。

 なお、月額の総費用ではIP電話対応機器のレンタル費用も忘れてはならない。ほとんどのプロバイダーではIP電話対応ADSLモデムのレンタル料金を通常より280円高い780円に、ルータ型のIP電話アダプタを380円に設定している。なお、NTT東日本のみIP電話対応ADSLモデムのレンタル料金を通常のADSLモデムと同額に設定しているため、ADSLモデムをレンタルする場合であれば、機器の追加費用は発生しない。

 通話料金では、国内一般加入電話は総じて3分7.5円~8円程度に落ち着いている。一方で米国への通話料金は1分8~9円が多くを占める中、ぷらら系のVoIP基盤ネットワークを採用するプロバイダーでは3分7.5円と安価な料金を設定しているので、国際通話が多いユーザーは注目したいところだ。

 11月からは携帯電話・PHSとの相互接続も始まった。現状では相互接続を実施しているIP電話事業者が限られ、PHSと接続していない事業者も存在する。ただし、ほとんどのIP電話事業者は携帯電話との接続を実施する方針のため、長期的に見ればこの差は埋まっていきそうだ。携帯電話・PHSについては後編で詳しく紹介する。

 なお、Yahoo! BBやフュージョンでは、中継事業者を介するといった手段で携帯電話やPHSへの発信サービスを可能にしている。ただしこの方法はIP電話で直接接続している訳ではないため、050番号の通知、または携帯電話・PHSから050番号への発信が利用できない点は注意が必要だ。





「050同士は無料」とは限らない

 IP電話の特徴として大きく謳われるのが「IP電話同士の通話料は無料」という一面だ。だが実際には相手先の事業者によっては無料にならないどころか、050番号同士では接続できないという事態も生じる。ここではプロバイダーではなく、IP電話事業者ごとの相互接続図を用意した。


IP電話事業者の相互接続一覧。同じ色に囲まれた事業者間の通話は無料

 図中で同じ色の枠内にあるIP電話事業者同士の通話は無料になる。青、緑のエリアに属するパワードコムであれば、日本テレコム、KDDI、STNet、CTC、TOHKnetとの無料通話が可能だ。逆に同じエリアに属さない事業者間では、050番号同士の通話は不可能で、固定電話の回線を利用する必要がある。

 なお、NTT Comはぷらら、フュージョンとの接続を予定しているが、こちらはVoIP基盤ネットワークを直接接続するのではなく、NTT東西の電話交換機を介するために通話料金が発生する。料金の詳細は明らかになっていないが、NTT Comでは「市内の通話料金3分8.5円よりは安い水準が目標」としており、3分8円前後の料金が予想される。接続時期は接続試験などの関係から1月頃になる見込みだが、年内を目標として作業を進めているという。

 今後も相互接続の動きは進むと見られ、パワードコムとフュージョンでは電話事業統合の一環としてIP電話の接続も視野にはあるという。また、NTT Comでもぷららやフュージョン以外の事業者との接続について検討を進めている。





 以上、前編ではIP電話サービスの特徴や相互接続を取り上げた。後編では2003年下期から対応した固定電話からの着信、携帯電話・PHSとの相互接続を中心に特集していく。


関連情報

関連記事
急速に展開するIP電話サービスを比較
進化を遂げるIP電話サービスを徹底解剖(後編)


(甲斐祐樹)
2003/11/26 10:59
Broadband Watch ホームページ
Copyright (c) 2003 Impress Corporation All rights reserved.