ブログの特長であるトラックバックにちなみ、ブログ関連サービスに携わる方を次々に紹介していただき、ブログの世界をつないでいくインタビュー連載です。第4回は、RSS検索「FeedBack」やアフィリエイト支援ツール「Amazletツール」などを開発したはてなの伊藤直也さんです。
伊藤直也(いとう なおや) はてな取締役最高技術責任者。はてな入社前にはRSS検索「FeedBack」、Amazon.co.jpのアフィリエイト支援ツール「amazletツール」などを開発。自身のブログ「NDO::Weblog」でもブログ関連の話題などを紹介している。
□NDO:Weblog
http://naoya.dyndns.org/~naoya/mt/
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■ 「友達に使ってもらう」ために開発したRssRolling
――本日はよろしくお願いします。まずは、伊藤さんがRSS関連サービスを手がけるきっかけとなった「RssRolling」についてお聞かせください。
伊藤氏:RssRollingは、もともとは仲間うちで書いていたブログの更新確認用に作りました。当時は日本語に対応したRSSリーダーもなく、自分以外の友達はそれほど技術に詳しくもなかったので、RSSリーダーを友達に使ってもらうことが難しかったんです。「それならWebで新着情報だけ集めればいいのでは」と考え、RssRollingを開発しました。RSSのプログラミングをする時、最初に作ったのがRssRollingなので、練習の意味もあったのかなという感じがしますね。
※NDO::Weblog「RssRolling」を参照
伊藤氏:最近は新しくブログを登録することもなく放置している状態ですが、見たいサイトはほとんど登録してあるので、今でも良く見ています。Web型のRSSリーダーではBloglinesも使っていますが、Bloglinesの場合は結構腰を入れて更新内容を読む必要があって、なんとなく「新着があるなぁ」という感覚で見られないので、RssRollingのようにシンプルなインターフェイスのRSSリーダーがあってもいいのかな、という印象を受けています。
――RssRollingのようなRSSリーダーを提供する予定はありますか。
伊藤氏:実は他のユーザーさんが自分でRssRollingを作れるようなものを開発していたんですが、データを保存していたサーバーに障害が発生してしまい、開発中のコードごとなくなってしまいました。もう1回作り直すこともできなくはないのですが、はじめからプログラミングするとなると大変なので二の足を踏んでいます。
※NDO::Weblog「procfeed 復旧は未定です。」を参照
ただ、Webブラウザ型のRSSリーダーという話になると、とたんにサーバー資源などが膨大になるので、個人で提供するのは厳しいかなと思います。そういったサービスを提供するならば、やはり会社としてでしょうね。(現在所属するはてなのサービスである)はてなアンテナはWeb型RSSリーダーによく似ているので、はてなアンテナにRSSを組み込んでいくということは考えています。
※はてなアンテナ:指定したホームページの更新状況を確認してくれるツール。無料のユーザー登録で最大200サイトまで登録可能なほか、有料オプションを利用すれば最大2,000件まで登録できる。
□はてなアンテナ
http://a.hatena.ne.jp/ |
■ RSSで新着記事を追いかける「FeedBack」
――RssRollingの次に開発したのがRSS検索の「FeedBack」ですね。
伊藤氏:FeedBackも、開発当初はこれほどみんなが使ってくれるとは思ってもいませんでした。最初から今のようなサービスを作ろうと思っていたわけではなくて、まずは目的もなく、RSSをインターネットから集めてデータベースに格納する仕組みだけを作ったんですね。ふと自分の集めたRSSデータを検索した時に「この仕組みで検索エンジンを作って、さらにRSSを出力できたら面白いな」と思ったのがきっかけです。
※NDO::Weblog「FeedBack: RSSリーダと連携する、新着記事追いかけウェブアプリケーション」を参照
――似たコンセプトのサービスに「Bulkfeeds」がありますが、違いはありますか。
※Bulkfeeds:FeedBackと同様、RSSを検索できるサービス。ブログの記事URLから似た記事を探す機能、検索対象のブログのデータベース統計情報なども用意されている。
□Bulkfeeds
http://bulkfeeds.net/ |
伊藤氏:実はキーワードを登録してRSSで追いかける、という機能は僕が最初に作ったんです。Bulkfeedsもすぐに同じ機能を実装したので、三日天下で終わってしまいましたけど(笑)。
機能的な違いとしては、BulkfeedsはブログのようにRSSを出力しているサイトを網羅していますが、FeedBackはPingサーバーへPingを飛ばしているものに限定しています。これは情報を多く収集しすぎても裁ききれなくなるだろうという考えと、個人の自宅で運営しているので、データを集めすぎてシステムが破綻してしまうことを防ぐためです。
また、Bulkfeedsはブログサービスが提供している新着記事一覧のデータを基に巡回していますが、最近はブログの数が増えすぎて新着記事一覧に載りきらないこともあるので、本来なら検索対象になるブログの取りこぼしもあるようです。FeedBackはPingサーバーにPingを飛ばしてさえいれば、ほぼ確実に巡回します。細かいところではその点も違いでしょうか。
とはいえ、ユーザーさんから見れば大きな違いはありません。網羅的に情報が欲しい人はBulkfeedsを、ある程度情報量を制限したいという人はFeedBackを、本当に細かい情報まで欲しい人は、すべてのRSS検索を登録すればいいのかなと思います。
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ライブドアが運営するRSS検索「未来検索 livedoor」
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――RSS検索の場合、検索対象のRSSはデータが標準化されているので、精度という面ではサービスごと違いはないように思います。そうなると検索エンジンの性能は検索対象となるRSSの収集数で決まってくるのでしょうか。
伊藤氏:今のRSSリーダーのように話題を追いかけるタイプだとそうなるかもしれませんね。ただ、RSSを網羅しすぎると、今度は1日に1,000も2,000もエントリを収集してしまって読み切れない可能性もあります。そうすると今度はRSSをフィルタリングする必要があるので、そこまで踏み込んだ検索エンジンが出てくると面白いかもしれませんね。
今だとライブドアの「livedoor 未来検索」、そして個人運営の「FeedBack」「Bulkfeeds」ばかりが注目されているので、もっと他が本気でRSS検索に取り組めば面白くなると思います。Yahoo!やGoogleがRSS検索を提供すれば、それだけでビジネスになるのではないでしょうか。
最近だと海外でもRSSの広告を挿入するサービスが立ち上がっていますし、FeedBackで言えば新着記事のうち1件を広告にする、ページの片隅に広告コードを入れるといった方法で広告のスペースが作れます。かつ、表示されるページはキーワードで絞り込みがかけられた結果なので、Google AdSenseのようなキーワードマッチング広告もできますね。あとはトラフィックの規模と、広告出稿主をいかに集めるかを考えればビジネスとして成立するのではないでしょうか。
■ 一般公開する以上「使っている人が便利でなければならない」
――Amazonのアフィリエイトを手軽にする「Amazletツール」の開発目的は。
伊藤氏:最初は、自分でAmazonのアフィリエイトをする時に面倒だったので、アフィリエイト用のリンクを簡単に生成できるブックマークレットを作ったんです。それを使っているうちに、今度はAmazonのサイトへアクセスするのも面倒になって、検索機能も追加しました。自分で開発しているものはいつもそうなんですが、まずは自分で便利なものを作って、良いものができたから自慢がてらみんなに見せたら使ってもらえている、という感じです。
※:NDO::Weblog「amazlet - Amazon アフィリエイト簡単作成ツール」を参照
伊藤氏:ショッピングサイトの「Amazlet.com」も、最初はショッピングサイトを作ろうという考えはありませんでした。自分で作ったツールのトラフィックを自分のサイトに誘導すれば何か新しいことができるのではないか、ではその誘導先を自分で作ろう。単に作るだけでは面白くないので、誘導先でもアフィリエイトできるようにして、あとはデザインを考えて、という流れです。
※NDO::Weblog「Happy Birthday amazlet.com !!」を参照
伊藤氏:ただし、基本的にはツールを公開している以上、「使っている人が便利でなければいけない」と思っているので、Amazlet.comはアフィリエイトに必要なAmazonのIDをユーザーさんがそれぞれ設定できるようにしています。そもそもがアフィリエイトのためのタグを簡単に作るためのツールなのに、アクセスした先が僕の報酬になってしまったら誰も使わないですよね。ただ、検索エンジン経由のアクセスについては僕が報酬をいただきますよ、という感じでやっています。
■ ブロードバンドの登場が個人サービスの大きなポイント
――現在提供しているサービスはすべて自宅での運営ですか。
伊藤氏:機能を削ったり、チューニングを繰り返しながらも、Pentium III 600MHzのPC1台と12MbpsのADSLで頑張っています。RSS自体のトラフィックは1ファイルで10KB程度、大きくても100KB程度なので回線にはあまり負荷はかからず、CPUもそれほど高性能なものは必要ないんですが、一番負荷がかかるのはディスクの読み込みや書き込みですね。そのためパフォーマンスはあまり出ていないのですが、PC1台で処理できています。
――個人でサービスを提供することの限界は感じますか。
伊藤氏:物を作ることに関してはあまりないですね。というのも僕の場合、1人で作った方が早くていい物が作れるからなんです。サイトのデザインや画像は専門外ですが、システム構築やインターフェイスをある程度妥協してもいいからアプリケーションの形を整える、というところまでは個人のほうが都合がいい。2人3人と集まって議論するよりも1人で頭の中で考えて作った方が良いものができますね。
個人で運営する場合の問題は、リソースの限界でしょう。回線に関しては光ファイバがあれば十分ですが、アクセス増加に伴うサーバー負荷など、ハードウェアの面で問題があるかもしれません。例えばWeb型RSSリーダーのようにデータを集めてアプリケーションを作ろうとなると、マシン1台でどこまでできるかも考えなければならない。会社であればリソースもある程度贅沢に使えますね。
ただし、ビジネスとして提供するなら1人でもできると思います。お金を取る仕組みを最初から用意しておいて、ユーザー増加につれてマシンを追加できる資金が集まれば問題なく回せるでしょう。今だったら「Web型のRSSアグリゲーターを本気で作ります」と言えば、資金を出してくれるところは少なからずあるのではないでしょうか。
XMLの登場、サーバーなど機器コストの低下、オープンソースのソフトウェア、そしてブロードバンド、この4つによって今までのソフト開発やコスト構造を大きく変わりました。特にブロードバンドの登場は大きいですね。僕が使っているPentium III程度のPCは5年前からありましたが、その頃はISDNやダイヤルアップが主流で、常時接続なんて考えられませんでした。上り速度もADSLの1Mbpsほどあれば結構何でもできますしね。
今は、個人でもプログラムする力さえあればサービスを提供できる時代になっていると顕著に感じます。この先もその傾向は続いて、コストは今より安くなり、さらに優秀なプログラマーが登場するかもしれない。そうなると会社より個人で提供する方が良いサービスができるかもしれませんね。
■ はてなユーザーの手による巨大ディレクトリサービスを作ってみたい
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はまぞう
はてなユーザー用のアフィリエイト支援ツール
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――はてなに入社したことで、個人としてのサービス提供に変化は生じましたか。
伊藤氏:今までは個人でサービスを作っていましたが、今ははてなという場所で提供できるので、個人で新しいものを作ろうという感じはないですね。1人だと作るまではいいのですが、その後の運用やサーバー監視、障害対応などが大変です。それならば会社でやったほうがいいですし、はてなであればサービスを提供した瞬間に15万人のユーザーさんがいて、リアクションも多く返ってきます。そういう面が違いますね。
――はてなではAmazletツールによく似た「はまぞう」をリリースしましたね。
伊藤氏:はまぞうは、外見こそAmazletツールとあまり変わらないのですが、実際にははてなのフレームワークを使って書き直しているので、中のコードは全然違いますね。また、Amazletツールはほぼ完成形だと思っていますが、はまぞうは今後Amazon以外のデータを検索するという展開もあるかもしれないので、拡張性を持たせています。
※:NDO::Weblog「はてな はまぞう - ASIN リンク支援ツールの開発裏話」を参照
伊藤氏:はてなでは、はまぞう以外にも細かい仕様修正を担当したり、はてな検索もリリースしました。今ははてなアンテナを作り直しているところです。ユーザーさんからアンテナについては要望をたくさんいただいているのですが、「使いにくい」という意見が圧倒的で、はてなアンテナのユーザー増加数も天井をつき始めました。まずは新機能よりも現状の使い勝手を改善して、その先は他のWeb型RSSリーダーなどにはないような、はてならしい機能を提供していきたいですね。
はてなアンテナのインターフェイスは、僕が普段使っているツールのインターフェイスを参考にしながらメニューを細分化して改良を進めています。かなり使いやすくなると思いますよ。例えば、以前のアンテナでは1つずつ進めなければいけなかったグループ編集を一括して編集できるといった機能ですね。最初の改良は管理機能からで、アンテナの閲覧画面はそこまで変わらないと思います。
――はてなで考えている新サービスはありますか?
伊藤氏:今はまだアイディアレベルですが、Yahoo! JAPANを超える検索サービスを作れないかと考えています。Yahoo! JAPANのディレクトリサービスはサーファーが手動で登録していますが、その人数は数十人という話です。はてなユーザー15万人がディレクトリサービスを作ったら、Yahoo! JAPANより大きなディレクトリが作れるのではないかなと思っています。
はてなダイアリーキーワードもユーザーさんが作っていますが、すでに7万語を超える規模にまで成長し、はてなダイアリーキーワードから新たなビジネスが生まれています。これだけのユーザーさんの能力の高さと、はてなを現在使っているというアクティブ性をうまく活用した上で、「ディレクトリにサイトを登録したい」という動機付けを提供できれば、他には真似のできないディレクトリができあがるでしょう。
――はてなダイアリーキーワードを拡充するという展開ですか。
伊藤氏:そういうやり方もありますし、一からディレクトリを作って登録する方法もあるかもしれません。登録したらはてなポイントがもらえるとか、登録したディレクトリを自分のはてなアンテナやはてなダイアリーに登録できるというシステムがあれば、ユーザーさんの利便性は高いのではないでしょうか。そういうサービスを作ってみたいですね。
――本日はありがとうございました。
■ URL
NDO::Weblog
http://naoya.dyndns.org/~naoya/mt/
はてな
http://www.hatena.ne.jp/
(甲斐祐樹)
2004/12/03 11:11
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