ブログの特長であるトラックバックにちなみ、ブログ関連サービスに携わる方を次々に紹介していただき、ブログの世界をつないでいくインタビュー連載です。第13回は、RSS配信サービス「MyRSS.jp」などを運営する赤松洋介氏です。
赤松洋介(あかまつ ようすけ) プロダクトマネージャーとして、「サイボウズ Office 6」などを手がける。また、個人でMyRSS.jp、feed meter、track feedなどのサービスを運営。6月にサイボウズを退社し、現在新会社設立準備中。
□MyRSS.jp 管理人 Blog
http://blog.myrss.jp/
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■ サイト更新チェックツールがMyRSS.jpのきっかけ
――本日はよろしくお願いします。まずはMyRSS.jpのサービスを開始したきっかけを教えてください。
赤松氏:最初はニュースサイトを巡回した結果をメールで通知してくれるツールを作ろうとしていたのですが、その時にRSSというフォーマットを知り、「これからはRSSが流行するのではないか」と考えて対応したのが始まりです。実は海外には「myrss.com」という、RSS化されていないサイトをRSS化するサービスがあったので、それを参考にして名前も「MyRSS.jp」としました。
MyRSS.jpを開始したのは2004年1月頃で、登録ユーザー数は現在のところ1万人を超えたくらいです。重複して利用しているユーザーもいますが、最近では重複は減ってきていますね。1人あたり平均4サイトを登録していて、10%程度のユーザーが10サイト以上を登録しています。
――MyRSS.jpを開始した後の感想は。
赤松氏:最初はmyrss.comが有名だと思っていたので、「RSS」と名前を付けるだけでユーザーが集まると思っていたら全然集まらなくて(笑)。そこから地道に先導活動をしていき、今では1日50人くらいのユーザー登録がありますね。
――トラフィックやアクセスの状況は。
赤松氏:5月のデータでは、月間ヒット数が1,000万くらいですね。登録されているRSSフィード数は約4万で、ドメイン別では約1万程度、登録されているサイトの上位はニュースサイトが中心ですね。
ただし、上位こそニュースサイトが固まっていますが、実際には2、3人しか登録していないような一般サイトも多く登録されています。また、中にはブログにMyRSS.jpを設定している人もいるんですね。RSSがまだ一般には理解されていなくて、「これだったら更新情報をメールで読める」といった感覚で使われているのかもしれません。
実際、MyRSS.jpの登録ユーザーは10,000人程度ですが、そのうち5,000人近くがメール配信を利用しているんですね。メール配信の設定を解除していないだけかもしれませんが、まだまだメールで利用している人が多いと実感しています。RSSフィードが止まっても文句は言われないんですが、メール配信が止まると苦情が来るんですよ。そういった点からRSSはまだマニアなものだと感じているので、メール配信機能は無くしたくても無くせないですね。
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2005年5月版のRSSリーダーランキング。ランキングは毎月初めに公開される
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――MyRSS.jpでは、RSSリーダーのランキング集計結果も発表していますね。
赤松氏:Headline-Readerの開発者である大倉さんと仲良くさせていただいて、Headline-Readerの配布状況なども少し教えてもらったことがあるんです。そのデータを元にして、MyRSS.jpのデータをUser Agentを使ってRSSリーダーを判別すると、RSSリーダーを使っているユーザー数がわかるんじゃないか、と思ったのがきっかけです。
実際にいろいろ計算してみると、RSSリーダーを本格的に使っているユーザーって、どんなに多くても5万人もいないんじゃないかという結果が出ているんです。それなのにこれだけマーケティング分野などで騒がれているのは不思議な気もしますね。ただし、最近では「RSSって何ですか」という問い合わせも増えてきていますし、その問い合わせの半分くらいが女性です。そういった点からは、RSSが注目されていることは感じますね。
――MyRSS.jpの利用にはメールアドレスの登録が必要ですね。
メールアドレスは、他人のサイトをMyRSS.jpでRSS化して、そのRSSフィードを勝手に配信してしまうと著作権上問題があると思ったため、あくまで個人利用にとどめてもらう主旨で登録してもらうことにしました。今までのところ、クレームがあったのは1件だけですね。
■ ブログ人気度計測サービスや被リンク通知サービスも提供
――MyRSS.jpの次に開発されたのが、feed meterですね。
赤松:feed meterではRSSフィードのみを対象としていて、その登録者数とRSSフィードのURLに張られているリンクの数から計算しています。アクティブなデータで1万件程度がfeed meterに登録されていますね。
feed meterを始めたきっかけは、RSSを登録したのはいいけれど、送られてくる情報が多すぎて読めなかったり、逆に更新がなかったりといったこともあったためです。feed meterを通じて、ブログやサイトの更新頻度や人気度を見てみたいという考えですね。
feed meterで感じたのは、日本ではまだまだRSSの購読者数は少ないということです。feed meterで現在1位になっているのはスラッシュドット ジャパンですが、このRSSフィードの取得数は海外のslashdotと比べて1/10程度でしかありません。米国のサイトがfeed meterに登録されたら、簡単にランキング上位になってしまうでしょうね。そうならないよう、海外のサイトは定期的にはじいています。
――feed meterに引き続き、track feedも公開されました。
赤松:feed meterをリリースしたとき、あちこちのサイトからリンクしてもらい、サービス開始から50時間で100万アクセスを突破したため、すごい早さでレンタルサーバー会社から追い出されてしまいました(笑)。リンクの数がそれほど多くて、とても目で追ってはいられなかったんですね。実際にはサイトのリファラーを確認して、新しいリファラーが来たらサイトを確認していたんですが、だったら新しいリファラーが来るたびにRSSで通知したら面白いんじゃないかと思いました。
おかげさまで track feedも好評で、あっという間に数千人の方に登録していただきました。現在の登録者数は約5,500人程度ですね。
track feedの質問でも一番多いのは「RSSって何ですか」というものですね。MyRSS.jpではメールでも更新情報を通知していましたが、track feedはRSS配信だけなので、よりその傾向が強いようです。
■ 広告に頼らず、個人メディアを支援する
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feed meterのランキング。ニュースサイトや人気ブログが上位に集まっている
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――3サービスの今後は。
赤松:MyRSS.jpは一般企業で利用するには耐えないので、もう少ししっかり作りたいというのがありますね。どういった形で提供するかはまだ模索中です。サイボウズでマーケティングなども担当していた経験からすると、今は個人のメディアが育っている気がするんですね。そういうメディアで一言何かを言われる方が、広告よりも百倍価値が高いことがある。それを活かして、企業のプロモーションを手助けする形が作れればいいかなと思っています。
また、MyRSS.jpをニュースリーダーとして捉えてしまうともったいないとも思っています。単に今までWebで巡回していたものをMyRSS.jpで読むだけにしか使わないのでは、大量の情報がさらに増えただけで終わってしまいます。そうではなくて、いろいろなニュースやサイトの情報を集めて、自分だけのサイトが作れるようになるとすごくいいかなと思います。
Webニュースだって、「この人が書いた記事を読みたい!」という要望があるかもしれませんし、好きな製品情報だけ集めて読むとか、そういうことができるといいですよね。ニュースサイトがRSSに対応していくと、そういった好きな情報だけうまく取ってくるためのツールとしても広がっていくのではないでしょうか。
――feed meterやtrack feedは。
赤松:feed meterはまだまだおもちゃ的な存在に過ぎないですね。そうはいっても、メディアとしてしっかりしているものが上位にくるようなチューニングは行なっています。今までの情報収集は新聞の政治欄や経済欄を見ていたのが、これからはRSSリーダーが新聞代わりになって、好きなブログやサイトの情報を集めて自分のメディアを作るようになってくるでしょう。そのメディアに載る可能性のあるサイトが上位に表示されるようにはなっていると思います。
track feedについては、半分くらいのアクセスが検索エンジン経由なので、だったら検索エンジンに特化したものを作ってみたいと思い、現在は試験運用中です。詳細はまだ秘密ですが、面白いと思いますよ。「このページはこういう風にすればこれくらいアクセスが上がるよ」という情報を1日1個くらい教えるようなサービスです。アクセス解析のグラフを見ていてもマンネリ化してしまうので、1日1個だけランダムに教えてくれるというイメージです。
――6月でサイボウズを退社して独立されますが、独立後のビジネスモデルは。
赤松:正直なところ、新しい分野だけにまだ決まっていないことのほうが多い状態なんです。ただ、普通はトラフィックを増やして広告に走りがちですが、7月からは広告を全部外して、いったん広告収入のない会社にしようと思っています。個人的にはRSSフィードに広告が入るのはあまり好ましくないので、そういうのはやめようと思っています。
――独立後のスタンスは。
赤松:個人が発言力を持てる場としてのメディアを支援していきたいですね。海外ではすでにそういう傾向があって、個人のブログが力を付けてエヴァンジェリスト化している。日本でそういうブログはまだ数えるほどしかないのが実情でしょう。RSSで情報発信できる場を支援すると同時に、読む人が自分のメディアを自分で組み立てていくことも支援していきたいですね。また、そういう支援を進めていくと、企業のプロモーションにも役立つと思います。海外でいうWOM(Word Of Mouth)のような、口コミマーケティングを活用していきたいですね。
■ RSSリーダーとブラウザは連携していく流れに
――RSSの動きで感じられていることは。
赤松:裾野が広がっているのは大きいですね。誰かに教えられて使い始める、という人が多いようですが、初心者からの質問が増えています。これからもRSSはどんどん流行するでしょうし、RSSを意識しないで使える形がでてくるのかと思います。
ただ、RSSが今後どうなっていくのかは、まだ見えない部分も正直多いですね。無理にRSSにしなくてもメールでいいという人もいますし、Webを巡回すればいいという人もいる。それはすべてRSSになるのではなく、うまく住み分けていければいいと思います。更新されたものをもれなく見るという点ではRSSが得意なので、気になる情報をもれなくチェックしておきたい、というニーズには合っているでしょう。
――RSS広告の将来性は。
赤松:広告は必要だと思いますし、何かを能動的に探している時の広告は有益な情報でしょう。ただし、RSSはそもそも情報収集を効率化するためのものなので、最小限でいいと思うんですね。海外で実験されているRSS広告のフィードも取得していますが、見ていて正直あまり好ましくはない。
ユーザーの視点からすると、何かを探している時であれば広告も受け入れられますが、目的のものだけ素早く見たい時という状況では若干違和感がありますね。まだRSSは普及期でもなんでもないと思っているので、この時期からRSSには広告を入れないで欲しい、というのが個人的な意見です。何百万人もがRSSリーダーを使うようにならないと、RSS広告は難しいのではないでしょうか。
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Firefoxのライブブックマーク機能。ブックマークの中でRSSによるサイト公人情報を確認できる
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――RSS普及の課題は。
赤松:一番の問題は著作権ですね。RSSフィードの著作権や利用範囲が明確になり、きちんと引用のできる状態が必要だと思います。使う人の意識を高めることも重要でしょう。ただ、「RSSは難しい」という意識を広めたくないので、極力簡単にしたいとも思います。
――今後ブラウザがRSSリーダー機能を実装し始めたとき、RSSリーダーはどうなるのでしょうか。
赤松:Firefoxのライブブックマークとかはいい試みだと思うんですね。見ているサイトの中で興味がある部分だけをワンプッシュなり自動的に取っておいて、その中から以前に見たサイトの更新状況を通知してくれると、自分の中のメディアが完結すると思うんですよ。ブラウザは過去の履歴というすごくいい情報を持っているので、それをRSSで自動的に情報を取っておいて、さらに興味があったらRSSリーダーに登録する、と連携していく流れがあればいいなと思います。
――ブラウザとRSSリーダーが連携していくということですね。では、RSSが一般化したときのMyRSS.jpはどういう位置付けになるのでしょうか。
赤松:MyRSS.jpは、いずれは役目を終えると思っています。私にできることは、RSSを配信した時に、企業側から見ると次はRSSを使って何ができるのか、効果測定はどうなのか。そういった部分が大きいと思うので、そこに入っていきたいですね。今はデータ収集でしかありませんが、その持っているデータこそ大きな強みだと思います。
――本日はありがとうございました。
■ URL
MyRSS.jp
http://myrss.jp/
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(甲斐祐樹)
2005/07/01 10:54
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