ブログ関連サービスに携わる方にお話を伺い、ブログの世界をつないでいくインタビュー連載です。第18回は、ブログサービス「JUGEM」などを運営するpaperboy&co.の家入一真社長です。
家入一真(いえいり かずま)
paperboy&co.代表取締役社長。ブログサービス「JUGEM」、SNS「キヌガサ」などを運営、自らRSSリーダー「PAIPO READER」やブログツール「JUGEPi!」の開発も手がける。
□hbkr(家入一真氏のブログ)
http://ieiriblog.jugem.jp/ |
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■ ホスティング事業の将来を見据えてブログ事業に参入
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paperboy&co.のブログサービス「JUGEM」
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――本日はよろしくお願いします。はじめに、ブログサービス「JUGEM」を始めたきっかけをお聞かせください。
家入:JUGEMを立ち上げたのは2004年2月で、まずはブログブームという流行に乗っておきたいという考えでした。また、今後ブログが普及してホームページに取って代わるような存在になった時、メイン事業であるホスティングサービスがどうなるのか、といった危機感もありました。今後ブログがどうなるかはわからないけれど、ホスティング事業を続けていく以上は抑えておくべきサービスではないか。そう考えたのがきっかけで、ブログサービスとしてJUGEMをスタートしました。
――ホスティングサービスの「ロリポップ!」は有料ですが、JUGEMは無料です。
家入:すでに始まっていた他のブログサービスも無料でしたし、その当時は有料でブログを使う人がそれほど多いとも思えませんでした。また、ロリポップ自体が月額315円と非常に低価格なサービスなので、それより機能的に制限されるブログでは、月額100円、200円と価格を下げざるを得ない。サービスの値付けも難しく、結果として無料でのサービス提供に踏み切りました。
――他のブログサービスと比較してJUGEMで重きを置いた点は。
家入:テンプレートの数と自由度の高さは重視しました。JUGEMを始めた当時、他のブログサービスはHTMLを編集できなかったり、Aamzon.co.jpのアフィリエイトができないなど制限がありましたが、そういった制限を無くして全部自由に使って欲しい、という思いがありました。
■ JUGEMで得たフィードバックを他サービスで活用
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JUGEMをベースとしたロリロップ!向けのブログ「ロリポブログ」。ロリポップ!ユーザーは無料で利用できる
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――JUGEMベースのCMS「JUGEM CMS」や、ロリポップ向けのブログサービス「ロリポブログ」との棲み分けは。
家入:JUGEMは無料ということもあって実験的な意味合いが強く、JUGEMのフィードバックを有料サービスに適用させていくことで他サービスと連携しています。その1つがロリポブログであり、他にもオンラインショップのASPサービス「Color Me Shop!」でもJUGEMのシステムを使ったブログサービスを用意しています。
JUGEM CMSに関しては、いくつかの企業に納めはしましたが、今は特に動きがなく、パッケージ化もしていません。今後もあまり力を入れる予定のない分野です。
――CMSの需要は少ないのでしょうか?
家入:需要はありますが、現状の社内体制ではカスタマイズの対応が大変だということです。利益構造としても、今まで我々が個人ユーザー向けにやってきた少額課金のやり方に比べて、数千万円単位をショットで販売するような方式が体質的に合いませんでした。
もともとpaperboy&co.は個人向けサービスを展開していく方針だったのが、少しずつずれ始めていたので、改めて個人向け一本でやっていくという再確認という意味もあります。
――試験サービスから正式サービスへの移行時に起きたトラブルについてお聞かせください。
家入:正式サービスへの移行目的は、これまでバラバラに構成されていたサーバーを1カ所に集約することで、検索やユーザー交流をやりやすくするためだったのですが、そのサーバーの再構築の段階でつまづきました。元の構成に戻すことも簡単ではなく、結果としてトラブルを引き起こし、ユーザーの皆様には大変ご迷惑をおかけしてしまいました。まずは既存ユーザーが快適に使える環境を回復するために、新規ユーザー登録を一旦停止しましたというのが経緯です。
現在のサーバー構成は、試験サービスと同じ分散型に戻しました。ブログのサーバーは申込数も多く、負荷もユーザー数に比例して高まっていくので、後からサーバーが追加しやすい構成のほうが向いているとの判断です。今ではレスポンスも非常に速くなっていると思います。
――JUGEMが10万人突破のリリースがありましたが、現在のユーザーの伸びは。
家入:昔ほどではありませんが、順調に伸びています。正式サービス移行のトラブル前は大変な勢いで伸びていて、1日2,000人くらいの登録がありました。今だにあのトラブルが無ければもっとJUGEMは伸びていたのでは、との反省があります。今はJUGEMだけで1日500人くらいですね。
■ JUGEM・キヌガサ・PAIPOREADERを1つに統合
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「嘘から出た実」のSNS「キヌガサ」
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――JUGEMで考えている新機能は。
家入:JUGEMだけの新機能というわけではありませんが、SNSの「キヌガサ」、RSSリーダーの「パイポリーダー」の融合を計画しています。3つのサービスがそれぞれ親和性が高いと思っているので、単純に合体するだけではない、新たな1つのブランドを構築できたらという考えです。
例えばSNSの日記機能は、単純にブログに置き換えることもできる。友達だけに見せたいブログとか、同じグループの人にだけ見せたいブログを作れたり、ブログの管理画面でRSSリーダーを表示できたら便利でしょう。今はこのサービス融合に力を入れています。
Podcastingやフォトアルバム機能も興味があります。ただ、容量の拡張に関しては、容量そのものがサービスの魅力になるとは思っていないのでJUGEMではやりません。対応する場合も有料オプションという形になると思います。
――キヌガサについてお聞かせください。
家入:キヌガサは「嘘から出た実」というか、正直なところ冗談半分で立ち上げたサービスです。ユーザー数の伸びも、mixiに比べれば微増という程度ですね。ただ、今後はSNSのASP提供など、積極的にサービスを展開していく予定です。
■ 個人向けにSNSを数百円単位でASP展開
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家入氏の直筆イラスト
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――SNSのASP提供について詳しくお聞かせください。
家入:すでに他社でも同様のサービスはありますが、どのサービスも企業向けで費用も高額です。我々の考えているASPも有料ですが、個人も数百円程度で利用できて、申し込んだだけで自分のSNSが作れるというものです。学校のOBやクラス会だけのSNSが手軽に作れる、という感じです。
サービスに申し込んだ人が管理者となって、容量とアカウントが割り当てられる。SNSの仕組みは一通り入っていて、デザインも自由に変えられるようになっています。管理者の権限で、参加者に登録作業を行なってもらうことなく、管理者が参加者をSNSに直接登録することも可能です。
SNSを社内で導入するのも便利です。paperboy&co.でも社内用のSNSを利用していますが、福岡と東京で会社が分かれているのを感じさせないくらい盛り上がっていて、立ち上げて良かったと思います。イントラブログというサービスもありますが、実際にやっていることはブログというよりもSNSに近い。社内SNSはイントラブログに取って代わる存在かと思っています。ASP形式で提供しますが、カスタマイズが少ないので、自社サーバーに導入するといった対応も可能です。
――サービスの提供スケジュールは。
家入:2005年内にはSNSのASPサービスを始めたいと思っています。その後、年明けになると思いますがまずはブログとSNS、RSSリーダーの統合を進めていきます。
――JUGEPi!のようなブログツールの拡充予定は。
そういったブログのオプションサービスも統合に取り込んで行けたらとは思います。ブログツールはブログの数が増えれば市場がありそうですし、今はほったらかし状態ですが手を入れていきたい。来年にはいろいろサービスを追加して行けたらと考えています。
■ 社員の開発成果を支援する「ペパ研」制度もスタート
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ペパ研第1弾に認定された「オモコロ」。コンセプトは「あたまゆるゆるインターネット」
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――先日スタートした「オモコロ」についてお聞かせください。
家入:とりあえずお金のことはいいから面白いサイトを作ろう、というのがコンセプトです。「面白いサイトは?」と聞かれると、「デイリーポータルZ」や「ほぼ日」などの名前が挙がることが多いですが、そういう人気サイトは昔からずっと変わっていない。自分達で新しい流れを作りたいという気持ちがありました。
paperboy&co.では最近、「ペパ研」という社内制度を設立しました。これは社員が空いた時間を作って開発したものを会社として認定するという制度です。サーバーやドメインといったインフラ面だけでなく、本やセミナーなども会社の費用で負担することで、社員が自由に開発する場所とその成果を出せる場所を与えてあげたい。Googleでは1週間のうち20%は自由研究に使える、という制度があるようですが、そういった仕組みも今後は取り入れていきたいですね。
オモコロはペパ研の第1弾で、ほかにもみんなで出したお題に○×を付けていく「コトノハ」、製品をベースにしたSNS「Socialtunes」などがペパ研の第1弾として認定されています。
――paperboy&co.の収益は。
家入:ホスティングのロリポップ、ドメイン取得代行のムームードメイン、オンラインショップASPのColor me Shop!が中心です。中でも収益の比重はロリポップが高いです。
――JUGEMを収益につなげる考えは。
家入:最終的にはJUGEM単体でも採算を取りたいですが、まずは他の商材とのシナジーが効くという面から、トータルで収益を出す方向です。今後も広告収入などは考えていますが、それは副収入的にしかならないでしょう。オプション機能のみ有料にするとか、SNSとの連動で有料サービスを提供するといった形を考えています。
個人をターゲットにしたカートサービスも伸びていますし、ECとコミュニティは切っても切れない関係だと思いますので、ECとブログも最終的には1つに近い形にまで持って行けるのではないでしょうか。
――本日はありがとうございました。
■ URL
paperboy&co.
http://paperboy.co.jp/
JUGEM
http://jugem.jp/
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(甲斐祐樹)
2005/12/02 10:54
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