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【JASRACシンポジウム2005】
ブロードバンドコンテンツの普及に向けた権利面の課題とは

 21日に開催された「JASRACシンポジウム2005」のパネルディスカッションでは、インターネットによる動画配信などの新たなコンテンツビジネスと権利情報のあり方についての議論が交わされた。


PodcastingやFlashムービーでの音楽使用に柔軟な対応を~津田大介氏

IT・音楽ジャーナリストの津田大介氏
 シンポジウムでは冒頭、参加したパネリストが現在感じている問題意識について、個人的な立場からの提言を行なった。

 IT・音楽ジャーナリストの津田大介氏は、「権利関係の取り決めの遅さが、技術の進歩に追いついていないのではないか」と疑問を投げ掛けた。津田氏は例としてPodcastingの問題を挙げ、「現状のJASRACの規定では、Podcastingはストリーミングではなくダウンロードという扱いになり、課金が青天井になってしまう。iTunes Music Storeのような楽曲のダウンロード販売では1曲いくらという課金も理解できるが、Podcastingのようなものについては課金の上限を設けてもいいのではないか」と提言した。

 また、もう1つの問題としては「Flashファイルに関する権利関係の許諾が個人では得られない」という点を挙げ、「個人がFlashムービーを作り、そこにJASRACが管理する音楽を乗せようと思っても、現状では許諾を得るための仕組みが用意されておらず、個人で動画を作ろうとする人に対して門戸を閉ざしている」と指摘した。

 津田氏は、「例えば仮許諾という形にして料金をプールしておき、ルールが決まった後で権利者への分配を行なうといった制度を導入してもいいのではないか。新しいメディアや技術に対して、権利者が臆病になっているところが問題だと思う」と述べ、権利者や権利団体などに対して柔軟な対応を求めた。


テレビ局に頼らずに自ら新しいコンテンツを作るべき~テレビ朝日の高橋氏

テレビ朝日編成制作局ライツ推進部長の高橋英夫氏
 テレビ朝日編成制作局ライツ推進部長の高橋英夫氏は、パネルディスカッションの前に行なった講演に引き続き、テレビ局とブロードバンドの関係について見解を述べた。高橋氏はあくまでも個人的な感想として、「ブロードバンドという素晴らしいメディアが出来たのに、どうしてそこで事業をしようとする方はテレビ番組に頼ろうとするのか。確かに映像ソフトが不足しているという状況はあるが、何百億円も出して放送局を買おうというお金があるのなら、なぜそのお金を投じて自分でコンテンツを作ろうとしないのか」と述べた。

 講演で高橋氏はテレビ番組のブロードバンド配信のためのルール作りに苦労した点を語ったが、パネルディスカッションでは「地上波放送を目的として、地上波での放送権しかないテレビ番組という映像コンテンツをブロードバンドに流そうとするから、新たに許諾を得たり対価を支払うという作業が生じる」として、「最初からブロードバンド用に契約を結んで新たにコンテンツを作れば問題は生じないのに、なぜそうしないのか」と疑問を投げ掛けた。

 高橋氏は、「テレビ局がスタートした時には劇場用映画の全盛時代で、我々の先輩はテレビという、電気紙芝居と揶揄されたメディアで、何ができるのかを必死に探してきた。技術者もカラー化など新しいことに取り組み、進歩させてきて現在のテレビが存在している。同じように、ブロードバンドでは何ができるのかを真剣に考えて、ブロードバンドならではのコンテンツ、ブロードバンドでしか見ることのできないコンテンツを作っていかなければ将来はないのではないか」と語り、テレビ番組などの既存のコンテンツに頼るのではなく、自らも制作を行なっていくべきだと呼びかけた。


権利の適正な保護を大前提とした流通インフラ提供が課題~JASRACの菅原氏

電通プロジェクト・プロデュース局文化プロジェクト部主管の斉藤ようこ氏

JASRAC常任理事の菅原瑞夫氏
 電通プロジェクト・プロデュース局文化プロジェクト部主管の斉藤ようこ氏は、新たなコンテンツビジネスを探るという観点から、国内外のコンテンツビジネスに関するデータを紹介した。斎藤氏は、「日本はブロードバンドが世界で一番安く使える国となり、ブロードバンド普及率では韓国が1位、日本が6位。また、中国はまだ普及率は低いものの世帯数では2,400万世帯に上り、数の上では中国が米国を抜く勢いになっている」として、ブロードバンドの普及が加速している東アジア地域でのコンテンツビジネスが今後ますます重要になっていくとした。

 JASRAC常任理事の菅原瑞夫氏は、「これまでは、個人の音楽への接触の仕方は『聴く』という行為が大半だったと思う。これがデジタルデータの時代になって、音楽というデータを自分なりに活用したいことが今の欲求としてあるのではないか。その欲求に対してどう答えていくかということを、著作権者・隣接権者が一緒になって考えていかなれければならない」と述べ、個人の新たな楽曲利用の動きを真摯に受け止めていきたいとした。

 一方で、「政府の知的財産戦略本部などでも、コンテンツ立国に向けて権利の創造・保護・活用といったことが言われている。確かに、使われることによって権利者の利益が生まれるのは間違いないが、あまりにも活用の部分だけが行き過ぎていないかと感じている。クリエイターの適正な保護を大前提として、その上で新たなメディアに対してどうコンテンツ流通のインフラを提供していけるかが課題だ」として、権利の活用のためには適切な保護の枠組みが必要であると述べた。


過去の作品のアーカイブへのニーズと権利者側の意識

 パネルディスカッションのコーディネーターを務めた東京大学法学部教授の大渕哲也氏は、「現在、コンテンツの流通が十分ではないという点については、権利処理や権利関係の問題と、それ以外の問題が存在するのではないか」として、権利関係以外のマーケット的な問題について参加者に意見を求めた。

 津田氏は、「デジタルコンテンツにはアーカイブというメリットがある。CDは売れないと廃盤になるが、デジタル音楽配信にはそれがない。消費者にも過去の作品に触れたいというアーカイブへのニーズがある。一方、クリエイター側には過去の作品に対して否定的な部分もあるのではないか。例えば、有名な役者がまだ新人の頃に出演したドラマについて配信を許諾したくないであるとか、そうした点についてはクリエイター側の意識が変わらないといけない」として、クリエイター側への意識の変革を呼びかけた。

 これに対して菅原氏は、「過去の作品についてはクリエイター側が許諾しないという問題もあるかもしれないが、むしろ多くの作品は『蔵に眠っている状態』ではないのか」として、「パッケージ販売の時代には在庫管理の意識が常にあったが、ネットワーク配信にはそうしたことを考える必要がない。ビジネスが転換する中で、どう発想の転換ができるのかが課題」と語り、コンテンツを提供する側にビジネスモデルの転換が求められているとした。

 高橋氏はテレビ局の立場から、「テレビ局はコンテンツを作る側であるが、同時に実演権などのいろいろな権利を使わせていただく側でもある。アーカイブへのニーズも納得はできるが、原権利者が嫌だというものも流すべきだということには疑問を持っている。また、音楽であれば好きな曲は何百回も聴くということもあるが、映像は2~3回見ればまず満足してしまい、同じ映像を何十回も見る人はほとんどいない。同じ映像があちこちで流され、消費者が見飽きてしまうのを防ぐ意味からも、過去の作品の使用はコントロールしていきたいという実演家の立場もわかる」として、過去の作品の利用については慎重にならざるを得ないとした。

 この意見に対して津田氏は、「それでもやはり消費者のニーズは存在し続け、DVD化の予定もないテレビ番組のような入手困難な作品がどうなるのかというと、録画したビデオからDVDに焼いたものがネットオークションで流通したり、ファイル交換ソフトのネットワークに流れたりする。違法な形で流通してしまうのであれば、コンテンツ配信という形で権利者にきちんと対価が分配される方がビジネスとして正しいのではないか」とした。


コンテンツ振興のためには権利処理の枠組みが必要

パネルディスカッションの模様
 続いて、権利処理などの問題でコンテンツ流通の促進が阻害されているのではないかという観点から議論が行なわれた。

 菅原氏は、「権利情報についてはデータベース化の動きも進んでいるが、とにかく情報を持っている人が、持っているデータを整理して早く公開することが必要。ただ、コンテンツそのものはビジネス対象であるのに対して、権利情報などの付属するデータはそれ自体がビジネスになるわけではなく、構築がなかなか進まないという問題がある。しかし、データベースという基盤がなくては、ネットワークでの著作物流通が進んでいかない」として、データベースの整備の必要性を訴えた。

 高橋氏は、「権利処理のルールを作っても、実際にはその後に権利処理の実務があり、これがまた大変。テレビ番組の場合は、楽曲が一番の問題になる。放送局は楽曲についてはブランケット契約(包括契約)を結んでおり、放送については自由に管理楽曲を使える立場にある。そのため、過去の番組については、恥ずかしい話だがほとんど楽曲のデータが残っていない。トレソーラの実験の際には、古い音楽を全部消して後からフリーの楽曲を加えたりといった手間のかかることをやった」と語り、実務面での課題も多く残っているとした。

 また、高橋氏は権利処理の実例として、俳優の実演家団体であるPREが、過去の作品の一部利用についてオンラインの電子承認システムを構築した例を紹介。「権利処理をこれまでのようにペーパーで手書きでやっていたのでは、そのための人件費も考えるとビジネスにはならない。ネットワーク上で一括して処理できることが必要」として、権利情報のデータベース化と権利処理のオンライン化の必要性を訴えた。


 津田氏は、「権利処理の問題を考えると、実際には過去のものを完全なアーカイブの形で公開するのは難しいと思っている。しかし、これから作るコンテンツについては、アーカイブ化やブロードバンドでの公開について権利関係をクリアにしておくことができるのではないか」と語った。

 斉藤氏は、「権利者が将来に向けて環境の整備を行なうべきだと言っても、そこを踏み出せないのであれば誰がやらせるのかという話になる。一方で、権利処理の技術やシステムについては日本も確かな技術を持っており、アジアの各国などから引き合いも多く来ている。日本には技術もコンテンツもあるのに、なぜ国内では権利処理をうまくできないのか」と語り、業界への一層の努力を求めた。

 権利処理の問題について高橋氏は、「最近では学校でも著作権が重要だという話をしていて、授業で生徒が何か映像を作ろうとすると、権利処理をきちんとしたいということでテレビ局にも問い合わせが来る。こうした一般からの問い合わせに対して、我々は現状答えることができていない。これは大いに反省すべき点であり、変わっていかなければならない」として、業界間だけでなく権利処理の枠組みの構築が必要だとした。

 津田氏もこの意見に同意し、「個人でも楽曲や映像を合法的に利用したい、許諾を取りたいという声は広がっているはず。一方で最近、楽曲のコード進行などを分析していたブログに対して、JASRACから警告が来たという話がある。こうしたブログにまで警告を行なうのは対応が杓子定規なのではないか。著作物の引用や合法利用について、権利団体が一定の基準を示してほしい」と訴えた。

 これに対して菅原氏は、「具体的な案件については承知していなくて申し訳ない」としながらも、「著作物の引用は難しい問題だが、ある程度の範囲を示すことについては考えていきたい」と回答した。


関連情報

URL
  JASRACシンポジウム2005
  http://www.jasrac.or.jp/culture/schedule/2005/1121.html

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(三柳英樹)
2005/11/22 14:56
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