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RSSリーダーを超えた情報プラットフォームを目指す「glucose」
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RSSリーダーを超えた情報プラットフォームを目指す「glucose」


 ブログの特長であるトラックバックにちなみ、ブログ関連サービスに携わる方を次々に紹介していただき、ブログの世界をつないでいくインタビュー連載です。第15回は、RSSリーダー「glucose」を提供する有限会社グルコースの方々です。

大向一輝(おおむかい いっき)
国立情報学研究所実証研究センター助手。博士(情報学)。平成15年度未踏ソフトウェア創造事業にて「Semblog: セマンティックウェブ技術を用いたスモールコンテンツの再編集・共有プラットフォーム」を提案し、スーパークリエーターに認定される(写真左)。

安達真(あだち しん)
有限会社グルコース代表取締役社長。早稲田大学理工学部情報学科4年。SemblogプロジェクトにてRSSリーダー「glucose」を開発し,その成果をもとに2004年6月に起業。現在は「goo RSSリーダー」の開発などを手がける(写真右)。

□グルコースのブログ「Semantic High!」
http://blog.goo.ne.jp/glucose_goo/





P2Pでニュースを交換するニュースリーダーから生まれたglucose

glucose
――本日はよろしくお願いします。はじめに、glucoseを開発したきっかけを教えてください。

大向:きっかけはIPAの未踏ソフトウェア創造事業です。安達が、P2Pでニュースを交換するニュースリーダーというテーマで採択されていていたんですが、ちょうど僕も未踏ソフトウェアで携帯電話用のスケジューラのようなものを作っていて、そこで知り合いました。

 その頃、僕が所属していた前の研究室では、メンバーが全員で日記を書くことが課題になっていて、ある種のイントラブログのようなことが研究室内で行なわれていました。それがすごく面白く感じていて、ちょうどブログがアメリカで流行しているということも聞いて、「これは日本で流行するんじゃないか」と調べ始めたのが2002年半ばの頃です。

 2003年頃になると、ブログツールやRSSがどういうものかもわかり始めていて、RSSリーダーに興味を持ち始めていました。その時に、安達が作っていたP2Pのニュースリーダーは、RSSと親和性が高そうだなと思って話を持ちかけてみたところ、実はP2Pのニュースリーダーでも内部でRSSを利用しているので、少し手を入れればRSSリーダーになるというのです。

 それならば僕は研究として、安達は開発として協力し、RSSリーダーとして外に出せるものを作ろうと考え、改めて2003年の未踏ソフトウェア創造事業に出しました。「semblog」というプロジェクトだったんですが、無事に未踏ソフトウェアで採択されたので、そこから本当にRSSリーダーを開発するというプロジェクトを2人で始めました。

――今もP2P機能は使っているのでしょうか。

安達:P2Pの機能は今は止めています。NATをどう越えるかという基本的なP2Pの問題に加えて、まだまだP2Pでニュースを交換するという考えは浸透していないと感じたので。もう少し時代が進めば、状況は変わるかなと思っていますが、P2PよりもまずはRSSリーダーとしてちゃんと読めるもの、という点に力を置いて開発を進めました。

――glucoseのダウンロード数は。

大向:glucoseのサイトでのダウンロード数はさしたる宣伝もしていないので5万くらいです。glucoseはgooにも「goo RSSリーダー」として提供していますが、そちらは30万以上のダウンロード数で、伸び率自体も上がっていますね。





glucoseは単なるリーダーではなく情報収集のためのプラットフォーム

goo RSSリーダー
――gooで提供を始めたきっかけは。

大向:glucoseは完全にフリーウェアとして提供していたんですが、2004年4月くらいにgooの方から「RSSリーダーを作りたいけれど、glucoseをカスタマイズできないか」という連絡がありました。いろいろ話を聞いてみると、gooもRSSに目を付けていて、サイトをRSS化していこうという話で、そういった話をいただいたのもはじめてのことだったので、まずは受けてみることにしました。

 ただ、どういう形で話を受けるかが問題でした。gooはNTTレゾナントという大きな会社が運営していて、それに対してこちらはただの個人2人組。どのような形で開発に協力すればいいかを相談していたところ、こちらが会社であればいいとの話を聞き、もともと会社を作ってみたいという気持ちも持っていたので、「これを機に会社化してしまおう」くらいの軽い気持ちで有限会社グルコースを立ち上げました。

――goo RSSリーダーとglucoseの違いは。

安達:あらかじめ登録されているサイトとユーザーインターフェイスが違います。また、glucoseではブログへの投稿機能を実装していましたが、goo RSSリーダーではgooブログ専用の投稿機能にしました。ブログ検索も、glucoseではbulkfeedsやfeedbackを使っていたのをgooの検索に切り替えています。ユーザーインターフェイスではスキン機能も実装していますね。

――glucoseの特徴は。

大向:ブログへの投稿機能がまさにそうですが、単なるリーダーではなく、glucoseさえ立ち上げておけばブログに対して行なう「読んで書く」という一連の行動が完結するということです。RSSリーダーとして生きる道はこれからどんどん厳しくなっていくと思いますが、glucoseはそうではなく、「ブログで情報収集している人は何を望んでいるか」という点にフォーカスするための基盤でありたいと思っています。

――ティッカーと連動した機能もありますね。

安達:P2Pニュースリーダーのさらに前は、もともとティッカー機能しかなかったんです。何でもついていればいいというものではありませんが、ティッカー型はある種プッシュ配信のように、ユーザーがぼーっとしていても情報を取り込むことが可能ですし、メーラー型はもう少し積極的に情報を読んでいけるというメリットがそれぞれありますので、両方の形式をサポートしています。


glucoseのティッカー表示機能。メーラー型と同時に表示できる




Webサービスとの連動でクライアントソフトを超える存在を目指す

メーラー型のRSSリーダー「Headline-Reader」では、FTPを利用した複数クライアント間での同期機能を実装
――RSSリーダーにはさまざまな形がありますが、それぞれの位置づけは。

大向:ティッカー型は先ほどの通りプッシュ型に近いですね。メーラー型とWebサービス型はやっていることとしては変わりないですが、Webサービス型であればユーザーの情報を蓄積することで後々のビジネスに近づけやすいとはよく言われています。

 それも確かに一理あるとは思いますが、今後どんどん情報がパーソナライズ化されていって、同じサイトからでもユーザーごとに違うRSSを配信するような仕組みが始まってきた時に、すべてのサービス側に持たせることが果たして良いのか。気分の問題もあるでしょうし、個人情報的な問題もあるかもしれません。

 glucoseであればクライアント側で情報を持つので、予想もしない形で公開されることもありません。ユーザーインターフェイスに関しても、ブラウザでできることはソフトウェアに比べればまだまだ限られます。クライアントはユーザーインターフェイスが柔軟に対応できるというメリットもありますね。

 ただし、Webであればどこからログインしても未読管理できるという利便性は確実にあるので、そういった点をクライアントでどう実現していくかという課題はあります。同じメーラー型の「Headline-Reader」ではFTPを利用して同期を取っていますが、ああいった試みも必要になってくると思います。


goo RSSリーダーのクリッピング機能。ユーザーの利用率が高い機能だという
――実装したい新機能は。

大向:サーバー側の面白い機能をいかにクライアントとミックスするか、でしょうか。サーバー側に同じRSSリーダーを作る気はありませんが、クライアントを便利にするためのWebサービスはいろいろとあり得ると思います。Web自体には表示機能がまったくないけれど、クライアントソフトにデータを中継している、ということはどんどんやっていきたい。glucoseが単なるWindowsのクライアントソフトとは呼べない形になっていくと面白いんじゃないかと思います。

安達:はてなブックマークやdel.icio.usのタグ情報も面白いですね。今見ているページのタグ一覧を表示して、そこから別のページへリンクするような、コミュニティベースでできているメタデータで新しいブラウジングのモデルを作っていく。僕たちは「タグブラウザ」なんて呼んでいますが、細かい点ではそういう機能も考えています。

 検索にも、もっと密に取り組んでいきたいと思います。goo RSSリーダーでは興味のあるキーワードに関連したブログをRSSで収集するクリッピング機能を搭載しているんですが、ユーザーはキーワードを入れておくだけで話題が集まってくる機能にすごくメリットを感じているようで、すごい勢いでgooの検索エンジンが使われているんです。

大向:我々としては、RSSはユーザーが自分でどんどん登録していくものだと思っていたのですが、実際にユーザーはそう使っていないらしい。Webサービスをうまく取り込むことで、今までに見たこともないサービスが作れるんじゃないか。そんな手応えも感じています。読むだけではなく投稿も兼ね備えたブログクライアントの上に、今後はWebも加えることでサービス化していきたいですね。





メディアとメタデータのバランスを取ったRSSのビジネス展開

――グルコースのビジネスモデルは。

大向:まさにgoo RSSリーダーのようなカスタマイズですね。goo以外にもいくつか話があって、今条件などをつきあわせているところです。昔に比べて問い合わせが増えてきています。

 Feed Business Syndication(FBS)にもグルコースとして参加していて、注目もしています。フィードに広告やデータを載せていく時、最後にユーザーに見せる部分ではRSSリーダーがなんとかしないと意味がない。はからずもRSSで3年もやってきていて技術的優位もあると思うので、それに対するソリューションやコンサルであったり、ツールバーの開発などもできると思います。RSSは市場全体が大きくなっている世界だとは感じています。

※Feed Business Syndication
サイボウズ、RSS広告社などが設立した、RSSやAtomなどのフィードによるビジネスを促進する団体

関連記事:「2009年に2000億円」、RSS/Atomフィードのビジネス活用推進団体が初会合[ENTERPRISE Watch]
http://enterprise.watch.impress.co.jp/cda/topic/2005/08/05/5903.html

大向:グルコースも、単にクライアントソフトを提供しているだけでは収益の経路はありませんが、例えばクライアントで広告を表示する場所の順位付けも可能です。どこまでやれるのかはこれから話を詰める必要がありますが、メタデータに広告を載せれば広告をコントロールできるようになる。フィードを最後に通して表示するクライアントとして、フィードを提供する側とうまく提携できる形を目指しています。

――フィード広告に関してはメタデータとして余計だという意見もあります。

大向:確かに、元データに対する付加情報や概要がメタデータなのに、フィードにだけ広告が表示されるのはメタデータではないという考えはあります。RSSはメディアかメタデータか、という話もありますが、RSSはメディアとして捉えればユーザーに情報を届かせる新たな経路ですし、市場として大きくなるなら活用していったほうがいいという面もあります。その中でどういうバランスを取るかが重要ですね。

 私が考えているのは、むやみやたらに広告を表示するのではなく、ある種の広告メタデータを作り、それを踏まえて流すのであれば、あとはクライアント次第で対応できる。そういう形の折衷案を提示できれば一番いいと思います。

 RSS自体はただのデータで、XMLを解釈する人によってさまざまなことがどんどん入っていく。これから初心者層がRSSを利用し始めるときに、広告が初めから入っているのが良いことなのか悪いことなのか、私たちも正直読めていない状況で、答えはないですね。我々としては、どんなデータが来ようともそれを受け取る側なので、ユーザーが何を思っているかはいち早く察知して対応していきたいと思います。


「BLOGNAVI」でRSSフィードに挿入されている広告の例




情報の流れやコミュニケーションそのものをサポートする存在に

――glucose以外の開発の予定は。

大向:RSSという線は外さないですが、ある種のRSSのカスタマイズのようなことができるシステムを少しずつ作り始めています。今RSSにできることは「情報をユーザーへいかに最速で届けるか」ということですが、次は「ユーザーが欲しい情報をいかに最速で届けるか」というステップだと思います。また全体像は見えていなくて、作りながら考えていく感じです。

――RSSの2次利用についても課題ですね。

大向:RSSに関しては決まっていないことが多いので、ルールやモラル、一部には法的な解釈も進めていかなければならない。そういう議論はまだ始まっているのかいないのかという段階ですが、進めていかなければならない問題だと考えています。

――RSSが普及したときにglucoseの存在意義は。

大向:RSS以前の話として、人はまずWebから情報を集めているということ。そして今後は情報を発信する人も増えていきます。検索などを使って情報を集め、それをまとめて情報発信するという一連の流れが、さらにSNSで他の人とつながっていく。そういった情報によるコミュニケーションや活動そのものを全体として気持ちよくサポートできればというのが目的です。

 RSSはそのためのインフラとして使うと非常に便利なんだ、ということが示せるといいですね。そのうちにRSSという呼び名の必要もなくなるかもしれません。RSSを読みたいからRSSリーダーを使っているのではなく、情報を集めたり、他人の近況を知りたいから使っている。ユーザーがやりたいことをサポートするための課題はまだまだあって、それは単にブラウザがRSSをサポートしたというのは別の話だと思います。RSSの世界に巨人が攻めこんできた時も、自分たちがユーザーに近い立場として、いつもRSSやSNSを活用しながら思っていることを実現していければ、と考えています。

――本日はありがとうございました。

 次回は、RSSリーダー「eクルーザー」を提供する有レッドクルーズの船木信宏氏にお話をお伺いします。

□レッドクルーズ
http://www.redcruise.com/


関連情報

URL
  glucose
  http://glucose.jp/

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(甲斐祐樹)
2005/08/26 11:19
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